ガールズ!ナイトデューティー

高城蓉理

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始まりの一歩

ご想像にお任せします

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■■■

10月某日 明け方
漫画家 神寺朱美宅にて
家主の朱美と編集者吉岡の会話



「…… 」

「吉岡。この体勢は どう……かな? 」

「うーん、僕は好きですけど。あの、朱美先生は? 」

「私は…… うーん、本当はこっちの方がいいんだけど。ここ、もうちょっと攻めてみてもいい? こんな……感じでっ…… 」

「あっッ、それもいいですね。じゃあ、この辺りは? 」

「えっッ? そっちは、そうだね。うん、私も好きかもしれない 」

「じゃあ、これでいきますか? 」

「うん、そうだね。私も、それがベストだと思う 」

「じゃあ、これでいきますよ? 」

「うん。私、その辺は吉岡に完全に委ねるから…… 」

「わかりました。あとで後悔しないでくださいね、朱美先生 」

「……もう ここまで やっちゃってるのに、何で今さらそんなことを言うの? 」

「一応、確認しておかないと。僕にも朱美先生を満足させなくてはならない責任がありますから 」

「なに……それ…… っていうか、だいたい、いま私がこんなに困ってるの吉岡のせいじゃんっ? もうっッ 」

「それって…… 僕のせいなんですか? 」

「だって、そうじゃんっッ 」

「僕はちゃんと 随時 朱美先生に確認してますけどね……  ほら、今だって……ちゃんと 」

「なに、ちょっ!? 吉岡、いきなり開き直ってない!? ってちょっと、勝手に回さないでっッ。そんないきなりだと、吃驚するから 」

「でも嫌じゃないでしょ? ぶっちゃけこっちも魅力的だと思ってますよね? 」

「それは、その…… まあ…… 」

「気づいたときにリセットしないと、どれが良かったかわからなくなるでしょ? 僕はいつも朱美先生には悩まされてばっかりだから、たまには先生から僕に歩み寄ってもらってもいいかなーとは思いますけど…… 」

「あーもう、いきなりそんなところ弄りながら話さないでッ! 手が汚れちゃうからっ 」

「あっ、ほんとだ。無意識でした 」

「なに、その反応…… まさか吉岡が知らないってことはないでしょっ? 確信犯のクセに 」

「はっ? ちょっ、先生僕のこと何だと思ってんですか? まさか僕、疑われてます? 」

「そんなルーキーみたいなことをしてきたら、疑いたくもなるでしょ? って、ちょっとっッ…… 」

「僕って…… そんな経験が浅いように見えます? 」

「そんなことはないけど…… 今だって、その…… 」

「まあ、こんなの拭けばいいんですよ 」

「ちょっ、何でそんなので拭くの? 」

「えっ、駄目でした? 」

「駄目に決まってるじゃん!? もう、それ使えないよー! 新しかったのに 」

「何で? 洗えば使えるでしょ 」

「違うのっッ! 吉岡ってそういうところ、デリカシーなさ過ぎっっ 」

「なんで……? もしかして恥ずかしい、とか? 」

「そりゃ、そうでしょ…… それ洗濯して干すの私だよ? そんな不自然なところにシミがあったら変じゃん。周りに私が何してるのかバレちゃうもんっ! 」

「そうでしたか…… すみません、気づかなくて。じゃあ、ティッシュを使います…… 」

「あーもう、使っちゃったならそれでいいから。それよりもその、早く続きを……しないと…… 」

「先生……もしかして…… 実は乗り気なんですか? 」

「そりゃそうでしょ!! むしろワクワクしない人なんて……いるの? 私はずっと楽しみにしてたし、その今もドキドキしてたんだから。早くしないとせっかくここまで盛り上がったのに、わからなくなっちゃう 」

「そうでしたか。僕はてっきり一人相撲なのかと思って  ちょっと不安があったんですけど、それなら安心しました 」

「不安にさせてたなら、それは謝る。ちゃんと私がはっきり言わなかったからだよね…… なかなかそういう経験、私にはなかったから…… 」

「そうなんですか? 」

「うん…… 私、交遊関係が広くないし。っていうか、いまこんなシチュエーションで話すことでもないか…… 」

「まあ、それもそうですね。こんな状況で話すのも何ですね。今は二人で意見を集中して合わせないと  」

「うん 」

「じゃあ続きしましょうか 」

「うん。私も早く続きを見たい 」

「あの…… 」

「何?」

「そんなに…… 早い方がいいんですか? 」

「それは、ぎゅっと濃縮した方がいいでしょ。効率よく濃密に…… 」

「えっ? そういうもんなんですか? 僕はてっきり…… でもまぁ、今日の僕はそんな余裕はないから、そっちの方が助かるけど 」

「だってダラダラしてもね 」

「まあ、僕はそれも嫌いじゃないですけど 」

「なに、急に渋い顔して…… 私、なんか変なこと言った? 」

「いや、そういう訳ではなくて 」

「じゃあ、何よ? 」

「やっぱり今日はじっくり、ゆっくりやりましょう 」

「えっ……? 」

「だって、その方が長く一緒にいられるじゃないですか? 」

「それはそうだけど…… それで、いいの? 」

「まあ、元は僕のせいですし。先生のペースで…… 異論はありません 」

「えっ……? 何か改めてそんな対応されると、照れちゃうね…… 」

「僕はいつも誠実に対応しているつもりですけど? 」

「それはわかってるんだけどねー。いつもと違う感じだと、やっぱり調子が狂っちゃう 」

「あの、僕、いつもと違いますか? 」

「……どうなんだろ。なんか、もうよくわからないかも 」

「じゃあ、もう一度感覚をフラットにして確かめ合いましょう 」

「えっ?あっ、ちょっ 」

「もう一度、横にするところから始めますね 」

「あっッ、うん。吉岡がそう言うなら早くしないと、良かったところ忘れちゃいそうだね。ッて、ちょっとっッ…… 」

「僕は忘れないですけどね 」

「そうなの? でもこれ以上動かしたら私、わけがわからなくなりそう…… なんだけどっっ うっ…… 」

「何、弱気なこと言ってるんですか? らしくないですよ 」

「だって…… 私、今あんまり頭が働いてないみたいだし  」

「でも、朱美先生も楽しみにしてたんでしょ? 」

「うん 」

「じゃあ、お互いに勢いで押し切っちゃいましょう 」

「……なにそれ 」

「僕も自分で言って、いまメッチャ恥ずかしいです 」

「……じゃあ、言わないでよ。って、ソコは駄目だってっッ  」

「でもキッカケって必要でしょ? 」

「まぁ…… それは、否定はしないケド…… 」

 朱美は一言そう呟くと、ギュッと吉岡を覗く。
 吉岡は意地悪な顔をしてこちらを見ていて、その余裕のある態度に少し悔しさが込み上げてきたけど、残念ながら今の自分はそれに対抗できる術は持ち合わせてはいない。
 吉岡のせいでこんなことになっているのに、終始ペースは向こうがリードしていて、今日も自分は押されっぱなしだ。

 そう、これは神寺朱美とその担当編集者のの日常のヒトコマ。





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