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第四章 神様の余命
神様の余命2
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それから私たちは森の中で鍵を探すという冷静になってもやっぱり訳の分からない事をしていた。これじゃあ単なる落とし物探しだ。木の根本、草の中、川底。一体どこを探していいか見当も付かなかったけど私はとりあえず探した。
「もしかしたら鳥さんが持ってちゃったのかも。キラキラした物が好きな鳥さんっているんだよ」
私は以前、本か何かで読んだその情報を思い出すと手を止め少し自慢げに口にした。
「その心配はないよ。そこら辺の動物が認識できる物じゃないし、それにここにはその鳥もいないからね」
残念ながら私の考えは見事に一刀両断されてしまった。少しぐらい褒められることも期待していたが――残念。でも彼の言う通りそれらを好む鳥はおろか鳥という存在すらこの森で見かけた記憶はない(ただ私が見てないだけで頭上を飛び回っている可能性は否定できないけど)。
そんな事を考えながらも私は止めていた手を再び動かし始めた。
だけどいくら探せど鍵なんてそう簡単には見つからなった。ただただ時間と体力だけが消費されていくだけ。
「はぁー」
見つからないどころかその気配すら感じない鍵探しに私は大きく溜息を零すと近くにあった岩に腰を下ろした。
「疲れちゃった?」
私を見下ろしながらそう尋ねる寿々木さんに頷きで返した。
「なら少し休もうか」
そう言うと寿々木さんは私のすぐ左手側に生えた木の根元に腰を下ろした。森の中で少し涼しいとはいえこんな真夏だというのに、彼は全く汗をかいておらず息も乱れてない。意外と体力には自信があるのだろうか。
「そうだ。君は邪神って知ってるかな?」
水筒から水を飲み一息ついていると寿々木さんはそう物騒な言葉を口にした。今なら知っているが当時の私にとってそれは初めて聞く単語。
だからその言葉に彼の顔を見遣ると正直に知らないと首を振った。
「邪神っていうのは、簡単に言えば悪い神様。そう言われてるんだ」
「真君は悪くないよ」
「そうみたいだね。でも封印されてるって聞いたから最初はそうなのかなって思ってたよ」
「違うもん!」
私はつい必死になって否定した。真口様は封印されるほどの悪い神様じゃないって心から信じてた――というより実際に会ってそう確信したから。
「分かってるよ。真口神っていうのは思ってたのとは違った。彼は邪神じゃないよ。邪神っていうのは主に人の闇部分を受け入れるんだ。憎しみとか妬みとかそういう部分から生まれた願いを受け入れる神様なんだ。そういう神様は一般的な善神と正反対だから冷酷で容赦がない。呪いとかも一部はその神様に対しての祈りだね」
それから寿々木さんはその邪神についての説明をしてくれた。
「そんな邪神は基本的に個人から憎悪をぶつけられるんだ。別の誰かへ向いた負の感情に反応しそれに応える。不幸を与えたり命も奪ってしまう場合も。まぁ、善神も時には命を奪う事もあるけど邪神との違いは、守るのが目的っていうことと最終手段ってことだね。あとはその対象が危険な程までに害があるって場合が多い。でも邪神は憎悪なんかに反応し受け入れたら理由は関係ない。逆恨みだろうと単なる嫉妬だろうと、相手が誰だろうと関係ない。邪神は人を殺めるのを厭わないし無差別的、それでいて強力な力を有してるから厄介なんだよね。あと、実は彼にとって人間は全員同じに見えてるらしいよ。だけど自分を求める者だけは他の人間とは違って見えるんだ。だからその特別な人間の為なら他の人間の命を奪う事も厭わないってわけ。まぁ実際のところは必要なのは人じゃなくて憎悪。彼にとって憎悪から生まれた願いによる祈りは善神にとっての信仰心だからね」
細かな事までは分からなかったが兎に角、邪神っていう神様がとても危険で悪い神様だということだけは理解できた。
「そんな邪神だけど――でも実は善神と根本は変わらないんだよ」
「悪くない真君も本当は悪いってこと?」
「そうじゃなくて」
私の不安を拭うように彼は微笑みを浮かべながらゆっくりと首を振って見せた。
「邪神も結局は神様っていうことだよ。人の願いがあってそれを叶える」
「じゃあ悪い子の所為で神様も悪い事をしてるの?」
「それはどうだろうね。もしかしたら邪神はただ人の願いを叶えてあげたいだけなのかもしれない。それに善神と違って邪神はそのほとんどが断続的。代わりとなって対象の人間に不幸を与えれば祈りを捧げていた人間は消える。善神のように継続的に信仰はされないんだよ」
「でも悪い事はしちゃダメなんだよ。他の子が悪い事しても悪い事で返しちゃダメってママが言ってた」
「そうだね」
そう言って頷く寿々木さんは優しい笑みを浮かべていたが、どこか悲しそうにも見えてたのは気のせいだろうか。
「――それと実は邪神が生まれるにはもう一つ別の状況があるんだ。それは善神が憎悪に呑み込まれた場合。多くの信仰者から負の感情が込められた祈りを捧げられそれに呑まれるか、自身の中に湧いてきた憎悪に呑まれるか。場合によっては善神も邪神に堕ちる事があるんだ」
私は何も言わず小首を傾げたが本当は分かっていたのかもしれない。寿々木さんが何を言いたいのか。だけどそんな事――例え可能性だったとしても考えたくなかっただけなのかも。
「真口神は神様になってからずっとこの島と人々を守ってきた。だけど人を喰ったことで封印されてしまった。さっきも言ったけど善神が命を奪う時は大抵は理由がある。真口神も何か理由があって、やらないとこの島や人々が守れなかったとしたら。彼は神様としての務めを果たしたのにも関わらず封印され、そして今は徐々に消滅へと向かってる。この事を彼がどう捉えるか。場合よっては堕ちてくる可能性も十分にある。負のエネルギーっていうのは中々に強力なんだ。彼の存在をしばらく安定させられるほどにはね」
「……真君は大丈夫だよ」
「そうかもね。――でもとにかく今は真口神の為にも鍵を探そうか」
そう言って寿々木さんが立ち上がると私も彼に続き、鍵探しを再開した。
もし彼の言う通り真口様が苦しみの中、憎悪の炎を内で燃やし始め邪神へと姿を変えてしまったとしたら。ただ神様と会ってみたいなんて我が儘で私が封印を解いた所為で真口様は邪神になってしまったことになる。私の所為。まだそうなった訳じゃないし、そうなるかも分からない。ただのもしも話だという事は分かっているが――でもそれは幼い私の心を恐怖で煽り不安で脅えさせるには十分だった。
だから早くその鍵とやらを見つけて真口様を救って安心したかった。
だけど結局長い時間、私たちは森の中を彷徨うように歩いていただけ。鍵どころか人工物は何一つ見つからず木々と草花、水や石などの自然豊かな景色しか私の瞳には映らなかった。本来ならば心の底まで癒し、安らぎを与えてくれるような景色のはずだが今の私にとってはそうじゃない。
「そろそろ時間もそうだし段々と暗くなってくるから今日はここまでにしようか」
「えー。もっと探す」
「あんまり遅くなったらお家の人も心配するよ。そうなったら怒られるのは僕かも。だから僕の為にもまた明日、ね」
「……うん」
渋々とではあったが私は寿々木さんと一緒に洞窟まで戻った。でもその前を通り過ぎる際、足が止まり顔は自然と真っ暗な洞窟へ。その暗闇の奥にいる真口様の事が心配だった。あんな話を聞いた後だから仕方のないだろう。
「私、真君に会ってから帰る」
私の声に寿々木さんも足を止めると視線を一度、洞窟へ。その後、その視線は私へ戻ってきた。
「あんまり遅くならないようにね」
「うん」
「それじゃあまた明日ね」
「バイバイ」
言葉の代わりに手を振り返してくれた寿々木さんとはそこで別れ、私は洞窟の中へ歩みを進めた。
「もしかしたら鳥さんが持ってちゃったのかも。キラキラした物が好きな鳥さんっているんだよ」
私は以前、本か何かで読んだその情報を思い出すと手を止め少し自慢げに口にした。
「その心配はないよ。そこら辺の動物が認識できる物じゃないし、それにここにはその鳥もいないからね」
残念ながら私の考えは見事に一刀両断されてしまった。少しぐらい褒められることも期待していたが――残念。でも彼の言う通りそれらを好む鳥はおろか鳥という存在すらこの森で見かけた記憶はない(ただ私が見てないだけで頭上を飛び回っている可能性は否定できないけど)。
そんな事を考えながらも私は止めていた手を再び動かし始めた。
だけどいくら探せど鍵なんてそう簡単には見つからなった。ただただ時間と体力だけが消費されていくだけ。
「はぁー」
見つからないどころかその気配すら感じない鍵探しに私は大きく溜息を零すと近くにあった岩に腰を下ろした。
「疲れちゃった?」
私を見下ろしながらそう尋ねる寿々木さんに頷きで返した。
「なら少し休もうか」
そう言うと寿々木さんは私のすぐ左手側に生えた木の根元に腰を下ろした。森の中で少し涼しいとはいえこんな真夏だというのに、彼は全く汗をかいておらず息も乱れてない。意外と体力には自信があるのだろうか。
「そうだ。君は邪神って知ってるかな?」
水筒から水を飲み一息ついていると寿々木さんはそう物騒な言葉を口にした。今なら知っているが当時の私にとってそれは初めて聞く単語。
だからその言葉に彼の顔を見遣ると正直に知らないと首を振った。
「邪神っていうのは、簡単に言えば悪い神様。そう言われてるんだ」
「真君は悪くないよ」
「そうみたいだね。でも封印されてるって聞いたから最初はそうなのかなって思ってたよ」
「違うもん!」
私はつい必死になって否定した。真口様は封印されるほどの悪い神様じゃないって心から信じてた――というより実際に会ってそう確信したから。
「分かってるよ。真口神っていうのは思ってたのとは違った。彼は邪神じゃないよ。邪神っていうのは主に人の闇部分を受け入れるんだ。憎しみとか妬みとかそういう部分から生まれた願いを受け入れる神様なんだ。そういう神様は一般的な善神と正反対だから冷酷で容赦がない。呪いとかも一部はその神様に対しての祈りだね」
それから寿々木さんはその邪神についての説明をしてくれた。
「そんな邪神は基本的に個人から憎悪をぶつけられるんだ。別の誰かへ向いた負の感情に反応しそれに応える。不幸を与えたり命も奪ってしまう場合も。まぁ、善神も時には命を奪う事もあるけど邪神との違いは、守るのが目的っていうことと最終手段ってことだね。あとはその対象が危険な程までに害があるって場合が多い。でも邪神は憎悪なんかに反応し受け入れたら理由は関係ない。逆恨みだろうと単なる嫉妬だろうと、相手が誰だろうと関係ない。邪神は人を殺めるのを厭わないし無差別的、それでいて強力な力を有してるから厄介なんだよね。あと、実は彼にとって人間は全員同じに見えてるらしいよ。だけど自分を求める者だけは他の人間とは違って見えるんだ。だからその特別な人間の為なら他の人間の命を奪う事も厭わないってわけ。まぁ実際のところは必要なのは人じゃなくて憎悪。彼にとって憎悪から生まれた願いによる祈りは善神にとっての信仰心だからね」
細かな事までは分からなかったが兎に角、邪神っていう神様がとても危険で悪い神様だということだけは理解できた。
「そんな邪神だけど――でも実は善神と根本は変わらないんだよ」
「悪くない真君も本当は悪いってこと?」
「そうじゃなくて」
私の不安を拭うように彼は微笑みを浮かべながらゆっくりと首を振って見せた。
「邪神も結局は神様っていうことだよ。人の願いがあってそれを叶える」
「じゃあ悪い子の所為で神様も悪い事をしてるの?」
「それはどうだろうね。もしかしたら邪神はただ人の願いを叶えてあげたいだけなのかもしれない。それに善神と違って邪神はそのほとんどが断続的。代わりとなって対象の人間に不幸を与えれば祈りを捧げていた人間は消える。善神のように継続的に信仰はされないんだよ」
「でも悪い事はしちゃダメなんだよ。他の子が悪い事しても悪い事で返しちゃダメってママが言ってた」
「そうだね」
そう言って頷く寿々木さんは優しい笑みを浮かべていたが、どこか悲しそうにも見えてたのは気のせいだろうか。
「――それと実は邪神が生まれるにはもう一つ別の状況があるんだ。それは善神が憎悪に呑み込まれた場合。多くの信仰者から負の感情が込められた祈りを捧げられそれに呑まれるか、自身の中に湧いてきた憎悪に呑まれるか。場合によっては善神も邪神に堕ちる事があるんだ」
私は何も言わず小首を傾げたが本当は分かっていたのかもしれない。寿々木さんが何を言いたいのか。だけどそんな事――例え可能性だったとしても考えたくなかっただけなのかも。
「真口神は神様になってからずっとこの島と人々を守ってきた。だけど人を喰ったことで封印されてしまった。さっきも言ったけど善神が命を奪う時は大抵は理由がある。真口神も何か理由があって、やらないとこの島や人々が守れなかったとしたら。彼は神様としての務めを果たしたのにも関わらず封印され、そして今は徐々に消滅へと向かってる。この事を彼がどう捉えるか。場合よっては堕ちてくる可能性も十分にある。負のエネルギーっていうのは中々に強力なんだ。彼の存在をしばらく安定させられるほどにはね」
「……真君は大丈夫だよ」
「そうかもね。――でもとにかく今は真口神の為にも鍵を探そうか」
そう言って寿々木さんが立ち上がると私も彼に続き、鍵探しを再開した。
もし彼の言う通り真口様が苦しみの中、憎悪の炎を内で燃やし始め邪神へと姿を変えてしまったとしたら。ただ神様と会ってみたいなんて我が儘で私が封印を解いた所為で真口様は邪神になってしまったことになる。私の所為。まだそうなった訳じゃないし、そうなるかも分からない。ただのもしも話だという事は分かっているが――でもそれは幼い私の心を恐怖で煽り不安で脅えさせるには十分だった。
だから早くその鍵とやらを見つけて真口様を救って安心したかった。
だけど結局長い時間、私たちは森の中を彷徨うように歩いていただけ。鍵どころか人工物は何一つ見つからず木々と草花、水や石などの自然豊かな景色しか私の瞳には映らなかった。本来ならば心の底まで癒し、安らぎを与えてくれるような景色のはずだが今の私にとってはそうじゃない。
「そろそろ時間もそうだし段々と暗くなってくるから今日はここまでにしようか」
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「あんまり遅くなったらお家の人も心配するよ。そうなったら怒られるのは僕かも。だから僕の為にもまた明日、ね」
「……うん」
渋々とではあったが私は寿々木さんと一緒に洞窟まで戻った。でもその前を通り過ぎる際、足が止まり顔は自然と真っ暗な洞窟へ。その暗闇の奥にいる真口様の事が心配だった。あんな話を聞いた後だから仕方のないだろう。
「私、真君に会ってから帰る」
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