2人分生きる世界

晴屋想華

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第1章 無法

裏切り

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 岬に謝りたいな。いくら焦っていたとはいえ、お兄さんが犯人だと決めつけた言い方をしてしまった。きちんと謝って、話し合おう。

 プルルルルッ。
あれ、岬から電話だ。

「もしもし」
「綾人、ちょっと話したいんだけど、今から会えるかな?」
「ちょうど俺も話したいと思ってたんだ」
「そっか。じゃあ綾人の家に行くから待ってて」
「分かった」

 岬も話があるってことは、こないだの話だよな。ちょうど良かった。

 ピンポーン。
「入って大丈夫だよー」
「お邪魔します」
「俺の部屋行こうか」
「うん」

 2階へ向かう。

「綾人、やっぱりお兄ちゃん怪しいかも」
「裕也さんに探り入れてくれたんだね」
「うん、携帯の中身見て、お兄ちゃんのもう1つの人生の名前を見ようと思ったんだけど、暗証番号変えてて、こんなこと今までなかったはずだから、やっぱり怪しいなって思った」
「そっか」
「でも、まだそうじゃないって望みを抱いてる自分もいる。きちんと確かめてからその後のことを考えたい。だから、綾人に協力してほしいことがあるの」
「分かった」
「犯人かどうかを知る一番手っ取り早い方法は、やっぱり携帯の中の名前を確認することだと思う」
「うんそうだね」
「お兄ちゃんの携帯の暗証番号は、分からないと思う。だから、お兄ちゃんの指紋認証で携帯を開きたい。その為に一回お兄ちゃんを眠らせようと思う」
「眠らせる?」
「そう。睡眠薬を飲ませる。それなら、もし犯人だったとしたら、拘束出来るし、犯人じゃなかったとしたら、謝れば良い」
「分かった。俺が全力でサポートするよ」
「ありがとう。でも、お兄ちゃん、医者を目指していた時期もあって、薬には敏感だから色々と作戦練らないとかな」
「了解。予定としては、次の週で作戦決行にしよう。今週ともう1つの人生の1週間で作戦を練ろうか」
「そうだね!」
 
 俺たちは、予定通り作戦を練りまくった。作戦のリハーサルも何度も行った。そして、あっという間に作戦決行の日がやって来た。

「よし、始めるか」
「うん」

 まず、裕也さんに睡眠薬を飲ませるタイミングは夜中で、裕也さんが少し眠りに落ちた頃。その頃に岬がちょっと相談があると言って裕也さんを起こす。なぜ夜中にするかというと、寝起きの方が五感が少し鈍るからだ。さらに、夜ご飯にはニンニクたっぷりの料理にする。少しでも嗅覚、味覚を鈍らせる為に。俺は、岬の家の近くで待機しておく。小型無線機で連絡を取ることになる。少し単純すぎる作戦かもしれないが、これくらいシンプルな方が裕也さんには逆に効果的だと思う。

「お兄ちゃんおかえり~」
「ただいまー。お、もうご飯出来てるのかー?」
「うん!今日はお母さん遅いみたいだから、私が作った」
「ありがとー!うまそー!」
「手洗ってきたら食べよー」
「おう!」

 今のところ自然な流れね。

「いっただきまーす」
「どうぞ召し上がれ~」
「うわーうっま!」
「ほんとー?良かった」

 今のところ順調ね。 

「美味かったわー。ごちそうさま」
「はーい」

 お兄ちゃんはご飯を食べて、2階の自分の部屋へと上がって行った。あとは、お兄ちゃんが一回眠りに着くのを待つだけ。

ーー無線でのやり取りーー

「岬、どうだった?」
「今、ご飯食べ終わって部屋に入って行ったわ」
「じゃあ、俺は23時くらいにそっちに向かうよ」
「うん、分かった」
「くれぐれも気をつけろよ」
「うん」


 お兄ちゃんは、何もなければだいたい22時半頃に寝る。だから、24時くらいに部屋に行き、睡眠薬入りの飲み物を飲ませて、眠ったところを狙う。
 昔から私は、お兄ちゃんに甘えてばかりだった。私が男の子に揶揄われると必ず助けに来てくれて、私のヒーローだった。そんなお兄ちゃんが犯人かもしれないだなんて、想像すら出来ない。でも、もしお兄ちゃんが間違った道を進んでいるなら、私が正さないといけない。絶対に。

 24時になり、私はお兄ちゃんの部屋へと向かう。部屋をノックする。

 トントントン。
「お兄ちゃん、寝てるところごめん、ちょっと相談があって、入ってもいい?」
「岬か?」
「うん」
「どうしたんだよこんな夜中に」
「最近変じゃないか?」
「ちょっと相談があってさ」

 私は、睡眠薬入りの飲み物を出す。できるだけ睡眠薬が入ってることが分からないように作ったハニーミルクティー。

「ごめんね夜遅くに」
「いや、それは良いけど、そんなに深刻な相談なのか?」
「うん、ちょっとね」

 飲み物を手に取り、飲んだ。ここでバレたら終わりだと思ったが特に何もなく、飲んでくれた。

「もしかして、綾人くんのことか?」
「う、うん」
「そうか。別れ話系かー?」
「うん、綾人に距離を置きたいって言われた」
「距離?んーまた難しいこと言うな綾人くんも」

 架空の話を少し続けると、お兄ちゃんの視線が定まらなくなり、眠りに落ちた。睡眠薬が効いたようだ。

ーー無線でのやり取りーー

「綾人、眠ったわ」
「了解。今そっちに行く」
「分かった」


 裕也さんが犯人でなければ良いと思う反面、今ここで犯人を拘束できれば平穏が戻るのではないかという期待も同時にしてしまっている自分がいる。

「岬」
「じゃあ、携帯開くわね」
「おう」
 
 岬が裕也さんの指紋で携帯を開く。そして、携帯の人生切り替えアプリを開こうとした瞬間、裕也さんが飛び起き、俺たち2人に何かを刺した。

「「ぐっ」」
「お、お兄ちゃんなんで、、」
「ゆ、うやさん」
「全くお前たち、バレバレすぎだろ。そんなんで俺を騙せると思ったか?」
「……」
「お、お兄ちゃん、違うんだよね?ごめん、こんなことして、怒っちゃった?」
「岬、もう分かってるんだろ」
「裕也さん……」
「俺の端末を見たかったんだろ?ほら、これだよ」
「……お兄ちゃん……」
「目的は、何なん、ですか」
「もうすぐ分かるさ。君たちには、しばらく眠っててもらおう」
「ゆ、うや、さん」
「おにい、ちゃん」

 俺たちの視界は、徐々に暗くなっていき、裕也さんが部屋を出て行ったところで意識が途切れてしまった。



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