モブなわたしの輝き方

凛ちゃん

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回想 サルバトール

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私はサルバトール。侯爵家の三男だ。我が家門は代々王国において軍事の中枢を司り、父は、軍務大臣と近衛隊の将軍をしてをり、長兄は、近衛大隊長。次兄は国防軍で事務次官兼中隊長をしている。にも、かかわらず私が、筆頭公爵家で国務大臣とはいえ、私邸で騎士をしているかと言えば、、、私が18歳で王立騎士団附属士官大学入学式の日、父や兄達、叔父や従兄弟達ー 所謂親族が当たり前の様に進む道に疑問を持ってしまっていた私は、自らの迷いを誰にも告げられず、悶々とただ、混沌とした疑問の中で鬱々としていたのだ。
 ぼんやりと歩き回っていたらしい私は、何処をどう歩いていたのか、王宮の奥まった場所迄入り込んでいたらしい。

入学式がもうすぐ始まる時間に差し掛かり、少し、否かなり私は焦りを感じていた。人を探しても、当然の様に誰も通らない。嫌な汗が滲む。

「あなた、どうなさったの?」柔らかなソプラノが風に乗って耳を擽る。そんな声だった。声の方に振り返ると、
「あなた、士官大学に入学なさる方?」私は声も出ず、コクリと頷いた。
美しい少女だった。まだ、幼いが、無条件で美しい。王宮に住まう少女なら、王女に違いないが、我が国には、この年頃の王女殿下はいない。
「こちらよ!まだ、間に合うわ。急ぎましょう?」彼女は、私の手を取り、駆け出した。
それは、軽やかで、しかも優美だ。
私の手を取り、時折り私を振り返って微笑む。何と、美しいのだろう。

私は夢中で彼女の手に引かれ乍ら、駆けていたのだが、、、
気がつくと、入学式の行われる大学の講堂前だった。彼女は、私の手を離すとその手を軽く振りながら、又、駆け出して行った。
夢のような、一瞬の出来事だった。

入学式には、遅れる事もなく、出席出来た私は、王宮を歩く際にはつい、彼女を探してキョロキョロした。が、彼女を見掛けることはついぞなかった。

それから、3か月程過ぎた頃だった。季節は初夏に移り、汗ばむ程の陽気だった。試験を前にして、私は親しくなったクラスの友人と3人で大学の、ではなく、閲覧だけは許されている王宮の図書館を訪れた。
王宮の図書館は蔵書も素晴らしいが、静かでクラシカルで優雅な空間で、ちょっと大人になった気持ちがして憧れの場所である。
講義が終わってすぐのせいか、人は全く居ない。
友人達とラッキーだと囁きながら、奥の閲覧テーブルや、デスクが並んでいる一画にやって来ると、誰かが、デスクの一つで、熱心に書き物をしていた。
陽に透けるような緑がかった金髪。
あの日の少女だと思った瞬間、
「あれは、、、レイモンド公爵令嬢、、、」一緒にいた、伯爵家の長男であるリオネルが驚いた声を上げた。
「王太子殿下のご婚約者の?」同じく伯爵家の三男のグリードが慌てて言った。私は驚きに声を失っていた。
「まだ、10歳だろう?しかし、美しい方だ。まるで、小さな貴婦人だな。」リオネルの声に、グリードと二人、何度も頷いた。

彼女は、私達の気配に、顔を上げ、軽く会釈してくれた。
寸分の隙もない優雅な仕草だった。
私は、あの日、自分が、名前も知らない美しい妖精の様な少女に抱いたのが、憧れに縁取られた酸っぱい恋心だったのだと思いしった。
初恋 ー だった、と。
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