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3年前

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(ふふふ、ついにこの日がやって来た)

 今日のアイナはいつもと一味も二味も違う。

 
 意外にも抱っこの上手いモルトの腕は安定が良い。縦抱っこに上機嫌で今日の計画を逡巡する。にやけた顔を微笑ましく見ているモルトの視線に気付くことなくアイナは妄想する。


 (春といえば、山菜! この時期ならではの春の幸だよねぇ、ぐふふ、山菜の天ぷら、お浸し、ああ、ナムルでもいいかも、それにキノコに木の実。うわ~楽しみ~)

 アイナの今日の第一の目標は美味しい春の幸を沢山ゲットして美味しく頂くこと、ついでに皆と仲良くなれたらいいかな~期待しないけど。である。アイナの意識は完全にまだ見ぬ春の幸に持って行かれていた。

 (うふふ~山菜は覚えてるんだよね~キノコはちょっと無理かぁ‥‥よく覚えてないな、あとは木苺やツルコケモモにコケモモは‥‥この時期だと早いかな? 他にジャムになりそうなのあるかな?)

 鼻歌でも歌い出しそうだ。

 そんな彼女を現実に引き戻したのはモルトである。


 「アイナちゃんは、この森に入るのは初めてだっけ?」
 「はいっそうです! ツルコケモモはまだ時期じゃありませんか? 実っていないなら他にジャムになりそうな木の実はありますか?」

 質問をぐいぐい行くアイナ。

 「えっ? はっ? つる…けも? ええ~とジャムになるものだよね?」

 勢いのいいアイナに怯むも、聞かれたことは答える律儀な男である。森の植生、アイナちゃんは知っているの? と勘ぐられた。記憶喪失設定を忘れそうだ。話題を変えよう。



 

 モルトに抱き抱えられて進む道は快適である。視界が高い位置になのは新鮮だ。もうすっかり羞恥心は消え去り便利さに味を占めていた。


 「モルトさん、小さい子供の扱い上手ですね」
 「ん? そうかい、俺には年の離れた弟と妹がいるからかな」

 彼との会話も弾んだ。院では、遠巻きにされ碌に会話をしていなかったので人恋しかった、他愛もない会話が心地いい。それは彼の穏やかな口調がそう思わせるのか。
 
 会話は自然とモルト個人の話になり「今ねぇ」と気軽に教えてくれた。3年前にこの町に戻って来た元王都の兵士で今はこの領地の警備隊に所属している。休日、こうやって年の離れた弟や妹の面倒を見るのが自分の役割だと笑っていた。良いお兄ちゃんなんだなぁと自分の兄姉を思い出してちょっぴり羨ましく思うアイナであった。

 
 森が近くなると「アイナちゃんは、この話は知っているかな?」と話してくれたのは3年前のこの地に起こった大災害の話だった。

 アイナも前世の自然災害のニュースを思い出し身震いがした。ここでも自然災害はあるのかと気を引き締める。心して話を聞かねば、知りませんでしたでは済まない話かと表情は硬くなる。

 森の奥深くは未開の地で危険な生き物が生息していると言われている。前の大災害では、その未開の森から魔物が押し寄せたと言う。

 (えっ? まもの? 山の物?)

 何だか聞き慣れない言葉のような…これは地方独特の言い方か。都合よく納得するアイナであった。
 
 普段は此方側に来れないように結界が張り巡らされている。それがこの時は僅かな綻びが生じ、打つ手が遅れたため魔物が押し寄せたと言う。

 アイナは又もや聞き慣れない言葉があったがもう気にしないことにした。

 モルトの話は続く。

 当時の領主様とご家族がその身を犠牲にして押し寄せる魔物から領民を守ったという。それでも犠牲になった領民は少なからずいた。この時に親を亡くした子供達が今の孤児院の子供だ。まだまだ心の傷は癒えていないだろうにと悲しい顔だ。


 あの子達が人見知りなのは、これが関係するのかな‥‥


 胸がずくりと痛んだ。
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