Peach Flows

佐武ろく

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序章:現代桃太郎

【参拾伍】どろぼう猫の食あたり9

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「まぁ今回の仕事はそこまで金にならなかったが、ソフィアご自慢の妹の実力が見られただけでも収穫はあった」

 その名前が出た瞬間、反応を見せるマノン。

「姉貴を知ってんのか?」
「何度か仕事をしたが彼女は優秀だ。特に男をその気にさせる演技力は相当なものだ」
「そこら辺はお袋譲りだからな。たしかにすげー」
「だが彼女の言う通り忍び込む才能は妹であるお前の方があるようだ」

 するとアランは葉巻を灰皿に置くと近くの丸められた札束を三つ手に取り一つずつマノンへ投げ始めた。

「勝手にだが今回の仕事の報酬だ。取っとけ。リスク分は追加してある」

 マノンは片手に一つ、もう片手に二つある札の束を眺めるとポケットに仕舞った。

「そろそろ行きましょうか」
「あぁ」
「では私達は先を急ぎますのでこれで失礼します」

 そして桃とマノンは葉巻を吸うアランに背を向けると部屋を後にし、ホテルを出るためエレベーターへ乗り込んだ。

「雑誌を作りあなたを利用し間接的に盗み出すとは彼もやりますね」
「はぁ? あの雑誌も偽物なのかよ?」

 一歩後ろに立っていたマノンのその言葉に桃は思わず振り向く。

「狛井組はヤクザですよ? そん場所の情報が雑誌には載らないと思いますがね。ましてや大切に保管しているモノのことなど」
「確かによく考えればそうだぁ~。なんで気が付かなかったんだよ!」

 一本取られたと言うように頭を抱えるマノン。

「これはあながち利用した彼だけに今回の責任があるとは言い切れませんね」

 そんな彼女を見ながら溜息をつきたそうに呟くと桃は顔を正面へと戻し、懐中時計で現在時刻を確認した。

『十六時三十二分』

 懐中時計を仕舞うと次は下がっていく階数表示を見ながら一階に着くのを待った。
 そしてエレベーター到着後、ホテルの外に停まっていたタクシーに乗り情報の場所へ。その移動は約八十分と長距離的なものとなった。
 目的地に着いた頃には辺りは暗く冷たい風が体を撫でながら駆け抜ける。どうやら太陽は北風に敗北したらしい。
 だが夜の寒さなど気にならない程、門の向こう側に建てられた豪邸は立派で大きかった。それを目にマノンは開いた口が塞がらないという言葉の意味を体感していた。
 高さこそはないものの(二階建て)横に長いその建物の外見はシンプル。門と豪邸との間には車で入れるように道があり周りは池や緑などがあり、美しく手入れされたそれは日本庭園を連想させる。

「富豪と言ってはおりましたがこれは……」

 桃は思わず言葉を呑んだ。
 だがいつの間にか口を閉じていたマノンは笑みを浮かべていた。その心内は定かではないが恐らく無意識のものだろう。

「忍び込み甲斐がありそうだなぁ」

 これもまた無意識なのかそう呟いたマノンが盗人目線でこの豪邸を見ていたことは明らか。
 だがいつまでもそうしている訳にもいかず彼女を他所に門の傍に付いていたインターホンを押す桃。

「おたく誰?」

 少ししてノリの軽い男性の声が聞こえてきた。声だけで判断するとすれば二十代。いっても三十代だろう。

「私は桃太郎と申します。突然のご訪問申し訳ありません」
「別にいいよ。で? なに?」

 その声の印象通り中々にフランクな様子だ。

「最近、エメラルドグリーンの宝石をご購入いたしませんでしたか?」
「あー買った買った。あれがどうした?」
「大変申し上げにくいのですが、実はあの宝石は盗品でして……」
「え!? マジで!?」

 インターホン越しで一驚に喫する男性。

「はい。そこで購入時にお支払いしたお金はお返しいたしますのでその宝石を返して頂けないでしょうか?」
「いやぁー。まぁ盗品ならそうしたいのは山々なんだけど。――あれ盗まれちゃったんだよね」

 もはや計画的もしくは呪いとしか思えないほど行く先々で宝石が無くなりマノンは呆れながら怒っていた。割合的には二対八で怒りの勝利といったところ。

「は? いつだよ?」

 突然割り込んできたしかも苛立ったのマノンの声に男性はどこか気圧された。

「え? あっ、いやぁ――ほんとについさっきだよ。俺もおたくらが来るちょっと前に返ってきたんだけど、帰って来てみたら色々と盗まれちゃっててさ今から警察に電話しようと思ってたとこだよ」
「そうでしたか。それは警察に連絡した方がよさそうですね。変なタイミングで押しかけてしまい申し訳ありません」
「いややい全然大丈夫」
「では私達はこれで失礼いたします」

 そしてインターホンから離れようとした桃を慌てて男性が止める。

「あっ! ちょっと待った! その宝石っておたくらのだった?」
「いえ、そうではありませんが持ち主に頼まれ探しておりました」
「なら見つかったら返すからさ。連絡先教えてよ」
「その必要はございません。では失礼いたします」
「え!? ちょっ……」

 相手の返事を中途半端に桃はインターホンから離れた。

「行きましょうか」
「行くってどこに?」

 マノンの言葉に答えぬままゲートから続く壁沿いに歩き出す桃。その視線はは全くないといっていいほど交通量の少ない道路ではなく壁の上辺りへ向いていた。
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