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第三章:夕日が沈む
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「それで? 一体どんな客のどんないい手紙だったの?」
「知らへん」
「えー! いつもは見せてくれるのに? それに手紙なんて面倒で興味ないって感じじゃん。今まであんたがあんな顔して手紙見てるとこなんて見た事ないよ」
蛍はさっきの私を真似た表情を大袈裟で茶化しながら浮かべた。
「そないな顔してへん」
それに対し顔を前へ逸らし朝食を食べ始める私。
「ほんとにー? じゃあなんでそんなに膨れてるの?」
「膨れてへん」
「じゃあこれは何だー?」
すると彼女の指が私の頬を突いてきた。
「止めて。食べずらいやろう」
「なら笑顔を見せてよー。夕顔ちゃーん」
相変わらず戯る蛍に私は食べるのを中断し箸を置いた。そして顔を彼女へ。
「わっちはご飯が食べたいんやけど?」
「あたしはそんな仏頂面じゃなくて笑顔が見たいんだけど?」
ほんの少しの間、互いの意見が対立するように何も言わず顔を見合っていたが私は一瞬だけ口角を上げて見せすぐに顔を料理へ落とした。
だがそれでは彼女は満足しなかったようだ。
「えー! たったそれだけ? ほらもっとあたしがお客だと思って接待してよ。ほらほら、夕顔ちゃーん」
すると彼女は二人の間にあった僅かな距離を埋め酷く酔った面倒な客のように手を回してきた。そして私の体へ両側から掴むように手を触れさせると、急に脇腹をくすぐり始めた。
その瞬間、痛いわけではないが脇腹はすぐにでも逃れたい感覚に襲われ同時に強制的に笑いが零れ出す。身をよじらせ彼女の手から逃れようとしながらも喜色満面するという矛盾のような状態が続いた。
「ちょっ! 止め……」
抵抗するも蛍の手は止まらない。そしてついに私は身をよじるあまり後ろに倒れてしまった。寝そべるように天井を拝むがその時には脇腹の感覚も止まっていた。でもまだ余韻が両脇腹から波紋のように広がり笑い過ぎて息は乱れている。
そして落ち着きを取り戻そうとただ天井を眺めているとそこへ覗き込む蛍の顔が割って入ってきた。私を真っすぐ見下ろす彼女の双眸と満足げな口元。
「主の笑い声が聞けて余は満足じゃ」
片手で私の顔を下から掴むと揉むように指を動かし弄びながら彼女はそう言った。
でも私はそんな彼女を無表情まま退かし体を起こした。
「夕顔……」
後ろから聞こえた蛍の声にさっきまでの色鮮やかな元気は無く少し重みのある反省の無彩色に染まっていた。
「ごめん。ちょっとふざけ過ぎ――」
そして彼女の声を追いかけるように伸びてきた手が私の肩に触れたその瞬間。私は素早く振り返り蛍を勢いそのまま押し倒した。それから彼女が反応するより一足先にさっきの仕返しとして体をくすぐる。あっという間に先ほどの私同様、彼女は身をよじらせしつこい私の手を何度も払いながらも逃れられない笑いにその身を明け渡すしかなくなっていた。
「待っ……ちょっ、ごめんって」
私が受けたより少し短いぐらいか、でも十分な程の仕返しをし満足に満たされた私は手を止めた。蛍は私同様、息を上げながら余韻に笑みを浮かべている。
「はぁー、はぁー。それは卑怯でしょ」
「もうご飯食べてええ?」
「しょうがないからいいよ」
私はさっきとは違い自然と零れ出た笑みを浮かべながら(特にそれに意味は無かったが)蛍の鼻先を軽く摘み自分の足膳の前へ戻った。少し遅れて蛍も隣へ戻ると二人してすっかり冷えた朝食を食べ始めた。
「それで? 誰からの手紙だったの?」
「知らへん」
「しょうがない。今日は見逃してあげよう」
それからなんてことない話をしながら朝食を食べ終えた私はその日の内に返事を書きまた初音にお願いし届けてもらった。
「知らへん」
「えー! いつもは見せてくれるのに? それに手紙なんて面倒で興味ないって感じじゃん。今まであんたがあんな顔して手紙見てるとこなんて見た事ないよ」
蛍はさっきの私を真似た表情を大袈裟で茶化しながら浮かべた。
「そないな顔してへん」
それに対し顔を前へ逸らし朝食を食べ始める私。
「ほんとにー? じゃあなんでそんなに膨れてるの?」
「膨れてへん」
「じゃあこれは何だー?」
すると彼女の指が私の頬を突いてきた。
「止めて。食べずらいやろう」
「なら笑顔を見せてよー。夕顔ちゃーん」
相変わらず戯る蛍に私は食べるのを中断し箸を置いた。そして顔を彼女へ。
「わっちはご飯が食べたいんやけど?」
「あたしはそんな仏頂面じゃなくて笑顔が見たいんだけど?」
ほんの少しの間、互いの意見が対立するように何も言わず顔を見合っていたが私は一瞬だけ口角を上げて見せすぐに顔を料理へ落とした。
だがそれでは彼女は満足しなかったようだ。
「えー! たったそれだけ? ほらもっとあたしがお客だと思って接待してよ。ほらほら、夕顔ちゃーん」
すると彼女は二人の間にあった僅かな距離を埋め酷く酔った面倒な客のように手を回してきた。そして私の体へ両側から掴むように手を触れさせると、急に脇腹をくすぐり始めた。
その瞬間、痛いわけではないが脇腹はすぐにでも逃れたい感覚に襲われ同時に強制的に笑いが零れ出す。身をよじらせ彼女の手から逃れようとしながらも喜色満面するという矛盾のような状態が続いた。
「ちょっ! 止め……」
抵抗するも蛍の手は止まらない。そしてついに私は身をよじるあまり後ろに倒れてしまった。寝そべるように天井を拝むがその時には脇腹の感覚も止まっていた。でもまだ余韻が両脇腹から波紋のように広がり笑い過ぎて息は乱れている。
そして落ち着きを取り戻そうとただ天井を眺めているとそこへ覗き込む蛍の顔が割って入ってきた。私を真っすぐ見下ろす彼女の双眸と満足げな口元。
「主の笑い声が聞けて余は満足じゃ」
片手で私の顔を下から掴むと揉むように指を動かし弄びながら彼女はそう言った。
でも私はそんな彼女を無表情まま退かし体を起こした。
「夕顔……」
後ろから聞こえた蛍の声にさっきまでの色鮮やかな元気は無く少し重みのある反省の無彩色に染まっていた。
「ごめん。ちょっとふざけ過ぎ――」
そして彼女の声を追いかけるように伸びてきた手が私の肩に触れたその瞬間。私は素早く振り返り蛍を勢いそのまま押し倒した。それから彼女が反応するより一足先にさっきの仕返しとして体をくすぐる。あっという間に先ほどの私同様、彼女は身をよじらせしつこい私の手を何度も払いながらも逃れられない笑いにその身を明け渡すしかなくなっていた。
「待っ……ちょっ、ごめんって」
私が受けたより少し短いぐらいか、でも十分な程の仕返しをし満足に満たされた私は手を止めた。蛍は私同様、息を上げながら余韻に笑みを浮かべている。
「はぁー、はぁー。それは卑怯でしょ」
「もうご飯食べてええ?」
「しょうがないからいいよ」
私はさっきとは違い自然と零れ出た笑みを浮かべながら(特にそれに意味は無かったが)蛍の鼻先を軽く摘み自分の足膳の前へ戻った。少し遅れて蛍も隣へ戻ると二人してすっかり冷えた朝食を食べ始めた。
「それで? 誰からの手紙だったの?」
「知らへん」
「しょうがない。今日は見逃してあげよう」
それからなんてことない話をしながら朝食を食べ終えた私はその日の内に返事を書きまた初音にお願いし届けてもらった。
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