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如何なるときも全力で!
泥棒野郎は僕ですが絶対に言いません
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師走……
それは一年で、何かと忙しい十二月の別名である。
元来、日本には古くから年末は僧侶が各家庭に呼ばれてお経を唱えるという習慣があって、毎日忙しく走りまわっているお坊さんの姿から師走という言葉ができたと言われている。
つまり師走は業界不問で 日本全体が多忙な一ヶ月間であって、それは夜型生活をしている彼女たちにおいても例外ではない。
というわけで、朱美も当然のように年末進行の波に飲み込まれていた。
◆◆◆
「神宮寺先生、お久し振りね 」
「あっ、田中先生! こちらこそ、ご無沙汰してます 」
「まあ、可愛らしいドレスね。よく似合ってるわ。まるで海蘊ちゃんのステージ衣装みたい 」
「あはは、そうですかね。たまたまと言うか、偶然と言うか、その…… 恥ずかしい限りで 」
朱美はほぼ強制参加で、S出版の漫画編集部が共同で主催する 忘年パーティーに出席していた。だいたい人混みが苦手、かつ社会にも揉まれたくなくて、在宅ワークの漫画家を志したようなものだ。こんな大量の人間が一同に介する場所になんて心底来たくはなかったのだが、都内に住んでいる身分が故に そうは簡単に問屋が卸さない。
「神宮寺先生、この度はアニメ化おめでとうね! 」
「あっ、ありがとうございます。実写映画も毎回大ヒットされてる田中先生に声をかけて頂けるなんて、とても嬉しいです 」
「いやーね、それってだいぶ昔の話よ。放送は来月からでしょ? PVも観たわよ。豊くん役の中野葵さんもハマってたわね 」
「ええ。とても有り難いことに、原作のイメージを大事にしてもらってて。アニメのスタッフさんには素敵に作ってもらって大感謝です 」
朱美は田中先生にニコリと笑みを浮かべると、その労いに素直な言葉を口にした。
今日は数年に一度の大寒波で足元が悪い中、朱美は吉岡によって半ば無理矢理パーティーに連行される羽目になっていた。
しかしながらこの空間には知り合いは殆どいないし、慣れないヒールで足も痛い。それに髪の毛は吉岡が勝手に予約した美容室でひっつめられていて、時おり無数のピンが頭皮をグイグイ刺激してくる。衣装だって吉岡が適当にネットで買ったワンピースだから、サイズがチグハグでウエスト周りは全くサイズが合ってない。そんなバッドコンディションが重なっている中での参戦ではあったが、やっぱり誰かに話しかけてもらえるのは単純に嬉しいものがあった。
「それじゃ神宮寺先生、また後程 」
「ええ、ではまた…… 」
田中先生って漫画界のレジェンドなのに、優しくて気取りのない良い人だよなー。
やっぱり大人の余裕というものだろうか……
朱美は田中先生との談笑を皮切りに、何とか手持ち無沙汰を脱出すると、社交辞令の挨拶周りを続けることにした。正直、立食パーティーだと食べ物や飲み物を口にするタイミングも良くわからない。でもまあ、普段では絶対会えないような、橋田かるみ先生並みのレジェンド級の先生も来てたりするし、その人たちと話ができるチャンスと捉えれば 少しはテンションは上がるかもしれない。
だいたい朱美を強制連行した吉岡は裏方役に徹しているから放置プレイが過ぎるし、こういう場所はやっぱり一人じゃ詰まらない。
あー、もう、長針が高速移動してさっさと会が終わってくれないかな……
朱美は最大限、本音が顔に出ないように取り繕うと、開き直りの境地で一人黙々と挨拶周りをこなすのだった。
◆◆◆
パーティーが開かれるということは、必然的に出席者と主催者が同じ空間を共有することになる。
吉岡は会場の隅で出席者に配るノベルティの紙袋を仕訳しながら、頻繁に立食スペースにいる参加者の様子を気にしていた。
「吉岡…… よしおか? 」
「…… 」
「オイコラ、吉岡っッ! 」
「えっ? あっ、すみません、編集長…… 何か? 」
「何、ぼーっとしてんだ。誰か探してたのか? 」
「いえ、そんなことはありません……けど…… 」さ
吉岡は反射でビクッとした身体を強引に抑え込むと、ゆっくりと後方を振り向いた。まさか神宮寺アケミ先生の挙動が気になって観察していた……とは、天変地異が起きても言ってはいけない禁句だと自分に念を押した。
「どうだ? 会場の雰囲気は? 」
「まずまずじゃないでしょうか。今年は過去最大数の先生方に列席して頂いてますし、こちらの想定以上に盛り上がっているかと 」
「そうだな。それに今年は……キャンディの三大看板娘がこぞって出席してくれたしな 」
「ええ、それだけで自分としてはほっとしてます。神宮寺先生は去年はインフルエンザで欠席でしたから 」
正直娘と表現していいのはギリギリ二十代の朱美だけかもしれないが、今年のパーティーには田中恵子を筆頭に隔週キャンディの売れっ子たちが揃って出席していた。
昨年の朱美はインフルエンザという禁じ手を解放して、断腸の思いで出席を見送っていた。(原稿がさっぱり出来ていなかった)
そのために朱美の参加は二年振り、そしてアニメのOAを間近に控えた売れっ子ということも相まってか、彼女の周りには何だかんだで沢山のギャラリーが集まってきていた。
「ところで、神宮寺先生…… 今日は一段と綺麗だな 」
し
「へっ……? 」
吉岡は編集長の突然の一言に、声が言葉にならないリアクションを返していた。
「いやー、前々から実力とビジュアルを兼ね備えているとは思っていたけど、今日はドレスアップしてるから特に美しいし何より華がある。元々プロポーションもいいし、パールグリーンのドレスがよく映えているな 」
「ええ……そうですね 」
「落ち着いて考えると、漫画家なんて裏方仕事をやってるなんてかなり勿体ないよな。そして何より本人がそれに全く気づいてないのが罪オブ罪だよ。やっぱアニメ化の件もあるし、神宮寺先生も最近は特に充実してんだろうなー 」
「…… 」
自分の部屋にワインをブチ撒けるくらいには、神宮寺先生は毎日手に余るくらいキレッキレですよ、と言ってやりたいところだったが、吉岡はそんなことは口に出さない。当然だ。
大体、編集長の大切な宝物に手を出したなんて知られた暁には、自分の命なんか幾つあっても足りない状態になるのは目に見えていた。
「恋してるよな…… 」
「ハイッ? 」
吉岡は思わず声をひっくり返して、編集長に素で返事をしていた。だけどそんな動揺にまみれた吉岡に編集長は気づくそぶりも見せずに、真顔のままこう話を続ける。
「神宮寺先生、美し過ぎるし可愛過ぎるだろ? オーラが半端ないよな。少なくとも今日のMVPであることは間違いない。もしかして……最近彼氏でも出来たのか? 」
「……さあ、どうなんでしょうね。自分もその辺りはわかりません 」
吉岡は言葉少なく最大限のスットボケをかますと、編集長をチラ見した。編集長は堂々と朱美を見つめていて、その眼差しは力強くもあり優しさにも満ちているように見えた。
「吉岡…… お前は神宮寺先生専属の編集者だろ? 」
「えっ? 」
「先生が変な男に引っ掛からないように、責任を持ってしっかり見張っとけよ。手に余るようなら予算は工面するから、最悪は奥の手を使ってもいい。神宮寺先生に限ってはあり得ないとは思うけど、万が一、まーんがいちっッ、クソみたいな男に熱を上げているようなら、お前の過去の叡知を駆使してブッ潰すんだ。法に触れなかったら何をしてもいい、俺が可能な範囲で責任は取る…… 」
「はあ…… 」
それって…… いつの時代の話だよ。
吉岡は編集長の激しい妄想に言葉を失いつつも、身体の底から震え上がっていた。合法な範囲内で、俺はいつか俺自身をブッ潰さなくてはならないのかと思うと身の毛がよだつ。
それに大体、いつから俺は朱美専か属の編集者になったんだ? 俺は有り難いことに、他にも何人も担当させてもらってるわいっッ。
名もなき漫画家の原石だった朱美を スカウトして手塩にかけて育ててきたのは編集長だと聞いてはいるが、ここまできたらタダの変態の領域だ。本当の親よりもよっぽど親バカではないか……
「吉岡はいつも近くにいるのに、神宮寺先生の変化には気づかないのか?」
「……特には、何も 」
「……お前は少し感情のセンサーがぶっ壊れてないか? つーか、今日の先生に対して何か感想を抱かないのか? 」
「うーん、そうですねぇ。馬子にも衣裳ってヤツですかね…… 」
「オイオイ、何だその言い草は。まるで神宮寺先生がお前のモノみたいな言い方だな 」
「いやッ、そのっ、全くそう言う意味では…… 」
吉岡は一瞬の気の緩みを慌てて否定すると、編集長に思わず苦笑いを向けていた。
可愛くないとか興味がないとか、朱美に対してそんなことは微塵も思ってない。むしろ彼女のことは出来ることなら他の誰にも晒したくないとさえ思っているし、逆にその美しさを皆に自慢したいという変な感情も同居している。
自分は今、毎日少しづつ他の誰も知らない彼女の一面に触れている。そして段々とその心を独占してしまいたいと思うくらいには、欲が生まれている自覚もある。
持ちつ持たれつから始まった関係だから、未だに何クソと思うこともあるし腹が立つこともある。だけどそれすら愛しいと感じてしまうくらいには、自分は彼女に心の底から夢中なのだ。自分の凍てついた心を少しづつ溶かしてくれる彼女には、感謝という二文字しか思い浮かばない。
編集長に朱美の引っ掛かかっているクソ野郎がもし自分だとバレようものなら、即刻クビになるだろう。
その既に解りきっていた事実に確信が得られたことだけが、吉岡が今日の忘年パーティーで唯一仕入れることが出来た最大級のパンドラの箱のような気がした。
師走……
それは一年で、何かと忙しい十二月の別名である。
元来、日本には古くから年末は僧侶が各家庭に呼ばれてお経を唱えるという習慣があって、毎日忙しく走りまわっているお坊さんの姿から師走という言葉ができたと言われている。
つまり師走は業界不問で 日本全体が多忙な一ヶ月間であって、それは夜型生活をしている彼女たちにおいても例外ではない。
というわけで、朱美も当然のように年末進行の波に飲み込まれていた。
◆◆◆
「神宮寺先生、お久し振りね 」
「あっ、田中先生! こちらこそ、ご無沙汰してます 」
「まあ、可愛らしいドレスね。よく似合ってるわ。まるで海蘊ちゃんのステージ衣装みたい 」
「あはは、そうですかね。たまたまと言うか、偶然と言うか、その…… 恥ずかしい限りで 」
朱美はほぼ強制参加で、S出版の漫画編集部が共同で主催する 忘年パーティーに出席していた。だいたい人混みが苦手、かつ社会にも揉まれたくなくて、在宅ワークの漫画家を志したようなものだ。こんな大量の人間が一同に介する場所になんて心底来たくはなかったのだが、都内に住んでいる身分が故に そうは簡単に問屋が卸さない。
「神宮寺先生、この度はアニメ化おめでとうね! 」
「あっ、ありがとうございます。実写映画も毎回大ヒットされてる田中先生に声をかけて頂けるなんて、とても嬉しいです 」
「いやーね、それってだいぶ昔の話よ。放送は来月からでしょ? PVも観たわよ。豊くん役の中野葵さんもハマってたわね 」
「ええ。とても有り難いことに、原作のイメージを大事にしてもらってて。アニメのスタッフさんには素敵に作ってもらって大感謝です 」
朱美は田中先生にニコリと笑みを浮かべると、その労いに素直な言葉を口にした。
今日は数年に一度の大寒波で足元が悪い中、朱美は吉岡によって半ば無理矢理パーティーに連行される羽目になっていた。
しかしながらこの空間には知り合いは殆どいないし、慣れないヒールで足も痛い。それに髪の毛は吉岡が勝手に予約した美容室でひっつめられていて、時おり無数のピンが頭皮をグイグイ刺激してくる。衣装だって吉岡が適当にネットで買ったワンピースだから、サイズがチグハグでウエスト周りは全くサイズが合ってない。そんなバッドコンディションが重なっている中での参戦ではあったが、やっぱり誰かに話しかけてもらえるのは単純に嬉しいものがあった。
「それじゃ神宮寺先生、また後程 」
「ええ、ではまた…… 」
田中先生って漫画界のレジェンドなのに、優しくて気取りのない良い人だよなー。
やっぱり大人の余裕というものだろうか……
朱美は田中先生との談笑を皮切りに、何とか手持ち無沙汰を脱出すると、社交辞令の挨拶周りを続けることにした。正直、立食パーティーだと食べ物や飲み物を口にするタイミングも良くわからない。でもまあ、普段では絶対会えないような、橋田かるみ先生並みのレジェンド級の先生も来てたりするし、その人たちと話ができるチャンスと捉えれば 少しはテンションは上がるかもしれない。
だいたい朱美を強制連行した吉岡は裏方役に徹しているから放置プレイが過ぎるし、こういう場所はやっぱり一人じゃ詰まらない。
あー、もう、長針が高速移動してさっさと会が終わってくれないかな……
朱美は最大限、本音が顔に出ないように取り繕うと、開き直りの境地で一人黙々と挨拶周りをこなすのだった。
◆◆◆
パーティーが開かれるということは、必然的に出席者と主催者が同じ空間を共有することになる。
吉岡は会場の隅で出席者に配るノベルティの紙袋を仕訳しながら、頻繁に立食スペースにいる参加者の様子を気にしていた。
「吉岡…… よしおか? 」
「…… 」
「オイコラ、吉岡っッ! 」
「えっ? あっ、すみません、編集長…… 何か? 」
「何、ぼーっとしてんだ。誰か探してたのか? 」
「いえ、そんなことはありません……けど…… 」さ
吉岡は反射でビクッとした身体を強引に抑え込むと、ゆっくりと後方を振り向いた。まさか神宮寺アケミ先生の挙動が気になって観察していた……とは、天変地異が起きても言ってはいけない禁句だと自分に念を押した。
「どうだ? 会場の雰囲気は? 」
「まずまずじゃないでしょうか。今年は過去最大数の先生方に列席して頂いてますし、こちらの想定以上に盛り上がっているかと 」
「そうだな。それに今年は……キャンディの三大看板娘がこぞって出席してくれたしな 」
「ええ、それだけで自分としてはほっとしてます。神宮寺先生は去年はインフルエンザで欠席でしたから 」
正直娘と表現していいのはギリギリ二十代の朱美だけかもしれないが、今年のパーティーには田中恵子を筆頭に隔週キャンディの売れっ子たちが揃って出席していた。
昨年の朱美はインフルエンザという禁じ手を解放して、断腸の思いで出席を見送っていた。(原稿がさっぱり出来ていなかった)
そのために朱美の参加は二年振り、そしてアニメのOAを間近に控えた売れっ子ということも相まってか、彼女の周りには何だかんだで沢山のギャラリーが集まってきていた。
「ところで、神宮寺先生…… 今日は一段と綺麗だな 」
し
「へっ……? 」
吉岡は編集長の突然の一言に、声が言葉にならないリアクションを返していた。
「いやー、前々から実力とビジュアルを兼ね備えているとは思っていたけど、今日はドレスアップしてるから特に美しいし何より華がある。元々プロポーションもいいし、パールグリーンのドレスがよく映えているな 」
「ええ……そうですね 」
「落ち着いて考えると、漫画家なんて裏方仕事をやってるなんてかなり勿体ないよな。そして何より本人がそれに全く気づいてないのが罪オブ罪だよ。やっぱアニメ化の件もあるし、神宮寺先生も最近は特に充実してんだろうなー 」
「…… 」
自分の部屋にワインをブチ撒けるくらいには、神宮寺先生は毎日手に余るくらいキレッキレですよ、と言ってやりたいところだったが、吉岡はそんなことは口に出さない。当然だ。
大体、編集長の大切な宝物に手を出したなんて知られた暁には、自分の命なんか幾つあっても足りない状態になるのは目に見えていた。
「恋してるよな…… 」
「ハイッ? 」
吉岡は思わず声をひっくり返して、編集長に素で返事をしていた。だけどそんな動揺にまみれた吉岡に編集長は気づくそぶりも見せずに、真顔のままこう話を続ける。
「神宮寺先生、美し過ぎるし可愛過ぎるだろ? オーラが半端ないよな。少なくとも今日のMVPであることは間違いない。もしかして……最近彼氏でも出来たのか? 」
「……さあ、どうなんでしょうね。自分もその辺りはわかりません 」
吉岡は言葉少なく最大限のスットボケをかますと、編集長をチラ見した。編集長は堂々と朱美を見つめていて、その眼差しは力強くもあり優しさにも満ちているように見えた。
「吉岡…… お前は神宮寺先生専属の編集者だろ? 」
「えっ? 」
「先生が変な男に引っ掛からないように、責任を持ってしっかり見張っとけよ。手に余るようなら予算は工面するから、最悪は奥の手を使ってもいい。神宮寺先生に限ってはあり得ないとは思うけど、万が一、まーんがいちっッ、クソみたいな男に熱を上げているようなら、お前の過去の叡知を駆使してブッ潰すんだ。法に触れなかったら何をしてもいい、俺が可能な範囲で責任は取る…… 」
「はあ…… 」
それって…… いつの時代の話だよ。
吉岡は編集長の激しい妄想に言葉を失いつつも、身体の底から震え上がっていた。合法な範囲内で、俺はいつか俺自身をブッ潰さなくてはならないのかと思うと身の毛がよだつ。
それに大体、いつから俺は朱美専か属の編集者になったんだ? 俺は有り難いことに、他にも何人も担当させてもらってるわいっッ。
名もなき漫画家の原石だった朱美を スカウトして手塩にかけて育ててきたのは編集長だと聞いてはいるが、ここまできたらタダの変態の領域だ。本当の親よりもよっぽど親バカではないか……
「吉岡はいつも近くにいるのに、神宮寺先生の変化には気づかないのか?」
「……特には、何も 」
「……お前は少し感情のセンサーがぶっ壊れてないか? つーか、今日の先生に対して何か感想を抱かないのか? 」
「うーん、そうですねぇ。馬子にも衣裳ってヤツですかね…… 」
「オイオイ、何だその言い草は。まるで神宮寺先生がお前のモノみたいな言い方だな 」
「いやッ、そのっ、全くそう言う意味では…… 」
吉岡は一瞬の気の緩みを慌てて否定すると、編集長に思わず苦笑いを向けていた。
可愛くないとか興味がないとか、朱美に対してそんなことは微塵も思ってない。むしろ彼女のことは出来ることなら他の誰にも晒したくないとさえ思っているし、逆にその美しさを皆に自慢したいという変な感情も同居している。
自分は今、毎日少しづつ他の誰も知らない彼女の一面に触れている。そして段々とその心を独占してしまいたいと思うくらいには、欲が生まれている自覚もある。
持ちつ持たれつから始まった関係だから、未だに何クソと思うこともあるし腹が立つこともある。だけどそれすら愛しいと感じてしまうくらいには、自分は彼女に心の底から夢中なのだ。自分の凍てついた心を少しづつ溶かしてくれる彼女には、感謝という二文字しか思い浮かばない。
編集長に朱美の引っ掛かかっているクソ野郎がもし自分だとバレようものなら、即刻クビになるだろう。
その既に解りきっていた事実に確信が得られたことだけが、吉岡が今日の忘年パーティーで唯一仕入れることが出来た最大級のパンドラの箱のような気がした。
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