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長い長い夜明け
動揺する二人
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■■■
何とか自宅に戻ると、朱美は玄関先で 靴も脱がずに腰を下ろした。電気をつけないと 六月でもこの時間は既に少し暗い。
動悸が酷いし、上手く呼吸もできない。朱美はハンカチで口元を押さえると、ニ三回大きく深呼吸をした。そんなことでドキドキが治まるとも思えないが、とにかく今は苦しくて仕方がない。一体何が起きたのか、いまいち状況がよく分からなかった。
朱美はそのままパタリと横になると、おもむろに鞄を漁り始めた。手探りで無理やりスマホを手に取ると、液晶を立ち上げる。取り敢えず、息吹と吉岡には 今日は新宿には行けないであろうことを伝えなくてはならない。朱美溜め息をつきながら、スマホのロックを解除する。するとそこには 不在着信と一件のメールの通知があった。
桜ねぇ……? から……?
桜から着信があるなんて珍しい。それにメールまで?朱美は取り敢えずメールを開くと、そこには短い文章でこう書かれていた。
『事情はよくわかないけど茜からの伝言。今日は家から出ないで、だって 』
『茜、携帯なくしたみたいで、私の店経由で連絡来たみたい 』
『くれぐれも気を付けてね。何かあったら連絡して 』
……遅いよ ……バカ
朱美は、もう泣きたい気分だった。タイムスタンプを見ると、丁度自分がマスコミに囲まれていた時間だった。
あと十分……
あと十分早ければ、回避できたかも知れない。
朱美は悔やんでも悔やみきれない気持ちになりながら、
『わざわざ伝言ありがとう。私には意味わかったから大丈夫 』
と返事を打つと、読み返しもせずにそれを送った。本当は今この状況を泣きついて相談したいけれども、他人を捲き込むわけにもいかないし、自分は無意識に見栄を張っているのかもしれない。茜のことを気遣う余裕は今の自分にはないけれど、彼女は彼女で今大変なことになっているのだろう。
朱美は息吹と吉岡に、
『急用が出来て、今日は新宿には行けそうにないです。ごめんなさい。皆さんで楽しんでください。キャンセル料は、立て替えといてください。後日、必ず払います 』
と文章を打つと、深い深い溜め息をつく。
こんなときでもお金の心配ができるなんて、案外自分は冷静なのかもしれないと思った。
◆◆◆
「ったく、あの野郎…… 電話に出やしない…… 」
吉岡はいきり立って終話ボタンを押すと、アイスラテを煽った。それは当然の報いだろう。何たって発起人が、急に理由も告げずにドタキャンすると言い出したのだ。
チーム吉岡の面々は既に新宿に集まっていて、丁度カフェのテラス席で、男四人でコーヒーブレイクを始めたところだった。
今日のメンバーは、元々吉岡が専攻していた動画作成チームを主体としたメンバーで、半ば非リア充の後輩や同級生を動員した。但し如何せん面識がない者同士がいたので、先に作戦会議をする予定……だった。他のメンバーは冷静を装っているが、内心不安そうな表情を浮かべているものもいる。
「あの……吉岡さん? その幹事の方…… 体調でも優れないんじゃないですか? 」
そう吉岡に声をかけたのは吉岡よりもだいぶん若いのに、しっかり者の野上だった。若手の音効見習いだが、既に大口の仕事もこなしている努力家だ。
「いや、正午過ぎに連絡したときは、元気そうだったけどね? ほら、わざわざ写真まで送ってきたし 」
吉岡はそう言うと、スマホを野上やその他のメンツに見せた。そこには朱美がニコニコとしながら、何かを片手に自撮りをしている朱美の姿があった。
「つーか、この女性、可愛いっすねー 」
そう声をかけたのは、吉岡の大学時代の後輩の田中だった。
「へっ……? いま、これ見て可愛いとか言った? 」
吉岡は目を丸くして、田中に再度確認する。田中は逆にその吉岡の態度に驚き、少し魚棹したような素振りを見せた。
「ええ。目もぱっちりしてて、睫毛が長そうで…… 」
「そう。それ、あの人の中身を知らないから、魔法にかかってる部分がデカイよ 」
「……? 」
吉岡はスマホを弄ると、再び朱美への連絡を再開した。今度掛ければ、十回目くらいの呼び出しだ。女子チームとの待ち合わせの場所は決めているし、朱美がいなくても会は始められるのだが、こうまで電話にでないのは珍しいし逆に気がかりでもある。少し暑いがカフェテラスを選択したのは、結果的に良かったのかもしれない。
五コール位したところで、プツリと呼び出し音が切れて、ディスプレイに通話中の文言が光っていた。
「神宮寺先生? あのー、吉岡ですけど…… 」
「……っッ 」
「……? 神宮寺先生? 」
電話の向こう側からは、声が聞こえてはこなかった。若干の雑音が彼女の嗚咽だと気づいたのは時間差で、吉岡は思わず席を立つ。足取りは自然と早まっていく。道路の方まで移動するころには、胸騒ぎがしていた。何だか嫌な予感がする。
「神宮寺先生っ? 神宮寺センセっ! 」
吉岡は人目も憚らず、ひたすら電話の向こう側に向かって声を圧し殺しながら荒げていた。電話の先には今にも泣き出しそうな、自分の天敵というか、神様というか、少なくとも自分の存在意義を肯定してくれる人の微かな声しか聞こえない。
「……ごめん、私、幹事なのに、今日はそこには行けなさそう。マンションを出たら……マスコミの人がいて…… 怖かった…… 」
朱美は、声を振り絞るように有声音にすると、また何かを堪えだした。
彼女は涙を堪えている……
吉岡には、それがすぐにわかった。
「……っていうか、そんなことは今はどうでもいいですっ。それよりっッ、先生は、いま何処にいますっッ? 」
「いまは、自分の部屋…… 電車乗るつもりだったから、ちょっと歩いたけど、物凄い勢いでついてこられちゃって…… 十メートルでギブした 」
「はあ!? 素人相手にっッ…… いまのマスコミは、ホントゴミ野郎ばっかりだなっッ 」
吉岡は普段なら絶対に使わないであろう乱暴な言葉で敵を罵ると、深い溜め息をついて、直ぐに我に返る。ただでさえ朱美が動揺しているところに自分まで冷静を失ってしまったら、完全に負けてしまう。
吉岡は受話器の口元を覆いながら、野上達のいるカフェに歩いていくと、着席するなり一気にアイスラテを飲みこんだ。
「あの、先生? マスコミに追っかけられる、何か心当たりはありますか? 」
「……そんなのあるわけないじゃん。自分で言うのもなんだけど、きちんと青色確定申告をしてるし、アシさんたちにも、ちゃんとお給料払ってるもん。原因は…… 」
「何ですか? ……理由は、わかってるんですか? 」
「揉みくちゃになりながら、御堂アナウンサーとか…… 」
「あの、もしかして それって……スパンキー須藤と御堂さんが、うんちゃらかんちゃらのヤツですか? 」
「多分、それビンゴ。っていうか、何で吉岡が知ってんのよ!? 」
「そんなの、いま先生に説明してる時間はありません。先生こそ、御堂茜とまだ接点あったんすか? 」
「もちろんよ。あれから、茜とは友達だもん。そんなことより、今日…… 」
「取り敢えず、その事は後です。まずはマスコミを巻くこと考えないと 」
吉岡は一頻り頭をかき乱すと、野上たちに背を向けて、クラッチバックから手帳を取り出した。その不可解な行動の一部始終を見ている野上たちは、キョトンとした表情で吉岡を見ている。
「先生、いまから…… 僕も…… 」
「そんなことをしたら……吉岡も 行けなくなっちゃうんじゃ…… 」
「先生、僕の心配は後です。いまは、取り敢えずマスコミを巻くことに集中しましょう 」
「でも、これは私の個人的な プライベートの問題だし、その、吉岡に迷惑を掛けるわけには…… 」
その言葉を聞いた瞬間、吉岡は更に態度を硬化させた。
「先生、急に他人行儀になるのは止めてください。対処しないと、奴らはずーっと張り込んできます。先生だけじゃなくて、他のマンションの住人にもかなりの迷惑を掛けちゃうんですよ 」
「うっ…… 」
「とにかく、先生のご友人の連絡先を私に教えてください。僕らは抜きで、取り敢えず会を始めてもらいましょう。それしかありません 」
吉岡は朱美から息吹の連絡先聞き出しメモを取ると、電話を切って はあ……と息ついた。
朱美は たかだか合コンではあったが、それを励みにこの数日間を頑張っていた。何も今日でなくても良かったじゃないか、と吉岡は感じてしまう。だけどそう思うことは、同時に昔の自分の忘れたい傷を抉るようなもので、複雑な気持ちになった。
「吉岡さん、どうしたんですか? 顔ざ真っ青っすよ? 」
野上がすかさず吉岡には声をかけたが、吉岡は急に覇気がなくなって大人しくなっていた。
「ああ、ちょっとね…… 」
吉岡は言葉を濁しなかわら、財布からニ万円を抜くと、それをパッと野上に手渡した。
「悪い、俺ちょっと今から仕事に行くわ。急用ができちゃって…… 」
「えっ、へっ!? ちょっ、幹事がいないと、女子に会えないじゃないっすか!? 」
「ごめん、相手さんの連絡先はこれ。息吹さんって人らしい。俺なんかがいなくても、バブルの時代じゃあるまいし、会おうと思えばすぐに連絡くらい取れるだろ。金が足りなかったら今度渡すから。じゃあっ…… 」
「はあ!? 先輩っ、俺たちを置いて行かないでくださいよぉ~ 」
吉岡は少しだけ物悲しい表情を浮かべると、野上たちに手を軽くあげて会釈した。
取り敢えず、新宿三丁目駅から向かうのがスムーズだろう。それから駅の売店で 例の週刊紙は絶対に買い求めなくてはならない。
吉岡は足早に野上たちの元を離れると、決して振り返ることはなかった。
何とか自宅に戻ると、朱美は玄関先で 靴も脱がずに腰を下ろした。電気をつけないと 六月でもこの時間は既に少し暗い。
動悸が酷いし、上手く呼吸もできない。朱美はハンカチで口元を押さえると、ニ三回大きく深呼吸をした。そんなことでドキドキが治まるとも思えないが、とにかく今は苦しくて仕方がない。一体何が起きたのか、いまいち状況がよく分からなかった。
朱美はそのままパタリと横になると、おもむろに鞄を漁り始めた。手探りで無理やりスマホを手に取ると、液晶を立ち上げる。取り敢えず、息吹と吉岡には 今日は新宿には行けないであろうことを伝えなくてはならない。朱美溜め息をつきながら、スマホのロックを解除する。するとそこには 不在着信と一件のメールの通知があった。
桜ねぇ……? から……?
桜から着信があるなんて珍しい。それにメールまで?朱美は取り敢えずメールを開くと、そこには短い文章でこう書かれていた。
『事情はよくわかないけど茜からの伝言。今日は家から出ないで、だって 』
『茜、携帯なくしたみたいで、私の店経由で連絡来たみたい 』
『くれぐれも気を付けてね。何かあったら連絡して 』
……遅いよ ……バカ
朱美は、もう泣きたい気分だった。タイムスタンプを見ると、丁度自分がマスコミに囲まれていた時間だった。
あと十分……
あと十分早ければ、回避できたかも知れない。
朱美は悔やんでも悔やみきれない気持ちになりながら、
『わざわざ伝言ありがとう。私には意味わかったから大丈夫 』
と返事を打つと、読み返しもせずにそれを送った。本当は今この状況を泣きついて相談したいけれども、他人を捲き込むわけにもいかないし、自分は無意識に見栄を張っているのかもしれない。茜のことを気遣う余裕は今の自分にはないけれど、彼女は彼女で今大変なことになっているのだろう。
朱美は息吹と吉岡に、
『急用が出来て、今日は新宿には行けそうにないです。ごめんなさい。皆さんで楽しんでください。キャンセル料は、立て替えといてください。後日、必ず払います 』
と文章を打つと、深い深い溜め息をつく。
こんなときでもお金の心配ができるなんて、案外自分は冷静なのかもしれないと思った。
◆◆◆
「ったく、あの野郎…… 電話に出やしない…… 」
吉岡はいきり立って終話ボタンを押すと、アイスラテを煽った。それは当然の報いだろう。何たって発起人が、急に理由も告げずにドタキャンすると言い出したのだ。
チーム吉岡の面々は既に新宿に集まっていて、丁度カフェのテラス席で、男四人でコーヒーブレイクを始めたところだった。
今日のメンバーは、元々吉岡が専攻していた動画作成チームを主体としたメンバーで、半ば非リア充の後輩や同級生を動員した。但し如何せん面識がない者同士がいたので、先に作戦会議をする予定……だった。他のメンバーは冷静を装っているが、内心不安そうな表情を浮かべているものもいる。
「あの……吉岡さん? その幹事の方…… 体調でも優れないんじゃないですか? 」
そう吉岡に声をかけたのは吉岡よりもだいぶん若いのに、しっかり者の野上だった。若手の音効見習いだが、既に大口の仕事もこなしている努力家だ。
「いや、正午過ぎに連絡したときは、元気そうだったけどね? ほら、わざわざ写真まで送ってきたし 」
吉岡はそう言うと、スマホを野上やその他のメンツに見せた。そこには朱美がニコニコとしながら、何かを片手に自撮りをしている朱美の姿があった。
「つーか、この女性、可愛いっすねー 」
そう声をかけたのは、吉岡の大学時代の後輩の田中だった。
「へっ……? いま、これ見て可愛いとか言った? 」
吉岡は目を丸くして、田中に再度確認する。田中は逆にその吉岡の態度に驚き、少し魚棹したような素振りを見せた。
「ええ。目もぱっちりしてて、睫毛が長そうで…… 」
「そう。それ、あの人の中身を知らないから、魔法にかかってる部分がデカイよ 」
「……? 」
吉岡はスマホを弄ると、再び朱美への連絡を再開した。今度掛ければ、十回目くらいの呼び出しだ。女子チームとの待ち合わせの場所は決めているし、朱美がいなくても会は始められるのだが、こうまで電話にでないのは珍しいし逆に気がかりでもある。少し暑いがカフェテラスを選択したのは、結果的に良かったのかもしれない。
五コール位したところで、プツリと呼び出し音が切れて、ディスプレイに通話中の文言が光っていた。
「神宮寺先生? あのー、吉岡ですけど…… 」
「……っッ 」
「……? 神宮寺先生? 」
電話の向こう側からは、声が聞こえてはこなかった。若干の雑音が彼女の嗚咽だと気づいたのは時間差で、吉岡は思わず席を立つ。足取りは自然と早まっていく。道路の方まで移動するころには、胸騒ぎがしていた。何だか嫌な予感がする。
「神宮寺先生っ? 神宮寺センセっ! 」
吉岡は人目も憚らず、ひたすら電話の向こう側に向かって声を圧し殺しながら荒げていた。電話の先には今にも泣き出しそうな、自分の天敵というか、神様というか、少なくとも自分の存在意義を肯定してくれる人の微かな声しか聞こえない。
「……ごめん、私、幹事なのに、今日はそこには行けなさそう。マンションを出たら……マスコミの人がいて…… 怖かった…… 」
朱美は、声を振り絞るように有声音にすると、また何かを堪えだした。
彼女は涙を堪えている……
吉岡には、それがすぐにわかった。
「……っていうか、そんなことは今はどうでもいいですっ。それよりっッ、先生は、いま何処にいますっッ? 」
「いまは、自分の部屋…… 電車乗るつもりだったから、ちょっと歩いたけど、物凄い勢いでついてこられちゃって…… 十メートルでギブした 」
「はあ!? 素人相手にっッ…… いまのマスコミは、ホントゴミ野郎ばっかりだなっッ 」
吉岡は普段なら絶対に使わないであろう乱暴な言葉で敵を罵ると、深い溜め息をついて、直ぐに我に返る。ただでさえ朱美が動揺しているところに自分まで冷静を失ってしまったら、完全に負けてしまう。
吉岡は受話器の口元を覆いながら、野上達のいるカフェに歩いていくと、着席するなり一気にアイスラテを飲みこんだ。
「あの、先生? マスコミに追っかけられる、何か心当たりはありますか? 」
「……そんなのあるわけないじゃん。自分で言うのもなんだけど、きちんと青色確定申告をしてるし、アシさんたちにも、ちゃんとお給料払ってるもん。原因は…… 」
「何ですか? ……理由は、わかってるんですか? 」
「揉みくちゃになりながら、御堂アナウンサーとか…… 」
「あの、もしかして それって……スパンキー須藤と御堂さんが、うんちゃらかんちゃらのヤツですか? 」
「多分、それビンゴ。っていうか、何で吉岡が知ってんのよ!? 」
「そんなの、いま先生に説明してる時間はありません。先生こそ、御堂茜とまだ接点あったんすか? 」
「もちろんよ。あれから、茜とは友達だもん。そんなことより、今日…… 」
「取り敢えず、その事は後です。まずはマスコミを巻くこと考えないと 」
吉岡は一頻り頭をかき乱すと、野上たちに背を向けて、クラッチバックから手帳を取り出した。その不可解な行動の一部始終を見ている野上たちは、キョトンとした表情で吉岡を見ている。
「先生、いまから…… 僕も…… 」
「そんなことをしたら……吉岡も 行けなくなっちゃうんじゃ…… 」
「先生、僕の心配は後です。いまは、取り敢えずマスコミを巻くことに集中しましょう 」
「でも、これは私の個人的な プライベートの問題だし、その、吉岡に迷惑を掛けるわけには…… 」
その言葉を聞いた瞬間、吉岡は更に態度を硬化させた。
「先生、急に他人行儀になるのは止めてください。対処しないと、奴らはずーっと張り込んできます。先生だけじゃなくて、他のマンションの住人にもかなりの迷惑を掛けちゃうんですよ 」
「うっ…… 」
「とにかく、先生のご友人の連絡先を私に教えてください。僕らは抜きで、取り敢えず会を始めてもらいましょう。それしかありません 」
吉岡は朱美から息吹の連絡先聞き出しメモを取ると、電話を切って はあ……と息ついた。
朱美は たかだか合コンではあったが、それを励みにこの数日間を頑張っていた。何も今日でなくても良かったじゃないか、と吉岡は感じてしまう。だけどそう思うことは、同時に昔の自分の忘れたい傷を抉るようなもので、複雑な気持ちになった。
「吉岡さん、どうしたんですか? 顔ざ真っ青っすよ? 」
野上がすかさず吉岡には声をかけたが、吉岡は急に覇気がなくなって大人しくなっていた。
「ああ、ちょっとね…… 」
吉岡は言葉を濁しなかわら、財布からニ万円を抜くと、それをパッと野上に手渡した。
「悪い、俺ちょっと今から仕事に行くわ。急用ができちゃって…… 」
「えっ、へっ!? ちょっ、幹事がいないと、女子に会えないじゃないっすか!? 」
「ごめん、相手さんの連絡先はこれ。息吹さんって人らしい。俺なんかがいなくても、バブルの時代じゃあるまいし、会おうと思えばすぐに連絡くらい取れるだろ。金が足りなかったら今度渡すから。じゃあっ…… 」
「はあ!? 先輩っ、俺たちを置いて行かないでくださいよぉ~ 」
吉岡は少しだけ物悲しい表情を浮かべると、野上たちに手を軽くあげて会釈した。
取り敢えず、新宿三丁目駅から向かうのがスムーズだろう。それから駅の売店で 例の週刊紙は絶対に買い求めなくてはならない。
吉岡は足早に野上たちの元を離れると、決して振り返ることはなかった。
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