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第一話 準備

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「はぁ~」

 大きなため息を吐き、長い金髪に紅い眼をした少女がベッドへと寝転がる。

「フィア様。お疲れ様でした」

 勇者との戦闘を終えた少女へと、侍女の銀髪の少女が声を掛ける。

「また失敗。次は何十年先になるのかな」

 天井を見上げたフィアは、そば付きの少女に聞こえるギリギリの声で呟く。

 今回で三回目の失敗。一回目から既に百年近くの時が経っている。人間というのは難儀なものだ。差し伸べた手を取ればいいものを過去の憎しみに囚われ短い命を散らしていく。

「はぁ~」

 人と魔族の共存。それは本心だ。だが自分の立場は魔王である。しがらみは多い。今回の勇者が人間を襲うのを良しとする過激派を潰してくれれば話は早かったのだけど。

 過ぎた事は考えても仕方がない。
 これからの事を考えていこうと切り替えた瞬間、ふと思い出す。

「グレイシー? 以前、話したこと覚えてる?」

 ベッドから起き上がり、すぐ側にいる彼女へと話しかける。

「はい。フィア様との話は全て覚えております」
「流石ね」

 と、いつもの流れから本題へと入る。

「私、この世界を滅ぼそうと思うの」
「もう勇者様をお待ちにならないのですか?」

 そう、以前の話ではもう一度勇者を待ってみようという話で終わったのだが。

「もう待たないわ。三回よ、私が手を差し伸べて断られたの」
「承知しました」

 そう言ってグレイシーは目を閉じ、賛同を示す。

 簡単な話。平和を目指すのであれば、共存でも滅亡でも大して変わりはないのだ。争う者が居なくなればそれは必然と平和になる。

「ただ、本意ではないから一度だけ降伏勧告を行うわ」

 そう、本意ではない。私自身、人間は愚かで好きではないが、人間の作り上げてきた文化は別の話だ。彼らの文化や文明には価値があるし、脆弱故に繊細な彼らの作るものは大好きだ。

「降伏すればその国は私の物。誰にも手を出させはしない。
 けれど抵抗するのなら徹底的に滅ぼすわ。手伝ってくれる?」
「私はフィア様に従います」
「ありがとう」

 グレイシーも協力してくれることが決まり、本格的に計画を立てていく。

「そうね。まず滅ぼす国は勇者の故郷にしましょう」
「降伏勧告はなされないのですか?」

 先程言っていた事と違い、疑問に思ったグレイシーが声を上げる。

「えぇ。勇者を生み出した国には一度、差し伸べた手を振り払われてるし。
 英雄視している勇者を殺された人達が再び争いの種になるのは想像つくもの」

 憎しみや争いは伝染する。一度、きちんと間引かなければ意味がない。
 それに共存の道を断っているのだ。滅ぼされても文句は言えないだろう。
 ……言えないよね?

 一度滅ぼし、世界を支配する。魔族と人間。相容れない種族同士が共存するには、絶対的な支配者が必要だ。何百年と続くこの争いを私が終らせる。
 それがこの百年、共存の道を探してきた答えだ。

「フィア様。滅ぼすにあたりまして、いくつかの問題点があると思います」
「そうね」
 
 グレイシーの言う通り、この計画にはいくつかの問題がでてくる。

 一つ目は、

「国の防衛機構よね」
「はい。たとえフィア様であっても、入念な準備は必要かと」

 たしかにグレイシーが提言してくるように準備は必要だろう。

 国ごとに防衛の特性は違ってくるが、中には対魔結界や対魔法結界などで護られていたりする。
 小規模や粗い結界であれば壊せるが、大規模結界となると正直しんどいかもしれない。

 その場合、規模や状況、結界の種類、構造や媒体などの要因によって対処の仕方が異なってくるため、明確な対策は現状立てることはできない。

 この件はその時の私に任せる。頑張れ未来の私! 

「他には魔術師の存在が問題になりそうですね」

 魔術師。人の身でありながらマナと親和性の高い魔族に並ぶ魔術の使い手。
 マナの多い魔界でなら私たち魔族が圧倒的に有利だけど、人界での戦いになると消耗の少ない魔術師の方が有利となる場合が多くなる。

 消耗戦になればなるほど不利になっていくので短期決戦が望ましい。それを念頭に置いても、

「私は一度に相手にできて五~八人が限界ね」

 魔術師自体の数は少ないと聞くが、大国を相手にすればそれぐらいは出てきてもおかしくはない。

「グレイシーは何人相手にできそう?」
「魔術師でしたら八~十二人が限界かと」
「そう……流石ね……」

 誇張でも何でもなく、グレイシーが言うのだから間違いないのだろう。
 私だって一度でなければ二、三十人は相手にできるし。

 だが、これで魔術師はグレイシーに任せることができる。その間に大規模魔法を発動させて、国を滅ぼせばいい訳だ。

 適材適所。張り合う必要はない……。

 そうして、その後もグレイシーと計画を話し合い、より完璧な物へと近づけていった。
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