忘れた

凛ちゃん

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母の、母。

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母の、母。私にとって祖母である人は、母が2歳の時、母を置いて実家に帰ったそうだ。
もともと、自由奔放な、勝手気儘で、甘やかされ末っ子で育った祖母は、楽しい事の好きな、考える事の嫌いな、甘ったれたお嬢さん。
祖父とは見合い結婚で、大学を卒業してすぐ、嫁いで来た。
家庭科の教員免許を持っていたそうだが、料理は全く出来ず、食器を洗わせれば、割り続ける粗雑さで、曾祖母には、台所から追い出されたと言う。
そもそも、お手伝いさんや、ばあややねえやがついて回って世話をやいてくれるのだから、必要すら感じてはいなかったろう。
そうして、嫁ぎ先のS家が、何故、多くの奉公人を抱えながら、台所に立たねばならないのかを、理解してはいなかったようだ。否、理解する気が皆無だったのだと思われる。
S家の台所は、母屋のもので、16畳ある。土間で8畳。それに、味噌や、赤飯、餅などを拵える焚き物部屋が隣りの棟に6畳を四間に、2階にも同じ間取りであった。
結婚式、法事などの膳も100膳程なら出入りの料亭から板前さんたちを呼んで常に饗される。
女主人は、その際、50人からの手伝いの人たちを束、献立を決め、味を吟味し、采配する。
そんなことが、当たり前によく、あるのだ。
祖母が生まれ育った家も、それなりに旧家だ。我が家に嫁ぐ程度には。
しかしながら、祖母は、そうありたいとも、そうしなければならないとも思う事のない、典型的な戦後生まれのブルジョワジーのお嬢様だった。
故に、小学校から、私学の女子校で大学迄終えた祖母は、綺麗なものと、楽しい事にしか興味のない享楽的な現代っ子だったのだろう。
お稽古のない日は、大学の帰りにパーラーでお茶をしたり、映画を観たり、と、キラキラした青春時代だった事が、古いアルバムからすら伺えるほどだ。
こんな、祖母に誰が、何を説けると言うのか。
母は、死ぬ日迄、この祖母に苦しめられ、解放される日を夢見ていた。
そんな、強烈な個性のひと。
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