乙女ゲームに転移したけど無理ゲー過ぎて笑える(仮)

鍋底の米

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まさかの壁ドン

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 翌日は無理をしない程度ならとベッドの上から下りることを許されたので、ファリが訓練に出掛けた後は、貸して貰った本を読んだりして部屋でゆっくりと過ごしていた。

 昨日の夕方、メイドさんに伝えておいたら、ローゼさんが様子を見がてらその日のうちに本を借しに来てくれたので、替わりに精査したいと言われていたブックレットと一緒にパッケージごと渡しておいた。

 その際、ついでに気になっていた攻略対象のプロフィールについて質問をしてみたら、星座や血液型は、乙女達が相性占いなんかを楽しめるよう、遊び心で記載されているだけだと教えてくれた。
 この世界では暦も天体も元の世界とは違うので12星座は当てはまらないし、ABO式の血液型も存在しないらしい。

 まぁ、そうだよな。分かってた。
 けど、はっきり答えを聞けてちょっとスッキリ。

 ちなみに暦は、1年が360日、それが90日ずつ水期、火期、地期、風期の4期に分かれている。春夏秋冬みたいな季節を思い浮かべるけれど、どちらかといえば月のような扱いをされている。また、90日を上 中 下かみ なか しもの3つに分けて、水期のかみ…などという風に呼んでいる。
 元の世界と比べて1年の日数に少々違いはあるものの、10年でも1ヶ月ちょっとのズレであり、そう大きくは変わらない。

 ローゼさんが持って来てくれた本には、このような世界の基本的な知識が分かりやすく書かれていた。


 ソファーにもたれて本を読みながら過ごしていたら、ギルオレさんとレスニースさんがお見舞いに来てくれた。

 用事を済ませて屋敷に帰って来てみたら、おれが倒れたと聞き、慌てて様子を見に来てくれたみたいだ。

 お疲れのところ申し訳ない。

 向かいのソファーにはレスニースさんが座り、おれの隣にはギルオレさんが座っている。
 そしてやっぱり距離が近い。
 隣から心配そうに顔を覗き込んで来るギルオレさんと肩が触れそうになっている。

「起き上がっていて本当に大丈夫なのですか? 辛いようなら支えますので遠慮なく凭れかかって下さいね」

 目覚めた後は体調が良いと伝えたのだけれど、それでも心配してくれている。
 おれも他の人が3日も目覚めなかったと聞けば、いくら元気だと言われてもやはり心配するだろう。

「はい、大丈夫です。意識を失っていたなんて信じられないくらい元気なんですよ」

「…どうか御無理はなさらないで下さいね」

 そう言って濃緑色の瞳に労わりを乗せて見つめてくる。

「はい、分かりました。ありがとうございます」

 お礼を言って笑顔を返す。

 そうだ、クエストの件もあるし、ギルオレさんのスケジュールを聞いておこう。

「…あの…ギルオレさんはずっとお忙しいんでしょうか?」

「いえ、そうでもありませんよ。学園に戻る時期まで間もありますし。……もしかして何かご用命がございますか? カズアキ殿の為でしたらなんでも承りますよ?」

 胸に手を当て、満面の笑顔を向けられる。

 用っていうか、クエストの為にデートをして貰いたいんだけれど…。
 正面切って「おれとデートして下さい」とは到底頼めそうにない。突然男にそんなことを頼まれたって引かれてしまうだけだろう。そうなったら好感度の上昇なんて望めない。

 王都を案内してもらうってのはどうだろう?
 2人だけで行けばデートとしてカウントして貰える…かも?

「その…体調が良くなったら、王都を案内して欲しいんです。…出来ればギルオレさんと2人きりで出かけたいんですけれど……ダメですか?」

 要はただの観光案内をギルオレさんに内緒のままこっそりとデートとして判定させてしまおうという目論見なんだけれど、どうにも罪悪感で歯切れが悪くなってしまう。

 こんな事が後でバレたりしたら…嫌だろうなぁ…知らない間に男相手にデートさせられているなんて…。
 おれじゃなくて、本来転移して来るはずだった女の子が相手なら、ギルオレさんにとってもご褒美イベントってヤツになったかもしれないのに…。

 後ろめたいけれど…申し訳ないけれど…背に腹は変えられない。

「私と…2人きり…で……?」

 ……んっ?!

 冷やりとするような鋭い視線を感じて顔を上げると、正面のソファーに座っているレスニースさんと目が合った。

 レスニースさんは、腕組みした二の腕を指先でトントントンと繰り返し叩いていてイラついているように見える。

 あれっ?! すっげー機嫌悪いっ?!

 冷え冷えとした視線が痛い。

「嬉しいです! カズアキ殿からお誘いして頂けるなんてっ…」

 ギルオレさんに視線を戻すと、パッと花が咲いたように表情を輝かせている。

「沢山お連れしたい所がありますよ。…あぁ、とても楽しみです」

 ギルオレさんが喜んでくれている!
 善意と好意100パーセントの笑顔を向けられて、後ろめたさのあまり目眩がする。

 そ…そんなにキラキラした目で見つめられると辛い!



 2人が部屋を出て行ってから数分後、レスニースさんだけが戻って来た。

 部屋の扉を閉めた後、覆い被さるように壁に両腕を突かれて囲われている。所謂壁ドンてヤツだ。

 えっ?!女子ってこんなのにときめくの? めっちゃこえーんだけどっ?! 体格差も相まって圧が凄いっ!

「…あんたさ、どういうつもり?」

 見下ろしてくる瞳は中心部が黒く、虹彩はブルーグレー。髪と同じ組み合わせの色合いだ。

「ど…どういうつもりって…」

 冷たい視線に下心を見透かされているようで怖い。

「あんた、ナファリードのつがいなんじゃねーの?」

「つ…番?」

「伴侶のことだよ。獣人同士なら番っつーんだ。で、どうなんだ?」

「そ…そうですけど…」

 おれの返答に目を眇め、いち段と声を低くする。

「だったらウチのを弄ぶような真似は辞めて頂きてーんだが」

 レスニースさんの尻尾がピシリと壁を叩く。

 も…もてあそぶ?!

「そ…そんなつもりはっ」

「無かったとは言わせねーよ。あんた、なんか裏があんだろ。匂いでわかんだよ」

 み…見透かされている…。
 レスニースさんの嗅覚がすごいのか、おれがキョドりすぎていたのか。…ってどっちもか?

「わざわざ2人きりでとか、思わせぶりなこと言ったよな? あれでギルは完全に舞い上がっちまってたわ。…あんたは恩人だからこういう事は言いたくねーけど、純情なウチのギルの恋心を弄ぶつもりなら……容赦はしないぜ?」

 はっ?!

「こ…恋心?!」

「まさか気付いて無かったとは言わねーよな? あんな分かりやすく好意を示して距離を詰めて来てただろ」

 いやいやいや、パーソナルスペースの狭い人だと認識しておりましたっ。
 ファリと想い合っているおれが言うのも何だけれど、そもそも男同士だし……って……そうかっ!この国では男同士の結婚も認められていたんだっけ?!

「…寝耳に水です。ギルオレさんの親切心からだと思っていました。た…確かに事情があって思惑はあるんですけど、ギルオレさんを弄ぶつもりなんて…」

「…どんな事情?」

 レスニースさんは追及の手を緩めない。
 仕方がない。クエストはギルオレさん以外の人とクリアするしかないか。

「それは…….       」

 ん?

「           」

 あれ?

 クエストの話をしようとしたけれど、思うように口を動かせず、言葉が音にならない。

 …あっ!? そうか!ローゼさんとの誓約魔法!

 両手のひらで口元を覆う。
 あの部屋でクエストの話も出たから誓約魔法の対象となって話せなくなっているんだ。
 話す為にはローゼさんの許可が必要となる。

「…すみません。ローゼさんとの誓約があって事情は話せないんです。ローゼさんと相談して許可が出たらお話しします…」

「……お嬢が絡んでいるのか。……分かった。確認はとらせて貰うが一応信用する」

 ローゼさんの名前が出た途端、レスニースさんの瞳から剣呑な光が消えた。
 囲われていた腕も外される。

「……疑って悪かったな。脅すような真似してすまん」

 ポンと肩に手を乗せられ謝罪される。

「い…いえ、こちらこそすみません」

「ギルの気持ちが報われないことは分かっているが……。なるべく傷つけないでやって欲しい。…よろしく頼む」

 そう伝えてレスニースさんは部屋を出て行った。

 レスニースさんはギルオレさんを大切にしているんだな…。
 いつもこうやって表でも裏でもギルオレさんを守っているのだろう。
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