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第二章 第一話

おお!忙しい!!!ー 執事 ー

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 私の名前はケント。27歳。アルラオネ公爵家にお世話になって、早、12年になる。15歳で執事見習いとしてこちらに就職してからだ。
私に親はいない。15歳になったばかりの秋、騎士をしていた父が派遣先で流行り病で亡くなった。母は、その前の年、やはり流行り病であっけなく他界していた。父は、騎士だったから、準男爵位だった。私を後見してくれる誰もありはしなかった。王立アカデミーも、後3年もあれば、止めざるを得ない。そう、思って退学届を持って校長室の前に立った。ノックをすると、校長先生の
「入りなさい」と言う声がして、入室すると、ソファには、アカデミーの理事長でもあり、スポンサーでもあるアルラオネ公爵様がいらした。
私は慌てて、失礼をお詫びし、退室しょうとした。すると、校長先生が、
「どうしたのだね?」とお問いになった。
「あの、、、又、後にします。」と答え、お辞儀をすると、
「私は、構わないが、、、私がいては不都合かな?」と、公爵様が穏やかにおっしゃった。
「いえ、、、お気遣いありがとうございます。実は、父が、亡くなり、アカデミーに通い続ける事が難しくなり、退学届を持って参りました。」私はそう言っておずおずと退学届を両手で差し出した。
校長先生が、困惑顔で
「君は優秀なのに、、、もう少し頑張れないかね?何とか続けられるように手立てを考えようじゃないか。」と、言って下さった。
「有難うございます。しかし、私には、父以外身内もなく、住まいは、騎士団のもので、父が亡くなった以上出て行かねばならぬのです、、、」そう、俯いたままでお伝えすると、
「君は、何年生かな?」唐突に、公爵様がお問いになったので、
「ハイクラスの一年生です。」そうお答えした。
「君は、将来騎士になるつもりかな?ああ、すまないね、掛け給え。」公爵様は、ご自分の向かいの椅子を勧めてくださったが、校長先生の顔を見ると頷かれたので、
「失礼します」と言って示めされた椅子に掛けた。そして、
「私は、あまり運動が得意ではなく、かと言って官吏になる希望もないのです。」正直にそう答えると、公爵様は、真面目な表情で、
「うちへ、来る気はあるかな?」驚いて、不躾にも公爵様を見つめてしまった。すると、笑顔を深くされ、
「ああ、驚かせてすまないね。私の家には、家令が1人。執事が、4人いる。皆、代々我が家に仕えてくれていて、家令は子爵位だが、4人の執事は男爵位なのだがね。その執事の1人が高齢でね。少しずつ、仕事を減らしてやりたいと思っているのだが、手伝ってみるかね?」そう仰ると私の顔を見つめられた。わたしは、驚いて、返答出来ずにじっと公爵様を見つめてしまった。不躾な態度をお怒りになるどころか、
「皆、屋敷内にそれぞれ家を持たせているので通いだが、執事については交代で夜もいて貰う日もあってね。屋敷内に、部屋も用意してあるから、。まあ、住まいについては、部屋を用意しておくので心配いらない。幾つか、私からの要望があってね。執事も家令も、皆こちらでお世話になっている。故に、一つ目は昼間は今まで通り、こちらに通い、卒業する事。二つ目は、成績はトップでなければ困るよ。」と、にっこりされた。そして、
「勤務時間等細かな事は、直接家令や執事に説明して貰う方がいいだろう。そうして3つ目は、卒業迄見習いをやってみて、適性がなかったり、君の希望と違っていて他の仕事がしたかった場合は、この契約は解除にしよう。どうかね?」
「それでは、私にばかり有益ではありませんか?」
「君が、3年懸命に勉学に励み、仕事も蔑ろにせず、誠実に努めてくれるなら、ギブアンドテイクではないかね?」
私は、そのご厚意に、翌日、職場見学に伺って、その日のうちに引越しをした。
家令のギルヴァートさんが、住んでいた家や、父の葬儀迄全て手配や手続きをして下さった。
突然、たった1人の家族を亡くした私を皆んな温かく、優しく迎えて下さった。私は、屋敷内に一部屋与えて頂き、アカデミーにも通わせて頂いた。それも、通学が不便でないように、朝は、買い付けの馬車で送って貰い、帰りは後で知った事だが、態々、迎えの馬車を出して下さっていたのだった。
温かな食事。清潔で日当たりの良い1人部屋。毎日綺麗に洗濯されたものを身につけさせて貰い、学費も出して頂き、その上、手当だと、1番若い台所の女中をしている18歳のアミさんの手当が20ルピアだそうだが、何と私は、3ルピアも毎月頂いていた。アミさんは、他所の貴族家で13歳から洗濯をしていたそうだが、2ルピアしか朝から晩まで働いて貰えなかったと言っていた。
公爵様のお屋敷は、公爵様は勿論、奥様もお嬢様もお優しくて、温かだから、働いている皆んなに良くしてくださるから、皆んな優しくて暖かい。仕事が捗り楽になる様に、何時も考えて改善して下さるから、楽しくて、身体も楽な上に、給料は、他所の3倍だと言っていた。
皆、感謝しているから、一生懸命誠実に働いている。アミさんが、23歳で親の決めた相手にお嫁に行く時、嫁ぎ先が遠く、辞める事になったのだが、辞めたくないから、結婚を止めると言って泣いてしまった。公爵様は、立派な箪笥と花嫁衣装とそれを引く牛をお祝いになさった。アミさんの抜けた募集には、150人も応募があったそうだ。アミさんは、今でも手紙を寄越す。
公爵家で侍女や女中をすると箔がつくので、下位あるいは中位貴族の娘の希望者が後を絶たない。しかし、我がアルラオネ公爵家は、家令や執事のみならず代々、仕えるのが慣習で、家族でお仕えしている。
それは、主御一家のお人柄と、深く厚い信頼関係の賜物に他ならない。
家令や執事が貴族籍にあるのは、公爵様のご先祖様から賜ったそうです。家令のギルヴァート様のお宅はもう、10代も公爵家に仕えているそうで、子爵位を賜ったのは、2代目の方が、公爵夫人を身を挺して暴漢から護って左腕を無くし、それでも必死でお仕えしたからだそうです。執事の方々のお家にも、爵位を賜った際のエピソードが、家宝となったその時の褒美と共に代々受け継がれているそうです。
本来、爵位は、このフィル王国では王様より賜るのですが、公爵家は家臣に対して爵位を授けられるのですが、その場合は、授け親として臣下の縁を結びます。ただ、下賜されて3代が経過した後はその縁に縛られる事はありませんが、臣下の縁が深い場合は、当家の例に倣うようです。

あ、いけませんね。
今日は、大切なお嬢様の、誕生日夜会です。
私が、初めてこちらに伺った15歳のあの日、緊張に我を失っていた私に最初に声を掛けて下さったのは、僅か3歳のお嬢様でした。
玄関前の、馬車アプローチで馬車を降りた私に、
「おいで~」と、いっぱいの笑顔で、両手を広げて声を掛けて下さったのです。ギルヴァート様に、
「お嬢様のリリア様です。3歳になられます。お呼びですから、行って下さい。」と言われお側に上がりました。
天使の様にお可愛いのですが、それ以上に、屈んだ私の手を、小さなお手で握りしめ、
「だいじよぶうよ。」と、まるで、何でもご存知の様に、笑って下さったのです。
その日から、私にとってリリア様は、公爵様に、いえそれ以上に、大切な存在となったのです。
それから、13年。
長い様な、瞬く間に過ぎ去った様な、幸せな時間でした。
私は、両親を早くに失い、家を失い、家族もなく、路頭に迷った筈でした。だのに、公爵様の下さった運命は、何と幸い多いものだったでしょう!
私は、この先も、死ぬ迄この、アルラオネ公爵家で執事として、全身全霊でお仕えするつもりです。

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