上 下
2 / 2

我が人生に邪魔者は必要なし。表舞台から退いていただきます。 おまけ編―②

しおりを挟む


二人は会場を抜け話の出来る場所へと歩み始めた。

今の二人は騒動の後とは思えぬほど冷静にそして優雅に歩いている。

‥…ように見える。見えるだけで二人の胸中はそれぞれの感情に揺れていた。



アリテシアは上司(予定)から能力不足の烙印を押されることを危惧して。

ジョージオは長年胸に抱いていた淡い恋心を打ち明ける決意に興奮して。



「アリテシア嬢。すまぬ。このように時期を選ばぬ私を許して欲しい。だが時間が無いと、つい気が急いてしまった」


ジョージオは意を決した顔で続けた。


「‥‥アリテシア嬢。今日の騒動の後で聞かせる話ではないだろう。これから話すことは貴方にとっては耳障りかも知れぬ」


くぅっーーーー(涙目)やはり烙印か! 

お、おのれデリオス!(怒) 私を巻き込んだか!(怒)

ま、まさか玉砕覚悟での騒動だったのか?!(驚)

愚か者と侮ったのが我が敗因か!(嘆き)


「‥‥私の気持ちが抑えきれなくなった。すまぬ困らせる気は無いのだ。ないのだが‥‥」


うっ。そこまでか! 苦言を呈するのにそこまで躊躇するとは! 

それほど酷いのか?! 私は! なにがいけなかった?!(哀)



「‥‥私は初めて会った時から貴女に想いを寄せていた。悔しいがあの兄上との婚約が決まった日に私のこの想いは一生誰にも打明けず胸に秘めると決めた。そして貴女の幸せを願い義弟として見守るつもりだった‥‥」

…‥ん? 

「だが兄上の酷い仕打ちに貴女が傷ついたと思うと我慢が効かなくなったのだ‥‥」

‥‥んん?

「‥‥どうか私の想いを知って欲しい」

‥‥はて? ジョージオは一体何を言っているのだ?


「私は貴女が王太子妃となるべく研鑽を積む姿に感銘を受けた。与えられた名誉に自惚れ奢ることなく己を鼓舞する姿に。そして兄上からの冷遇にも挫けず課せられた責務に真摯に応える。貴女の強さにも目を惹かれた。出来ることなら私の隣に立って貰いたいと何度願ったか」


ジョージオの熱い眼差しがアリテシアを捉える。


‥‥こ、これは。なんという高評価か!(嬉)

おお賛辞か?! これは賛辞だな! 素晴らしきかな!(喜)

なんだ、苦言ではなかったのか。ふー。やれやれ。心臓に悪いぞ。(喜)

だが王太子妃教育仕事ぶりを評価してもらえるのは何とも嬉しいものだ。(歓)


ふふ。ジョージオの人を見る目は素晴らしい。これはこれはよい上司(予定)に巡り合えたものだ。僥倖だ。(笑)


是非とも今後も良好な関係を維持したいものだ。(笑)



アリテシアは感心の目でジョージオを見つめていた。


ジョージオは彼女が自分に向ける眼差しが、好意Loveを持つ者の視線だと誤解した。



(‥‥惚れた女性の気を引きたいがために功を焦り失敗したかと思ったがどうやら誤想であったか。これはもう少し詰めても良いだろう)



「アリテシア嬢。兄上との婚約解消後に公爵家に赴いても良いだろうか。貴女の父君に許しを得たいのだが‥‥。どうだろう」


「え? 父に許しを、でしょうか?」

なぜだ? 唐突に。しかも父上だと?



表情が曇った彼女を見てジョージオは焦る。


「あ、ああ。全ては兄上の件が終わってからだが、その前に私の気持ちを聞いてもらいたい。誤解されたくはないのだ‥‥頼む」


ますます以って理解できん。誤解とは? どうでも良いが早く本題を。


「これからの私は王太子として立つだろう。そして私は伴侶と共に治世に尽力することになる。だが幸か不幸か私の伴侶となる女性は未だ決まっていない。まあ、私には幸でしかなかったな」


ふむふむ。伴侶探しか。ご苦労だな。で、それが?


「私の横に並び立つ者は…‥貴女になるだろう。既に王太子妃としての教育も終え貴族達からの覚えの良い貴女が適任であるのは自明の理だ。おそらく陛下も同じ考えであろうな‥‥」



な、なんと! 再就職先嫁ぎ先の斡旋か! 

今度はジョージオからのヘッドハンティング?

それにこれ程の高評価! 私の能力を買ってくれたわけだな。(嬉々)

私は私を正しく評価する上司は好きだ。ああ、見る目のある上司は得難い。

無能な屑は御免被るが有能な者なら話は別だ。

これは一考の価値があるか?



「私の横に立つのは貴女しかいない‥‥いや貴女が良いのだ。私の伴侶は貴女しかいない」

‥‥む。


「どうか私の手を取ってはくれないだろうか。私は絶対に貴女を傷つけない。だから私に心を委ねてくれないだろうか。私の心は既に貴女にある。貴女の幸せを常に願っていた。その私が貴女を悲しめたりしない。不幸など以ての外だ。 どうか私を信じて欲しい」

‥‥むむ。

「アリテシア嬢。貴女は私の特別な人だ。他の者とは違う。他の者では貴女の代わりになれぬ」

…‥むむむ。なんとそれは


「わたくしを特別? 他の者では代われない? 特別に扱うと?」


「ああそうだ。‥‥叶うなら私も貴女の特別になりたい」



‥‥そ、それは‥‥特別待遇ではないのか?! (嬉)

ほうほう。待遇が良いのなら願ったり叶ったりだ!

最高権力者陛下と上司王子からの高評価と特別待遇!

ほほう。

ここまで評価を受けるのは何と気持ちの良いことか!(喜)

上司から必要とされる‥‥何とも素敵な響きではないか!(嬉)  

これはアレデリオスの側で辛酸を舐めながらも耐えた甲斐がある。

ああ、報われた!(喜)

正しき評価を得ることがこれ程迄に己が心を満たすとは!

得も言えぬ幸福感!(喜)



「アリテシア嬢。私の手を取ってはくれぬだろうか。これからは私と共に歩んで欲しい。我らの時が尽きるまで。私は‥…貴女を愛している」


‥‥若いな。そして眩い。


私は真剣な眼差しで己が恋情を語るジョージオを見て

忘れていた胸の奥底に押し込めていた克ての薄暗い感情を思い起こされた。


私は前の世でも他人から恋情を向けられたことも向けたこともない。

私は己を良く知っている。人に好かれた性格ではない。

愛情が欠落していたと思える人柄だ。それについては諦めている。

だがまさか。

このように自分の想いを真っ直ぐに向けられるとは‥‥正直こそばゆい。

他人に興味を持たない私では出来ないことだ‥‥されたこともなかったな。

ジョージオ。人を愛せる貴方の心が眩い。

私は愛など知らぬ。それでも私に愛を囁くか?

私に見返りなど期待するな。私は何かが欠けている。貴方の想いに応えられないだろう。

それでもまだ私に手を取れというのか?


だが、私も高位貴族の令嬢として生まれた。貴族としての義務がある。

王族に求められれば臣下は拒めない。

どうせ拒めないのならきっちり受けようではないか。これも仕事だ。



‥‥ジョージオが羨ましい? 他人に愛を語る彼が羨ましいのか? 

私にはついぞ出来なかったことだ。


だが私は人から己の才を、能力を、必要とされたい、認められ求められたい。切望していた。ずっとだ。これは私の細やかな欲求だ。


今、私の望みが叶おうとしている…のか?

真に欲したのは私の存在を受け止めてもらうことだ。

愛を乞うたわけではなかったのだが‥…(苦笑)


そうだな。望んだモノとは少し違うが。

ジョージオは好ましい人柄だ。上司としても好ましい。


ならば考えるまでもないか。どのみち逆らえないのだ。




さあ。私の手を取れジョージオ。損はさせない。







―――完


**************

おまけ編です。

ズレたアリテシアをお楽しみください。サラッと頭からっぽでお読み下さると嬉しいです。

ああ主人公ってこんな人だよねと共感持って下されば尚嬉しいです。

少しでもお楽しみいただけましたら非常に嬉しです。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

悪役令嬢は所詮悪役令嬢

白雪の雫
ファンタジー
「アネット=アンダーソン!貴女の私に対する仕打ちは到底許されるものではありません!殿下、どうかあの平民の女に頭を下げるように言って下さいませ!」 魔力に秀でているという理由で聖女に選ばれてしまったアネットは、平民であるにも関わらず公爵令嬢にして王太子殿下の婚約者である自分を階段から突き落とそうとしただの、冬の池に突き落として凍死させようとしただの、魔物を操って殺そうとしただの──・・・。 リリスが言っている事は全て彼女達による自作自演だ。というより、ゲームの中でリリスがヒロインであるアネットに対して行っていた所業である。 愛しいリリスに縋られたものだから男としての株を上げたい王太子は、アネットが無実だと分かった上で彼女を断罪しようとするのだが、そこに父親である国王と教皇、そして聖女の夫がやって来る──・・・。 悪役令嬢がいい子ちゃん、ヒロインが脳内お花畑のビッチヒドインで『ざまぁ』されるのが多いので、逆にしたらどうなるのか?という思い付きで浮かんだ話です。

幼馴染みの2人は魔王と勇者〜2人に挟まれて寝た俺は2人の守護者となる〜

海月 結城
ファンタジー
ストーカーが幼馴染みをナイフで殺そうとした所を庇って死んだ俺は、気が付くと異世界に転生していた。だが、目の前に見えるのは生い茂った木々、そして、赤ん坊の鳴き声が3つ。 そんな俺たちが捨てられていたのが孤児院だった。子供は俺たち3人だけ。そんな俺たちが5歳になった時、2人の片目の中に変な紋章が浮かび上がった。1人は悪の化身魔王。もう1人はそれを打ち倒す勇者だった。だけど、2人はそんなことに興味ない。 しかし、世界は2人のことを放って置かない。勇者と魔王が復活した。まだ生まれたばかりと言う事でそれぞれの組織の思惑で2人を手駒にしようと2人に襲いかかる。 けれども俺は知っている。2人の力は強力だ。一度2人が喧嘩した事があったのだが、約半径3kmのクレーターが幾つも出来た事を。俺は、2人が戦わない様に2人を守護するのだ。

転生した元悪役令嬢は地味な人生を望んでいる

花見 有
恋愛
前世、悪役令嬢だったカーラはその罪を償う為、処刑され人生を終えた。転生して中流貴族家の令嬢として生まれ変わったカーラは、今度は地味で穏やかな人生を過ごそうと思っているのに、そんなカーラの元に自国の王子、アーロンのお妃候補の話が来てしまった。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

処理中です...