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忘れられない想い出
忘れられない想い出
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『サンタクロースっていると思う?』
十二月二十五日。その日、世界は煌めきと幸せで彩られる。至る所で色とりどりの光が灯り、人々の表情もより一層煌々とし眩さが増す。誰かが誰かを想い、誰かが誰かに想われ、世界が愛に満たされる。時に空からは天使の羽が舞い落ち、恋人達の背中をそっと押してくれたりも。
十二月二十五日クリスマス――それは私の一番好きな日。と同時に色濃く記憶に残る日でもある。
あれは十歳も満たない程に幼い頃。私は毎年その日が来るのを心待ちにしていた。その日が来る一週間前から遠足なんか比にならないくらい楽しみで楽しみで仕方なかった。特に二十四日の夜は興奮で眠れない。もうこのまま朝までずっと起きてるんじゃないかってぐらいに。
でも何故か毎年、気が付けば眠りに落ちている。我に返った時には朝が来てて、枕元には舞踏会にでも行くみたいに着飾ったプレゼントが私を迎えてくれていた。その瞬間の興奮は今でも覚えている。
だけど、その日は違っていた。毎年の恒例と化しいつの間にか眠りに落ちていたはずなのに――私は目覚めた。まだ外も真っ暗で枕元のプレゼントもない。寝惚け眼を擦る私は、夜中に起きてしまったんだと理解するのと同時に眠気が体中に巻き付くのを感じた。疲れて酷く眠い、鉛のように体が重いあの感覚。両瞼は導かれるようにそっと閉じていく。
――シャン、シャン、シャン。
でもその時。私は確かに聞いた。この季節になると耳に沁み込む程に流れて来る鈴の音を。
それを聞いた瞬間、呪文のように眠気は一気に覚め私はすっかり興奮状態。
「サンタさん!」
私はベッドを下りると無我夢中で家の外へと出た。暗い空から少し多めに降り注ぐ雪。そんな街灯だけが照らす白銀の街は驚く程の静寂に包み込まれている。
でもそこには居た。確かに居た。お父さんよりもまん丸としたお腹を抱えた大きな体とそれを包み込む赤を基調とした服。雲のような白髭と祖父のような優しい容貌。
私の前には思ってた以上に大きなサンタクロースが真っ赤な雪舟越しに立っていたのだ。それに私が何人も入りそうな袋と九匹の馴鹿も。
「サンタさんだ!」
胸の中にあった興奮を噴火させる様な大声で私は叫んだ。精一杯に伸ばした小さな指も一緒に。
そしてそんな声に顔を上げたサンタさんは、私の姿を見ると一瞬だが瞠目した。ほんの数秒、世界の時が止まる。サンタさんも私も、揃ってこっちを向いた馴鹿も――みんながみんな動きを止めていた。
「ほっほっほっ」
するとその沈黙を破りサンタさんは私の想像通りの笑い声を上げた。そしてその巨体を揺らしながら私の目の前へ。
「私ね! 良い子にしてたよ! 良い子にしてた!」
「ほっほっほっ。うむ、感心感心」
頷きながらしゃがんだサンタさんだったけど、それでもまだ私を見下ろしている。
そして大きな大きな手を私の頭へ伸ばした。
「ならちゃーんとプレゼントをあげないといけないの」
その言葉に私は飛び跳ねて喜んだ。上の方を一瞥するサンタさんの前で私は本物に会えたのとプレゼントが貰える嬉しさで一杯だった。
「でもこんな時間に起きてるのとお外にいるのは感心せんなぁ」
「そ、それはね……。……ごめんなさい」
言い訳すら思い浮かばなかった私はただしょんぼりと謝る事しか出来なかった。
でもサンタさんの大きいのにどこまでも優しい手は私の頭を慰めるようにぽんぽんと撫でた。
でもクリスマスには似合わない曇り顔を上げた私を迎えてくれたのは、白髭に埋もれながらも柔和な笑みを浮かべる表情。
「ちゃんと謝れるのは良い子の証じゃ。それなら――」
するとサンタさんは言葉を途切れされると、少し顔を逸らし振り向かずに横目で後方を見遣る。正確には気にしている様子だ。
でもすぐに私へ視線を戻すと笑みの続きを浮かべた。
「少し目を瞑ってごらん」
「うん!」
私は言われた通り目を閉じた。眠るみたいに視界は真っ暗だけど、気持ちはずっと弾んでいる。
それを確認したんだろうサンタさんの手が頭を離れ、立ち上がる雰囲気を感じた。雪を踏みしめる音。その後は少し静寂が続いた。
「まだ?」
耐えきれず私はそう尋ねる。
「儂が良いと言うまで開けちゃ駄目じゃよ」
「うん分かった!」
もしサンタさんの言いつけを破ったら悪い子になってプレゼントが貰えなくなる、なんて気持ちが無かったと言えば嘘になる。でもその時は本当に純粋な――何か起きるか分からないワクワクとした気持ちで待っていた。
でもそこから聞こえて来た音は少し不思議なモノだった。サンタさんや馴鹿が歩くにしては大きく、雪舟やプレゼント袋から鳴るにしては少し乱暴な音。
そんな音に私が小首を傾げていると、再び静けさがやってきた。
「今夜も星が綺麗じゃな」
サンタさんは突然、そんな事を呟いた。私に言ってるには小さな声。でも聞こえた声に反応するのが子ども、なのかも。私は起きてからはサンタさんに舞い上がり空なんて見てなかったけど、寝る前に家族で見上げた星空を思い出していた。それは確かに子ども私でさえ声を上げて喜んでしまう程に綺麗だった。
「うん! キラキラしてて凄かったよ!」
私はそれを瞼の裏に見ながら両手を精一杯動かしながら答える。
すると少し間を空けて大きめの音が何度か鳴り響いた。遠くも近くもない場所から聞こえた突然の音で体は僅かに跳ね上がる。同時に若干の不安が込み上げて来た。
だけど私の我慢の糸が切れるより先にサンタさんの声は聞こえた。
「開けてごらん」
既に胸から溢れた期待に半開きになった口の上で焦らす様にゆっくりと開く瞼。
「わぁー!」
私の目の前にあったのはサンタさんが差し出したプレゼントだった。頭上で可愛らしくリボンを結び、満天の星で彩ったクリスマス色のプレゼント箱。
それを見た瞬間、まるでこの世の幸福を一気に全部呑み込んだかのように欣喜雀躍としていた。最もそんな心に相反して体は絶景を目にしたように動けずにいたけど。
「ちゃんと明日の朝になってから開けるんじゃよ? それとちゃんとベッドに戻って眠る。約束出来るかな?」
そう言うとサンタさんはプレゼントを私から遠ざけ入れ替わり小指を差し出した。
「うん! 出来る!」
元気に答えるとその何倍もある小指と指切りを交わした。
「良い子だ。そんな良い子にはプレゼントをあげよう」
そしてサンタさんは私にプレゼントをくれた。
「ありがとうございます。サンタさん」
私は普段から母親に言われている通りにしっかりとお辞儀をしてお礼を言った。そんな私を嬉しそうに見つめるサンタさんは本当の祖父のようだ。
「それじゃあおやすみ」
「おやすみ! 私、ちゃんと良い子にしてるからまた来てね」
「次はちゃんと良い子に寝てるんじゃよ」
「うん!」
それは私の中に残るとても不思議で幸せな記憶。夢かもしれないけど、それでも色濃く残った大切な私の想い出。
ちなみに次の日、私はサンタさんから貰ったプレゼントを抱えながら目を覚ました。
十二月二十五日。その日、世界は煌めきと幸せで彩られる。至る所で色とりどりの光が灯り、人々の表情もより一層煌々とし眩さが増す。誰かが誰かを想い、誰かが誰かに想われ、世界が愛に満たされる。時に空からは天使の羽が舞い落ち、恋人達の背中をそっと押してくれたりも。
十二月二十五日クリスマス――それは私の一番好きな日。と同時に色濃く記憶に残る日でもある。
あれは十歳も満たない程に幼い頃。私は毎年その日が来るのを心待ちにしていた。その日が来る一週間前から遠足なんか比にならないくらい楽しみで楽しみで仕方なかった。特に二十四日の夜は興奮で眠れない。もうこのまま朝までずっと起きてるんじゃないかってぐらいに。
でも何故か毎年、気が付けば眠りに落ちている。我に返った時には朝が来てて、枕元には舞踏会にでも行くみたいに着飾ったプレゼントが私を迎えてくれていた。その瞬間の興奮は今でも覚えている。
だけど、その日は違っていた。毎年の恒例と化しいつの間にか眠りに落ちていたはずなのに――私は目覚めた。まだ外も真っ暗で枕元のプレゼントもない。寝惚け眼を擦る私は、夜中に起きてしまったんだと理解するのと同時に眠気が体中に巻き付くのを感じた。疲れて酷く眠い、鉛のように体が重いあの感覚。両瞼は導かれるようにそっと閉じていく。
――シャン、シャン、シャン。
でもその時。私は確かに聞いた。この季節になると耳に沁み込む程に流れて来る鈴の音を。
それを聞いた瞬間、呪文のように眠気は一気に覚め私はすっかり興奮状態。
「サンタさん!」
私はベッドを下りると無我夢中で家の外へと出た。暗い空から少し多めに降り注ぐ雪。そんな街灯だけが照らす白銀の街は驚く程の静寂に包み込まれている。
でもそこには居た。確かに居た。お父さんよりもまん丸としたお腹を抱えた大きな体とそれを包み込む赤を基調とした服。雲のような白髭と祖父のような優しい容貌。
私の前には思ってた以上に大きなサンタクロースが真っ赤な雪舟越しに立っていたのだ。それに私が何人も入りそうな袋と九匹の馴鹿も。
「サンタさんだ!」
胸の中にあった興奮を噴火させる様な大声で私は叫んだ。精一杯に伸ばした小さな指も一緒に。
そしてそんな声に顔を上げたサンタさんは、私の姿を見ると一瞬だが瞠目した。ほんの数秒、世界の時が止まる。サンタさんも私も、揃ってこっちを向いた馴鹿も――みんながみんな動きを止めていた。
「ほっほっほっ」
するとその沈黙を破りサンタさんは私の想像通りの笑い声を上げた。そしてその巨体を揺らしながら私の目の前へ。
「私ね! 良い子にしてたよ! 良い子にしてた!」
「ほっほっほっ。うむ、感心感心」
頷きながらしゃがんだサンタさんだったけど、それでもまだ私を見下ろしている。
そして大きな大きな手を私の頭へ伸ばした。
「ならちゃーんとプレゼントをあげないといけないの」
その言葉に私は飛び跳ねて喜んだ。上の方を一瞥するサンタさんの前で私は本物に会えたのとプレゼントが貰える嬉しさで一杯だった。
「でもこんな時間に起きてるのとお外にいるのは感心せんなぁ」
「そ、それはね……。……ごめんなさい」
言い訳すら思い浮かばなかった私はただしょんぼりと謝る事しか出来なかった。
でもサンタさんの大きいのにどこまでも優しい手は私の頭を慰めるようにぽんぽんと撫でた。
でもクリスマスには似合わない曇り顔を上げた私を迎えてくれたのは、白髭に埋もれながらも柔和な笑みを浮かべる表情。
「ちゃんと謝れるのは良い子の証じゃ。それなら――」
するとサンタさんは言葉を途切れされると、少し顔を逸らし振り向かずに横目で後方を見遣る。正確には気にしている様子だ。
でもすぐに私へ視線を戻すと笑みの続きを浮かべた。
「少し目を瞑ってごらん」
「うん!」
私は言われた通り目を閉じた。眠るみたいに視界は真っ暗だけど、気持ちはずっと弾んでいる。
それを確認したんだろうサンタさんの手が頭を離れ、立ち上がる雰囲気を感じた。雪を踏みしめる音。その後は少し静寂が続いた。
「まだ?」
耐えきれず私はそう尋ねる。
「儂が良いと言うまで開けちゃ駄目じゃよ」
「うん分かった!」
もしサンタさんの言いつけを破ったら悪い子になってプレゼントが貰えなくなる、なんて気持ちが無かったと言えば嘘になる。でもその時は本当に純粋な――何か起きるか分からないワクワクとした気持ちで待っていた。
でもそこから聞こえて来た音は少し不思議なモノだった。サンタさんや馴鹿が歩くにしては大きく、雪舟やプレゼント袋から鳴るにしては少し乱暴な音。
そんな音に私が小首を傾げていると、再び静けさがやってきた。
「今夜も星が綺麗じゃな」
サンタさんは突然、そんな事を呟いた。私に言ってるには小さな声。でも聞こえた声に反応するのが子ども、なのかも。私は起きてからはサンタさんに舞い上がり空なんて見てなかったけど、寝る前に家族で見上げた星空を思い出していた。それは確かに子ども私でさえ声を上げて喜んでしまう程に綺麗だった。
「うん! キラキラしてて凄かったよ!」
私はそれを瞼の裏に見ながら両手を精一杯動かしながら答える。
すると少し間を空けて大きめの音が何度か鳴り響いた。遠くも近くもない場所から聞こえた突然の音で体は僅かに跳ね上がる。同時に若干の不安が込み上げて来た。
だけど私の我慢の糸が切れるより先にサンタさんの声は聞こえた。
「開けてごらん」
既に胸から溢れた期待に半開きになった口の上で焦らす様にゆっくりと開く瞼。
「わぁー!」
私の目の前にあったのはサンタさんが差し出したプレゼントだった。頭上で可愛らしくリボンを結び、満天の星で彩ったクリスマス色のプレゼント箱。
それを見た瞬間、まるでこの世の幸福を一気に全部呑み込んだかのように欣喜雀躍としていた。最もそんな心に相反して体は絶景を目にしたように動けずにいたけど。
「ちゃんと明日の朝になってから開けるんじゃよ? それとちゃんとベッドに戻って眠る。約束出来るかな?」
そう言うとサンタさんはプレゼントを私から遠ざけ入れ替わり小指を差し出した。
「うん! 出来る!」
元気に答えるとその何倍もある小指と指切りを交わした。
「良い子だ。そんな良い子にはプレゼントをあげよう」
そしてサンタさんは私にプレゼントをくれた。
「ありがとうございます。サンタさん」
私は普段から母親に言われている通りにしっかりとお辞儀をしてお礼を言った。そんな私を嬉しそうに見つめるサンタさんは本当の祖父のようだ。
「それじゃあおやすみ」
「おやすみ! 私、ちゃんと良い子にしてるからまた来てね」
「次はちゃんと良い子に寝てるんじゃよ」
「うん!」
それは私の中に残るとても不思議で幸せな記憶。夢かもしれないけど、それでも色濃く残った大切な私の想い出。
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