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長い長い夜明け
正義の条件
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■■■
「織原、ごめん。さっきは迷惑かけちゃって 」
「あっ、いえ。僕は別に大丈夫なんで…… 」
桜はバックヤードに備品を取りにきたついでに、休憩中の織原に声をかけた。……というのは建前で、本当はただスマホの通知を確認したくて、今日は無駄に裏に引っ込んでいる。
完全に副店長の特権乱用だった。山積みの業務報告書が散乱した共有デスクには、剥き出しのままスマホを放り出している。店長がいたら一言注意を受けてしまうだろう、そう思えてしまう有り様だった。
桜は備品のストローの束をを抱えながら、スマホを確認した。通知は一件。深夜だから誰かから連絡がある方がおかしな話なのだが、桜は食いぎみで宛先を確認をした。
そこにあったのは、いま一番距離を置きたい、人間からのメッセージだった。
桜は思わず深い溜め息をつくと、内容も確認せずに思わずスマホを伏せたが、慌てて織原の座る方を振り向いた。
織原はポツンと、一人珍しく休憩中に持参したと思われるノートパソコンで何かの作業をしていて、一瞬、桜に向かって顔を上げたが直ぐに目線を下に戻した。
空調だけが静かに響く空間で、織原がひたすらキーを打つ音がまるで旋律を紡ぐようにリズム良く鳴り続けている。
あれから朱美にも茜にも、連絡はついてはいない。
メールも既読にならないし、電話も繋がらない。結局あれから二度寝することも出来ず、かといって家で一人でいるのも落ち着かなかった。一体、自分でも 何をどうしたいのかよくわからない。珍しく今も鼓動が体中に響いていた。
「……心配ですね 」
「えっ? 」
織原は手の動きを止めると、真正面の画面を見ながら桜に声をかけた。 織原は珍しく眼鏡を装着していて、彼のレンズにはブルーライトが微かに反射している。眼鏡のせいでハッキリとは見えないが、顔色は冴えず何だかクマも酷く見えた。
「僕には事情はわかりませんし、首を突っ込むべきではないのは承知してるんですが。すみません。でも、やっぱ知ってるお客さんだから 」
「いや、もう既に織原のこと巻き込んでるから。こっちこそごめん 」
桜はスマホを握りしめると、ぎゅっと目を瞑った。正直 この経験したことのない気持ちを、どう消化したらいいのかが分からない。若気の至りで、数多の修羅場は潜り抜けてきたし、仲間の身だって案じてきたから、自分には耐性があると思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「こういうとき何もしてあげられないのって、むず痒いね 」
桜が無意識に発した言葉を聞いた織原は、ゆっくり顔を上げ難しい表情を浮かべた。
「連絡は…… まだ取れてない感じ……なんですね 」
「そうなんだよね。今日は確か朱美には合コンに誘われた日だったから…… うまく出掛けてて、回避出来てればベストなんだけどね 」
「合コン? 」
織原は目を見開いて、桜に見直った。
こんなときにどうかと思うが、織原は桜の口から出た意外なワードに少し驚いた素振りをみせた。
「あっ、私はそういうのは興味がないし、仕事もあるから行けないけどね。でも、こんなに不安になるなら、エントリーしとけば良かったね 」
桜は苦笑いを浮かべると、電子タバコを手にして火を点ける。その様子を見ながら、織原は複雑な表情を浮かべて 桜に何かを言いたそうにしたが、その言葉を飲み込み小さく首を横に振った。こんなときに別のことで動揺する自分の稚拙な発想には、心底自身を軽蔑せざるを得なかった。
「あの…… 」
「……? 」
「遠藤さんにとって、神宮寺先生は大切な友達なんですね 」
「そうみたいだね。私は、それついさっき気づいた 」
煙をフッと吐きながら、桜は時計を確認する。休憩時間でもないのに、煙草を嗜みながら いつまでも油を売っている訳にもいかなかった。
桜は再び備品を抱える。すると織原が突然こう切り出した。
「あの、差し出がましいですけど…… 」
「何……? 」
桜は少し不思議そうな表情を浮かべると、織原を見た。何だかいつもより、彼が自ら声をかけてくれる。でも 彼は目も合わさずに、相変わらずパソコンのディスプレイを見つめていた。
「冷蔵庫に さっき夜食に作ったミルク粥入ってますんで、良かったら後で食ってください。遠藤さんは、あんまり夜は食わないと思いますけど 」
「えっ? 」
桜は少しビックリして織原を見た。賄いを彼が作ってくることはよくあるが、自分の精神状況まで考えてくたメニューであることが意外だった。そんな彼は 相変わらず彼は背中を少し丸めながら、作業を続けていた。
「ありがとう。織原 」
桜は少しだけ笑みを浮かべ織原に礼を言うと、またホールへと向かった。
自分がこれほど動向を気にしてしまう友達ができるなんて、数年前を考えると全く想像できなかったことだ。
朱美も息吹も茜も、過去の自分のことはよく知らない。そして詮索もせずに、今のありのままの自分と仲良くしてくれる。
そして見返りもないのに、心配をしてくれる同僚までいる。
もし朱美に何かったら、今の私も昔の血が疼くんだろうか……
桜はふとそんなことを考えた自分に対して、首を大きく横に振ると、戒めるように気持ちを切り替えた。
■■■
ガチャリ……
翌朝、朱美が物音で目を覚ますと、吉岡の姿は既になかった。
遮光カーテンからはみ出した朝日が、容赦なく朱美の顔面を目がけて突き刺さる。壁時計の時間を見ると、時刻は朝の七時前だった。いつも寝る時間に目を覚ますなんて何だか新鮮な気分だ。
いくら仕事場兼自宅とはいえ、妙齢の男女が二人。
成り行きで、一晩 仕事でもないのに 一つ屋根の下で過ごしてしまった。自分も隙はみせなかったが、向こうは向こうでしっかりしていた。それに二人ともそれなりに疲れていたのか、ビール一本であっという間の大爆睡だった。
朱美は肌掛けを剥ぎながら、ロングソファーから這い上がった。いつも吉岡が座っている指定席の一人がけのソファーには、律儀にタオルケットが畳んで置かれていた。
そして視線を下ろすと、テーブルには見慣れた文字で、裏紙に置き手紙が書かれていた。
※※※
神宮寺アケミ様
編集長から連絡ありました。
新訳公論のチームが、いろいろ圧力かけてくれて、少し事態は好転してくれそうです。
というわけで、僕は一度 社に戻ります。
電気はつけてもいいですが、念のため神宮寺先生は、部屋からでないで一日をお過ごしください。
追伸
今晩、原稿回収するので、コピー取って最終チェックよろしくお願いいたします。
吉岡
※※※
朱美は小さく吹き出した。
忘れていたが、私たちはそれ以上でもそれ以下でもない。
自分と吉岡の関係は、漫画家と担当者編集者だ。
朱美は玄関に向かうと、新聞受けから鍵を拾った。鍵が落ちる音がするまで朱美は吉岡の気配に気づかなかった。
吉岡が朱美を起こさぬように、静かに過ごして部屋を後にしたのか、それとも自分が吉岡に心を許していて気づかなかったのか……
朱美は鍵を胸の前でぎゅっと握りしめると、暫く裸足で玄関に立ち尽くしていた。
■■■
流石に連日の睡眠不足に こんなピーカンの日差しは、タフネスに自信のある吉岡でも堪こたえるものがある。
昨日は動いたり肝を冷やしたりで、かなり汗をかいたハズなのに、シャワーも浴びずに また新たな一日がスタートしてしまったのだから仕方もない。
吉岡は慣れた捌きでマンションの裏口から外に出ると、辺りをサラリと見渡した。部屋を出る直前にベランダから確認した感じでは、マスコミはだいぶ減ってはいたがまだ油断は出来ない。少なくとも自分だったら諦めないことが、手に取るようにわかるからだった。
吉岡は慎重にマンションの正面玄関側に歩を進めた。
玄関先の歩道にはまだ数人の関係者がいるようだが、長期戦特有の装備をした風でもない。
それに横目で見た感じ、男性記者ばかりだし知った顔もなさそうだ。
これなら自宅に帰って休憩してから、社に向かっても問題はなさそうだ。吉岡がスイッチを切って、駅に向かいだそうと気持ちを切り替えた刹那、真後ろから聞き覚えのある声がした。
「吉岡くん…… 」
吉岡は耳を疑った。
この甘ったるい声、記者と思えぬ語り口調、吉岡はその声を振り返った。
「小暮……さん……? 」
「やっぱり、そうだ。吉岡くん、久しぶり…… 」
「どうしたの…… 朝からこんなところで 」
吉岡は平静を装いながら声の主を見た。 想定はしていたが本当に彼女がここにきているとは、どこか半信半疑だった。
小暮美和子は 相変わらず張り込み中の記者と思えぬ出で立ちで、こちらを見ていた。朝から胸の谷間がちらりと光るペイズリー柄のワンピースに、ピッチリとしたジャケットを纏い、ややローではあるがピンヒールを身につけて、肩からは大きな鞄を提げている。
「それは、こっちの台詞よ。吉岡くんは、ここに引っ越しでもしたの? 」
「あっ、いや…… 君こそ、でっかいカメラ引っ提げて、物々しいじゃん。なに、取材かなにか?」
「まーね。私、S出版辞めてからは、いまはM出版のフリーランスの記者やってんの。いまは貼り込み中ってとこ 」
「貼り込み? 物騒だな。ここに犯罪者でもいるの? 」
吉岡はいいつつ彼女の身なりを更に観察した。綺麗にしてはいるが、自慢のショートカットのボリュームがない辺りや、コーヒーの香りがキツイ辺りを加味すると、昨日から近くのパーキングに止めた車を拠点かなにかにして、ずっと張り付いていた雰囲気だった。
そしてこちらのクスリも効いてくれない厄介な相手なことも、容易く理解できた。
「スパーキン須藤と御堂茜の不和の記事を知らない? いま、わりとタイムリーなんだけど 」
「ああ。確か週刊秋冬の中吊りに載ってたね 」
「その取材よ。泥酔の御堂アナを介抱した友人の女が、ここに住んでるから。ただ、まあ、取材にストップかかっちゃいそうなんだけどね。なんか、介抱してた女が業界関係者みたいで圧力かかってさ 」
その圧力かけたの、俺だわ……
吉岡はスマホを取り出し、何かを検索する振りをすると小暮にこう話した。
「へー。小暮さんが書いた記事なんだね 」
「そーよ。私が記事にしたの。御堂茜なんて今は凄い下火だし、どうかなー、とは思ったんだけどね。スパーキンは、いろいろ曰く付きだし、御堂も元々は左遷同然でラジオに出向してるようなバカだしね。思ったよりは化けてくれて助かったわ 」
「そっか。それは忙しそうだね。まあ、頑張って…… 」
吉岡は話を畳みにはいったが、小暮はそれを恐らく承知の上で無視をするとさらにこう続けた。
「で、吉岡くんは何でこんなとこにいるの? 引っ越した? 前は確か、神楽坂の下宿だったよね…… 」
「今も家は神楽坂。ここは…… 」
吉岡は少しだけ間を取ると、そのまま続けて、
「……ここは、姉貴んち。夏風邪でかなりの熱だしたらしいから、看病しにきてた。そのまま泊まってたから、これから、一旦自宅に帰るところだよ 」
と冷静を装い、切り返した。
吉岡には姉などいないのだが、うまく切り抜けるには咄嗟に良い言い訳が思い浮かばなかった。
「………そう。それは大変だったね。お姉さん、お大事にね 」
小暮は少しだけ神妙な面持ちを浮かべると、そう言った。相変わらずその代わり映えのしない表情からは、何を考えているのかわかりずらい女だった。
「あっ、うんまあ、そうだね。じゃあ 」
吉岡は小暮に背を向け、再び歩きだした。
深追いはされなさそうだ。助かったと小さくため息をついた瞬間、再び小暮は吉岡に声をかけた。
「ねぇ、待って 」
小暮はゆっくりと吉岡が振り向くのを待つと、彼が返事をする前に一方的に話を続けた。
「吉岡くんってさ、まだ隔週キャンディーの編集部にいるの?」
「ああ。そうだけど…… 」
「吉岡くんって、元々記者志望じゃない。せっかく一年目で週刊紙配属になったのに、ジョブローテで異動して、そのまんま少女雑誌に居着いちゃってさ。漫画家の担当とかやってて楽しみとかあるの? 」
想像以上に唐突な内容だった。
普通、朝からそんな話をするか?
吉岡は感情を殺しなるべく声に起伏がないように、小暮の目を見てこう返した。
「……会社が僕の適正はここって言ってくれてるからね。だから自分の才能は生かせる場所って、本人よりも他人の方が客観的に見てくれてるのかな、とは思うし 」
「ふーん。なんか、話聞いてると勿体無いね。若いのに。もう守りに入っちゃってなるよね。しかも昔の吉岡くん、若いのに、なかなか良い記事を探し当ててたじゃん。あのA市の不正献金事件とか、もはや伝説だよ? 」
「あれは…… 」
吉岡は言葉を失い、口を閉ざした。
もう何もかも忘れて、逃げ出してしまいたい深いところに追いやった記憶を、いつも小暮は強引にこじ開ける。
あの記事を書いたことも、彼女に助けを求めた自分の弱さも、何もかもやり直したい苦い経験だった。
「悪い。もう今日はこの辺りで。……俺はこれから仕事だから 」
「あっ、ごめんね。引き留めちゃって 」
「いや、大丈夫……だよ。 じゃあ…… 」
これ以上は、いろいろな意味でマズい。
吉岡が今度こそと、彼女の脇を通りすぎようとした瞬間、小暮はいきなり吉岡の肩に手をかけこう呟いた。
「ちょっと、待って…… 」
吉岡は、ギョット小暮の方を振り向く。
明らかにパーソナルスペースを越えた距離感だが、昔の関係性を考えると許容範囲なのかもしれなった。
「私が待ってるこのマンションの住人はね、神寺さんっていう人よ 」
「いいのかよ。そんな個人情報を、俺なんかに話して…… 」
「もちろん駄目でしょうね。いまの私たちの立場は、ライバル出版社の従属通しだし。でもまあ…… 」
「……なんだよ 」
話を焦らす小暮に、吉岡は少し刺々しく応える。
そしてその吉岡の様子を見た小暮は悪い表情を浮かべた。
「まあ、元親しい友人って観点で、情報提供したことにしておくわ。それに…… 」
小暮は少し間を置いてから、思い切り吉岡の耳元に背伸びをすると、囁くようにこう続けた。
「私の推理が正しければ、今日の吉岡くんのお姉さんは、神寺さんってことになるからね。だからお姉さんのことを、よく知っとく権利はあるのかな……ってお節介 」
「……はあ? お前…… 何を言ってるんだよ……? 」
吉岡はハッと我に返ると、小暮を軽く振り払いしっかりと向き直った。
今回の件が偶然なのか、それとも彼女の壮絶なイタズラなのか、頭の中はいろいろな可能性が駆け巡っていた。
「私、いまM出版の記者だって言ったでしょ? 吉岡くんって、そんなにバカだった? 神寺さんのことは、あなたが一番よく知ってるじゃない? 」
「まさか…… 」
「まあ、一応吉岡くんとはとっても親しいドライな関係だったからね。あんなにパッタリ切られちゃったから、ちょっとモヤモヤはしてたんだよね…… 私みたいな物書きなんて、ただの自信過剰な自己陶酔者で、おまけにサゾだからね。いくらドライな関係でも、相手から切られるのは許すわけにはいかないのよ…… 」
「はい? お前は、何を言ってるんだ……? あれは…… 」
吉岡は言いかけた言葉を飲み込むと、ふっと息を吐いた。
歪んでいる。何を言ってもこのタイプの人間には、かつての自分がそうだったように、言葉は伝わらない。
「まあ、いいわ。私にも今はちゃんとした彼氏いるし、あなたのことは、思い出の一部として捉えてる。それ以上でもそれ以下でもない 」
俺にとっては、完全な黒歴史だよ。
「もしかして、吉岡くん…… 」
「…… 」
「自分にそんなに思い入れてもらえるよう、価値があると思ってた? 」
吉岡は小暮の問いを静かに無視すると、駅に向かって歩き出した。
俺は違う。もう弱い頃の自分じゃない。
自分はあの頃、思い描いた正義の味方にはなれなかった。
きっと沢山の人を傷つけたし、自分もそれなりに深手は負った。
真実を振りかざすことの責任を、この先も自分には背負い続けていく自信はなかった。
けれども、ひとつだけわかったことがある。
自分は、人を追い詰めることを正義とは言いたくなくなかったのだと。
「織原、ごめん。さっきは迷惑かけちゃって 」
「あっ、いえ。僕は別に大丈夫なんで…… 」
桜はバックヤードに備品を取りにきたついでに、休憩中の織原に声をかけた。……というのは建前で、本当はただスマホの通知を確認したくて、今日は無駄に裏に引っ込んでいる。
完全に副店長の特権乱用だった。山積みの業務報告書が散乱した共有デスクには、剥き出しのままスマホを放り出している。店長がいたら一言注意を受けてしまうだろう、そう思えてしまう有り様だった。
桜は備品のストローの束をを抱えながら、スマホを確認した。通知は一件。深夜だから誰かから連絡がある方がおかしな話なのだが、桜は食いぎみで宛先を確認をした。
そこにあったのは、いま一番距離を置きたい、人間からのメッセージだった。
桜は思わず深い溜め息をつくと、内容も確認せずに思わずスマホを伏せたが、慌てて織原の座る方を振り向いた。
織原はポツンと、一人珍しく休憩中に持参したと思われるノートパソコンで何かの作業をしていて、一瞬、桜に向かって顔を上げたが直ぐに目線を下に戻した。
空調だけが静かに響く空間で、織原がひたすらキーを打つ音がまるで旋律を紡ぐようにリズム良く鳴り続けている。
あれから朱美にも茜にも、連絡はついてはいない。
メールも既読にならないし、電話も繋がらない。結局あれから二度寝することも出来ず、かといって家で一人でいるのも落ち着かなかった。一体、自分でも 何をどうしたいのかよくわからない。珍しく今も鼓動が体中に響いていた。
「……心配ですね 」
「えっ? 」
織原は手の動きを止めると、真正面の画面を見ながら桜に声をかけた。 織原は珍しく眼鏡を装着していて、彼のレンズにはブルーライトが微かに反射している。眼鏡のせいでハッキリとは見えないが、顔色は冴えず何だかクマも酷く見えた。
「僕には事情はわかりませんし、首を突っ込むべきではないのは承知してるんですが。すみません。でも、やっぱ知ってるお客さんだから 」
「いや、もう既に織原のこと巻き込んでるから。こっちこそごめん 」
桜はスマホを握りしめると、ぎゅっと目を瞑った。正直 この経験したことのない気持ちを、どう消化したらいいのかが分からない。若気の至りで、数多の修羅場は潜り抜けてきたし、仲間の身だって案じてきたから、自分には耐性があると思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
「こういうとき何もしてあげられないのって、むず痒いね 」
桜が無意識に発した言葉を聞いた織原は、ゆっくり顔を上げ難しい表情を浮かべた。
「連絡は…… まだ取れてない感じ……なんですね 」
「そうなんだよね。今日は確か朱美には合コンに誘われた日だったから…… うまく出掛けてて、回避出来てればベストなんだけどね 」
「合コン? 」
織原は目を見開いて、桜に見直った。
こんなときにどうかと思うが、織原は桜の口から出た意外なワードに少し驚いた素振りをみせた。
「あっ、私はそういうのは興味がないし、仕事もあるから行けないけどね。でも、こんなに不安になるなら、エントリーしとけば良かったね 」
桜は苦笑いを浮かべると、電子タバコを手にして火を点ける。その様子を見ながら、織原は複雑な表情を浮かべて 桜に何かを言いたそうにしたが、その言葉を飲み込み小さく首を横に振った。こんなときに別のことで動揺する自分の稚拙な発想には、心底自身を軽蔑せざるを得なかった。
「あの…… 」
「……? 」
「遠藤さんにとって、神宮寺先生は大切な友達なんですね 」
「そうみたいだね。私は、それついさっき気づいた 」
煙をフッと吐きながら、桜は時計を確認する。休憩時間でもないのに、煙草を嗜みながら いつまでも油を売っている訳にもいかなかった。
桜は再び備品を抱える。すると織原が突然こう切り出した。
「あの、差し出がましいですけど…… 」
「何……? 」
桜は少し不思議そうな表情を浮かべると、織原を見た。何だかいつもより、彼が自ら声をかけてくれる。でも 彼は目も合わさずに、相変わらずパソコンのディスプレイを見つめていた。
「冷蔵庫に さっき夜食に作ったミルク粥入ってますんで、良かったら後で食ってください。遠藤さんは、あんまり夜は食わないと思いますけど 」
「えっ? 」
桜は少しビックリして織原を見た。賄いを彼が作ってくることはよくあるが、自分の精神状況まで考えてくたメニューであることが意外だった。そんな彼は 相変わらず彼は背中を少し丸めながら、作業を続けていた。
「ありがとう。織原 」
桜は少しだけ笑みを浮かべ織原に礼を言うと、またホールへと向かった。
自分がこれほど動向を気にしてしまう友達ができるなんて、数年前を考えると全く想像できなかったことだ。
朱美も息吹も茜も、過去の自分のことはよく知らない。そして詮索もせずに、今のありのままの自分と仲良くしてくれる。
そして見返りもないのに、心配をしてくれる同僚までいる。
もし朱美に何かったら、今の私も昔の血が疼くんだろうか……
桜はふとそんなことを考えた自分に対して、首を大きく横に振ると、戒めるように気持ちを切り替えた。
■■■
ガチャリ……
翌朝、朱美が物音で目を覚ますと、吉岡の姿は既になかった。
遮光カーテンからはみ出した朝日が、容赦なく朱美の顔面を目がけて突き刺さる。壁時計の時間を見ると、時刻は朝の七時前だった。いつも寝る時間に目を覚ますなんて何だか新鮮な気分だ。
いくら仕事場兼自宅とはいえ、妙齢の男女が二人。
成り行きで、一晩 仕事でもないのに 一つ屋根の下で過ごしてしまった。自分も隙はみせなかったが、向こうは向こうでしっかりしていた。それに二人ともそれなりに疲れていたのか、ビール一本であっという間の大爆睡だった。
朱美は肌掛けを剥ぎながら、ロングソファーから這い上がった。いつも吉岡が座っている指定席の一人がけのソファーには、律儀にタオルケットが畳んで置かれていた。
そして視線を下ろすと、テーブルには見慣れた文字で、裏紙に置き手紙が書かれていた。
※※※
神宮寺アケミ様
編集長から連絡ありました。
新訳公論のチームが、いろいろ圧力かけてくれて、少し事態は好転してくれそうです。
というわけで、僕は一度 社に戻ります。
電気はつけてもいいですが、念のため神宮寺先生は、部屋からでないで一日をお過ごしください。
追伸
今晩、原稿回収するので、コピー取って最終チェックよろしくお願いいたします。
吉岡
※※※
朱美は小さく吹き出した。
忘れていたが、私たちはそれ以上でもそれ以下でもない。
自分と吉岡の関係は、漫画家と担当者編集者だ。
朱美は玄関に向かうと、新聞受けから鍵を拾った。鍵が落ちる音がするまで朱美は吉岡の気配に気づかなかった。
吉岡が朱美を起こさぬように、静かに過ごして部屋を後にしたのか、それとも自分が吉岡に心を許していて気づかなかったのか……
朱美は鍵を胸の前でぎゅっと握りしめると、暫く裸足で玄関に立ち尽くしていた。
■■■
流石に連日の睡眠不足に こんなピーカンの日差しは、タフネスに自信のある吉岡でも堪こたえるものがある。
昨日は動いたり肝を冷やしたりで、かなり汗をかいたハズなのに、シャワーも浴びずに また新たな一日がスタートしてしまったのだから仕方もない。
吉岡は慣れた捌きでマンションの裏口から外に出ると、辺りをサラリと見渡した。部屋を出る直前にベランダから確認した感じでは、マスコミはだいぶ減ってはいたがまだ油断は出来ない。少なくとも自分だったら諦めないことが、手に取るようにわかるからだった。
吉岡は慎重にマンションの正面玄関側に歩を進めた。
玄関先の歩道にはまだ数人の関係者がいるようだが、長期戦特有の装備をした風でもない。
それに横目で見た感じ、男性記者ばかりだし知った顔もなさそうだ。
これなら自宅に帰って休憩してから、社に向かっても問題はなさそうだ。吉岡がスイッチを切って、駅に向かいだそうと気持ちを切り替えた刹那、真後ろから聞き覚えのある声がした。
「吉岡くん…… 」
吉岡は耳を疑った。
この甘ったるい声、記者と思えぬ語り口調、吉岡はその声を振り返った。
「小暮……さん……? 」
「やっぱり、そうだ。吉岡くん、久しぶり…… 」
「どうしたの…… 朝からこんなところで 」
吉岡は平静を装いながら声の主を見た。 想定はしていたが本当に彼女がここにきているとは、どこか半信半疑だった。
小暮美和子は 相変わらず張り込み中の記者と思えぬ出で立ちで、こちらを見ていた。朝から胸の谷間がちらりと光るペイズリー柄のワンピースに、ピッチリとしたジャケットを纏い、ややローではあるがピンヒールを身につけて、肩からは大きな鞄を提げている。
「それは、こっちの台詞よ。吉岡くんは、ここに引っ越しでもしたの? 」
「あっ、いや…… 君こそ、でっかいカメラ引っ提げて、物々しいじゃん。なに、取材かなにか?」
「まーね。私、S出版辞めてからは、いまはM出版のフリーランスの記者やってんの。いまは貼り込み中ってとこ 」
「貼り込み? 物騒だな。ここに犯罪者でもいるの? 」
吉岡はいいつつ彼女の身なりを更に観察した。綺麗にしてはいるが、自慢のショートカットのボリュームがない辺りや、コーヒーの香りがキツイ辺りを加味すると、昨日から近くのパーキングに止めた車を拠点かなにかにして、ずっと張り付いていた雰囲気だった。
そしてこちらのクスリも効いてくれない厄介な相手なことも、容易く理解できた。
「スパーキン須藤と御堂茜の不和の記事を知らない? いま、わりとタイムリーなんだけど 」
「ああ。確か週刊秋冬の中吊りに載ってたね 」
「その取材よ。泥酔の御堂アナを介抱した友人の女が、ここに住んでるから。ただ、まあ、取材にストップかかっちゃいそうなんだけどね。なんか、介抱してた女が業界関係者みたいで圧力かかってさ 」
その圧力かけたの、俺だわ……
吉岡はスマホを取り出し、何かを検索する振りをすると小暮にこう話した。
「へー。小暮さんが書いた記事なんだね 」
「そーよ。私が記事にしたの。御堂茜なんて今は凄い下火だし、どうかなー、とは思ったんだけどね。スパーキンは、いろいろ曰く付きだし、御堂も元々は左遷同然でラジオに出向してるようなバカだしね。思ったよりは化けてくれて助かったわ 」
「そっか。それは忙しそうだね。まあ、頑張って…… 」
吉岡は話を畳みにはいったが、小暮はそれを恐らく承知の上で無視をするとさらにこう続けた。
「で、吉岡くんは何でこんなとこにいるの? 引っ越した? 前は確か、神楽坂の下宿だったよね…… 」
「今も家は神楽坂。ここは…… 」
吉岡は少しだけ間を取ると、そのまま続けて、
「……ここは、姉貴んち。夏風邪でかなりの熱だしたらしいから、看病しにきてた。そのまま泊まってたから、これから、一旦自宅に帰るところだよ 」
と冷静を装い、切り返した。
吉岡には姉などいないのだが、うまく切り抜けるには咄嗟に良い言い訳が思い浮かばなかった。
「………そう。それは大変だったね。お姉さん、お大事にね 」
小暮は少しだけ神妙な面持ちを浮かべると、そう言った。相変わらずその代わり映えのしない表情からは、何を考えているのかわかりずらい女だった。
「あっ、うんまあ、そうだね。じゃあ 」
吉岡は小暮に背を向け、再び歩きだした。
深追いはされなさそうだ。助かったと小さくため息をついた瞬間、再び小暮は吉岡に声をかけた。
「ねぇ、待って 」
小暮はゆっくりと吉岡が振り向くのを待つと、彼が返事をする前に一方的に話を続けた。
「吉岡くんってさ、まだ隔週キャンディーの編集部にいるの?」
「ああ。そうだけど…… 」
「吉岡くんって、元々記者志望じゃない。せっかく一年目で週刊紙配属になったのに、ジョブローテで異動して、そのまんま少女雑誌に居着いちゃってさ。漫画家の担当とかやってて楽しみとかあるの? 」
想像以上に唐突な内容だった。
普通、朝からそんな話をするか?
吉岡は感情を殺しなるべく声に起伏がないように、小暮の目を見てこう返した。
「……会社が僕の適正はここって言ってくれてるからね。だから自分の才能は生かせる場所って、本人よりも他人の方が客観的に見てくれてるのかな、とは思うし 」
「ふーん。なんか、話聞いてると勿体無いね。若いのに。もう守りに入っちゃってなるよね。しかも昔の吉岡くん、若いのに、なかなか良い記事を探し当ててたじゃん。あのA市の不正献金事件とか、もはや伝説だよ? 」
「あれは…… 」
吉岡は言葉を失い、口を閉ざした。
もう何もかも忘れて、逃げ出してしまいたい深いところに追いやった記憶を、いつも小暮は強引にこじ開ける。
あの記事を書いたことも、彼女に助けを求めた自分の弱さも、何もかもやり直したい苦い経験だった。
「悪い。もう今日はこの辺りで。……俺はこれから仕事だから 」
「あっ、ごめんね。引き留めちゃって 」
「いや、大丈夫……だよ。 じゃあ…… 」
これ以上は、いろいろな意味でマズい。
吉岡が今度こそと、彼女の脇を通りすぎようとした瞬間、小暮はいきなり吉岡の肩に手をかけこう呟いた。
「ちょっと、待って…… 」
吉岡は、ギョット小暮の方を振り向く。
明らかにパーソナルスペースを越えた距離感だが、昔の関係性を考えると許容範囲なのかもしれなった。
「私が待ってるこのマンションの住人はね、神寺さんっていう人よ 」
「いいのかよ。そんな個人情報を、俺なんかに話して…… 」
「もちろん駄目でしょうね。いまの私たちの立場は、ライバル出版社の従属通しだし。でもまあ…… 」
「……なんだよ 」
話を焦らす小暮に、吉岡は少し刺々しく応える。
そしてその吉岡の様子を見た小暮は悪い表情を浮かべた。
「まあ、元親しい友人って観点で、情報提供したことにしておくわ。それに…… 」
小暮は少し間を置いてから、思い切り吉岡の耳元に背伸びをすると、囁くようにこう続けた。
「私の推理が正しければ、今日の吉岡くんのお姉さんは、神寺さんってことになるからね。だからお姉さんのことを、よく知っとく権利はあるのかな……ってお節介 」
「……はあ? お前…… 何を言ってるんだよ……? 」
吉岡はハッと我に返ると、小暮を軽く振り払いしっかりと向き直った。
今回の件が偶然なのか、それとも彼女の壮絶なイタズラなのか、頭の中はいろいろな可能性が駆け巡っていた。
「私、いまM出版の記者だって言ったでしょ? 吉岡くんって、そんなにバカだった? 神寺さんのことは、あなたが一番よく知ってるじゃない? 」
「まさか…… 」
「まあ、一応吉岡くんとはとっても親しいドライな関係だったからね。あんなにパッタリ切られちゃったから、ちょっとモヤモヤはしてたんだよね…… 私みたいな物書きなんて、ただの自信過剰な自己陶酔者で、おまけにサゾだからね。いくらドライな関係でも、相手から切られるのは許すわけにはいかないのよ…… 」
「はい? お前は、何を言ってるんだ……? あれは…… 」
吉岡は言いかけた言葉を飲み込むと、ふっと息を吐いた。
歪んでいる。何を言ってもこのタイプの人間には、かつての自分がそうだったように、言葉は伝わらない。
「まあ、いいわ。私にも今はちゃんとした彼氏いるし、あなたのことは、思い出の一部として捉えてる。それ以上でもそれ以下でもない 」
俺にとっては、完全な黒歴史だよ。
「もしかして、吉岡くん…… 」
「…… 」
「自分にそんなに思い入れてもらえるよう、価値があると思ってた? 」
吉岡は小暮の問いを静かに無視すると、駅に向かって歩き出した。
俺は違う。もう弱い頃の自分じゃない。
自分はあの頃、思い描いた正義の味方にはなれなかった。
きっと沢山の人を傷つけたし、自分もそれなりに深手は負った。
真実を振りかざすことの責任を、この先も自分には背負い続けていく自信はなかった。
けれども、ひとつだけわかったことがある。
自分は、人を追い詰めることを正義とは言いたくなくなかったのだと。
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