せみと

せみと

　銭ぜにがない。今日きょうに始はじまったことではないけれど、うちにはないのです。
　ほう公こうにだされることになりました。子供こどものわたしも働はたらきにでるのです。
　なにも持もたずにこのままいっても大だいじょう夫ぶだそうです。向むこうにはなんでもそろっているからと。


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　お屋やしきへはひとりでいきました。

　着ついたらまず着替きがえさせられました。
　本当ほんとうに、きてからなにもしていません。
　他ほかの人がする仕事しごとに手てをだしてはならないのです。
　お屋やしきの中にはたくさんすることがあります。そのためにたくさんやとわれています。
　わたしはなんのためにやとわれたのでしょう？
　飯めしをたくことも、あとを片かたづけることも、手伝てつだいさえしないのでした。


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　部屋へやにあるものは自由じゆうに使つかって良よいとのことでした。
　小机こづくえと書しょもつと筆ふでとすずりと。
　わたしは読よみ書かきもそろばんもできません。
　ですのでわたしに先生をつけてくださるそうです。

　部屋へやにはおふとんがありません。
　夜はだんなさまのお部屋で休むからでした。


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「そなたのようなものがここへ至いたるとは思おもってもみなかった。わしは無理強むりじいはせぬ。嫌いやがるようなことはせんよ。ただ寝ねているだけで良い。」

　本当に、ただ寝ているだけでした。


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　明あけがた、目がさめました。
　おべんじょへいこうと思おもったけれどお父とうからいわれたことを思いだしました。

「しょうべんすれば逃にげられる」

　なんのことだかわかりませんでした。おねしょをするようなおさない子と思われて帰かえされてしまうのでしょうか？

　わざとおねしょすることにしました。
　でません。おべんじょやお外でするのとではかってがちがいます。
　目をつむり