上 下
3 / 5

どようのうし

しおりを挟む
 しょうづかのおばあのもとへきました。

「はい、六文ろくもん
交通系こうつうけいICで」
「そこにや」
「はい、ここにタッチ」


   *


りなさい」
 くろ着物姿きものすがた童女どうにょ人形にんぎょのような容姿ようし、そして表情ひょうじょう
ほかにも女子おなごはおんの?」
「いるよ。でも乗るのはひとり。「おおくしてふね、山にのぼる」よ」
そらふねのおはなしはんだことあるけど、山には登らんなぁ」
「そう。指示しじする人が多いとこと見当外けんとうはずれな方向ほうこうへすすんでいくのね」
検討けんとうしときます」

「えっ?」
 振り返ふりかえると、ぷるぷるふるえてはる。

「ついたら「冥土めいどきっ」にろかな?」
 ぷるぷる・・・

映画えいがたほうがえいが?」
 ぷるぷるぷる・・・

 月尊優つきみことゆうもうします。
 わたしの名前なまえ十分じゅうぶんおめでたいですが、せがれに、めでたく、健康けんこう長生ながいきできる名前をつけようと、いろいろとうかがってまいって、そこからひとつをえらべず、全部ぜんぶくっつけてみました。

 じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ
 かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ(以下略いかりゃく

 うしきにうずくまっている舟頭せんどう


「ついたわ。そこへタッチして」
 電子音でんしおんり、六文が引き落ひきおとされる。
つぎがあるから。わたしはここで」

 商店街しょうてんがいのぱちんこにチラシがはったぁった。他人たにん空似そらにかな?


   *


 左へれて、真っ直まっす冥土筋めいどぅすじあるいて参ります。
 寿限無じゅげむやないけど、銀行ぎんこうの名前もなごなりましたなぁ。
 そして、まえにそびえるえんまかく。


 亡者もうじゃれつへついていきます。

「お前はそっちやない、こっち!」
みな、あっちいってますやん?」
新幹線しんかんせんまっててな。わりに飛行機ひこうき江戸えどへいくそうや。で、南海なんかいやのうて、何回なんかいくるんやお前は?」
「じごくどう人間にんげん道をて3回目かいめですか?」
「ほうか、お前は前世ぜんせおくる。おもいだすべきことがあるはずや」


   *


今日きょうははまっこと(本当ほんとうに)あついねえ」
「はっ」
「こんなこんまい(小さな)子までひきよるがやね(ひくんだね)?」
「ええ。もうすぐまつりです。朝早あさはようでて、おそなるとか」
「そがなんか(そうなのか)。おまんが(お前の)ところにもあるがぁ(あるのか)?」
「ええ。こちらでは天神祭てんじんまつり一番いちばん大きいでしょうか。閣下かっか中央ちゅうおう復帰ふっきされたあととなるのが残念ざんねんですが」
「ひだりいけ(はらったし)、めししようや(にするか)」
「今日は土用丑どよううしの日です。はどうでしょうか?」
か?」
たしかに細長ほそながいですが、うなぎであります」


   *


 しきへ上がります。

「まむしふたつ」
「まっちょりや(まて)、特上とくじょうにしようや(しよう)」

たところ、普通ふつうが(普通の)どんぶりねあ(丼だね)」
 わたしは閣下がはしをつけてから食べ始たべはじめます。
「ごらんください、中にもございます」
「こじゃんと(見事みごとだ)。うなぎといえば重鎮じゅうちん清浦きようら閣下か」
饅香内閣まんこうないかくですね? かおりがしていても肝心かんじんのうなぎがこなかったとか」


   *


 明日あすかえられる日。夕刻ゆうこく夕方ゆうがた)から酒宴しゅえん(宴かい)でした。

「「黒松白鹿くろまつはくしか」。西宮市にしのみやしの「辰馬本家酒造たつうまほんけしゅぞう」か。西宮はおまんがきな大阪おおさかタイガースか? わしはとらかんが」
社会事業しゃかいじぎょう教育きょういく事業に熱心ねっしんで、天皇陛下てんのうへいかより激励げきれいさずかった素晴すばらしき酒造さんにございます」

 閣下はかなりの酒ごう(大酒おおざけのみ)だとうかがっております。よわいかたからつぶれていきました。

「閣下、お休みになられましたか」
きてる。おまんもつよいな」
「はっ、おぼれることはございません」
「いまからあそびにいくか?」
汽車きしゃ時間じかんがございます」


   *


せんそうはしょうまっこといかん(本当に本当にいけない)」

「これまでどおり下のものをいたわり(いたわりなさい)。日本にっぽん未来みらいわかもの背負せおう。まずはいまが子どもを笑顔えがおにし(笑顔にしなさい)」


 わたしは終戦前日しゅうせんぜんじつに、閣下はつぎとし刑死けいししました。

 天皇陛下はその平和へいわごされ、昭和しょうわ六十ねんがつ側近そっきんたちと鰻重うなぎじゅうしあがられた。
 初子はつねの日で土用どようまえ十干じっかんみずのえでありました。


   *


「お前は、かえったらまずなにをべたい? たのしみにしておれ」


   *


 なり、出前でまえとどきました。おじゅう
「おだいねがいします」


 いままでで一番の重ばつにございます。


----
落語らくご「寿限無」より引用いんよう
しおりを挟む

処理中です...