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第一章:エクスレイ日本支部
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身長は私が少し見下ろすぐらいで背を撫でる横並びの三つ編み、活発な容貌のその子はボタンを確認するだけでそのまま私の横に並んだ。
その間、流れていたのはエレベーターの機械音だけが鳴り響く少し気まずい沈黙。
「新入隊員だよね?」
すると隣から晴れやかな声でそう尋ねられた。突然の事に少し背の伸び、遅れて顔を横へ。そこではあの子がニコやかな表情で私を少し見上げていた。
「特殊戦闘部の」
私が返事をしなかったからかそう付け足し、同じ服だと自分と私を交互に指差している。
「は、はい」
「私、由布院《ゆふいん》蒼桜羽《あおば》」
彼女は改めるように笑みを浮かべると私の手を取り上下に振りながら自己紹介を始めた。
「太交……美沙、です」
そんな由布院さんに圧倒されながら反射的に自己紹介を返す。
「美沙ちゃん歳は?」
「じゅ、十八です」
「おぉー! 一緒じゃん」
キラッと目を輝かせた彼女はずっと握っていた手をまた上下に振り始め、私はされるがまま。
「よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします」
そのエネルギッシュさがエレベーター内を埋め尽くし私は端へと追いやられていると、いつの間にか到着したドアが解放するように開いた。ずっと握られていた手を離し先に降りる由布院さん。少し遅れながらもドアが閉まってしまう前に私も。
「そーだ!」
エレベーターを降り数歩進んだ所で、由布院さんは言葉と共にクルリと振り返った。
「折角の歳も同じの同期だし、私の部屋で色々と話さない? もっと仲良くなりたいし。何か予定とかある?」
「い、いや。別にないですけど」
「じゃあ、どう?」
迫る様に一歩前へ踏み出す由布院さん。
「べ、別に大丈夫ですよ」
「やったー。それじゃあ決まりね」
素直な笑みを浮かべ片手を上げた由布院さんはそのまま背を向けると部屋へと歩き出した。
「こっちこっち」
背を向けながらそう言われた私は更に空いた距離を数歩の駆け足で埋めると隣に並んだ。
「美沙ちゃんはあだ名とかあった?」
「いや、普通に美沙って呼ばれてましたよ」
「はい。イエローカード」
すると突然、由布院さんは無い胸ポケットからカードを取り出し私に見せる仕草をした。
「敬語禁止」
「すみません」
「はい。イエローカード。からのレッドカード」
「あぁぁ! すみ――」
また勢い余って出てこようとした敬語を咄嗟に両手で口を押え物理的に抑え込んだ。そんな私に対してもう一枚のカードを切ろうと胸ポケットへ手を伸ばしていた由布院さんの動きも止まった。
「まぁセーフかな」
三枚目なんていう謎のイエローカードを出されずに済んだ私は、口に手をやったままなのも忘れモゴモゴと言葉にならない声を出していた。遅れて気が付いたのだけどそのモゴった言葉は「ありがとうございます」なんてギリのセーフをアウトにしてしまうような言葉だった。
「私は蒼桜羽って呼ばれる事もあったけど、殆ど蒼桜って呼ばれてたかな。だから美沙ちゃんも蒼桜って呼んでね。それか新しいあだ名でも」
「じゃあ蒼桜……で」
あだ名のセンスがない私は込み上げて来た「さん」を何とか喉元で抑え付けながら答えた。
「いやぁーでも嬉しいなぁ。こんなに早く友達が出来るなんて」
彼女の積極性を考えれば時間の問題な気もする。
そんな会話をしているうちに部屋へ到着。全部が全く同じ作りなだけに正直、自分の部屋に帰って来たのと感覚は大差ない。
「とうちゃーく!」
上機嫌な声でそう言うとタッチパネルへ手をやった。
ドアが開き彼女の後ろか続いて中へ入ると、当然ながら私の部屋と作り自体は一緒。でも壁には私には分からないような芸術作品が飾られてたり、ベッドの片方には様々な縫い包みが置かれてたり、壁紙も白を基調にしたレンガ模様。私の部屋とは随分と違っていた。
「私のと全然違う」
それは思わず零れ落ちてしまう程に違う。
「そう言えば部屋自体はみんな同じなんだよね。これ以外は最初からだから全部屋こんな感じって思っちゃってたな」
由布院さんはベッド上の縫い包みを指差した。
「美沙ちゃんの部屋はどんな感じなの?」
「私のとこは別に何もない普通かな」
「ていうかさ――」
すると由布院さんの言葉を遮り、ベッドとは反対側にある部屋から誰かが出て来た。バスタオル一枚だけで体を隠したその女性はもう一枚のタオルで短い茶髪から雑に水分を拭き取っている。整ったハーフ顔は少しボーイッシュで王子様なんてあだ名が付いてても納得しちゃうカッコよさを兼ね備えていた。
「あれ? もう終わったわけ?」
「燐センパイこそ早いじゃないっすか」
先輩。その言葉を聞いて私はナナさんが言っていたことを思い出した。確か新入隊員は全員先輩と同室だって。ということはこの人も特殊戦闘部の先輩でつまり――。
「お邪魔してます! 初めまして! 私、この度特殊戦闘部に入隊しました太交美沙と言います!」
私は体育会系の声と共に浅はかな知識の敬礼をした。特殊戦闘部なんていうぐらいだし軍隊組織なはず。と言う事は上下関係も厳しい。私は良いスタートを切れたと堂々たる面持ちをしていた。
その間、流れていたのはエレベーターの機械音だけが鳴り響く少し気まずい沈黙。
「新入隊員だよね?」
すると隣から晴れやかな声でそう尋ねられた。突然の事に少し背の伸び、遅れて顔を横へ。そこではあの子がニコやかな表情で私を少し見上げていた。
「特殊戦闘部の」
私が返事をしなかったからかそう付け足し、同じ服だと自分と私を交互に指差している。
「は、はい」
「私、由布院《ゆふいん》蒼桜羽《あおば》」
彼女は改めるように笑みを浮かべると私の手を取り上下に振りながら自己紹介を始めた。
「太交……美沙、です」
そんな由布院さんに圧倒されながら反射的に自己紹介を返す。
「美沙ちゃん歳は?」
「じゅ、十八です」
「おぉー! 一緒じゃん」
キラッと目を輝かせた彼女はずっと握っていた手をまた上下に振り始め、私はされるがまま。
「よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします」
そのエネルギッシュさがエレベーター内を埋め尽くし私は端へと追いやられていると、いつの間にか到着したドアが解放するように開いた。ずっと握られていた手を離し先に降りる由布院さん。少し遅れながらもドアが閉まってしまう前に私も。
「そーだ!」
エレベーターを降り数歩進んだ所で、由布院さんは言葉と共にクルリと振り返った。
「折角の歳も同じの同期だし、私の部屋で色々と話さない? もっと仲良くなりたいし。何か予定とかある?」
「い、いや。別にないですけど」
「じゃあ、どう?」
迫る様に一歩前へ踏み出す由布院さん。
「べ、別に大丈夫ですよ」
「やったー。それじゃあ決まりね」
素直な笑みを浮かべ片手を上げた由布院さんはそのまま背を向けると部屋へと歩き出した。
「こっちこっち」
背を向けながらそう言われた私は更に空いた距離を数歩の駆け足で埋めると隣に並んだ。
「美沙ちゃんはあだ名とかあった?」
「いや、普通に美沙って呼ばれてましたよ」
「はい。イエローカード」
すると突然、由布院さんは無い胸ポケットからカードを取り出し私に見せる仕草をした。
「敬語禁止」
「すみません」
「はい。イエローカード。からのレッドカード」
「あぁぁ! すみ――」
また勢い余って出てこようとした敬語を咄嗟に両手で口を押え物理的に抑え込んだ。そんな私に対してもう一枚のカードを切ろうと胸ポケットへ手を伸ばしていた由布院さんの動きも止まった。
「まぁセーフかな」
三枚目なんていう謎のイエローカードを出されずに済んだ私は、口に手をやったままなのも忘れモゴモゴと言葉にならない声を出していた。遅れて気が付いたのだけどそのモゴった言葉は「ありがとうございます」なんてギリのセーフをアウトにしてしまうような言葉だった。
「私は蒼桜羽って呼ばれる事もあったけど、殆ど蒼桜って呼ばれてたかな。だから美沙ちゃんも蒼桜って呼んでね。それか新しいあだ名でも」
「じゃあ蒼桜……で」
あだ名のセンスがない私は込み上げて来た「さん」を何とか喉元で抑え付けながら答えた。
「いやぁーでも嬉しいなぁ。こんなに早く友達が出来るなんて」
彼女の積極性を考えれば時間の問題な気もする。
そんな会話をしているうちに部屋へ到着。全部が全く同じ作りなだけに正直、自分の部屋に帰って来たのと感覚は大差ない。
「とうちゃーく!」
上機嫌な声でそう言うとタッチパネルへ手をやった。
ドアが開き彼女の後ろか続いて中へ入ると、当然ながら私の部屋と作り自体は一緒。でも壁には私には分からないような芸術作品が飾られてたり、ベッドの片方には様々な縫い包みが置かれてたり、壁紙も白を基調にしたレンガ模様。私の部屋とは随分と違っていた。
「私のと全然違う」
それは思わず零れ落ちてしまう程に違う。
「そう言えば部屋自体はみんな同じなんだよね。これ以外は最初からだから全部屋こんな感じって思っちゃってたな」
由布院さんはベッド上の縫い包みを指差した。
「美沙ちゃんの部屋はどんな感じなの?」
「私のとこは別に何もない普通かな」
「ていうかさ――」
すると由布院さんの言葉を遮り、ベッドとは反対側にある部屋から誰かが出て来た。バスタオル一枚だけで体を隠したその女性はもう一枚のタオルで短い茶髪から雑に水分を拭き取っている。整ったハーフ顔は少しボーイッシュで王子様なんてあだ名が付いてても納得しちゃうカッコよさを兼ね備えていた。
「あれ? もう終わったわけ?」
「燐センパイこそ早いじゃないっすか」
先輩。その言葉を聞いて私はナナさんが言っていたことを思い出した。確か新入隊員は全員先輩と同室だって。ということはこの人も特殊戦闘部の先輩でつまり――。
「お邪魔してます! 初めまして! 私、この度特殊戦闘部に入隊しました太交美沙と言います!」
私は体育会系の声と共に浅はかな知識の敬礼をした。特殊戦闘部なんていうぐらいだし軍隊組織なはず。と言う事は上下関係も厳しい。私は良いスタートを切れたと堂々たる面持ちをしていた。
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