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第二章 探しモノ
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実を言うと何か当てがある訳でもなく歩き出した私は足を動かしながらどうしたものかと考えていた。私は当然この島の事を知り尽くしている訳じゃないから一体どう探せばいいんだと。つまり見切り発車もいいところだったということだ。
頭の中は全く進まないのに、それに相反し一歩一歩着実に前へ進む足。このままじゃただ島を歩くだけで日が暮れてしまいそうだ。そんな不安が白紙の頭に書き足されていると丁度、目の前の家からおばあさんが出て来た。
私はその姿にすぐさま駆け寄った。
「おばあちゃん」
私の声にこちらを見たおばあさんは莞爾とした笑みを浮かべていてその表情通りの声で返事をくれた。
「おや。可愛い子だね。お嬢ちゃんはどこの孫だい? お名前は何ていうのかな?」
前に神主さんが言っていたけどこの島の人は誰が住んでるかを把握しているから見慣れない私がこの島の子どもじゃないことは一発で分かるらしい(そもそもこの島には私ぐらいの子どもがいないというのもあるとは思うが)。
「鳴海乃蒼」
「あぁ。鳴海さんのとこの」
名前を言えば通じるというのはなんだか自分が大物になった気分に少なからずさせてくれて中々に気分が良いものだった。
「おばあちゃん。お墓ってどこにあるの?」
「ご先祖様にご挨拶でもしに行くのかい?」
「うん」
嘘だ。ごめんなさいおばあさん。
あと一昨日の自分も。でもその決意のキッカケは今まさに後ろにいるから大丈夫だろう。
「それなら真口寺に行ってそこにいるおじさんに訊くといいわよ。案内してくれるから」
「真口寺ってどこにあるの?」
「それはね――」
おばあさんは丁寧にその真口寺の場所を教えてくれた。うんうん、と聞いてはいたが正直覚えられるかは分からなかった。でも真口様もいるし大丈夫だろうと楽観的に説明を聞いていた。
「うん! ありがとう!」
それはまるで全く進まなかった宿題がやってみれば意外とあっという間に片付いたような気分だった。
「それじゃあね。おばあちゃん」
「はいはい。気を付けるんだよ」
「はーい」
さっきまでグルグルとひたすら読み込んでいた頭が快適に動き始め、どこに向かっていいかがハッキリしている今の足取りは更に軽い。
そんな足で向かったのは真口寺――のはずだった。
だが案の定、私は途中で道が分からなくなってしまい足を止めては辺りを見回した。やっぱりこの島も把握出来てない私がハッキリと覚えられていない説明を頼りに目的地へ向かおうというのは無謀だったのかもしれない。
「こっちだ」
するとそんな私を見かねたのか真口様が手を引くように前を歩き始めた。
「おばあちゃんの言ってた事、覚えてるの?」
「当然だ。それにその寺は知っている。場所が変わってなければだがな」
そう言い足を止めることなく進み続ける彼の後ろで、私はやっぱり真口様が居るから大丈夫だったと少し安堵しながらも同時にどこか得意げになっていた。今のところ私の功績は何一つないというのに。
そんな自己満で幸せに満たされていた私を引き連れ歩くこと暫くして。
真口様はまるでいつもの通学路とでも言うように全く迷うことなくお寺へと辿り着いてしまった。風景も変わりもはや知っている島ではないはずなのにこんなにもあっさり到着してしまうとは。やっぱり風景は変わったと言えど地形はそうそうに大きく変わらない訳で、それとおばあさんの説明とを照らし合わせたのだろうか? だとしても中々の記憶力だ。私も欲しい。
「おぉー! お寺だぁ」
真口様を疑っていたという訳じゃないがお寺に到着した事に私は両手を上げて喜んだ。
そんな私の前に建っていたのはとても小さなお寺だった。来る者拒まずと言うように大きく口を開けて開く棟門の三門。石畳の続く先には本堂と金堂がある。
そして丁度その三門と向こうの建物との間には和尚さんらしき人(多分そうなんだろう)がいらっしゃり掃除をしているところだった。私はその姿を見つけると真口様を追い越しその和尚さんの元へ。
「こんにちわ!」
私の足音で上がった顔と目が合うとまずは元気よく挨拶。
「こんにちは」
和尚さんもまたおばあさんや神主さんのように笑みを浮かべながら挨拶を返してくれた。
「私たちお墓探してるの」
「誰のお墓かな?」
私はここでやっと自分が一体誰のお墓を探しているのかという疑問を手にした。そして少し遅れて後ろへ歩いてきた真口様を見上げる。
「千代。天笠千代だ」
「天笠……」
苗字を呟きながら(お墓の名前は全て頭に入っているのか)考える素振りを見せた和尚さんの首はすぐに傾き始めた。
「いやぁ。その苗字のお家はここには無いですね。でも天笠さんというのは真口神社の神主さんをやられてるお家しかこの島には無いのでそちらかもしれませんよ」
「そうか」
真口様は顔色一つ変えずぼそりとそう言うと踵を返し門へ歩き出した。その後姿を数秒見つめた後、私も和尚さんにお礼を言って後を追った。
門を出たところで追いつくと、そうだろうとは思っていたが質問をひとつ。
「神社に行くの?」
「そうだ」
真口様はもはやあの狼の姿じゃないから神主さんにはバレないと思うがやっぱり気は進まない。行く前からすでに居心地の悪さを感じ心臓が嫌だと言うように強く脈打つ。
でも一緒に探すと言った以上、行かざるを得ない訳で私は真口様と共に神社へと戻った。長い階段を上がり境内へと足を踏み入れる。
そんな私たちを出迎えるようにそこには神主さんがいた。偶然だと思うがそれはまるで来ることが分かっていて待っていたようにも見えたのは私の中の感情がそうさせたんだろうか? しかも普通の人の言いつけを破るならまだしも神主さんという神様に仕える人の言いつけを破ったとなると、どこかこう神様を裏切ったような気分になるのはきっと多くの人が賛成してくれるはず。
だけど今の私には本物の神様そのものがついているから大丈夫だ。もしかしたら当時の私は心のどこかでそうとも思ってたのかもしれない。
「君は、えーっと――そう、乃蒼ちゃんだ。いらっしゃい。今日はお兄さんと一緒かな?」
私から真口様へ視線を移した神主さんは優しい表情のままそう尋ねた。
「違うよ! えーっと、真君は真君」
もしかしたらそうだと言った方が安全だったかもしれないが、これ以上罪を重ねまいとでも思ったのか私はつい説明になっていない否定をしてしまった。
でもこれは子どもの特権なんだろう。ある程度、訳の分からない事を言ったとしても大人は理解した振りをしてくれる。それは幸いにも、今回も例外ではなかった。
「そうなんだね。それで今日も参拝しに来たのかな?」
「今日はね。お墓を探してるの」
「お墓? それなら真口寺に行った方がいいと思うよ」
「行ったよ。でもそしたらおじさんの所かもしれないって言ってた」
「僕のとこ……」
「天笠千代。その墓を探してる」
首を傾げる神主さんに真口様が名前を口にしたが、それを聞いてもなお神主さんの表情は変わらない。
「確かにうちは天笠だけど……。ちょっとその名前は聞いたことないかな。家系図にもその名前は無いと思うし。ここ人というのは確かなんですか?」
「それは知らん。名前は確かだ。それと恐らくこの島でその生涯を終えたのもな」
「それならお墓もこの島にあるかもしれませんね。――もしよければうちのお墓を見ていきますか? そこには御先祖様の名前が刻まれていますのでもしかしたらそこにあるかもしれませんし」
「頼む」
「ではこっちへどうぞ。少し歩くんですけどそこまで遠くはないので」
それから私と真口様は神主様の後に続いてその天笠家のお墓へ案内してもらった。その途中で神主さんは、神社にお墓が無いのは神道において死は穢れと扱われるために聖域である神社にお墓は作らないという話してくれたのだが、何故か私はそれをずっと覚えていた。神主さんには悪いがその時は別に興味のそそられる話じゃなかったと思うんだけど。どうしてだろうか。
頭の中は全く進まないのに、それに相反し一歩一歩着実に前へ進む足。このままじゃただ島を歩くだけで日が暮れてしまいそうだ。そんな不安が白紙の頭に書き足されていると丁度、目の前の家からおばあさんが出て来た。
私はその姿にすぐさま駆け寄った。
「おばあちゃん」
私の声にこちらを見たおばあさんは莞爾とした笑みを浮かべていてその表情通りの声で返事をくれた。
「おや。可愛い子だね。お嬢ちゃんはどこの孫だい? お名前は何ていうのかな?」
前に神主さんが言っていたけどこの島の人は誰が住んでるかを把握しているから見慣れない私がこの島の子どもじゃないことは一発で分かるらしい(そもそもこの島には私ぐらいの子どもがいないというのもあるとは思うが)。
「鳴海乃蒼」
「あぁ。鳴海さんのとこの」
名前を言えば通じるというのはなんだか自分が大物になった気分に少なからずさせてくれて中々に気分が良いものだった。
「おばあちゃん。お墓ってどこにあるの?」
「ご先祖様にご挨拶でもしに行くのかい?」
「うん」
嘘だ。ごめんなさいおばあさん。
あと一昨日の自分も。でもその決意のキッカケは今まさに後ろにいるから大丈夫だろう。
「それなら真口寺に行ってそこにいるおじさんに訊くといいわよ。案内してくれるから」
「真口寺ってどこにあるの?」
「それはね――」
おばあさんは丁寧にその真口寺の場所を教えてくれた。うんうん、と聞いてはいたが正直覚えられるかは分からなかった。でも真口様もいるし大丈夫だろうと楽観的に説明を聞いていた。
「うん! ありがとう!」
それはまるで全く進まなかった宿題がやってみれば意外とあっという間に片付いたような気分だった。
「それじゃあね。おばあちゃん」
「はいはい。気を付けるんだよ」
「はーい」
さっきまでグルグルとひたすら読み込んでいた頭が快適に動き始め、どこに向かっていいかがハッキリしている今の足取りは更に軽い。
そんな足で向かったのは真口寺――のはずだった。
だが案の定、私は途中で道が分からなくなってしまい足を止めては辺りを見回した。やっぱりこの島も把握出来てない私がハッキリと覚えられていない説明を頼りに目的地へ向かおうというのは無謀だったのかもしれない。
「こっちだ」
するとそんな私を見かねたのか真口様が手を引くように前を歩き始めた。
「おばあちゃんの言ってた事、覚えてるの?」
「当然だ。それにその寺は知っている。場所が変わってなければだがな」
そう言い足を止めることなく進み続ける彼の後ろで、私はやっぱり真口様が居るから大丈夫だったと少し安堵しながらも同時にどこか得意げになっていた。今のところ私の功績は何一つないというのに。
そんな自己満で幸せに満たされていた私を引き連れ歩くこと暫くして。
真口様はまるでいつもの通学路とでも言うように全く迷うことなくお寺へと辿り着いてしまった。風景も変わりもはや知っている島ではないはずなのにこんなにもあっさり到着してしまうとは。やっぱり風景は変わったと言えど地形はそうそうに大きく変わらない訳で、それとおばあさんの説明とを照らし合わせたのだろうか? だとしても中々の記憶力だ。私も欲しい。
「おぉー! お寺だぁ」
真口様を疑っていたという訳じゃないがお寺に到着した事に私は両手を上げて喜んだ。
そんな私の前に建っていたのはとても小さなお寺だった。来る者拒まずと言うように大きく口を開けて開く棟門の三門。石畳の続く先には本堂と金堂がある。
そして丁度その三門と向こうの建物との間には和尚さんらしき人(多分そうなんだろう)がいらっしゃり掃除をしているところだった。私はその姿を見つけると真口様を追い越しその和尚さんの元へ。
「こんにちわ!」
私の足音で上がった顔と目が合うとまずは元気よく挨拶。
「こんにちは」
和尚さんもまたおばあさんや神主さんのように笑みを浮かべながら挨拶を返してくれた。
「私たちお墓探してるの」
「誰のお墓かな?」
私はここでやっと自分が一体誰のお墓を探しているのかという疑問を手にした。そして少し遅れて後ろへ歩いてきた真口様を見上げる。
「千代。天笠千代だ」
「天笠……」
苗字を呟きながら(お墓の名前は全て頭に入っているのか)考える素振りを見せた和尚さんの首はすぐに傾き始めた。
「いやぁ。その苗字のお家はここには無いですね。でも天笠さんというのは真口神社の神主さんをやられてるお家しかこの島には無いのでそちらかもしれませんよ」
「そうか」
真口様は顔色一つ変えずぼそりとそう言うと踵を返し門へ歩き出した。その後姿を数秒見つめた後、私も和尚さんにお礼を言って後を追った。
門を出たところで追いつくと、そうだろうとは思っていたが質問をひとつ。
「神社に行くの?」
「そうだ」
真口様はもはやあの狼の姿じゃないから神主さんにはバレないと思うがやっぱり気は進まない。行く前からすでに居心地の悪さを感じ心臓が嫌だと言うように強く脈打つ。
でも一緒に探すと言った以上、行かざるを得ない訳で私は真口様と共に神社へと戻った。長い階段を上がり境内へと足を踏み入れる。
そんな私たちを出迎えるようにそこには神主さんがいた。偶然だと思うがそれはまるで来ることが分かっていて待っていたようにも見えたのは私の中の感情がそうさせたんだろうか? しかも普通の人の言いつけを破るならまだしも神主さんという神様に仕える人の言いつけを破ったとなると、どこかこう神様を裏切ったような気分になるのはきっと多くの人が賛成してくれるはず。
だけど今の私には本物の神様そのものがついているから大丈夫だ。もしかしたら当時の私は心のどこかでそうとも思ってたのかもしれない。
「君は、えーっと――そう、乃蒼ちゃんだ。いらっしゃい。今日はお兄さんと一緒かな?」
私から真口様へ視線を移した神主さんは優しい表情のままそう尋ねた。
「違うよ! えーっと、真君は真君」
もしかしたらそうだと言った方が安全だったかもしれないが、これ以上罪を重ねまいとでも思ったのか私はつい説明になっていない否定をしてしまった。
でもこれは子どもの特権なんだろう。ある程度、訳の分からない事を言ったとしても大人は理解した振りをしてくれる。それは幸いにも、今回も例外ではなかった。
「そうなんだね。それで今日も参拝しに来たのかな?」
「今日はね。お墓を探してるの」
「お墓? それなら真口寺に行った方がいいと思うよ」
「行ったよ。でもそしたらおじさんの所かもしれないって言ってた」
「僕のとこ……」
「天笠千代。その墓を探してる」
首を傾げる神主さんに真口様が名前を口にしたが、それを聞いてもなお神主さんの表情は変わらない。
「確かにうちは天笠だけど……。ちょっとその名前は聞いたことないかな。家系図にもその名前は無いと思うし。ここ人というのは確かなんですか?」
「それは知らん。名前は確かだ。それと恐らくこの島でその生涯を終えたのもな」
「それならお墓もこの島にあるかもしれませんね。――もしよければうちのお墓を見ていきますか? そこには御先祖様の名前が刻まれていますのでもしかしたらそこにあるかもしれませんし」
「頼む」
「ではこっちへどうぞ。少し歩くんですけどそこまで遠くはないので」
それから私と真口様は神主様の後に続いてその天笠家のお墓へ案内してもらった。その途中で神主さんは、神社にお墓が無いのは神道において死は穢れと扱われるために聖域である神社にお墓は作らないという話してくれたのだが、何故か私はそれをずっと覚えていた。神主さんには悪いがその時は別に興味のそそられる話じゃなかったと思うんだけど。どうしてだろうか。
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