2人分生きる世界

晴屋想華

文字の大きさ
上 下
10 / 25
第1章 無法

救出作戦

しおりを挟む
「おい、あの子けっこうやばいんじゃねえか。本当に良いのか?」
「ああ、良いんだよ。これで」

 このビルで絶対に合ってるはずなのに!さっきから一通り中を見たはずなんだけど、何も見つからない。もう2時間くらい探してるのに何の手がかりもないままだ。どこかにからくりがあることは確かなのに。早くしないと間に合わなくなる。優奈……。

「千郷ちゃん!」

 後ろを振り向くと……!

「葵ちゃん!七瀬ちゃんに茜ちゃんまで!なんでここが分かったの?!」
「実は、茜はこう見えてコンピューターに強いのよ!だから千郷ちゃんのスマホを茜の技術で探してもらって、今に至るって感じ!」
「そ、そうだったんだ。茜ちゃん、すごいね!」
「こう見えてはけっこう余計だけど、まあ、これくらいちょちょいのちょーいですよー!」
「あと、七瀬は空手得意だから、犯人ぶっ飛ばし要員です!」
「任せて!」
「みんな、ありがとう」
「千郷ちゃん、それで今はどんな状況なの?」
「ここのビルのどこかに優奈がいることは確かなんだけど、どうしても見つけられなくて。たぶん、隠し扉があると思うんだけど、全然見つけられないの」
「ならほど。七瀬、なんか分かった?」
「七瀬ちゃんそういうのも得意なの?」
「うん、親が探偵やってて、たまに手伝ってるんだ」

 この人たち、なんかすごくない?でも、これで優奈を見つけられる可能性が格段と上がった!

「葵、その扉、もう一枚ない?」
「もう一枚?ないけど?」
「その扉を一度押してみて」
「うん分かった!お!もう一枚扉が出てきた!」
「そこにある溝……何かをはめ込むために彫られた感じね。誰か10円玉持ってない?」
「私持ってるよーん!」
「ありがと茜。ここに10円玉をはめてっと。そして回す」
 カチャッ。グオーン。扉がスライドして開く。
「開いた!七瀬さすがー!」
「階段があるよん!」

 やっと見つけた。ここに優奈が……。

「みんな、ありがとう。でも、ここからは私1人で行く」
「は!?何言ってるの!そんなの危なすぎる」
「でもみんなで捕まるわけにはいかない。それにまだここに優奈がいるか確信は出来ないし」
「だからって1人で行くなんて危険すぎるよ。私も一緒に行く」
「葵ちゃん……」
「よし、じゃあこうしましょう。千郷ちゃんと葵が行って、何かあったらすぐに電話を鳴らす。そしたらすぐに警察を呼ぶわ。私たちは外で準備しておくわね。もし、助けが必要な状況だったらすぐに駆けつけるから!」
「わかった。ありがとう、みんな」
「ゆーちゃんのためでしょ?みんなで助け出そう!気をつけてね」
「うん!行ってくる」
「七瀬、茜、よろしく!」

 優奈も救って、みんなも無事家に帰す。絶対に犠牲者は出さない。

「千郷ちゃんって結構度胸あるよね」
「そう?守りたいものを守るためなら誰だって行動するよ」
「そういうところが凛々しいわ!」
「口だけで、救えなかったら意味がないけどね。でも、不安だよ。優奈、大丈夫だよね?」
「何弱気になってるの!あの優奈だよ?絶対大丈夫に決まってるじゃん!」
「そうだよね」

 けっこう長い階段を降りると、正面と左横に扉があった。たぶん、ここから叫んでも上の2人には声が届かないのだろうというような深さだった。電波はかろうじて通じている。1つの扉の向こうからは声がしていた。きっとここにいるに違いないと確信し、上で待っている2人に電話をかけようとした直後、声がした方ではない扉から男が出てきて、目が合った。その瞬間、男が葵ちゃんを蹴り飛ばした。

「ぐっ」
「葵ちゃん!」
「お前ら、ここで何してんだ?」
「どうした?騒がしいな」

 そうこうしている間にもう1つの扉の向こうにいた犯人達達が気づき、出てきてしまった。やばい、このままじゃ、2人とも捕まってしまう……。まだ優奈の姿すら確認出来ていないのに。

「千郷ちゃん!目瞑ってて!」

 葵ちゃんの声に反射的に反応し、目を瞑る。少しして目を開けると、男たちが目を押さえて転げ回っていた。

「うっこのガキっ。やりやがったな!うっ、あーーー」
「千郷ちゃん!今のうちに中に入って優奈を助けよう!あと、電話!」
「う、うん!」

 私たちは、扉の向こうへ入り、優奈を探す。くそっ、圏外だ。

「優奈!優奈!どこ!」

 ん?あそこにもう1つ扉がある!

 ガチャッ。
「優奈!葵ちゃん、こっち!」
「優奈!」
「意識はないみたい。運び出そう。私がおんぶして、優奈を運び出すから、葵ちゃんはサポートよろしく!」
「分かった!」
「おい、どこ行った!くそっ、まだ目が見えねー!」

 私たちは、男たちの間を潜り抜けながら、出口を目指す。優奈や男たちがいた部屋から出て、階段を登ろうとしたその時、1人の男に足を掴まれる。
「うっ!わっ!」

 転んでしまった、、。

「千郷!」
「葵ちゃん!優奈を連れて先に出口へ!」
「わ、分かった!」
「くそが!絶対に離さねえぞ!」

 やばい、力強すぎ。男の腕を蹴って離そうととしてもなかなか離れない。やばい、他の奴らも目が戻ってきて、襲ってくる。くそっ。せめて、優奈と葵が逃げ切るまでは時間を稼ぐ!男が私の腕に注射を刺そうとしたその瞬間、声がした。

「千郷さん!」

 そこには、中森さんがいた!

「中森さん!」
「警察だ!お前らはもう逃げられない!大人しくしろ!」

 後ろから大勢の警察官がこちら側へ向かってくる。
 でも、どうして警察が……。圏外だったから私は電話をかけられなかった。だから七瀬ちゃんたちも状況は分からなかったはず。なのにどうして?でも、助かった。
 このビルにいた犯人たちは全員捕まり、連行されていった。でも、少しだけ気になるのが、犯人の1人が連行されている時に笑っていたこと。何かまだ希望を持っているような笑いだった。もしかして、まだ他にも犯人が残っているのかもしれない。

「千郷さん、君はどれだけ危険なことをしたか分かっているのかい?」
「す、すみません」
「誤って済む問題じゃない。もしかしたら、4人とも死んでいたかもしれないんだぞ!七瀬さんと茜さんがすぐに連絡してくれたから間に合ったが、そうじゃなかったら、本当に君たちは……」

 七瀬ちゃんと茜ちゃんが連絡してくれたのか。あの時の私は全然正気じゃなかった。中森さんの言うとおりだ。みんなを危険な目に合わせた。本当に死んでいたかもしれない。

「はい、本当にごめんなさい。もう、こんなことしません。助けに来てくれて、本当にありがとうございました」
「分かったなら良し」
「ありがとうございます。それで、優奈の容態はどうですか?」
「優奈さんは、君と同じ状態だったから、今、脳に薬を投与して、様子を見ている。あと数時間後には目が覚めるはずだよ」
「ほんとですか!良かった……。あれ?でも片方の人生に戻る薬の成分は分かったけど、こっちの人生の意識を戻す成分はまだ分からないんじゃ?」
「それなら、うちの天才医師が見つけ出したから大丈夫だよ。犯人グループの1人が千郷さんに薬を投与しに来た時に、犯人がうっかりほんの少し垂らしていったんだよ。それを元にして、脳を正常に戻す薬は作れたから大丈夫だよ」 
「じゃあ、本当に優奈は目覚めるんですね!」
「ああ、安心して大丈夫だよ。千郷さんも少し怪我をしているんだから、あっちで手当を受けてきなさい」
「はい」

 良かった。本当に良かった。優奈が戻ってきて。

「あ!中森さん、事件はまだ解決してませんよね?」
「いや、犯人は全員捕まえたから、あとは動機を問い詰めて、書類送検するだけだよ」
「中森さん、たぶん、まだ全員捕まってないよ。優奈を探している時にすれ違った、犯人グループのリーダーのような男がいなかった」
「それはほんとかい?!」
「うん」
「本部に掛け合って、調べを進めるよ」
「あと、犯人たちはなんで優奈を狙ったのかも気になる」
「ああ、それは僕も気になっているんだ。もう一度調べ直す必要がありそうだ。君たちもしばらくは護衛を付けさせてもらうよ」
「……え!?」
「え!じゃないよ。当たり前だろ。まだ犯人が残ってるってなったら、また襲われる可能性だってあるんだから。これは譲れないよ?」
「は、はい……」

 護衛かー。なんかめんどくさそうだなー。まあ、私はともかく、他のみんなには付けて欲しいし、仕方ないか。

「千郷ー!」
「葵ちゃん!葵ちゃんがいなかったら、優奈を助けられなかった。本当にありがとう」
「こちらこそだよ」
「七瀬ちゃん、茜ちゃん、連絡してくれてありがとう。連絡してくれてなかったら、たぶん死んでたと思う」
「そんな、友達を助けるのは当たり前でしょ!」
「そうだよちさとーん!無事で良かった……!」
「みんな、本当にありがとう」

 あとは優奈が目を覚ますのを待つだけ。優奈、みんな待ってるよ。早く目を覚まして。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

処理中です...