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第一章:エクスレイ日本支部

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「それでは整列して下さい」

 力強さを纏いながらも清水のような女性の声がそう言う頃には、コツンコツンと心地好い足音と共に私の横を通り過ぎて行った。長い黒髪のポニーテールを微かに揺らすその人の横顔がすれ違うように見えたが、一見しただけでも美人だと分かる程に整った容姿をしていた。
 そして黒いロングブーツと黒を基調としたロングコートの後姿はそのまま舞台へ。台の前に立ったその人はやっぱり凛とした美人だった。服装はコートと同じ様に黒を基調とした軍服のような上と下にはタイトミニスカートを履いている。

「横五列の順番は好きなように。早く整列して下さい」

 彼女が舞台に上がっても尚、中央付近に集まっただけの私達に淡々とした声はそう指示した。若干の戸惑いが漂いながらも私を含め全員が言われた通りに整列していく。私は真ん中辺りの列の一番後ろ。
 でも一応ながら整列したにも関わらず女性は何も言わぬままじっと、舞台から私達を見下ろしているだけだった。それに当然ながら段々とざわめきが起こり始める。
 しかしポケットから懐中時計を取り出すと視線を落としほんの数秒。蓋を閉じながら時計を仕舞うと女性は再び私達を見下ろした。

「それではこれよりクリスマス防衛機関日本支部、特殊戦闘部、入隊式を始めます」

 ついに始まった――別にこれといって何かがあった訳じゃないのに言葉だけで少しだけ気持ちが引き締まった。と言うより私の場合はそんなやる気に満ち溢れたものじゃなくて、もっと諦めや落胆のようなものだと思うけど。

「私は特殊戦闘部副総督、枩波《まつば》燈。この場にはいませんが、総督は枩波樹玖《まつばきく》。私を含め他はどうでもいいですが、この名前だけは忘れぬよう今すぐに脳に刻み込んで下さい。そしてこのクリスマス防衛機関という組織に関しては私の口から説明する必要はありませんね。既に承知の上でこの場にいると思います。その他を含め詳しく知りたい場合は生活部にでも聞いて下さい。では入隊式と言っても特にやる事はないので、あなた達の今後の日程を説明して終わりにしたいと思います」

 正直、これまで入学式を何度か経験してきたが毎回これぐらい簡潔に済んだらどれだけ良かったか。私は密かにそんな事を思っていた。

「あなた達は所謂、訓練生です。なのでまずは明日、身体能力測定を実施します。そして体力と戦闘の基礎訓練を当分はしてもらいます。戦闘といっても主に対ランプスとしての戦闘です。当然ながら体を動かすだけでなく、必要な知識を学ぶ訓練もあります。そうですね。今のところはそれだけを覚えておけば大丈夫です。もっと詳しく訊きたければ、同室の方に訊いて下さい。それでは――」

 これで入隊式を終わります――そう続くかと思ったが、枩波さんは言葉を途切れさせたかと思うとその場で知識が無くてもそれが完璧だと分かる敬礼をした。
 突然の静寂の中、入り口から響く足音は私達の横を通り過ぎ舞台へ。それはスーツの良く似合う三十代ぐらいの男性。清潔感のある短い黒髪のその人は服の上からでも体を鍛えているのが分かる。枩波さんの行動を見る限り上司的な人なんだろう。
 そして枩波さんがそのまま横へズレるとその人はマイクの前へ。

「私はクリスマス防衛機関日本支部、支部長の一双五。まずは組織を、そしてサンタさんに代わって諸君らを心より歓迎しよう。特殊戦闘部の主な任務はランプスの排除をすることだ。日常的な任務もそうだが、クリスマス当日の大規模なランプス排除はサンタさんの援護となり非常に重要だ。諸君らの働きがサンタさんの負担を減らしよりスムーズな遂行へと繋がる。故に諸君ら一人一人の力が非常に重要となり、それがこの組織を、サンタさんを支えるんだ。だが同時に非常に危険を伴う戦闘でもある。自分の身を、そして仲間の身を守る為にもこれからの訓練を怠らず力を付けてくれ。肉体、技術、思考に加え必要なのは心だ。それが全て土台となる事を忘れないで欲しい。では、諸君らの活躍を期待している」

 支部長の挨拶が終わると、やはり今日まで数多の入学式や卒業式で鍛え上げられてきた猛者達と言うべきか自然と揃った拍手が響いた。

「支部長ありがとうございました」

 枩波さんは拍手を終えるとマイク越しにお礼を言い支部長へ軽く頭を下げた。そしてマイク前に戻ると私達の方へと向かった。

「それでは本日はここまでです。明日の詳細は追って伝えます。以上。お疲れ様でした」

 体感などではなく時間的にもあっという間に入隊式が終わると枩波さんは支部長と共にさっさと部屋を後にした。一方で私達はまるでそういう暗黙の了解があるかのように二人が部屋を出るまで一切動かず列を成したまま。私同様にみんなも意外とあっさりと終わってしまいどうしていいのか分からないのかもしれない。
 でも誰かが伸びをし動き出すと時計の針は再動《さいどう》し始め、真っすぐだった列は溶け出していった。さっさと出て行く者、仲間内でまずは集まる者。
 だけど一方で独りぼっちの私は一体どうすればいいのかとその場から動けずにいた。ここに残っていても特に何かする事がある訳じゃないし。むしろ独りぼっちっていうのを余計に感じてしまいそう。
 一人ネガティブな事を考えながら数十秒だけ突っ立てた私は部屋に戻る為にエレベーターへと戻った。そういうタイミングだったのか誰も乗ってないエレベーター空間を独り占めしながらボタンを押す。賑やかな訓練場と分断されるようにドアはゆっくりと閉まっていった。
 すると閉じるギリギリのところで割り込んだ手がそれを止めた。

「ギリギリセーフ!」

 ドアが開くと同じジャージを着た女の子が少し弾んだ声と共に中へ乗り込んできた。
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