乙女ゲームに転移したけど無理ゲー過ぎて笑える(仮)

鍋底の米

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張り巡らされた罠

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 日が落ちるまで移動を続け、一晩野営をして過ごし、朝からまた移動を続けて数時間後、ようやく森を出ることが出来た。

 ブックレットの地図を見た時も思っていたけれど、レニンの森、ホント広かったなー。

 ブックレット記載の地図でも全ては収まりきっていない。ラズデルト王国を中心として描かれた地図の縮尺の問題もあるが、王国の東西の隣国は、国境と森の境が記されていはいたが、森の全容は記されていない。
 ファリに聞いた話では、ラズデルト王国なら三つ分くらいは楽に収まるほどの広さだそうだ。ラズデルト王国自体は、周辺国の中では一番大きな国であるにもかかわらずだ。

 レニンの森はどこの国のものでもなく、森の境が接している各国の国境となっているらしい。

 もちろん、過去、この広大な土地を自国のものとしようとした国は少なくなかった。
 しかし、所有を主張する国には何故か災いが降りかかり、それでも無理を押し通そうとした国は滅びていったそうだ。

 そんな経緯があり、この森は不可侵な土地とされてきた。

 ファリの国ではレニンの森は聖域であると見做されており、通常は無闇に奥まで足を踏み入れることはないそうだ。

 おれ的には、こんな魔物や魔獣が跋扈するような森に神聖さはカケラも感じられない。

 ここでファリと出会ったんだと思うと、特別な場所だという気持ちにはなるのだけれども。



 目の前には平地が広がり、前方には人里へ繋がる道が伸びていた。

 先を急ぐ為に魔物を避けて進んで来た結果、どうやらラズデルト王国からの森への入口とされている場所のひとつにたどり着いたようだ。
 今朝から歩いてきたルートは、人が通った跡が見受けられ、森の外に近づくにつれ、道筋もはっきりとしてきていた。
 森へ入るのに比較的安全なルートとして使われているのだろう。


 枝葉に遮られない空を見るのは久しぶりだ。 

 こんなに何もない空は開放的すぎて、逆にそわそわしてしまう。
 森の中よりはずっと開けてはいるけれど、ビルや住宅に遮られていた都会の空を見慣れていたからだ。


 さて…

 考えると決心が鈍りそうだったから、あえて考えないようにしていたけれど、とうとうファリと別れる時が来てしまった。
 ゴクリと唾を飲み込み、ひとつ、大きく息を吸い込んでから口を開く。

「ファリ待って」

 先を急ごうとしているファリを引き留める。

 おれの呼びかけに足を止めて振り返ったファリに謝意を伝える。

「ここまで送ってくれて、本当にありがとう」

 心からの気持ちで、自然に頭が下がる。
 ここは日本とは違うから、お辞儀の意味が伝わるのかは分からないけれど。

「おれ、この先は一人で行くよ」

 おれの言葉にファリが首を横に振る。

「私も共に行く」

 ファリの気持ちは嬉しいけれど、それは駄目だ。
 ここから先は人間の国だ。瀕死の怪我を負った獣人に見向きもしない程に、人間は獣人を蔑んでいる。ファリにとっては、決して居心地が良いとは言えないはずだ。

「心配してくれているのは分かるけど、おれは大丈夫。この先は人里だから、魔物もあまり出ないだろうし、一人でも行けるよ。…ファリには借りばっかり作っちゃったままで申し訳ないんだけどさ…」

 少しでも心配させないようにと、軽い口調で言って笑ってみせる。

 おれ、ちゃんと笑えているかな?


「わたしは… ……っ!?」

 ファリが口を開き、何か話そうとしたが、ハッと顔を上げ、何かから庇うようにおれを背に隠した。

 耳も尾も毛が逆立ち警戒を示している。

「こんにちは」

 ファリの背から前をのぞくと、ほんの2、3メートル先に、いつの間にか一人の老いた男が立っていて、こちらに挨拶をしてきた。

 頭には日差しを避ける麦わら帽子に似たものを被り、少し腰が曲がっている。背には籠を背負っていて、中には収穫した野菜のような物が入っているのが見えた。
 どうやら農作業をしていた老人のようだ。

「こんにちは」

 ファリが警戒していたので緊張していたが、ただのお年寄りだったのでホッとして挨拶を返す。

「この辺に住まわれている方ですか?」

 返事に続けて聞いた後、ファリの背から出ようと足を一歩踏み出した。

「カズアキ! 駄目だ!」

 ファリがおれの体を押し戻し、老人に剣を向けて斬りかかる。

「おやおや、さすが獣。…敏感なことで。しかし…ちと遅いですな」

 老人が言い終わらないうちに、おれの足元から現れた蔦のような物に身体が拘束される。

 ファリが振り下ろした剣は、老人を切り裂いたように見えたが、その体は陽炎のように揺らめいて跡形もなく消えた。

「残念ですが…」

 先程のしわがれた老人の声とは違う、どこか神経質そうな男の声が、真上から降ってくる。

 ビクリとして見上げると、背の高い中年の男がおれの真横に立ち、落ち窪んだ眼窩の奥のくすんだ水色の目で、冷くファリを見据えている。

 全身を雁字搦めに蔦で拘束されているせいで、手足を動かすことができない。バランスを崩し、倒れそうになった体を、隣の男に強く肩を掴まれて引き戻される。骨ばった指先が肩に食い込み、痛みで顔を顰める。
 反対の腕に握ったナイフはおれの首元に当てられている。

「…既に罠に掛かった後です」

 捕獲されたおれに向けられているナイフを見てファリの足が止まる。

「躾の良い獣は好きですよ。良い奴隷になりますからね」

 男が言い終わらないうちに、ファリの膝が崩れ落ちる。

 ふわりと吹いた風に乗って、何か甘い匂いが漂ってきた。

「ファリ!」

「カズ……」

 ファリが意識を失い、地に倒れ伏す。

「ファリ!ファリ!」

 駆け寄りたくて、もがく。しかし全身に巻きついた蔦はビクともしない。
 何処からともなく二人の男が姿を現し、ファリの首に首輪のような物を嵌めた。

「やめろ!ファリに触るな!ファリに何をした?!」

 ファリは意識を失いぐったりとしている。
 その体をどこかへ運び去るつもりか、二人の男のうちの一人が肩に担ぎ上げた。
 
「ファリを離せ!」

 男達に向かって水魔法を放つが、何故か発動しない。

 意識してもう一度攻撃すると、魔法が形作られる前に、魔力が吸い取られるように消えていくのが分かった。
 体中に巻きついたこの蔦が、放とうとした魔法分の魔力を吸い取り魔法を放てないようにしているようだ。

「獣の意識を刈り取る強力な薬を撒いていたのですよ。分不相応な高価な薬だ。獣に相応しい隷属の首輪も共に贈ろう。感謝したまえ」

「っ!ふざけるな!ファリ!ファリ!」

 ファリの元へ駆けつけようともがくおれの頭上から、ふう、と気怠そうな溜息がひとつ落ちる。

「五月蝿い」

 男がそう一言吐き捨てるのと同時に、体に巻きついた蔦の締め付けが強まり、息ができなくなり意識が遠のく。

 ファリ! ファリ…を……かえ……せ………



 意識を失ったおれの首には、男の手により、ファリと同じ首輪が嵌められていた。
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