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25.サプライズ(最終話)
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「リッキー? なんでベッドに来ないんだ?」
「ドア開けといてくれよ、俺、ソファで寝るから。寝室閉められると一人みたいでヤダ」
「? なら一緒に寝ようよ。第一お前がソファに寝たことなんて無いじゃないか。僕が『ヤり過ぎだ!』ってベッドから蹴落とされてソファに寝ることはあるけど」
「とにかく! ドアは開けとけ、いいな?」
さすがにドアまで閉められちゃ俺は寝れねぇ。今、俺には目論見があるんだ。だからそのために離れて寝ることに決めたんだ。
もうすぐ4月8日だ。これって、フェルの誕生日。つまり、去年のリベンジってことだ。去年は……思い出すのもイヤだ、あんな辛かったこと。
俺は誕生日のプレゼントにチェーンをもらった。けどフェルにはまだ一度も[誕生日のプレゼント]ってもんを渡したことが無ぇんだ……
3日前の3月29日。クリスマス遅くなったけどってフェルはオーデコロンをくれた。嬉しかった! それで俺は思いついたんだ、これをつけるのを止めとこうって。フェルの誕生日に初めてこのオーデコロンつける。それはベッドに入る直前だ。この香りに包まれた俺を誕生日に贈るんだ。もちろん、それ以外にもプレゼントは用意するけど。
そこまで考えて、もう一つ思いついた。その日抱かれるまでメイクラブをお預けしよう! そしたらお互いに我慢した分、夜思いっきり堪能できる! フェルも喜ぶ!
そうとなれば目標の4月8日まで断固フェルを俺に近づけるわけにはいかねぇ。うっかりキスでもされようもんなら、きっとそのまんまぐずぐずになっちまうんだ、俺は。そんなの、とっくに学習済みだ。
不服そうな顔してフェルは寝室に入っていった。よし、ドアは閉めてねぇな、なら俺は眠れるはずだ。ソファで目を閉じた。ちょっと時間が経つ。ちょっと座ってみた。横になる。目を開ける。立って、そっとフェルの顔を覗きに行った。うん、良く寝てる……俺がいねぇのに。すんなり寝るんだ、フェルは。なんかムカつく、俺は寝てねぇのに。
ちょっと腹立って冷蔵庫のドアを開けた。小さい氷を持ってフェルの首に……いけね、なんてこと考えんだよっ。その氷は自分の口に放り込んた。
ソファに戻る。なんか眠れそうにない。じゃ、別のプレゼント何にするか決めようと思った。俺が今までもらったものを考える。指輪。チェーン。オーデコロン。数は少ないけど、フェルの心のこもったもんばっかりだ。
俺がフェルにあげたもん…… 俺は起き上がって座り直した。なんてこった、ひとっつも無ぇ…… なのに俺はフェルに不貞腐れた顔ばっか見せたんだ。フェルは 笑顔もらってるからいいんだって言った。それで幸せになるって。俺はそれを鵜呑みにしちまって何もしてねぇ。もちろん、フェルは本心を言ってるんだと分かってる。本気でそう思ってくれてんだ。そこに俺はいつも甘えて。
何にしよう! 何なら喜んでくれる? どうしよう、何にしよう! もう眠れるわけが無ぇ!
朝が来て、「おはよー」ってぐしゃぐしゃな頭で起きてきたフェルがそのまんまバスルームに行ってシャワーの音がしたと思ったら飛び出してきた。
「リッキー! お前、寝てないだろっ! こんなに疲れた顔して……今日の講義は11時からだったな、おいで、ちょっとでも寝ないと」
いいって言うのを無理やりベッドに連れていかれて胸に抱かれた。
「何もしないよ。お休み、ちゃんと起こしてあげるから。目を閉じてごらん、きっと眠れる」
魔法のような声が聞こえてる間に欠伸が出て、魔法の鼓動を聞いてるうちに俺は眠っちまった…… 結局俺は世話されねぇと眠ることも出来ねぇ。我れながら情け無ぇ…… おかげで講義にはちゃんと出れた。
俺たちが不思議でなんなかったのは単位が足りてたってことだ。けど、どうやらあちこちで代返やっててくれたらしくってそれは何とかなっていた。成績としては申し分なかった(はずだ)し、進級のことで悩まなくてすんでホッとした。余計なことは俺たちも言わなかった、変にほじくり返して落とされたんじゃ堪まんねぇ。
後で代返はシェリーの親衛隊の手が回ってたってことを知った。いかに男共が女の言葉に弱いかって言う見本だな。
そんなことより、プレゼント! こんだけいろいろしてくれてるフェルに何上げたら喜ぶんだ?
「シェリー、フェルの好みのもんって何か知らね?」
「好み? あ、誕生日ね? あんた、もう自分をあげたんだからそれでいいんじゃないの?」
もじもじする。ほんのたまに、シェリーはどストライクの言葉を使う。女の子ならヴァージンってことなんだから。
「そういうんじゃなくってちゃんとした物渡したいんだ! 欲しがってる物って聞いたこと無ぇかな? フェルって意外と物に頓着ないっていうか、執着ないっていうか」
「そうね、ブロンクスで育つとそういう思い入れ出来にくいんだと思うよ。そういうのって怖くなるのよね、心が縛られるみたいで。失うことの方が多いから」
そういうのって……悲しい、寂しい。俺も全部捨ててアメリカに来た。けどそれは仕方なかった。でも最初っからそういうものを持たないようにするって……
「あ! だから人に対する思い入れが強くなんのかな? フェルが一番大事にすんのは人だ」
「……そうね。うん、そうだ。あんたに友だちが出来たって言うのも自分のことみたいに喜んでたし。失くすのがイヤだから恋愛だってしないようにしてきたでしょ? そしてあんたのこと好きになってからは限度無く愛してるし」
そうか……大事にするもんは人なんだな。だから人に対して真っ直ぐ誠実に尽くすんだ。
「じゃ、何にしたらいいんだろう? 物じゃないなら俺、どうしていいか分かんねぇ……」
「ディナーは? 誕生日パーティにしたら?」
「でも年中ディナーは招待してる。どうせメンバーも変わんねぇよ」
「サプライズにするの! 内緒で用意してフェルが帰って来たら『おめでとう!』って」
フェルを驚かす……驚かす!? 俺、指輪もチェーンもオーデコロンも驚かされた。あんな思いをフェルにも味わってほしい!
「サプライズ、やる! でもどうやろう? 今日は4月2日だし」
「あんたんトコでやるのは無理ね、バレるに決まってるもの……分かった、そっち任せて。その日のメニューはあんたに任せる。買い出しとかはタイラーと打ち合わせして。みんなでフェルを祝いましょ!」
何だかウキウキしてくる。フェルを驚かせる。パーティーが終わったらオーデコロンつけてたっぷり美味そうになった俺を渡す。うん、これで決まりだ!
まず、王道を取った。タイラーに相談したんだ。次はエディだな。フェルの誕生日のこと。サプライズのこと。その支度のこと。そういうのを相談するんだ。
「それ俺の方でも真面目な相談がある」
「タイラーが俺に相談?」
「エディのことだ」
「エディがどうした?」
「あいつ、4月9日が誕生日なんだ」
「え!?」
「あいつのこと、一緒に祝ってやれないかな」
エディ。すっごくいいヤツなのに俺は意外とエディのこと知らねぇんだ。Wハピーバースデー。
「日にちずれてもいいかな?」
「いいと思うよ。だってエディには祝ってくれる人なんかいないんだから」
「なんで!」
「いろいろあるんだよ、アイツにも。アイツのことについちゃ俺は言うわけにはいかない。それに俺が知ってるのもほんの僅かだしな。どうだろう、誕生祝い」
「いいと思う! それ、すごくいい! フェルは人を大事にするんだ。だからエディの喜ぶ顔見たがると思う」
「ホントか!? 良かった、俺も嬉しいよ。じゃ、エディ抜きでことを進めよう」
そうなると、シェリー、タイラー、俺。レイは力になるんだかならないんだか良く分かんねぇし、ロジャーに協力求めんのはサプライズが自滅するようなもんだ。ロイは、その…… フェルが仲いいってのも不思議なんだ、俺と関係があったヤツと。だから結局は3人で準備するしかねぇってことだ。
取り敢えず俺はメニューだ。エディの好きなもんは何だろう?
「アイツ、なんでも食べるよ。好き嫌いは無いんだ。そうだなぁ、強いて言えば食べたことないものが好きってことかな」
そりゃ難しい注文だ。エディが一体何食べて、何食べてねぇんだか分からねぇ。
「そんな大雑把じゃなくってもっと具体的に無ぇのか?」
「うーん……そうだな、ポークが比較的好きかな。自分からビーフやチキンを頼むのを見たいこと無い」
それだけの手がかりか……俺の料理の腕はまだまだ未熟だ。調べるしかねぇ、二人が満足する料理。フェルはトマト。エディはポーク。そして初めて食べるようなもん。
2日かけて考えた。いろんな本も読んだし。
その間のフェルとの攻防戦は大変だった。3日セックスが空いている。顔見ると不満たらたらの様子で不貞腐れてるし。なにせ俺はキスさえ避けている。あれはダメだ、そのまんまもつれ込むに決まってんだ。
夜寝るのは必死にソファで耐えた。これにももちろんいい顔するわけがねぇ。
「僕の何が気に入らないんだ!」
「少しの間だ、ほっといてくれよ」
「なんで! じゃキスくらいいいだろっ!」
「あいにく、そいつもダメだ」
俺の機嫌が悪いわけじゃねぇってことは分かってるらしい。夕べはとうとうソファの俺に襲いかかってきたから蹴り倒してやった。とにかく早くバースデーを迎えねぇと、俺たち夫婦は壊滅的な打撃を受けるかもしんねぇ。スリル満点だ。
「タイラー、エディは肉って単品で食うのか? それともなんかとのコラボ?」
「コラボ? っていうか、何かと煮たのとか、付け合わせとか焼いたのとか……」
突破口を見つけた気がする。今日はもう5日。こっからは行動あるのみだ!
「タイラーんとこで作らせてくれる? 試食してほしいんだ」
「いいよ! リッキーの料理って俺は好きだよ。喜んで試食する!」
俺の考えてる料理なら一石二鳥でスープも出来る。ケーキはシェリーに選んでもらおう!
「タイラー、もう一つ頼みがあんだけど」
「なんだ?」
「ロイ、ワインに詳しいんだ。肉やトマト料理に合うワインを探してもらいたいんだけど……」
「ワインならリッキーだって詳しいじゃないか」
「その、ロイに話持って行きにくくって……パーティーに来てくれって」
多くを言わずともタイラーは察してくれた。
「無理に誘わなくてもいいんじゃないか? 居心地悪いんだろ? 俺だってもしパーティーに昔の彼女いたらやりにくいよ」
「でも俺、フェルの友だち外すのイヤなんだ」
「……分かった。そっちは任せろ。他に何かあったら言えよ」
「うん。後は買い物くらいだと思う。今日早速試すから食ってくれよ」
そして、メニューは大成功だった。
「これなら美味いし、二人の望みがばっちり叶ってると思うよ!」
タイラーが保証してくれた。
そしてとうとう4月8日。俺は朝っから大忙しだ。フェルはシェリーが引き受けてくれたけど、ずっとフェルの愚痴を聞かされてるって文句のメールが来た。俺の様子がおかしいって。
エディはタイラーが引き受けてる。エディは勘がいいから何かあるだろうってタイラーを探っているらしい。予定の6時まであと3時間。
シェリーが探してくれた場所はレンタルのちょっとしたパーティー会場だ。広さはピンキリで、俺たちは8人だからそんなに大きい部屋は借りてない。半日で60ドル。設備はレンジもオーブンも食器も揃ってる優れもんだ。
メニューの具材は薄切りモモのポーク、キャベツ、トマト、あれこれの野菜、チーズ、夕べから仕込んでおいたブイヨン、塩コショウ、パクチー。他の付け合せや前菜はもうとっくに仕上げてあって冷蔵庫ん中だ。だから後はメインを作るだけ。
トマトとブイヨンと塩コショウで薄めのトマトソースを作る。濃い目のトマトソースに肉を浸けた。芯を抜いたキャベツを丸ごと軽く茹でて、広い鍋にそのキャベツの葉っぱを敷き詰める。その上にさっきの豚肉を広げて、チーズを載せて、キャベツを載せて。その繰り返しでミルフィーユが出来る。
そして最初に作った薄めのトマトソースで煮込んでいく。煮詰まっていくとちょうどいい濃さになるんだ。後はそのミルフィーユを星型に大きくくり抜いた。新鮮なトマトとミルフィーユの切り飛ばしたところとたっぷりのブイヨンでスープを作る。粗びき胡椒とパクチーが大活躍だ。味見をする。よし、OKだ!
もう5時半。俺は用意していた服に着替えた。この前安かったから飛びついて買ったプリムローズ・イエローっていう薄い黄色のスタンドカラー。考えてみたら俺はスタンドカラーが好きだ。何でかって、婚約式の時、フェルはボタンを外すたびにキスをくれた。あれに痺れちまったんだよな。
その上に着たスーツはウィンター・スカイっていうちょっとくすんだ青。意外に中の色とすごくマッチする。部屋にある鏡でチラリと……いや、念入りにチェックする。
春。そんな色合いだ。その俺をプレゼント。飢えきっているフェルに。考えただけで心臓の鼓動が駆けだしそうだ。
ロジャーとレイとロイが一緒に来てくれて、もう準備万端。表で車の止まる音がした。カーテンを開けてみるとタイラーの車。クラッカーだってケーキだって用意してある。
「いったい何なんだよ!」
フェルとエディがごちゃごちゃ文句言ってるけど、それを弾き飛ばす勢いでシェリーがピシャン! と何か言ってる。
二人ともスーツ着せられてるから余計何事かと思ってるらしい。フェルには俺が用意しといたスーツがちゃんと着せてあった。色は……ああ、フェルは色の説明をすると、『めんどくさい』の一言で片付けちまうんだ。ようするにちょっと落ち着いたベージュのスーツに薄いブルーのYシャツ。タイはエンジ。
エディは……驚いた! メガネをコンタクトに変えたエディはすごくカッコ良く変身しちまった。スーツが凄く似合う。紫とも違うし茶色とも違う。薄い色で落ち着いているんだけど、エディにはよく似合った色で柔らかい雰囲気になっている。今度あの色も調べたい! そう思った。俺の勘じゃ……多分ブルー系かな。でも複雑な色だ、優しくて。
入って来た二人に俺たちはパン、パン! っていくつもクラッカーを鳴らしたから飛び上って驚いてる。
「な、なんの騒ぎだ!?」
そこに6人で揃って歌い始めた「Happy Birthday to You」。二人とも唖然とした顔で見ているのがおっかしくって、俺たちは歌い終わってから大笑いだ。
「あんたたち二人のバースデーパーティーよ。フェル、エディ、おめでと! エディには一日早いけどね」
二人が目を合わせてる。エディなんか何が起きてるのか分かってねぇみたいだ。
「エディ、俺からこれ。何にしていいか分かんなかったから」
カナダの景色の写真で出来てる大きめの卓上カレンダーだ。エディの部屋はたった一枚のポスターだけで寂しい。きっとこれなら受け取ってもらえるかと思って用意した。
「リッキー…… ありがとう、これ大事に使うよ……」
ちょっと涙ぐむエディに焦った。だってカレンダーだけなのに。
シェリーからはお洒落なペン立てとメモが一緒になってるヤツ。タイラーからはラップトップのバッグ。ジッパーの部分が壊れかけてるってボヤいてんので思いついたらしい。ロイはワインの差し入れ、ロジャーはUSBメモリ3つで色気もへったくれもねぇ。レイは傘だ。
「なんで傘なんだよ」
「ここんとこ雨が続いてるからな」
こいつの思考回路は相変わらず分かんねぇ。
「みんな、ありがとう……」
「喜んでもらってすごく嬉しい。友だちにプレゼントなんて、俺、初めてなんだ……」
つっかえつっかえ礼を言うエディより俺が泣いてた。本当に初めてだ、こんなこと。友だちにプレゼント! 初めてがエディで嬉しい。今度タイラーにも何か考えたい。プレゼントもらうのもいいけど、プレゼントするのもこんなに気持ちいいもんなんだな!
今度はフェルへのプレゼントだ。タイラーからはペティナイフ。
「これでちっとはリッキーの手伝いしろよ」
シェリーからはタイピン。二つ入ってて驚いた。
「お揃いがいいんでしょ? そんなに高くないから二人にね」
ロイはもう一本、こっちはシャンパンのプレゼントだ。ロジャーはなぜかドライバーセット。レイからのプレゼントは、フェルは開けた途端にバッ! と閉じて睨みつけた。
「だって、必需品だろ?」
にやっとレイが笑う。みんなが見せろって言うのをとうとう見せないでフェルは隠し通した。
料理は大成功だった!
「リッキー! 凄い、これ美味いよ。食べたことない、こんなの」
エディが大喜びするのが嬉しかった。もちろんフェルも喜ぶんだけど、フェルは俺が何作っても喜ぶから第三者のこういう声ってホントに嬉しいんだ。
「片づけないで帰っても大丈夫なのよ」
シェリーはそう言ったけど俺は片づけた。結局みんなで掃除もした。そんなのも結構楽しくて特別なイベントをしたっていう実感が湧く。終わってシェリーに飛びついた。
「シェリー、ありがとう。お蔭でいい誕生日パーティーになった。俺、ちゃんとフェルを祝えたよな?」
「もちろんよ! フェルはとても喜んでたわ。エディの誕生日と一緒にやってもらえたのが余計嬉しかったみたい」
「それ、タイラーのお蔭なんだ。俺知らなかったけど教えてくれたんだ」
シェリーが急にほっぺにキスをくれた。
「あんた、本当にいい子ね。大好きよ、あんたのこと」
どこがいい子だったのか分かんねぇけど褒められたのはやっぱ嬉しい。今日は誰の誕生日か分かんねぇほど俺も幸せな気分だ。
家に帰ってから俺はフェルに迫った。
「な、レイ、何くれたんだよ」
「いいよ、知らなくて」
「見せろよ!」
俺はフェルの手から箱を引っ手繰った。中を見て、見なきゃ良かったと後悔した。
「分かったか? それつける度にレイの顔が浮かぶのってイヤだろ?」
山ほど入ったコンドーム…… 確かにイヤだ、フェルが言った通りレイの顔が浮かぶ。俺たちはそれをクローゼットの奥深くにしまった。出来れば二度と見たくねぇ。
世の中には[余計なお世話]って言うプレゼントもあるんだって、いい勉強になった。
夜。たっぷり時間をかけてフェルがスタンドカラーのシャツを脱がせてくれた。指に、手首に、腕に、肩にフェルの唇が這いまわる。久し振りの愛撫に俺は震えた。バスルームで一緒にシャワーを浴びる。
「今日のためだったの? 今日まで焦らそうと思ってた?」
フェルの手が俺を掴み、唇が耳を咥えながら息を吹き込むように囁く……俺は喘ぐばっかでやっと頷いた。
「ありがとう。愛してるよ、リッキー。ずい分お預けさせられたから今日はうんと抱くからな」
握られたオレは久し振りのフェルの手が心地良くて……フェルのゆっくりした動きに合わせて自然に腰がくねる…… っあぁ……も、イきそ……
フェルの指が後ろを探る…そっと洗ってくれて泡で俺を解していく…… 湯に逆上せてんのか頭の中がとろとろなのか、俺には分かんなかった。シャワーをかけられてバスタオルで包まれて。とろとろのまんまフェルに抱き上げられた。
「愛してるよ、ハニー。今日はゆっくり楽しもうな」
ベッドに置かれてフェルが向うを向いてる隙にコロンをつけた。部屋ん中にその香りがふわっと広がった。フェルが振り返ってあの笑顔をくれた。
「そうか、だから今までつけなかったのか! てっきり気に入らないんだと思ってたよ!」
抱き締められてフェルもその香りに包まれてく。俺の項に鼻を埋めて何度も匂いを嗅いでいる。
「うん、いい匂いだ。お前の匂いと混ざってる。やっぱりどんなプレゼントよりも僕はお前が一番いい。僕の一番好きな顔、見せて」
「いち……ばん?」
躰を愛撫されながら聞き返す……あ、いぃ……すごく、いい……最初っからこれじゃきっと俺はぐちゃぐちゃにされちまう……
「お前のイく時の顔。僕だけが知ってる顔。お前が啼きながらイく、あの顔さ」
それを言われた時にはもう俺は……声を上げてた、口を閉じられなくて。天井に向かってひっきりなしに声が上がる……
「もっ、もっと………もっ……は ぁっあ!」
その夜は何回イかされたかわかんねぇ。数えることさえ出来なかった。
誕生日プレゼント。去年出来なかったサプライズ。やっぱ、アニバーサリーは大事だよ、フェル。だって俺、こんなに幸せだ。フェルの鼓動が俺にもっと幸せをくれた。
―― 完 ――
「ドア開けといてくれよ、俺、ソファで寝るから。寝室閉められると一人みたいでヤダ」
「? なら一緒に寝ようよ。第一お前がソファに寝たことなんて無いじゃないか。僕が『ヤり過ぎだ!』ってベッドから蹴落とされてソファに寝ることはあるけど」
「とにかく! ドアは開けとけ、いいな?」
さすがにドアまで閉められちゃ俺は寝れねぇ。今、俺には目論見があるんだ。だからそのために離れて寝ることに決めたんだ。
もうすぐ4月8日だ。これって、フェルの誕生日。つまり、去年のリベンジってことだ。去年は……思い出すのもイヤだ、あんな辛かったこと。
俺は誕生日のプレゼントにチェーンをもらった。けどフェルにはまだ一度も[誕生日のプレゼント]ってもんを渡したことが無ぇんだ……
3日前の3月29日。クリスマス遅くなったけどってフェルはオーデコロンをくれた。嬉しかった! それで俺は思いついたんだ、これをつけるのを止めとこうって。フェルの誕生日に初めてこのオーデコロンつける。それはベッドに入る直前だ。この香りに包まれた俺を誕生日に贈るんだ。もちろん、それ以外にもプレゼントは用意するけど。
そこまで考えて、もう一つ思いついた。その日抱かれるまでメイクラブをお預けしよう! そしたらお互いに我慢した分、夜思いっきり堪能できる! フェルも喜ぶ!
そうとなれば目標の4月8日まで断固フェルを俺に近づけるわけにはいかねぇ。うっかりキスでもされようもんなら、きっとそのまんまぐずぐずになっちまうんだ、俺は。そんなの、とっくに学習済みだ。
不服そうな顔してフェルは寝室に入っていった。よし、ドアは閉めてねぇな、なら俺は眠れるはずだ。ソファで目を閉じた。ちょっと時間が経つ。ちょっと座ってみた。横になる。目を開ける。立って、そっとフェルの顔を覗きに行った。うん、良く寝てる……俺がいねぇのに。すんなり寝るんだ、フェルは。なんかムカつく、俺は寝てねぇのに。
ちょっと腹立って冷蔵庫のドアを開けた。小さい氷を持ってフェルの首に……いけね、なんてこと考えんだよっ。その氷は自分の口に放り込んた。
ソファに戻る。なんか眠れそうにない。じゃ、別のプレゼント何にするか決めようと思った。俺が今までもらったものを考える。指輪。チェーン。オーデコロン。数は少ないけど、フェルの心のこもったもんばっかりだ。
俺がフェルにあげたもん…… 俺は起き上がって座り直した。なんてこった、ひとっつも無ぇ…… なのに俺はフェルに不貞腐れた顔ばっか見せたんだ。フェルは 笑顔もらってるからいいんだって言った。それで幸せになるって。俺はそれを鵜呑みにしちまって何もしてねぇ。もちろん、フェルは本心を言ってるんだと分かってる。本気でそう思ってくれてんだ。そこに俺はいつも甘えて。
何にしよう! 何なら喜んでくれる? どうしよう、何にしよう! もう眠れるわけが無ぇ!
朝が来て、「おはよー」ってぐしゃぐしゃな頭で起きてきたフェルがそのまんまバスルームに行ってシャワーの音がしたと思ったら飛び出してきた。
「リッキー! お前、寝てないだろっ! こんなに疲れた顔して……今日の講義は11時からだったな、おいで、ちょっとでも寝ないと」
いいって言うのを無理やりベッドに連れていかれて胸に抱かれた。
「何もしないよ。お休み、ちゃんと起こしてあげるから。目を閉じてごらん、きっと眠れる」
魔法のような声が聞こえてる間に欠伸が出て、魔法の鼓動を聞いてるうちに俺は眠っちまった…… 結局俺は世話されねぇと眠ることも出来ねぇ。我れながら情け無ぇ…… おかげで講義にはちゃんと出れた。
俺たちが不思議でなんなかったのは単位が足りてたってことだ。けど、どうやらあちこちで代返やっててくれたらしくってそれは何とかなっていた。成績としては申し分なかった(はずだ)し、進級のことで悩まなくてすんでホッとした。余計なことは俺たちも言わなかった、変にほじくり返して落とされたんじゃ堪まんねぇ。
後で代返はシェリーの親衛隊の手が回ってたってことを知った。いかに男共が女の言葉に弱いかって言う見本だな。
そんなことより、プレゼント! こんだけいろいろしてくれてるフェルに何上げたら喜ぶんだ?
「シェリー、フェルの好みのもんって何か知らね?」
「好み? あ、誕生日ね? あんた、もう自分をあげたんだからそれでいいんじゃないの?」
もじもじする。ほんのたまに、シェリーはどストライクの言葉を使う。女の子ならヴァージンってことなんだから。
「そういうんじゃなくってちゃんとした物渡したいんだ! 欲しがってる物って聞いたこと無ぇかな? フェルって意外と物に頓着ないっていうか、執着ないっていうか」
「そうね、ブロンクスで育つとそういう思い入れ出来にくいんだと思うよ。そういうのって怖くなるのよね、心が縛られるみたいで。失うことの方が多いから」
そういうのって……悲しい、寂しい。俺も全部捨ててアメリカに来た。けどそれは仕方なかった。でも最初っからそういうものを持たないようにするって……
「あ! だから人に対する思い入れが強くなんのかな? フェルが一番大事にすんのは人だ」
「……そうね。うん、そうだ。あんたに友だちが出来たって言うのも自分のことみたいに喜んでたし。失くすのがイヤだから恋愛だってしないようにしてきたでしょ? そしてあんたのこと好きになってからは限度無く愛してるし」
そうか……大事にするもんは人なんだな。だから人に対して真っ直ぐ誠実に尽くすんだ。
「じゃ、何にしたらいいんだろう? 物じゃないなら俺、どうしていいか分かんねぇ……」
「ディナーは? 誕生日パーティにしたら?」
「でも年中ディナーは招待してる。どうせメンバーも変わんねぇよ」
「サプライズにするの! 内緒で用意してフェルが帰って来たら『おめでとう!』って」
フェルを驚かす……驚かす!? 俺、指輪もチェーンもオーデコロンも驚かされた。あんな思いをフェルにも味わってほしい!
「サプライズ、やる! でもどうやろう? 今日は4月2日だし」
「あんたんトコでやるのは無理ね、バレるに決まってるもの……分かった、そっち任せて。その日のメニューはあんたに任せる。買い出しとかはタイラーと打ち合わせして。みんなでフェルを祝いましょ!」
何だかウキウキしてくる。フェルを驚かせる。パーティーが終わったらオーデコロンつけてたっぷり美味そうになった俺を渡す。うん、これで決まりだ!
まず、王道を取った。タイラーに相談したんだ。次はエディだな。フェルの誕生日のこと。サプライズのこと。その支度のこと。そういうのを相談するんだ。
「それ俺の方でも真面目な相談がある」
「タイラーが俺に相談?」
「エディのことだ」
「エディがどうした?」
「あいつ、4月9日が誕生日なんだ」
「え!?」
「あいつのこと、一緒に祝ってやれないかな」
エディ。すっごくいいヤツなのに俺は意外とエディのこと知らねぇんだ。Wハピーバースデー。
「日にちずれてもいいかな?」
「いいと思うよ。だってエディには祝ってくれる人なんかいないんだから」
「なんで!」
「いろいろあるんだよ、アイツにも。アイツのことについちゃ俺は言うわけにはいかない。それに俺が知ってるのもほんの僅かだしな。どうだろう、誕生祝い」
「いいと思う! それ、すごくいい! フェルは人を大事にするんだ。だからエディの喜ぶ顔見たがると思う」
「ホントか!? 良かった、俺も嬉しいよ。じゃ、エディ抜きでことを進めよう」
そうなると、シェリー、タイラー、俺。レイは力になるんだかならないんだか良く分かんねぇし、ロジャーに協力求めんのはサプライズが自滅するようなもんだ。ロイは、その…… フェルが仲いいってのも不思議なんだ、俺と関係があったヤツと。だから結局は3人で準備するしかねぇってことだ。
取り敢えず俺はメニューだ。エディの好きなもんは何だろう?
「アイツ、なんでも食べるよ。好き嫌いは無いんだ。そうだなぁ、強いて言えば食べたことないものが好きってことかな」
そりゃ難しい注文だ。エディが一体何食べて、何食べてねぇんだか分からねぇ。
「そんな大雑把じゃなくってもっと具体的に無ぇのか?」
「うーん……そうだな、ポークが比較的好きかな。自分からビーフやチキンを頼むのを見たいこと無い」
それだけの手がかりか……俺の料理の腕はまだまだ未熟だ。調べるしかねぇ、二人が満足する料理。フェルはトマト。エディはポーク。そして初めて食べるようなもん。
2日かけて考えた。いろんな本も読んだし。
その間のフェルとの攻防戦は大変だった。3日セックスが空いている。顔見ると不満たらたらの様子で不貞腐れてるし。なにせ俺はキスさえ避けている。あれはダメだ、そのまんまもつれ込むに決まってんだ。
夜寝るのは必死にソファで耐えた。これにももちろんいい顔するわけがねぇ。
「僕の何が気に入らないんだ!」
「少しの間だ、ほっといてくれよ」
「なんで! じゃキスくらいいいだろっ!」
「あいにく、そいつもダメだ」
俺の機嫌が悪いわけじゃねぇってことは分かってるらしい。夕べはとうとうソファの俺に襲いかかってきたから蹴り倒してやった。とにかく早くバースデーを迎えねぇと、俺たち夫婦は壊滅的な打撃を受けるかもしんねぇ。スリル満点だ。
「タイラー、エディは肉って単品で食うのか? それともなんかとのコラボ?」
「コラボ? っていうか、何かと煮たのとか、付け合わせとか焼いたのとか……」
突破口を見つけた気がする。今日はもう5日。こっからは行動あるのみだ!
「タイラーんとこで作らせてくれる? 試食してほしいんだ」
「いいよ! リッキーの料理って俺は好きだよ。喜んで試食する!」
俺の考えてる料理なら一石二鳥でスープも出来る。ケーキはシェリーに選んでもらおう!
「タイラー、もう一つ頼みがあんだけど」
「なんだ?」
「ロイ、ワインに詳しいんだ。肉やトマト料理に合うワインを探してもらいたいんだけど……」
「ワインならリッキーだって詳しいじゃないか」
「その、ロイに話持って行きにくくって……パーティーに来てくれって」
多くを言わずともタイラーは察してくれた。
「無理に誘わなくてもいいんじゃないか? 居心地悪いんだろ? 俺だってもしパーティーに昔の彼女いたらやりにくいよ」
「でも俺、フェルの友だち外すのイヤなんだ」
「……分かった。そっちは任せろ。他に何かあったら言えよ」
「うん。後は買い物くらいだと思う。今日早速試すから食ってくれよ」
そして、メニューは大成功だった。
「これなら美味いし、二人の望みがばっちり叶ってると思うよ!」
タイラーが保証してくれた。
そしてとうとう4月8日。俺は朝っから大忙しだ。フェルはシェリーが引き受けてくれたけど、ずっとフェルの愚痴を聞かされてるって文句のメールが来た。俺の様子がおかしいって。
エディはタイラーが引き受けてる。エディは勘がいいから何かあるだろうってタイラーを探っているらしい。予定の6時まであと3時間。
シェリーが探してくれた場所はレンタルのちょっとしたパーティー会場だ。広さはピンキリで、俺たちは8人だからそんなに大きい部屋は借りてない。半日で60ドル。設備はレンジもオーブンも食器も揃ってる優れもんだ。
メニューの具材は薄切りモモのポーク、キャベツ、トマト、あれこれの野菜、チーズ、夕べから仕込んでおいたブイヨン、塩コショウ、パクチー。他の付け合せや前菜はもうとっくに仕上げてあって冷蔵庫ん中だ。だから後はメインを作るだけ。
トマトとブイヨンと塩コショウで薄めのトマトソースを作る。濃い目のトマトソースに肉を浸けた。芯を抜いたキャベツを丸ごと軽く茹でて、広い鍋にそのキャベツの葉っぱを敷き詰める。その上にさっきの豚肉を広げて、チーズを載せて、キャベツを載せて。その繰り返しでミルフィーユが出来る。
そして最初に作った薄めのトマトソースで煮込んでいく。煮詰まっていくとちょうどいい濃さになるんだ。後はそのミルフィーユを星型に大きくくり抜いた。新鮮なトマトとミルフィーユの切り飛ばしたところとたっぷりのブイヨンでスープを作る。粗びき胡椒とパクチーが大活躍だ。味見をする。よし、OKだ!
もう5時半。俺は用意していた服に着替えた。この前安かったから飛びついて買ったプリムローズ・イエローっていう薄い黄色のスタンドカラー。考えてみたら俺はスタンドカラーが好きだ。何でかって、婚約式の時、フェルはボタンを外すたびにキスをくれた。あれに痺れちまったんだよな。
その上に着たスーツはウィンター・スカイっていうちょっとくすんだ青。意外に中の色とすごくマッチする。部屋にある鏡でチラリと……いや、念入りにチェックする。
春。そんな色合いだ。その俺をプレゼント。飢えきっているフェルに。考えただけで心臓の鼓動が駆けだしそうだ。
ロジャーとレイとロイが一緒に来てくれて、もう準備万端。表で車の止まる音がした。カーテンを開けてみるとタイラーの車。クラッカーだってケーキだって用意してある。
「いったい何なんだよ!」
フェルとエディがごちゃごちゃ文句言ってるけど、それを弾き飛ばす勢いでシェリーがピシャン! と何か言ってる。
二人ともスーツ着せられてるから余計何事かと思ってるらしい。フェルには俺が用意しといたスーツがちゃんと着せてあった。色は……ああ、フェルは色の説明をすると、『めんどくさい』の一言で片付けちまうんだ。ようするにちょっと落ち着いたベージュのスーツに薄いブルーのYシャツ。タイはエンジ。
エディは……驚いた! メガネをコンタクトに変えたエディはすごくカッコ良く変身しちまった。スーツが凄く似合う。紫とも違うし茶色とも違う。薄い色で落ち着いているんだけど、エディにはよく似合った色で柔らかい雰囲気になっている。今度あの色も調べたい! そう思った。俺の勘じゃ……多分ブルー系かな。でも複雑な色だ、優しくて。
入って来た二人に俺たちはパン、パン! っていくつもクラッカーを鳴らしたから飛び上って驚いてる。
「な、なんの騒ぎだ!?」
そこに6人で揃って歌い始めた「Happy Birthday to You」。二人とも唖然とした顔で見ているのがおっかしくって、俺たちは歌い終わってから大笑いだ。
「あんたたち二人のバースデーパーティーよ。フェル、エディ、おめでと! エディには一日早いけどね」
二人が目を合わせてる。エディなんか何が起きてるのか分かってねぇみたいだ。
「エディ、俺からこれ。何にしていいか分かんなかったから」
カナダの景色の写真で出来てる大きめの卓上カレンダーだ。エディの部屋はたった一枚のポスターだけで寂しい。きっとこれなら受け取ってもらえるかと思って用意した。
「リッキー…… ありがとう、これ大事に使うよ……」
ちょっと涙ぐむエディに焦った。だってカレンダーだけなのに。
シェリーからはお洒落なペン立てとメモが一緒になってるヤツ。タイラーからはラップトップのバッグ。ジッパーの部分が壊れかけてるってボヤいてんので思いついたらしい。ロイはワインの差し入れ、ロジャーはUSBメモリ3つで色気もへったくれもねぇ。レイは傘だ。
「なんで傘なんだよ」
「ここんとこ雨が続いてるからな」
こいつの思考回路は相変わらず分かんねぇ。
「みんな、ありがとう……」
「喜んでもらってすごく嬉しい。友だちにプレゼントなんて、俺、初めてなんだ……」
つっかえつっかえ礼を言うエディより俺が泣いてた。本当に初めてだ、こんなこと。友だちにプレゼント! 初めてがエディで嬉しい。今度タイラーにも何か考えたい。プレゼントもらうのもいいけど、プレゼントするのもこんなに気持ちいいもんなんだな!
今度はフェルへのプレゼントだ。タイラーからはペティナイフ。
「これでちっとはリッキーの手伝いしろよ」
シェリーからはタイピン。二つ入ってて驚いた。
「お揃いがいいんでしょ? そんなに高くないから二人にね」
ロイはもう一本、こっちはシャンパンのプレゼントだ。ロジャーはなぜかドライバーセット。レイからのプレゼントは、フェルは開けた途端にバッ! と閉じて睨みつけた。
「だって、必需品だろ?」
にやっとレイが笑う。みんなが見せろって言うのをとうとう見せないでフェルは隠し通した。
料理は大成功だった!
「リッキー! 凄い、これ美味いよ。食べたことない、こんなの」
エディが大喜びするのが嬉しかった。もちろんフェルも喜ぶんだけど、フェルは俺が何作っても喜ぶから第三者のこういう声ってホントに嬉しいんだ。
「片づけないで帰っても大丈夫なのよ」
シェリーはそう言ったけど俺は片づけた。結局みんなで掃除もした。そんなのも結構楽しくて特別なイベントをしたっていう実感が湧く。終わってシェリーに飛びついた。
「シェリー、ありがとう。お蔭でいい誕生日パーティーになった。俺、ちゃんとフェルを祝えたよな?」
「もちろんよ! フェルはとても喜んでたわ。エディの誕生日と一緒にやってもらえたのが余計嬉しかったみたい」
「それ、タイラーのお蔭なんだ。俺知らなかったけど教えてくれたんだ」
シェリーが急にほっぺにキスをくれた。
「あんた、本当にいい子ね。大好きよ、あんたのこと」
どこがいい子だったのか分かんねぇけど褒められたのはやっぱ嬉しい。今日は誰の誕生日か分かんねぇほど俺も幸せな気分だ。
家に帰ってから俺はフェルに迫った。
「な、レイ、何くれたんだよ」
「いいよ、知らなくて」
「見せろよ!」
俺はフェルの手から箱を引っ手繰った。中を見て、見なきゃ良かったと後悔した。
「分かったか? それつける度にレイの顔が浮かぶのってイヤだろ?」
山ほど入ったコンドーム…… 確かにイヤだ、フェルが言った通りレイの顔が浮かぶ。俺たちはそれをクローゼットの奥深くにしまった。出来れば二度と見たくねぇ。
世の中には[余計なお世話]って言うプレゼントもあるんだって、いい勉強になった。
夜。たっぷり時間をかけてフェルがスタンドカラーのシャツを脱がせてくれた。指に、手首に、腕に、肩にフェルの唇が這いまわる。久し振りの愛撫に俺は震えた。バスルームで一緒にシャワーを浴びる。
「今日のためだったの? 今日まで焦らそうと思ってた?」
フェルの手が俺を掴み、唇が耳を咥えながら息を吹き込むように囁く……俺は喘ぐばっかでやっと頷いた。
「ありがとう。愛してるよ、リッキー。ずい分お預けさせられたから今日はうんと抱くからな」
握られたオレは久し振りのフェルの手が心地良くて……フェルのゆっくりした動きに合わせて自然に腰がくねる…… っあぁ……も、イきそ……
フェルの指が後ろを探る…そっと洗ってくれて泡で俺を解していく…… 湯に逆上せてんのか頭の中がとろとろなのか、俺には分かんなかった。シャワーをかけられてバスタオルで包まれて。とろとろのまんまフェルに抱き上げられた。
「愛してるよ、ハニー。今日はゆっくり楽しもうな」
ベッドに置かれてフェルが向うを向いてる隙にコロンをつけた。部屋ん中にその香りがふわっと広がった。フェルが振り返ってあの笑顔をくれた。
「そうか、だから今までつけなかったのか! てっきり気に入らないんだと思ってたよ!」
抱き締められてフェルもその香りに包まれてく。俺の項に鼻を埋めて何度も匂いを嗅いでいる。
「うん、いい匂いだ。お前の匂いと混ざってる。やっぱりどんなプレゼントよりも僕はお前が一番いい。僕の一番好きな顔、見せて」
「いち……ばん?」
躰を愛撫されながら聞き返す……あ、いぃ……すごく、いい……最初っからこれじゃきっと俺はぐちゃぐちゃにされちまう……
「お前のイく時の顔。僕だけが知ってる顔。お前が啼きながらイく、あの顔さ」
それを言われた時にはもう俺は……声を上げてた、口を閉じられなくて。天井に向かってひっきりなしに声が上がる……
「もっ、もっと………もっ……は ぁっあ!」
その夜は何回イかされたかわかんねぇ。数えることさえ出来なかった。
誕生日プレゼント。去年出来なかったサプライズ。やっぱ、アニバーサリーは大事だよ、フェル。だって俺、こんなに幸せだ。フェルの鼓動が俺にもっと幸せをくれた。
―― 完 ――
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