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疲れた時は足湯です。

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 「‥…奥多摩?」


 森の中にある川と聞いて木々に囲まれたジ〇リの世界観を想像していた。
 マイナスイオンの恩恵で疲れた心と体を癒してくれるのかと淡く期待していた。‥‥夢が雲散した。まあこれはこれでいい眺めなのかもしれない。

 まるでフィッシングセンターみたい‥‥‥


 「アイナちゃん。川に着いたよ。皆はどうするのかな? 採集させておくのかい? それともアイナちゃんを手伝わせる?」


 手下が増えた。
 これは使わない手はないだろう。早く終われば採集すればいい。
 よし。と決めたアイナは動く。

 手下その1であるモルトには説明済みだ。
 焼石を使って川の水を温めると伝えたら「面白そうだ」とやる気に満ちてくれた。ありがとう。

 (良かった、頭ごなしに反対されなくて)

 でも流石に大人なだけあって準備不足と集団行動中に思い付きで動いてはいけないよと優しく諭してくれた。その上で小さい子達の汚れた顔を綺麗にしようと考えたのは、思いやりがあってとても良い事だと褒めてくれた。

 それに「俺が困っていたのを助けようとしてくれたね」と川に行こうと提案した時のことを「ありがとう」と目尻を下げ優しい眼差しで頭を撫でてくれた。手下の心配りが温かい。

 (‥…わぁ、なんだか嬉しい)

 久し振りかも、人から優しい手で触れられたのって。それだけで心がほんわか温かくなる。こんなことで嬉しくなるなんて、私は触れ合いに飢えていたのかと今更ながら実感した。

 優しくて気配りの抜かりない彼が、振られて3年も経つのに未だ彼女がいないとは。何とも世知辛い世の中だねぇと余計なお世話の心配をされているとは知らぬモルトは弾んでいた。

 チビッ子達には枝や木切れを集めて貰い、その後はいつもの採集となった。川沿いにも野草や食用に向く素材があるので採集場は近い。

 モルトさんは「面白そうだから俺が造ってもいいかな?」と全面的に請け負ってくれたのだ。手下の申し出は快く受けるのが上の務め。

 ‥…あれ、私は? 

 ちびっこい子よりも役に立たない私だけが余った。これはこれで地味に私の心を抉りにくるので困る。

 「アイナちゃんは俺の作業の補佐をしてくれるかい。俺一人では出来ないからね」と、手下の助け舟に乗っかかろう。良い奴だよ君は。


 …‥そうして私は簡易竈の火の番を仰せつかった。うん。暖かいね。
 
 …‥ボッチだけど。





 皆の協力で簡易な生け簀モドキが完成した。チビッ子達の目は興味でキラキラしている。多分、私が一番ギラギラしている。

 石はまだ竈の中。

 年長組が現れた。どうやら川で休憩するのがいつものパターンらしい。

 モルトさんは彼等にベリーを手渡して「お疲れ、採集は出来たかい」と労いの言葉と共に彼等の様子を確認していた。面倒見がいい。

 弟妹の持つ鉈を使って焼石を運ぶその姿は最早、熟練工だよ。手下の働きぶりがとてもイイ。

 もう少しで完成する足湯に期待値が天井を突き抜けそう。ワクワクウキウキが隠せない。子供達もテンションが高い。年長組と年少組、全員揃っているので賑やかさが騒々しさに変わった。

 (でもこうして皆で楽しくはしゃぐのも良いよね)自然と口角が上がる。

 

「これ、あなたが考えたの?」

 年長組にいた‥…モルトさんの妹さんからお声が掛かった。可愛い赤茶色の髪の女の子。見慣れた色でホッとする。

 それを皮切りに他の子供達からも次々と声を掛けられ驚いた。ちょっとチラホラ目に痛い色合いの髪もあるが、これは気にしたら負けなやつに違いない。今まで遠巻きに見られていたので、まさか急に話しかけられるとは想像もしなかった。戸惑いつつも返事をしお互いの壁を壊しにかかる。気が付けば皆の笑い声で溢れていた。皆いい笑顔だね。

 ‥‥簡易の足湯が完成したよ。喜びが一入だ。

 清々しい大自然の中で癒される。これぞ私の求めたオアシスだ。
 いそいそと完成した足湯に足を入れた。労働の後の足湯は格別だ。殆ど手下の働きなことは気にしない。

 そんな私の脳裏に『役立たず』の言葉が過る。まるで脳に直接言われたみたいだ。やけに木霊するその言葉。だがよくよく考えればアイデアを出し指示したのも私だ。肉体労働も頭脳労働も同じ労働。適材適所。得手不得手なだけの話。よって私も労働した。うん、何も問題ないね。よし、一番湯は発案者の特権で良いだろう。

 (ああ~楽しい。そして足湯が気持ちいい~)心も身体も癒される。こんな気持ちの良さを久しく忘れていた。偶には安らぎを求めても良いと思う。

 ワイワイキャイキャイと子供達と足湯に浸かったり川に入ったりして遊んでいる。そんな野性味豊かな彼等に引いた。

 (私には無理無理。だって川の水、冷たいだもん)彼等のレベルには到達できそうにない。アグレッシブな彼等に脱帽するよ。
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