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我が人生に邪魔者は必要なし。表舞台から退いていただきます。 おまけ編―②
しおりを挟む二人は会場を抜け話の出来る場所へと歩み始めた。
今の二人は騒動の後とは思えぬほど冷静にそして優雅に歩いている。
‥…ように見える。見えるだけで二人の胸中はそれぞれの感情に揺れていた。
アリテシアは上司(予定)から能力不足の烙印を押されることを危惧して。
ジョージオは長年胸に抱いていた淡い恋心を打ち明ける決意に興奮して。
「アリテシア嬢。すまぬ。このように時期を選ばぬ私を許して欲しい。だが時間が無いと、つい気が急いてしまった」
ジョージオは意を決した顔で続けた。
「‥‥アリテシア嬢。今日の騒動の後で聞かせる話ではないだろう。これから話すことは貴方にとっては耳障りかも知れぬ」
くぅっーーーー(涙目)やはり烙印か!
お、おのれデリオス!(怒) 私を巻き込んだか!(怒)
ま、まさか玉砕覚悟での騒動だったのか?!(驚)
愚か者と侮ったのが我が敗因か!(嘆き)
「‥‥私の気持ちが抑えきれなくなった。すまぬ困らせる気は無いのだ。ないのだが‥‥」
うっ。そこまでか! 苦言を呈するのにそこまで躊躇するとは!
それほど酷いのか?! 私は! なにがいけなかった?!(哀)
「‥‥私は初めて会った時から貴女に想いを寄せていた。悔しいがあの兄上との婚約が決まった日に私のこの想いは一生誰にも打明けず胸に秘めると決めた。そして貴女の幸せを願い義弟として見守るつもりだった‥‥」
…‥ん?
「だが兄上の酷い仕打ちに貴女が傷ついたと思うと我慢が効かなくなったのだ‥‥」
‥‥んん?
「‥‥どうか私の想いを知って欲しい」
‥‥はて? ジョージオは一体何を言っているのだ?
「私は貴女が王太子妃となるべく研鑽を積む姿に感銘を受けた。与えられた名誉に自惚れ奢ることなく己を鼓舞する姿に。そして兄上からの冷遇にも挫けず課せられた責務に真摯に応える。貴女の強さにも目を惹かれた。出来ることなら私の隣に立って貰いたいと何度願ったか」
ジョージオの熱い眼差しがアリテシアを捉える。
‥‥こ、これは。なんという高評価か!(嬉)
おお賛辞か?! これは賛辞だな! 素晴らしきかな!(喜)
なんだ、苦言ではなかったのか。ふー。やれやれ。心臓に悪いぞ。(喜)
だが王太子妃教育仕事ぶりを評価してもらえるのは何とも嬉しいものだ。(歓)
ふふ。ジョージオの人を見る目は素晴らしい。これはこれはよい上司(予定)に巡り合えたものだ。僥倖だ。(笑)
是非とも今後も良好な関係を維持したいものだ。(笑)
アリテシアは感心の目でジョージオを見つめていた。
ジョージオは彼女が自分に向ける眼差しが、好意を持つ者の視線だと誤解した。
(‥‥惚れた女性の気を引きたいがために功を焦り失敗したかと思ったがどうやら誤想であったか。これはもう少し詰めても良いだろう)
「アリテシア嬢。兄上との婚約解消後に公爵家に赴いても良いだろうか。貴女の父君に許しを得たいのだが‥‥。どうだろう」
「え? 父に許しを、でしょうか?」
なぜだ? 唐突に。しかも父上だと?
表情が曇った彼女を見てジョージオは焦る。
「あ、ああ。全ては兄上の件が終わってからだが、その前に私の気持ちを聞いてもらいたい。誤解されたくはないのだ‥‥頼む」
ますます以って理解できん。誤解とは? どうでも良いが早く本題を。
「これからの私は王太子として立つだろう。そして私は伴侶と共に治世に尽力することになる。だが幸か不幸か私の伴侶となる女性は未だ決まっていない。まあ、私には幸でしかなかったな」
ふむふむ。伴侶探しか。ご苦労だな。で、それが?
「私の横に並び立つ者は…‥貴女になるだろう。既に王太子妃としての教育も終え貴族達からの覚えの良い貴女が適任であるのは自明の理だ。おそらく陛下も同じ考えであろうな‥‥」
な、なんと! 再就職先の斡旋か!
今度はジョージオからのヘッドハンティング?
それにこれ程の高評価! 私の能力を買ってくれたわけだな。(嬉々)
私は私を正しく評価する上司は好きだ。ああ、見る目のある上司は得難い。
無能な屑は御免被るが有能な者なら話は別だ。
これは一考の価値があるか?
「私の横に立つのは貴女しかいない‥‥いや貴女が良いのだ。私の伴侶は貴女しかいない」
‥‥む。
「どうか私の手を取ってはくれないだろうか。私は絶対に貴女を傷つけない。だから私に心を委ねてくれないだろうか。私の心は既に貴女にある。貴女の幸せを常に願っていた。その私が貴女を悲しめたりしない。不幸など以ての外だ。 どうか私を信じて欲しい」
‥‥むむ。
「アリテシア嬢。貴女は私の特別な人だ。他の者とは違う。他の者では貴女の代わりになれぬ」
…‥むむむ。なんとそれは
「わたくしを特別? 他の者では代われない? 特別に扱うと?」
「ああそうだ。‥‥叶うなら私も貴女の特別になりたい」
‥‥そ、それは‥‥特別待遇ではないのか?! (嬉)
ほうほう。待遇が良いのなら願ったり叶ったりだ!
最高権力者陛下と上司王子からの高評価と特別待遇!
ほほう。
ここまで評価を受けるのは何と気持ちの良いことか!(喜)
上司から必要とされる‥‥何とも素敵な響きではないか!(嬉)
これはアレデリオスの側で辛酸を舐めながらも耐えた甲斐がある。
ああ、報われた!(喜)
正しき評価を得ることがこれ程迄に己が心を満たすとは!
得も言えぬ幸福感!(喜)
「アリテシア嬢。私の手を取ってはくれぬだろうか。これからは私と共に歩んで欲しい。我らの時が尽きるまで。私は‥…貴女を愛している」
‥‥若いな。そして眩い。
私は真剣な眼差しで己が恋情を語るジョージオを見て
忘れていた胸の奥底に押し込めていた克ての薄暗い感情を思い起こされた。
私は前の世でも他人から恋情を向けられたことも向けたこともない。
私は己を良く知っている。人に好かれた性格ではない。
愛情が欠落していたと思える人柄だ。それについては諦めている。
だがまさか。
このように自分の想いを真っ直ぐに向けられるとは‥‥正直こそばゆい。
他人に興味を持たない私では出来ないことだ‥‥されたこともなかったな。
ジョージオ。人を愛せる貴方の心が眩い。
私は愛など知らぬ。それでも私に愛を囁くか?
私に見返りなど期待するな。私は何かが欠けている。貴方の想いに応えられないだろう。
それでもまだ私に手を取れというのか?
だが、私も高位貴族の令嬢として生まれた。貴族としての義務がある。
王族に求められれば臣下は拒めない。
どうせ拒めないのならきっちり受けようではないか。これも仕事だ。
‥‥ジョージオが羨ましい? 他人に愛を語る彼が羨ましいのか?
私にはついぞ出来なかったことだ。
だが私は人から己の才を、能力を、必要とされたい、認められ求められたい。切望していた。ずっとだ。これは私の細やかな欲求だ。
今、私の望みが叶おうとしている…のか?
真に欲したのは私の存在を受け止めてもらうことだ。
愛を乞うたわけではなかったのだが‥…(苦笑)
そうだな。望んだモノとは少し違うが。
ジョージオは好ましい人柄だ。上司としても好ましい。
ならば考えるまでもないか。どのみち逆らえないのだ。
さあ。私の手を取れジョージオ。損はさせない。
―――完
**************
おまけ編です。
ズレたアリテシアをお楽しみください。サラッと頭からっぽでお読み下さると嬉しいです。
ああ主人公ってこんな人だよねと共感持って下されば尚嬉しいです。
少しでもお楽しみいただけましたら非常に嬉しです。
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