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年越し!パニック!
断崖絶壁のイレギュラー②
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■■■
肉じゃがって、ベタ過ぎたかな?
朱美は苦笑いを堪えながら、じゃがいもの皮向きに勤しんでいた。
吉岡が 今晩 再び 家を訪ねてくる。
しかも仕事は抜きの完全なプライベートでやってくるのだから、それなりの準備は必要だ。別に余計な気遣いは無用だと言われそうだけど、こちらとしては手ぶらで招き入れるわけにもいかない。肉じゃがは色気がない料理かもしれないけど、お正月になったらご馳走を食べるだろうし、まあ問題はないだろう。
吉岡が来るのを心待ちにしているなんて、未だに自分でも信じられない。玄関の呼び鈴に反応して 朱美がドアに駆け寄ると、そこにはいつもと変わらぬ吉岡の姿があった。
「吉岡、思ったよりも早かったね 」
「ええ。こんな日はなかなかありませんから、頑張って仕事を片付けました。
あっ、この匂い? 今晩はもしかして肉じゃがですか? 手作りの煮物を食べるなんて、めちゃくちゃ久し振りかも 」
「そっか。それなら良かった。お正月は贅沢なものを沢山食べるから、胃に優しそうな煮物にしてみたの。
あの、もし良かったら先にお風呂に入っちゃって。もう少し煮込んだ方が、ジャガイモが染み染みになると思うんだ 」
「えっ? 」
「あっ、言っておくけど、お風呂は変な意味じゃないからねっ。誘ってるわけではないし、もちろん吉岡が汚いってことでもないからっ。たまには湯船に浸かって、リラックスってことで 」
「はあ? それはそれは、丁寧な心遣いをありがとうございます。明日は雪でも降りそうですね 」
「なっ、失礼な 」
朱美はムッと顔を寄せると、早く早くと言わんばかりに吉岡を風呂場へと押し込める。本当に他意などありはしなかったのに、改めて指摘されると恥ずかしさが湧いていた。
「あの、朱美先生 」
「何よ、クレームならお断りだから 」
「いや。そうでなくて…… スマホ、鳴ってません? 」
「えっ、あっ、ほんとだ 」
朱美は慌ててポケットからスマホを取り出すと、ディスプレイを確認する。表示された名前は、そろそろ連絡を取ろうとしていた母からのものだった。
「あの、もしもし? お母さん。 」
『あら、朱美? もしかして いま忙しかった? 』
「いや…… むしろ締め切り開けて、束の間の休日中。着信に気が付かなかっただけだから、ごめんね 」
「…… 」
吉岡は通話の相手を察したのか、静かにバスルームのドアを閉じる。朱美はそんな吉岡に軽く手を上げて見送ると、母との話を続けた。
「ちょうど良かった。私もちょうどお母さんに連絡しようと思ってたの。お正月も近いし 」
『そう。まあ、それは奇遇ね。ちょうど私も年始の件で朱美に電話したのよ。
ところで、明日くらいに朱美の家に旅行の日程表が届くから。何かあったら宜しくね 』
「はい? 旅行の日程表って、何の話? 」
『何の話って、決まってるでしょ? 年末年始のことよ。私たち、今年はハワイに旅行に行くから 』
「え゛え゛えっッッ!? お母さんたち、お正月にハワイに行くのっッ!? 」
朱美は思わず声を上げると、慌てて そのトーンを落とす。
マズい……
もしかして吉岡に聞こえちゃったかな?
でもシャワーの音がするから、大丈夫そう?
朱美は心臓をバクバク鳴らしながら、一度 深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
どうしよう…… 予想外のハプニングだ。
実家一同が正月に家にいないだなんて、考えてもみなかった。ハワイで年越しなんて、羨ましい以外の感情が浮かばないではないかっッ。
『前に朱美がお父さんの還暦祝いにって、旅行券をくれたでしょ?
ちょうど今年はお父さんもお母さんも お正月に長く休めたものだから。
あんたは毎年締め切りがーとか、仕事がーとか言って、全然帰ってこないじゃない?
だからお父さんと相談して、成美と三人でのんびり過ごそうと思って 』
「ななな…… 」
『どうせ朱美は行けないだろうし、可哀想だから敢えて声を掛けなかったのよ 』
「あはは。まあ、それは そうだよね…… 」
ちょっと、待てよ。
ということは、お正月は私は一人ってこと!?
それって、けっこう精神的なダメージがあるかもっッッッッ。
『ん? 朱美? どうかした? 』
「いや、うん。何でもない。それでハワイはどこに行くの? 」
『ああ、オアフ島に行くのよ。ハワイ島に足を伸ばしても良かったんだけど、せっかくだから移動はしないでゆっくり過ごそうかと思って 』
「そっか 」
仕事が切羽詰まっていれば、そんなことを考える余裕もないのだけれど、今年に限っては微妙に時間があるのが もどかしい。でもこんなにギリギリでは追加参戦はできないし、そもそも長期で離脱したら原稿が間に合わなくなるから、仕方のない話だ。
吉岡は……
今年は実家に帰れそうだと言っていたから、この状況は伝えるわけにもいかない。だけどさすがに、お正月を一人で過ごすのは、寂しいという気持ちが先行していた。
「………わかった。私は仕事で長期は留守に出来ないから、みんなでハワイを楽しんできて。あっ、お土産にマカデミアナッツはマストで宜しくね 」
『ええ。マカデミアナッツでも、パンケーキの粉でも、何でも買ってくるから期待してて。じゃあ、朱美も身体には気を付けて頑張るのよ 』
「うん。日程表が届いたら、また連絡する 」
朱美は溜め息を飲み込みながら電話を切ると、
ガクリと頭を下げた。一言、声を掛けてくれてもくれてもいいのに、こればかりは仕方がない。実家にはロクに帰ってないし、一年中 原稿に追われている日頃の行いを考えれば、お呼びが掛からないのは当たり前だ。
朱美は一人で複雑な気分に陥っていたが、悩んでいても仕方ない。
こうなったら…… 誤魔化すしかない。
お正月にアローンだなんてバレてしまったら、吉岡が何を言い出すかが読めないからだ。
女は何時でも芝居が打てると聞いたことがある。今は自分の奥底に眠るであろう女優魂を信じるしかなかった。
◆◆◆
「んっ!? この、美味しいですね 」
「そう? それなら良かった…… 」
朱美は作り笑顔をひきつらせながらも、平静を装っていた。大声を上げてしまった手前 焦ってしまったが、吉岡には一連のハワイ云々に関しては、バレてはいないようだった。
「朱美先生。この肉じゃが、豚肉が柔らかいですね 」
「うん。ふるさと納税で貰ったお肉なの。本当は肉じゃがには勿体ないブランド豚なんだけど、いつまでも冷蔵庫にあっても仕方ないし 」
「へー、そうなんですね。ふるさと納税って、悩むけど返礼品を探すのは面白いですよね。
僕も地元から毎年 米を貰ってますよ。でも半分くらいは巴さんにあげちゃいますけどね 」
「ぶっッッッ 」
「あの、朱美先生? あの、何か僕が変なことを言いました?」
「えっ? いや、何でもない 」
「そうですか? あっ、三国の土産は何がいいですか? どうせ金沢で乗り換えするから、そっち方面のものでもいいですけど 」
「えっ? あっ、頂けるなら何でも嬉しいよ…… うん 」
「……んん? 今日はやけにさっぱりな物言いですね。いつもは明太子だの、もみじ饅頭だの、お土産に関しては 前のめりにリクエストしてくるのに 」
「それは、その…… 今回は大丈夫。実家を堪能して貰って、お土産話が聞ければ私はそれで満足だから。
あっ、そうそう。こっちの浅漬けも食べて食べて。けっこう上手に出来た気がするから 」
「はあ…… 」
朱美は作り笑顔を浮かべながら、吉岡の前に小鉢を集結させていた。
まったく。地元だの三国だの、帰省を意識してしまうワードが多すぎるっッ。朱美は気を取り直して肉じゃがを頬張ってみたが、ここまでくると何だか味が良くわからなくなっていた。
「ところで…… 朱美先生は、年始はいつ頃こちらに帰って来ますか? 」
「えええっ? ねねね年始って、お正月のこと? 」
「ええ。スケジュールを把握しておかないと、もしものときに対応が出来なくなっても困るので 」
「あっ、うん。そうね…… 」
もしもって、一体どんなシチュエーションなんだと思うけど、今は細かい理屈は考えている場合ではない。朱美は少しだけ「うーん」と考え込むと、慎重にこう答えた。
「そうね…… 今年は年末にちょろっと帰って、元旦には戻るつもり 」
「元旦? 随分と短い帰省ですね? 」
「あっ、うん。一回連載は飛ぶけど、ネームはやらなきゃいけないし 」
「何だか、いつになく仕事に熱心ですね? 」
「なにそれ? たまには私だって真面目にやるよ 」
「そうですか…… 」
吉岡は訝しげな顔をして朱美を覗き込むと、つんと額を指で突く。朱美は思わずゴクリと唾を飲み込んだが、無表情を決め込むしかなかった。
「急に、何? 私の顔にゴミでも付いてた? 」
「いいえ 」
「じゃあ、何でこんなことをするの? 」
「……それは、聞こえたからです 」
「聞こえたって、何のこと? 」
「ハワイのことです 」
「えっ? 」
「あんなデカイ声で騒いだら、風呂場にいても聞こえますよ。で、朱美先生はお正月はどうするんですか? ご家族は年越しは南国にいるんでしょ? 」
「どうするのって…… 言われても 」
朱美は一瞬 黙りしたが、ここはしらばっくれる以外の選択肢はありはしなかった。
「お正月は家で仕事をする。よくよく考えたら掃除も全然してないし、やらなきゃいけないことは沢山あるから 」
「つまり、朱美は年末年始は一人で過ごすってこと? 」
「……うん 」
「何で、すぐに僕に言わなかったんです? 」
「それは…… そう言われると思ったから。だって吉岡が知ったら、何かをどうかしちゃいそうじゃない? 」
「まあ、確かに 」
「あのね、毎年毎年 吉岡を拘束して、なかなか帰省できなくしているのは私のせいだから。
それに久し振りに実家に帰るって言ってたし、私が家族水入らずな休暇に水を差すのはどうかと思って 」
「……別に帰省っていったって、そんなたいそうな話ではないですよ? 」
「でも 」
「…… 」
吉岡は朱美の言葉の数々に、顔をしかめている。でも次の瞬間、目をパッと見開くと ポンと一回 手を叩いた。
「あの、もし朱美先生が良ければの話ですけど 」
「……なに? 」
「唐突ですけど、正月は三国に行きませんか? 」
「三国? 」
「はい、三国。俺の実家です 」
「実家? 」
正月、三国、実家?
正月、三国、実家?
正月、三国、実家?って…… 何だっけ?
って、実家っッッーーー!?
「え゛っッ!? 三国? みみみくに? 三国って 」
「なっ…… そんなに驚きます? 」
「驚くでしょ? 逆にこんなことを言われて、驚かない女子がいるっッ? 」
朱美はアワアワしながら箸をテーブルに置くと、顔を真っ赤にして額に手を寄せていた。
「三国って寒いところだけど、カニは旨いし、温泉もいいし、冬場もしっかり楽しめるんですよ。だから 帰省と言っても ちょっとした旅行気分にもなるかもしれません 」
「はあ…… 」
朱美は急展開・急降下・急加速の連発に、思わず息を飲んでいた。でも吉岡は そんな朱美の反応は織り込み済みなのか、あまり表情を変えないで淡々と 話を続けた。
「朱美先生は ハワイの件を俺が知ったら、帰省を止めてしまいそうだと思って、気にしてくれてたんですよね? 」
「それは…… 」
「大丈夫。この期に及んで、朱美の印象が悪くなるような行動はしませんよ。親には今年は帰るって言ってしまったんで、キャンセルはしません 」
「うん。それは何となくは 分かったけど 」
「もちろん、僕たちは まだ交際中の間柄だし、うちに泊まるってのは抵抗があるかもしれないんで、何なら知人の宿に捩じ込んでもらいます。僕の家は正月は客が沢山くるんで、水入らずって感じではないんで、落ち着かないかもしれないですけど。
それに俺が朱美先生の家族に挨拶してないのに、実家に連れていくのも変な話だから、その方がいい。翌年は朱美先生のご自宅に僕が行けばいいし、ちょっと世話しないけど、これが一番いいとは思いませんか? 」
「…… 」
吉岡の提案は、まるで予め用意されていたかのように淀みがなかった。
もしかして、お風呂の中で色々考えてくれたのかな? まさかね。でも話の流れがスムーズ過ぎる。朱美は思わず下を向くと、肩を震わせるのを必死に堪えていた。
「…… 」
「えっ? ちょっ、朱美? 」
「……何で、私なの? 」
「はい? 」
「だって、私が突然ご実家にお邪魔したら、親御さんが吃驚しない? 私はだらしないし、迷惑ばっかりかけてるし、吉岡を拘束してる面倒な漫画家だよ? 」
「えっ? それはまあ、恋人を連れてきたら、家族は多少は驚くかもしれないけど。
朱美先生がだらしないのは僕は否定はしないけど、その辺りはバレなきゃいいんですよ 」
「何それ。それじゃあ、絶対にボロが出ちゃう 」
「でも、絶対にうちの親は朱美先生のことを喜んでくれると思います 」
「なっ…… 」
朱美は思わず言葉に詰まると、吉岡の様子を伺った。
いつもガミガミと怒ってばかりなのに、今の吉岡ときたら異様に穏やかな表情をしている。
改めて考えても変な感じがする。最初は口煩くて、面倒な人だなと思っていたのに、どんどん距離が近くなってしまった。真顔で しかもお互いにパジャマ姿で、こんなことを言われる日が来るなんて、思ってもみなかったのだ。
「喜んでくれるって…… その根拠はあるの? 」
「ありますけど、理由は秘密です 」
「…… 」
それって「答えになってないよね?」 と朱美は突っ込みそうになったが、その言葉はグッと堪える。
展開が早すぎて、頭の整理が追い付かない。
でもこんな話を断るほど、自分の思考はバカではない。
なんだ……
今さら気づいたけど、私はけっこう本気だったんだ。
私は これから先も吉岡がいないと駄目だろうし、吉岡もそれでいいなら、迷う必要なんてないじゃない。
ちょっとだけ心配、ちょっとだけ不安。自信だってちっともないけど、何だか妙に安心してしまったのは何故だろう。
好きなんだな…… 多分。
絶対に吉岡には言わないけど。
というわけで、朱美の今年の年越しは吉岡の実家にお邪魔することになった。
肉じゃがって、ベタ過ぎたかな?
朱美は苦笑いを堪えながら、じゃがいもの皮向きに勤しんでいた。
吉岡が 今晩 再び 家を訪ねてくる。
しかも仕事は抜きの完全なプライベートでやってくるのだから、それなりの準備は必要だ。別に余計な気遣いは無用だと言われそうだけど、こちらとしては手ぶらで招き入れるわけにもいかない。肉じゃがは色気がない料理かもしれないけど、お正月になったらご馳走を食べるだろうし、まあ問題はないだろう。
吉岡が来るのを心待ちにしているなんて、未だに自分でも信じられない。玄関の呼び鈴に反応して 朱美がドアに駆け寄ると、そこにはいつもと変わらぬ吉岡の姿があった。
「吉岡、思ったよりも早かったね 」
「ええ。こんな日はなかなかありませんから、頑張って仕事を片付けました。
あっ、この匂い? 今晩はもしかして肉じゃがですか? 手作りの煮物を食べるなんて、めちゃくちゃ久し振りかも 」
「そっか。それなら良かった。お正月は贅沢なものを沢山食べるから、胃に優しそうな煮物にしてみたの。
あの、もし良かったら先にお風呂に入っちゃって。もう少し煮込んだ方が、ジャガイモが染み染みになると思うんだ 」
「えっ? 」
「あっ、言っておくけど、お風呂は変な意味じゃないからねっ。誘ってるわけではないし、もちろん吉岡が汚いってことでもないからっ。たまには湯船に浸かって、リラックスってことで 」
「はあ? それはそれは、丁寧な心遣いをありがとうございます。明日は雪でも降りそうですね 」
「なっ、失礼な 」
朱美はムッと顔を寄せると、早く早くと言わんばかりに吉岡を風呂場へと押し込める。本当に他意などありはしなかったのに、改めて指摘されると恥ずかしさが湧いていた。
「あの、朱美先生 」
「何よ、クレームならお断りだから 」
「いや。そうでなくて…… スマホ、鳴ってません? 」
「えっ、あっ、ほんとだ 」
朱美は慌ててポケットからスマホを取り出すと、ディスプレイを確認する。表示された名前は、そろそろ連絡を取ろうとしていた母からのものだった。
「あの、もしもし? お母さん。 」
『あら、朱美? もしかして いま忙しかった? 』
「いや…… むしろ締め切り開けて、束の間の休日中。着信に気が付かなかっただけだから、ごめんね 」
「…… 」
吉岡は通話の相手を察したのか、静かにバスルームのドアを閉じる。朱美はそんな吉岡に軽く手を上げて見送ると、母との話を続けた。
「ちょうど良かった。私もちょうどお母さんに連絡しようと思ってたの。お正月も近いし 」
『そう。まあ、それは奇遇ね。ちょうど私も年始の件で朱美に電話したのよ。
ところで、明日くらいに朱美の家に旅行の日程表が届くから。何かあったら宜しくね 』
「はい? 旅行の日程表って、何の話? 」
『何の話って、決まってるでしょ? 年末年始のことよ。私たち、今年はハワイに旅行に行くから 』
「え゛え゛えっッッ!? お母さんたち、お正月にハワイに行くのっッ!? 」
朱美は思わず声を上げると、慌てて そのトーンを落とす。
マズい……
もしかして吉岡に聞こえちゃったかな?
でもシャワーの音がするから、大丈夫そう?
朱美は心臓をバクバク鳴らしながら、一度 深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
どうしよう…… 予想外のハプニングだ。
実家一同が正月に家にいないだなんて、考えてもみなかった。ハワイで年越しなんて、羨ましい以外の感情が浮かばないではないかっッ。
『前に朱美がお父さんの還暦祝いにって、旅行券をくれたでしょ?
ちょうど今年はお父さんもお母さんも お正月に長く休めたものだから。
あんたは毎年締め切りがーとか、仕事がーとか言って、全然帰ってこないじゃない?
だからお父さんと相談して、成美と三人でのんびり過ごそうと思って 』
「ななな…… 」
『どうせ朱美は行けないだろうし、可哀想だから敢えて声を掛けなかったのよ 』
「あはは。まあ、それは そうだよね…… 」
ちょっと、待てよ。
ということは、お正月は私は一人ってこと!?
それって、けっこう精神的なダメージがあるかもっッッッッ。
『ん? 朱美? どうかした? 』
「いや、うん。何でもない。それでハワイはどこに行くの? 」
『ああ、オアフ島に行くのよ。ハワイ島に足を伸ばしても良かったんだけど、せっかくだから移動はしないでゆっくり過ごそうかと思って 』
「そっか 」
仕事が切羽詰まっていれば、そんなことを考える余裕もないのだけれど、今年に限っては微妙に時間があるのが もどかしい。でもこんなにギリギリでは追加参戦はできないし、そもそも長期で離脱したら原稿が間に合わなくなるから、仕方のない話だ。
吉岡は……
今年は実家に帰れそうだと言っていたから、この状況は伝えるわけにもいかない。だけどさすがに、お正月を一人で過ごすのは、寂しいという気持ちが先行していた。
「………わかった。私は仕事で長期は留守に出来ないから、みんなでハワイを楽しんできて。あっ、お土産にマカデミアナッツはマストで宜しくね 」
『ええ。マカデミアナッツでも、パンケーキの粉でも、何でも買ってくるから期待してて。じゃあ、朱美も身体には気を付けて頑張るのよ 』
「うん。日程表が届いたら、また連絡する 」
朱美は溜め息を飲み込みながら電話を切ると、
ガクリと頭を下げた。一言、声を掛けてくれてもくれてもいいのに、こればかりは仕方がない。実家にはロクに帰ってないし、一年中 原稿に追われている日頃の行いを考えれば、お呼びが掛からないのは当たり前だ。
朱美は一人で複雑な気分に陥っていたが、悩んでいても仕方ない。
こうなったら…… 誤魔化すしかない。
お正月にアローンだなんてバレてしまったら、吉岡が何を言い出すかが読めないからだ。
女は何時でも芝居が打てると聞いたことがある。今は自分の奥底に眠るであろう女優魂を信じるしかなかった。
◆◆◆
「んっ!? この、美味しいですね 」
「そう? それなら良かった…… 」
朱美は作り笑顔をひきつらせながらも、平静を装っていた。大声を上げてしまった手前 焦ってしまったが、吉岡には一連のハワイ云々に関しては、バレてはいないようだった。
「朱美先生。この肉じゃが、豚肉が柔らかいですね 」
「うん。ふるさと納税で貰ったお肉なの。本当は肉じゃがには勿体ないブランド豚なんだけど、いつまでも冷蔵庫にあっても仕方ないし 」
「へー、そうなんですね。ふるさと納税って、悩むけど返礼品を探すのは面白いですよね。
僕も地元から毎年 米を貰ってますよ。でも半分くらいは巴さんにあげちゃいますけどね 」
「ぶっッッッ 」
「あの、朱美先生? あの、何か僕が変なことを言いました?」
「えっ? いや、何でもない 」
「そうですか? あっ、三国の土産は何がいいですか? どうせ金沢で乗り換えするから、そっち方面のものでもいいですけど 」
「えっ? あっ、頂けるなら何でも嬉しいよ…… うん 」
「……んん? 今日はやけにさっぱりな物言いですね。いつもは明太子だの、もみじ饅頭だの、お土産に関しては 前のめりにリクエストしてくるのに 」
「それは、その…… 今回は大丈夫。実家を堪能して貰って、お土産話が聞ければ私はそれで満足だから。
あっ、そうそう。こっちの浅漬けも食べて食べて。けっこう上手に出来た気がするから 」
「はあ…… 」
朱美は作り笑顔を浮かべながら、吉岡の前に小鉢を集結させていた。
まったく。地元だの三国だの、帰省を意識してしまうワードが多すぎるっッ。朱美は気を取り直して肉じゃがを頬張ってみたが、ここまでくると何だか味が良くわからなくなっていた。
「ところで…… 朱美先生は、年始はいつ頃こちらに帰って来ますか? 」
「えええっ? ねねね年始って、お正月のこと? 」
「ええ。スケジュールを把握しておかないと、もしものときに対応が出来なくなっても困るので 」
「あっ、うん。そうね…… 」
もしもって、一体どんなシチュエーションなんだと思うけど、今は細かい理屈は考えている場合ではない。朱美は少しだけ「うーん」と考え込むと、慎重にこう答えた。
「そうね…… 今年は年末にちょろっと帰って、元旦には戻るつもり 」
「元旦? 随分と短い帰省ですね? 」
「あっ、うん。一回連載は飛ぶけど、ネームはやらなきゃいけないし 」
「何だか、いつになく仕事に熱心ですね? 」
「なにそれ? たまには私だって真面目にやるよ 」
「そうですか…… 」
吉岡は訝しげな顔をして朱美を覗き込むと、つんと額を指で突く。朱美は思わずゴクリと唾を飲み込んだが、無表情を決め込むしかなかった。
「急に、何? 私の顔にゴミでも付いてた? 」
「いいえ 」
「じゃあ、何でこんなことをするの? 」
「……それは、聞こえたからです 」
「聞こえたって、何のこと? 」
「ハワイのことです 」
「えっ? 」
「あんなデカイ声で騒いだら、風呂場にいても聞こえますよ。で、朱美先生はお正月はどうするんですか? ご家族は年越しは南国にいるんでしょ? 」
「どうするのって…… 言われても 」
朱美は一瞬 黙りしたが、ここはしらばっくれる以外の選択肢はありはしなかった。
「お正月は家で仕事をする。よくよく考えたら掃除も全然してないし、やらなきゃいけないことは沢山あるから 」
「つまり、朱美は年末年始は一人で過ごすってこと? 」
「……うん 」
「何で、すぐに僕に言わなかったんです? 」
「それは…… そう言われると思ったから。だって吉岡が知ったら、何かをどうかしちゃいそうじゃない? 」
「まあ、確かに 」
「あのね、毎年毎年 吉岡を拘束して、なかなか帰省できなくしているのは私のせいだから。
それに久し振りに実家に帰るって言ってたし、私が家族水入らずな休暇に水を差すのはどうかと思って 」
「……別に帰省っていったって、そんなたいそうな話ではないですよ? 」
「でも 」
「…… 」
吉岡は朱美の言葉の数々に、顔をしかめている。でも次の瞬間、目をパッと見開くと ポンと一回 手を叩いた。
「あの、もし朱美先生が良ければの話ですけど 」
「……なに? 」
「唐突ですけど、正月は三国に行きませんか? 」
「三国? 」
「はい、三国。俺の実家です 」
「実家? 」
正月、三国、実家?
正月、三国、実家?
正月、三国、実家?って…… 何だっけ?
って、実家っッッーーー!?
「え゛っッ!? 三国? みみみくに? 三国って 」
「なっ…… そんなに驚きます? 」
「驚くでしょ? 逆にこんなことを言われて、驚かない女子がいるっッ? 」
朱美はアワアワしながら箸をテーブルに置くと、顔を真っ赤にして額に手を寄せていた。
「三国って寒いところだけど、カニは旨いし、温泉もいいし、冬場もしっかり楽しめるんですよ。だから 帰省と言っても ちょっとした旅行気分にもなるかもしれません 」
「はあ…… 」
朱美は急展開・急降下・急加速の連発に、思わず息を飲んでいた。でも吉岡は そんな朱美の反応は織り込み済みなのか、あまり表情を変えないで淡々と 話を続けた。
「朱美先生は ハワイの件を俺が知ったら、帰省を止めてしまいそうだと思って、気にしてくれてたんですよね? 」
「それは…… 」
「大丈夫。この期に及んで、朱美の印象が悪くなるような行動はしませんよ。親には今年は帰るって言ってしまったんで、キャンセルはしません 」
「うん。それは何となくは 分かったけど 」
「もちろん、僕たちは まだ交際中の間柄だし、うちに泊まるってのは抵抗があるかもしれないんで、何なら知人の宿に捩じ込んでもらいます。僕の家は正月は客が沢山くるんで、水入らずって感じではないんで、落ち着かないかもしれないですけど。
それに俺が朱美先生の家族に挨拶してないのに、実家に連れていくのも変な話だから、その方がいい。翌年は朱美先生のご自宅に僕が行けばいいし、ちょっと世話しないけど、これが一番いいとは思いませんか? 」
「…… 」
吉岡の提案は、まるで予め用意されていたかのように淀みがなかった。
もしかして、お風呂の中で色々考えてくれたのかな? まさかね。でも話の流れがスムーズ過ぎる。朱美は思わず下を向くと、肩を震わせるのを必死に堪えていた。
「…… 」
「えっ? ちょっ、朱美? 」
「……何で、私なの? 」
「はい? 」
「だって、私が突然ご実家にお邪魔したら、親御さんが吃驚しない? 私はだらしないし、迷惑ばっかりかけてるし、吉岡を拘束してる面倒な漫画家だよ? 」
「えっ? それはまあ、恋人を連れてきたら、家族は多少は驚くかもしれないけど。
朱美先生がだらしないのは僕は否定はしないけど、その辺りはバレなきゃいいんですよ 」
「何それ。それじゃあ、絶対にボロが出ちゃう 」
「でも、絶対にうちの親は朱美先生のことを喜んでくれると思います 」
「なっ…… 」
朱美は思わず言葉に詰まると、吉岡の様子を伺った。
いつもガミガミと怒ってばかりなのに、今の吉岡ときたら異様に穏やかな表情をしている。
改めて考えても変な感じがする。最初は口煩くて、面倒な人だなと思っていたのに、どんどん距離が近くなってしまった。真顔で しかもお互いにパジャマ姿で、こんなことを言われる日が来るなんて、思ってもみなかったのだ。
「喜んでくれるって…… その根拠はあるの? 」
「ありますけど、理由は秘密です 」
「…… 」
それって「答えになってないよね?」 と朱美は突っ込みそうになったが、その言葉はグッと堪える。
展開が早すぎて、頭の整理が追い付かない。
でもこんな話を断るほど、自分の思考はバカではない。
なんだ……
今さら気づいたけど、私はけっこう本気だったんだ。
私は これから先も吉岡がいないと駄目だろうし、吉岡もそれでいいなら、迷う必要なんてないじゃない。
ちょっとだけ心配、ちょっとだけ不安。自信だってちっともないけど、何だか妙に安心してしまったのは何故だろう。
好きなんだな…… 多分。
絶対に吉岡には言わないけど。
というわけで、朱美の今年の年越しは吉岡の実家にお邪魔することになった。
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以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
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クラスメイトの美少女と無人島に流された件
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「年越し!パニック!」の章 第三話まで読ませていただきました。
主人公 四名+他キャラクターたちの職業が多種多様であり、私が知らない情報がたくさん紹介されているため、大変興味深いです。
高城さんの得意分野(?)である「すれ違い(勘違い)」が、本作では存分に発揮されていると思います!
特にアケミ先生のそれが天然というのは本当に恐ろしい……(笑)
四人の事情がそれぞれ変化し、全員集合する機会が減ってしまいましたが、本作冒頭のようなワイワイとした朝飲みシーンを再び読んでみたいです!
続きも楽しみにしております😀
お読み頂き、感想までありがとうございます。
投稿が停止中にも関わらず、お声を掛けていただき嬉しいです。
この話は私の第一作で、自分が書ける職業の人たちで布陣を固めました(笑)
朱美は天然にするつもりではなかったのですが、気付いたらこのようになりました。私のすれ違い、勘違い、焦れったいの起源になったのは、間違いなく漫画家です(笑)
長い話をたくさんお読み頂き、ありがとうございました。感謝です。
また四人を集合させられるように、続きを書きたいと思います。嬉しい言葉をありがとうございました。
ツイートを今一度見たら何か詳しく書いた方が良さそうなので戻ってきました。
実は気づいた点がふたつありまして。しかしそれはいずれも些事。内容に関しては文句のつけどころがありません。理想的な第一話と言えます。
ひとつは幹線道路から吉岡が見えること。お部屋が一階だとしてもオートロックを越えておいて醜態が見えるのはもう少し説明がないと矛盾していると思えます。
もうひとつは最後の方、吉岡の独白と三人称が混ざっている点です。「どういうことかいっ」ですね。テクニックとして用いる場合もあるでしょうが、特に前後に言及がないので。
以上です。素敵な第一話だと思いました!
第一話からこの読者吸引力はさすがとしか言いようがありません。この作品は絶対に面白くしかならない確かな筆力を感じました。
ライト文芸奨励賞おめでとうございます㊗️
おれごん未来さん、
お読み頂き感想までありがとうございます。
この話の冒頭は数年前に執筆したのですが、時間をかけて書いた記憶があるので、そう言っていただけると嬉しいです。
この度は本当にありがとうございました。