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ネクストワールドⅡ
赦しを乞う人たち①
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■■■
えっと、名鉄線の乗換口は…… どこだ……?
桜は時折流れ落ちる汗を拭いながら、尾張一宮駅を一人で徘徊していた。そもそも一人で新幹線に乗るシチュエーションもほぼ経験がなかったし、愛知に降り立つのも、これから向かう岐阜に行くのも初めてだ。
殆ど思い付きと勢いで夜勤明けで始発のこだまに飛び乗ってしまったが、後先はあまり考えていなかった。
だけど一つだけ確信していることがある。
彼女に会うこと。
それが唯一、今の私にできる最大のけじめだと言うことだった。
家庭環境に恵まれたか否かと聞かれたら、桜は返答に困る。
母は暴力亭主だった実父から逃れるように離婚を果たし、たった一人で年の近い兄と桜を育ててくれた。 昼間はパートで働き、夜はスナックで働き生計を立てていて、我が家はドラマや漫画でよく目にする母子家庭そのもの、お世辞にも裕福とは言えなかった。しかし今思えば桜は十分に母に愛されていた。
だから思春期に母が再婚したのは衝撃的だった。
何故あんな酷い父親と結婚して苦労をしたのに、自分の目を疑うこともなくまた他人と家族になろうとするのだろうか。理解が出来なかった。再婚相手の義父はいい人だった。自分達にも寄り添おうと歩み寄ってくれたし、決して悪い人ではなかった。なのに母が自分達と別に家族を作ろうとしているような 疎外感が拭えなかった。
そのとき桜は気づいたのだ。
自分は自分で思っていた以上に、 母が好きだったのだと……
今思えば決して母も義父も、そんなつもりはなかったはずだ。だけどあの頃の桜は、そんな大人の深い愛など、悟ることも理解することも出来なかった。いや、もしかしたら気づいていて 目を背けていたのかもしれない。血の繋がる自分達は母の足枷にしかならないのに、突然現れた義父は母を自由にして解放した。認めたくなかったのだ。
それからは桜は居場所を求めた。
その場所は簡単に得られた。
桜は二輪を駆けて、夜な夜な街を暴走した。ときには新たな場所の開拓を求めて戦いを挑み、力ずくで仲間を手に入れた。
それしか方法がなかったのだ……
そこで桜は二人の人間に出会った。
一人は初めて親友だと感じた友達だった。
彼女とならば、どこまでも突き抜けられたしどこまでも進める気がした。
彼女はときに涙もろく、感情表現が豊かだった。よく笑うし、よく怒る。
チームが大きくなって周りとの距離が生まれ始めても、彼女とは対等な関係だった。
もう一人は初めて心から好きになった人だった。
小さな世界のトップを張る統率力、リーダーシップが輝いて見えた。
そしてその腕の中を独り占めしているとき、私は居場所を見つけた気がしたのだ。
彼とならば、ずっと一緒にいたいと思えたし、家族になりたいとも思えたのだ。
だからこそ突然二人に裏切られたとき、学も才もない桜にはどうすることも出来なかった。ショックという言葉では言い表せない感情が体を駆け巡った。
結局、自分の居場所はどこにもなかったのだ。
酷い仕打ちだった。
自分ばかり不幸なのは、不公平なのだと思った。今思えば自分の人生の躓きは、自身で蒔いた種だったのかもしれない。人を信じることが出来なかった自分の落ち度だ。
このまま諦めるのは許せなかった。
自分は生まれ変わりたかったのだ。
それから桜は 必死に普通を装う努力をした。
昼間は図書館で小学生レベルの児童文学から本に触れて、深夜のファミレスでアルバイトをした。
そして故郷を離れ辿り着いた東京の地で三年目を迎えた春に、ようやく独学で高校卒業認定試験に合格した。 桜は念願だった社員のポジションを手にした。
これでやっとスタートラインに立てたような気がした。
桜は自分自身をある程度、許すことにした。
昔の自分と比較すれば、それなりの努力はした。ちょっとだけ自信もついた。もう負い目を背負いながら生きていく必要が無くなったからだ。
そしてあの日を境に、桜は二人のことは忘れることにした。
桜の中で、彼らの存在はなくなったハズだったのだ。
えっと、名鉄線の乗換口は…… どこだ……?
桜は時折流れ落ちる汗を拭いながら、尾張一宮駅を一人で徘徊していた。そもそも一人で新幹線に乗るシチュエーションもほぼ経験がなかったし、愛知に降り立つのも、これから向かう岐阜に行くのも初めてだ。
殆ど思い付きと勢いで夜勤明けで始発のこだまに飛び乗ってしまったが、後先はあまり考えていなかった。
だけど一つだけ確信していることがある。
彼女に会うこと。
それが唯一、今の私にできる最大のけじめだと言うことだった。
家庭環境に恵まれたか否かと聞かれたら、桜は返答に困る。
母は暴力亭主だった実父から逃れるように離婚を果たし、たった一人で年の近い兄と桜を育ててくれた。 昼間はパートで働き、夜はスナックで働き生計を立てていて、我が家はドラマや漫画でよく目にする母子家庭そのもの、お世辞にも裕福とは言えなかった。しかし今思えば桜は十分に母に愛されていた。
だから思春期に母が再婚したのは衝撃的だった。
何故あんな酷い父親と結婚して苦労をしたのに、自分の目を疑うこともなくまた他人と家族になろうとするのだろうか。理解が出来なかった。再婚相手の義父はいい人だった。自分達にも寄り添おうと歩み寄ってくれたし、決して悪い人ではなかった。なのに母が自分達と別に家族を作ろうとしているような 疎外感が拭えなかった。
そのとき桜は気づいたのだ。
自分は自分で思っていた以上に、 母が好きだったのだと……
今思えば決して母も義父も、そんなつもりはなかったはずだ。だけどあの頃の桜は、そんな大人の深い愛など、悟ることも理解することも出来なかった。いや、もしかしたら気づいていて 目を背けていたのかもしれない。血の繋がる自分達は母の足枷にしかならないのに、突然現れた義父は母を自由にして解放した。認めたくなかったのだ。
それからは桜は居場所を求めた。
その場所は簡単に得られた。
桜は二輪を駆けて、夜な夜な街を暴走した。ときには新たな場所の開拓を求めて戦いを挑み、力ずくで仲間を手に入れた。
それしか方法がなかったのだ……
そこで桜は二人の人間に出会った。
一人は初めて親友だと感じた友達だった。
彼女とならば、どこまでも突き抜けられたしどこまでも進める気がした。
彼女はときに涙もろく、感情表現が豊かだった。よく笑うし、よく怒る。
チームが大きくなって周りとの距離が生まれ始めても、彼女とは対等な関係だった。
もう一人は初めて心から好きになった人だった。
小さな世界のトップを張る統率力、リーダーシップが輝いて見えた。
そしてその腕の中を独り占めしているとき、私は居場所を見つけた気がしたのだ。
彼とならば、ずっと一緒にいたいと思えたし、家族になりたいとも思えたのだ。
だからこそ突然二人に裏切られたとき、学も才もない桜にはどうすることも出来なかった。ショックという言葉では言い表せない感情が体を駆け巡った。
結局、自分の居場所はどこにもなかったのだ。
酷い仕打ちだった。
自分ばかり不幸なのは、不公平なのだと思った。今思えば自分の人生の躓きは、自身で蒔いた種だったのかもしれない。人を信じることが出来なかった自分の落ち度だ。
このまま諦めるのは許せなかった。
自分は生まれ変わりたかったのだ。
それから桜は 必死に普通を装う努力をした。
昼間は図書館で小学生レベルの児童文学から本に触れて、深夜のファミレスでアルバイトをした。
そして故郷を離れ辿り着いた東京の地で三年目を迎えた春に、ようやく独学で高校卒業認定試験に合格した。 桜は念願だった社員のポジションを手にした。
これでやっとスタートラインに立てたような気がした。
桜は自分自身をある程度、許すことにした。
昔の自分と比較すれば、それなりの努力はした。ちょっとだけ自信もついた。もう負い目を背負いながら生きていく必要が無くなったからだ。
そしてあの日を境に、桜は二人のことは忘れることにした。
桜の中で、彼らの存在はなくなったハズだったのだ。
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