J(ジェイ)の物語 ~密やかな愛~

りふる

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3.生まれた思い

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 河野はジェロームをマンションに再び連れ帰った。
「大丈夫か? ほら、水だ」
「のめらい……」
「水だよ、飲んだ方がいいんだ。ほら……」

 突然しがみつかれた。体が震えている。
「……さん  かあ……」
 酒のせいもあるのだろう、今日の出来事も影響しているのかもしれない。堰が切れたように泣き声と言葉が迸り出た。
「おれのせいだ おれがかあさんをころしたんだ かあさん かあさん」
 事情は分からない。だがどんなに苦しんで来たのか、それは痛いほど伝わった。震える肩を抱きしめる。しがみつく腕を撫でた。髪を撫でる。声をかけた。
「ジェローム。お母さんはそんな風に思ってないよ。お前のことをきっと心配してる」
「きす、して……かあさん、きす……」

 目は閉じたまま顔を上に向けたジェイは痛々しいほど儚げだった。求めているのは母からのキスだ。アメリカでは年中見かけた光景。頬へのキス。河野は頬に顔を寄せて行った。

 間近に見るジェイの唇に河野の動きが止まった。
(頬だ)
そう思うのに、その果実に吸い寄せられていく自分。

 渡米中に男性と関係を持ったことがあった。そして帰国して裕子とベッドを共にしようとして上手く行かないことに気づいた。男性を抱いた時よりも気持ちが昂らない。何度か誤魔化したがどうにもならず、別れることにした。それ以来女性とセックスをしていない。誰かとつき合おうという気も消えてしまった。

 そっと唇を合わせた。経験が無いと言っていたのを思い出す。自分が初めてになるわけには行かない。そんなことは分かりきっていたし、そんな関係になるつもりもなかった。ただあまりにもジェロームが寂しそうで、それが悲しくて……
 合わせるだけのつもりがいつの間にか相手の口中を舌で探っていた。
 ふっ  ん……ん……
僅かの愛撫で漏れる吐息。甘い声。キスしたことも無いんだろうか。この体を触られたことも……

 気がつけば自分がその体を探っていた。ベッドに寝かせてすぐに衣類は脱がせてあった。だから今下着だけの姿になっている。
 経験が無いせいなのか酒のせいなのか、ジェイの体は敏感だった。撫でられるだけで喘ぎ声が大きくなる。触るたびに体が撥ねる。
 河野も酒を飲んでいた。ジェイの反応が自分の眠っていた欲望を煽り始めていた。

 母の代わりにと近づいた自分が性的な動きに変わるのは早かった。大きく深く、音を立てて口づける。口の中を荒らし、体を撫で回すだけでジェイが身を捩る。唇を首筋へと這わせた。
「あ ああぁ  はぁ……」
切ない声が部屋に響く。行くのを躊躇っていた場所……そそり立つそこへと手を向けた。
「あ! ぃや……! あぅ……」
知らなくても自然に動く腰。這いまわる唇から逃げようとする首。その姿が艶めかしくて艶めかしくて……

「ごめん……ジェローム、ごめん。俺、お前を好きになったみたいだ……」
 いつそんな気持ちになったのか分からない。でも言葉にしてみて確かなことだと知った。

――好きだ  愛しい

 肩に胸にキスをする。震える胸の尖りに舌を立てた。
「あああ や だ…… ぁあ……ふ」
ゆっくりとその昂ぶりを上下に扱く。下半身がひくひくと痙攣するのが伝わってくる。
「いいんだ、イって。お前が気持ち良けりゃいいんだよ。ほら、イくんだ」
「ぅあっ、あっ……あ、ああ!!」
 囁く声に一際大きく叫びを上げて、河野の手の中で果てた。荒い息が続き、痙攣が収まらない。
 楽にさせたくて腿を何度も撫で上げた。あっという間にそこはまたそそり立った。ふっと笑った。
「お前、若いんだなぁ」
「あ あ……おねがい おねがい……」
良く知っている。完全にイききってしまわないと苦しいだけだ。
「ああ、分かってる。ちゃんと満足しなくちゃな」

 再びそこに手をかけた。さっきの白濁で周りはしっかりと濡れている。漏れる声が濡れている。撫で回すたびに何度も息を詰めるのが分かる。優しく前を宥めるように掴んだ。

 大事にしたいと思う。できれば寄り添ってやりたいと思う。無理をせずに、無理をさせずに。

 酔った時や寝言。
(きっと真っ正直で素直なヤツなんだよな。お前を分かってやりたい。そして誰かがそれに気づいているのだと知ってほしい)
そうすれば必ずジェロームは変わるはずだと思う。

 子どもをあやすように撫でて強く弱く上下する。本能に従って動く腰に合わせスピードをコントロールする。
「今度はゆっくりな。ちゃんと味わうんだ、気持ちいいってことを」
「あ……っは、ぅぅ……」
「我慢するんだ、すぐにイくな」
 小さく震える体を抱き起こして後ろから包み込んだ。肩から首筋に唇を這わせる。
「あ! や……やめ……」
「ここが弱いのか? いいんだ、素直になれ。何も隠さなくていい」

 きっと朝には覚えちゃいない。今だけの快楽、それでいい。その中に沈めてやりたい。母に謝り続ける悲しい声をもう出させたくない。

「あぁ……も……う、おね……」
「イきたいか?」

 まるで聞こえたかのようにコクコクと頷くのが愛おしかった。スピードを上げる、密やかに響く濡れた音が自分の耳を侵す。自分がイきたいのを堪えた、犯したくない、優しくしたい。

「くは……ぁあ!!」

 大きな波にさらわれまいとしがみついたシーツに全てを吐き出した。
「ふ……ふ……っ…」
 残ることの無いようにしばらく扱いてやる。震えはまだ続いていたが少しずつ緩やかになっていった。

 小さく肩にキスを落とした。
「いい子だったな。面倒見てやるからぐっすり寝ろ」
体を拭われさっぱりした衣類を着せられ、ジェイはもう何も呟くことなく眠りについた。


 バスルームに入る。あの声が耳について離れない……ジェイはあまりに官能的だった。
「は……」
シャワーの下であの声が手の中の熱を煽り立てる。あっけなく果てた自分に笑った。
「お前……とんでもないやつだな。俺、落ちたよ完璧に」
この年になってまさか年下の男を愛するとは思わなかった。
「参った……」

 壁に手をつく。脳内にぐるぐる回るのは焼き鳥屋で見せたあの無邪気な笑顔だった。
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