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ようこそ、乙女ゲーの世界へ

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「ぅ……ぅぅっ!」

 痛む額をさすりながら、上半身を起こす。
 片膝を引き寄せて座り、視線を落としたまま目を開けると、制服のズボンの間から地面が見えた。
 ズボンが地面に接していた所が土埃で汚れている。

 …土?

 学校から自宅までの帰り道に土の地面などない。全てアスファルトの道路だ。車道沿いの街路樹の下には土もあるが、こうして座っていられるような広さなどない。

 キョロキョロと周囲を見まわす。

 ぐるり360度、全てが木々でおおわれていて、ほとんど緑と茶色のみの光景が目に入る。
 ザワリ、と風が枝葉を揺らす音がして、頭上を見上げると、木々の隙間からわずかに青空がのぞいている。
 風が運んだ草木独特の、湿ったような深い香りが鼻腔に広がった。

 はぁぁっ???

 驚愕にポカンと口が開いてしまう。

 森? …森なのか? …ぇ…森ぃ~っ?!

 訳がわからなすぎて、何度も森、森と脳内で呟いてしまう。

 いつも通り、部活を終えて、帰宅途中だったはずなのだけれど…。陽も落ちかけて空もオレンジ色をしていたのに、今は青空で… 何故か森の中で…。

 押し迫ってくるような緑に圧倒され、平衡感覚を失い、思わず後ろ手をついて、ふらついた体を支えた。

 指先に、コツンと何かが当たる。

 びくっと反射的に体を引いて、恐る恐る振り返って見る。
 手に当たったものは、非常に目立つ、カラフルな箱であった。森の中では異物感が否めないが、この状況よりは余程親しみの持てる見なれた形の箱。

 ゲームの箱だ。

 手に取ると、通常のゲームの箱に比べてかなり分厚くて重い。パッケージの表面に、『初回限定!豪華特典♡超美麗解説ブックレット付き!』という大きなシールが貼られているのが目についた。

 なんのゲームだ?

 デザインがきらびやかすぎて少し読みにくいタイトルロゴを確認してみる。

『ハーレム学園 どきどき♡サバイバル ~乙女の本気モード~』

 …乙女ゲームか!!

 タイトルを把握したのが引き金となり、ふと記憶が蘇る。

 帰宅途中、コンビニに寄り道して… 買い食いした後店をでて… それで…
 脳裏に、キキーッと響く甲高い音が再生される。
 そう、車の急ブレーキ音がした… で、ドン! とぶつかる音もして… びっくりして振り返ってたら、猛烈な勢いで飛んできた何かがおれの額にぶつかって……

 …って! ぶつかったの、これか!

 手に持っている乙女ゲームを両手で握りしめる。なかなかの重量感だ。

 衝撃で脳が揺さぶられ、気を失う直前に、車に轢かれて血を流している女の子が、某ホラー映画の井戸から出てくる幽霊のように這いずってきているのが目に映り…

「わ~た~し~の~どきサバ~~~」

 必死にこちらに手を伸ばしながら叫んだ声を聞いたのを最後に、おれは意識を失ったのだ。
 そして今に至る… と。

 だけど、なんで森なワケ??
 ここどこだ?
 どんだけ気絶してたんだ?

 パリッ…

 不安で握りしめていたゲームの箱を覆っていた薄いフィルムが、親指の摩擦で破れてしまった。

 フォンッ…

 同時に半透明のモニター画面のようなものが目の前に現れ、映像と音楽が流れ始めた。

 控えめだが可愛らしい女の子が、制服のスカートを翻してくるりと回る。赤いカチューシャをつけたボブカットのサラサラの茶髪がふわりと広がる。
 次のカットで、両手を組んで祈るようなポーズを取り、白い光を身に纏う。
 次に、少しクセのあるミディアムショートの金髪を揺らして、グリーンアイズのいかにも王子様風のキラキラしいイケメンが現れ、気品を感じさせる微笑みを浮かべ、こちらに手を差し出すようなポーズを決めた後、祈る女の子の左上あたりに収まる。
 続いて銀色の長髪に、涼しげな切長の、アイスブルーの目をした理知的な青年が、本を片手に眼鏡を押し上げながら現れる。眼鏡のフレームの片側からは銀の細い鎖が垂れ、眼鏡が押し上げられると、さらりと揺れた。彼もまた乙女を囲む位置におさまる。
 イケメン達が放つキラキラエフェクトがとにかく眩しい。
 この後も次々と様々なイケメン達が立ち替わり現れては女の子を囲んでいき、最後にタイトルロゴが画面いっぱいに現れ、縮小されながら少女の下に収まる。

『ハーレム学園 どきどき♡サバイバル ~乙女の本気モード~』

 いきなり流れ出した映像は、乙女ゲームのオープニングだった…

 なんだコレ……
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