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第4章 秘められしもの
35. 語りかけるもの (ユーリ)
しおりを挟む「なら、今晩泊まる?」
「・・・・・。う・・・へっ!?」
アランのいきなりな提案に俺はビックリして顔をあげ、思わず変な声が出た。
「え?な、何?何の話?というか、泊まるって・・・どこへ?」
いつもアランの言う事の意味はだいたい理解できる俺だが、今回ばかりは何故いきなり“泊まる”という言葉がでてきたのかわからず、思わず聞き返していた。
「緊張するくらい怖かったなら、今晩うちの実家に来ればいい。少しは気が紛れる」
アランのその言葉に、俺は目を丸くする。おそらく俺が思っているように、聡いアランには俺の考えなどお見通しで、その上で俺の気持ちを蔑ろにせず、真摯に受け止めてくれた結果、今の言葉に至ったのだろう。
(ほんと、アランにはかなわないなぁ)
俺はクスッと心の中で笑みを浮かべる。
「あ~・・・、なんか恥ずかしいな。この歳になって怖いから友人の家にお泊りするなんて」
「僕は気にしない」
「いや、俺が気にする。って、まぁアラン家も久々だし今回はお言葉に甘えようかな?」
「ん」
アランは頷いて了承し、引き続き目の前の料理に口をつける。見た目によらず、良い食べっぷりだ。
「あっ、でも今日も図書館に寄るから少し遅くなるかも?それでも大丈夫?」
「あぁ。問題ない」
「ごめんな、お邪魔するのに我儘言って。ありがとうアラン」
「ん」
俺のいつもの習慣を特に気にすることもなく、アランは頷き食事を平らげていく。その様子を目の前でボ~ッはとみながら俺は今日この後の仕事の予定と仕事が終わった後の予定を頭の中で整理する。
(レイ様、今日来られるかな?一応忙しくて今日会えないことを想定して昼食前に手紙は送っておいたけど・・・)
できれば会ってまた話をしたいが、忙しいレイ様のこと、さっき聞いた噂の件もあるから、もしかしたらしばらく会えないかもしれないなと、またふと不安を感じる。
そんな風に思考を飛ばしてる間に、アランは食事を終えたようで、気がつけば食後のデザートに突入していた。
「あっ、それ何!?」
意識をテーブルの上にやると、見たことのないデザートがアランの目の前に置かれている。
「今日から新作が出たらしい。さっきカウンターを覗いたらまだあったから取ってきた」
実は俺たち、果物も好きだがお菓子やデザートも好きで、そういうところも気の合うところの一つでもある。アランは甘すぎるものは好みじゃないらしいが、意外とこの食堂でちょこちょこ移り変わるデザートを楽しみにしているらしい。俺は、甘いもの全般大好きなので新しいものには目がない。というわけで、俺は現在目の前のデザートに釘付けだ。
「うそ!?俺としたことが見逃してた!まだあるかなっ!?」
ガタンと音を立てて立ち上がり、俺は慌ててカウンターの方へと視線をやる。すると、アランから残酷な申告を受ける。
「これが最後」
「えっ!!」
と、俺がショックを受けてアランの方に視線を戻すと俺の目の前にスッとデザートの乗った皿を差し出してくれる。
「えっ?・・・これ、アランの」
「フッ。また考えごとをして見ていなかったな。僕はもう食べた。それはユーリィにと取ってきた分」
アランが苦笑しながら、俺に食べるよう促す。
「アラン~~~ッ!!」
持つべきものは友人だ。俺は感激しながらアランが取ってきてくれたデザートを食べ始める。
「まぁ、新作だから明日からでも食べれるけど、気持ちが下を向いている時はやはり甘いものに限る」
アランは俺の中の不安を密かに感じ取って、このデザートをゲットしてきてくれたようだ。俺は一口一口を味わって食べる。
「ん~~!美味い!!これ何か懐かしい味がするけど、何だろ?」
「さぁ?今回のは、料理長の故郷に伝わるお菓子をアレンジしたものらしい。ユーリィが昔どこかで食べたんじゃないか?」
俺は食べながら、以前食べたことがあるかどうか考えていたが、結局思い出せなかった。
「まぁいいや。今はこれが美味しいんだし」
俺は深く考えず、今目の前にある小さな幸せを噛みしめる。
『ユーリは本当に甘いものには目がないね』
俺は食べながら無言で頷く。
(だって美味しいものは美味しいんだ。)
『また料理長に言って、ユーリの為に甘いものを作ってもらうよ』
(いやいや俺の為って、料理は皆んなのものだし。またいつでもここに来れば食べれるしね。)
『そうやって夢中になってるユーリも好きだよ。でも、そのうち甘いものに嫉妬してしまいそうだな』
「・・・・・・えっっ!!」
俺は、デザートに向けていた顔を勢いよくアランの方へと向ける。夢中になって食べていたはずの俺の急なその行動に、さすがのアランも驚いたようで目を丸くしている。
「どうした?」
「あの・・・、アラン、今言ったこと・・・」
「今?ユーリィが昔どこかで食べたんじゃないかという話?」
「そ、そうじゃなくて。その後、甘いものに目がないとか料理長に作ってもらうとか・・・」
「?いや?僕はユーリィがそれを食べている間、話しかけたりはしていない」
「・・・え?・・・でも今確かにーーー」
「ユーリィ?」
アランが俺を見て不思議そうな顔をする。俺は先程の最後のフレーズを聞いて、アランがそんなことを!?と驚いたのだが・・・。
じゃぁ今俺に語りかけていたのは、誰?
ーーー懐かしい味
ーーー懐かしい声
・・・?・・・声?
『ユーリ』
俺をユーリと呼ぶのは・・・・・・。
でもあの人はここにはいない。
これはーーー現実?それとも・・・。
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