Peach Flows

佐武ろく

文字の大きさ
上 下
15 / 51
序章:現代桃太郎

【拾参】AOF11

しおりを挟む
「ではあなた方の拠点を教えていただきましょうか」
「おーっと。そう簡単に話すわけねーよな」

 するとゴブリンは何かに気が付いたようにハッとした表情を浮かべた。

「へっへっへ。俺の口の固さをテストしたって訳か。そう簡単にはいかねーぞ」

 ゴブリンは見当違いとは知る由もなく勝ち誇ったような表情を浮かべていた。それはまるで受け答えで手ごたえを感じた就活生。
 だが桃にとってその言葉に他意はなく言葉通り拠点にしている場所を訊いただけ。

「今素直に言うか痛い目を見て言うかのどちらかだぞ」

 すると正面のルチアーノがコートから一丁の拳銃(形状からB.QII)を出し銃口をゴブリンに向けテーブルへと置いた。

「そうか次は脅しか。だがそんなもんに屈する俺じゃねーな」

 へっへっへ、と笑いながら酒を飲むゴブリン。
 どうやら完全に勧誘のテストか何かだと思っているようだった。
 しかしこのままでは話が進まないので桃は勘違いを訂正することにした。

「どうやらまだ勘違いをしているようですね」

 そう言うとポケットから手帳を取り出し真実を突き付ける桃。

「私はあなたの考えているような組織には所属していません。私は外に事務所を構えるAOFの者です」
「チッチッチ。今更偽ろうたってそう簡単には騙されねーぜ」

 指を左右に振るゴブリンは信じていない様子だったが桃とルチアーノの真面目な表情に少し顔色を変える。

「俺らの優秀な働きを聞きつけて勧誘に来たどっかの組織のやつらじゃねーのか?」
「お前が勝手に勘違いしただけだろ」

 二人の雰囲気から勘違いだと気が付くと、眉を顰めては表情を嫌悪感に染め一気に敵意を剥き出しにした。

「何が目的だ? 俺らの金か!?」
「そんなのに興味はない」
「あなたは興味ないことはないでしょ。ルチアーノ」
「人を金の亡者みたいにいうんじゃね」

 するとその名を聞いたゴブリンは急に桃と話をするルチアーノの顔をまじまじと見始めた。

「あ、あんた! エドアルドファミリーのライモンド・ルチアーノか?」
「それがどうした」
「まさかそんなやつが俺の目の前に現れるとはな。だが何が目的か知らんがお前らに話すことはねーな」

 ゴブリンは残りの酒を飲み干し席から立ち上がろうとテーブルに両手を着ける。
 だが桃が鞘に納めた刀で脚を押さえつけ立ち上がるのを止めた。

「座ってください」

 口は笑っていたが目は睨みつけるように鋭く、それはほぼ命令に近かった。その目つきにゴブリンは冷や汗を流しながらゆっくりと腰を下ろす。

「そうか。俺らが金を更に要求したからあのヤローが新たに雇ったって訳か」

 また新たな推測を立てるゴブリンだったが、まるで勘の悪さをアピールするかのようにそれも見当違い。

「できれば抵抗せずに教えていただきたいのですが。こんなところで騒ぎを起こしたくありませんから」
「仲間を売れって言うのか? 断る」
「ごろつきにしては義理堅いな。だがここじゃ、それは死を選ぶというう事になるが?」

 ゴブリンは相変わらず冷や汗を流し考えているのか数秒沈黙する。
 それをもう一押しだと桃は判断した。

「EOCBも既に動き出している訳ですからその手が本格的にここへ及ぶ前にどこかしらの組織が動き出すのも時間の問題ですよ」
「俺らはこの金でのし上がるんだ!」

 少なくともその一言には野望と決意が渦を巻き纏っていた。
 だが同時に避けようのない現実がそこにはある。

「恐らくですがあなた方が手にした程度のお金では、現状を打開するための交渉の席にすら着かせることは出来ないでしょうね。彼らのリスクの天秤を傾けるには想像以上の大金が必要ですから」
「のし上がる前にまずはこの状況をどうするかを考えるんだな」

 ルチアーノは拳銃を手に取るとスライドを引く。それはいつでも撃てるという警告でもあった。

「とりあえず私たちはあなたの命が目的でないことは理解していただきたいですね」
「だがあまり待ってもられないからな。俺らはそこまで暇じゃない」

 表情を伺うように桃からルチアーノへ視線を向けたゴブリンは『ふぅー』っと酒臭い息を吐いた。
 そしてほんの数秒だけ間を空け口を開く。

「分かった。その代わりあいつらの命だけは助けてくれ」
「それはお仲間次第なので約束は出来ませんが努力はしましょう」

 一瞬、桃を見遣るがこれ以上は無理だと思ったのかゴブリンはその視線を諦めたように落とした。

「――ここから二十分ほど歩いた所にある廃ビルだ」
「そこに誘拐した子もいるんですか?」
「あぁ」
「ご協力感謝します」

 お礼を言った桃は刀を持ちながら立ち上がり、それに続いてルチアーノも拳銃を懐に仕舞っては立ち上がる。
 そして出入り口に向かって半分ほど歩いたその時、懐からボロボロで切れ味の悪そうな刃物を取り出したゴブリンが後ろからルチアーノに襲い掛かった。

「エドアルドファミリーのボス。ライモンド・ルチアーノを殺ったとなれば俺の名も一気に広まるってわけだ!」

 そう叫びながらルチアーノの背中目掛け走るゴブリン。背後を取り隙を突いたと思っているからなのか既に勝ち誇った笑みを浮かべていた。

 ――バンッ

 だが振り向きながら拳銃を取り出したルチアーノは何の躊躇もなく正確にゴブリンの眉間を撃ち抜いた。その銃声を合図にして時が止ったかのように静まり返る店内。
 静寂の中、ゴブリンの体は銃弾の反動によりのけ反りながら宙を舞い――テーブルを破壊する音だけが辺りには響き渡った。
 二つに割れたテーブルに挟まれるように動かないゴブリン。その頭からは床へ鮮血が流れ落ち、傍には刃物とスマホが転がっていた。スマホ画面には『送信完了』の文字。
 そして再び静寂に包また店内で注目を一手に引き受けながらルチアーノは煙を吐く拳銃を天井に向け、その手を下ろした。
 その後、店内を軽く見回す。

「折角の酒の場で騒いですまない。お詫びといっては何だが今日は俺の奢りだ好きなだけ飲んで食べてくれ」

 ルチアーノの言葉に酒場はワンテンポ遅れて一気に歓喜の声で賑わいを見せる。
 そしてルチアーノは拳銃を仕舞うと銃声を聞きつけ店内に駆け込んできた部下二名に指示を出した。その指示に部下一人が残り、もう一人はルチアーノと共に桃の方へ向かうと、三人は出口へ。

「さすがはエドアルドファミリーのボス。不意に命を狙われるのには慣れっこというわけですか」
「こんなのが狙いに来るんだったら楽なんだがな」
「あなたも大変そうですね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

私はいけにえ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」  ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。  私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。 ****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

処理中です...