BLOOD RAIN

佐武ろく

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 一本の道を挟み所狭しと並ぶ建物の一軒。通りから横へ伸びた路地にある外階段の三階。殺風景なドア前に二人の姿はあった。

「一人は生かしておいて下さいね。出来ればリーダー格がいいですかね。その方が上と確実に連絡を取れると思いますから」
「アタシに言わないで」

 ドアの前で柄を握るリナはラウルにそう返すと構えた刀を抜いた。

 来客を知らせぬまま静寂を守る何の変哲もないスチール製のドア。
 するとドアは普通に開く訳でも無く、蹴破られる訳でも無く――内側から見れば突然、流れる刀によってバラバラに斬り開かれた。大きな破片と化し役割を失ったドアだったものは、注目を引くには十分な音を立て床へと落ちていった。
 そしてその重なり合った破片を跨ぎ室内へと足を踏み入れるブーツ。ほぼ同時に中にいた数名の視線が出入口へと集まった。
 だが注目を浴びながらそれを微塵も気にすることのない足取りは中へと進んでゆく。
 鼻歌と共にリナの無表情とは異なり妖艶な微笑みを浮かべ、手を振るような腰は思わず視線を奪われてしまいそうだった。

「アニキ! この女! 話した昨日の奴ですよ!」

 ドアの反対側――部屋の一番奥に腰掛ける人物へ(先日のアニキとは別人だろう)顔にまだ新しい傷を負った男が空切を指差しながら叫ぶ。
 一方で彼女自身は視線を部屋の中にいた人数を数えるように次から次へと移していた。獣人、人獣、(外見だけで言えば)人間。細分化すれば更に複数の種族に分けられ、種族だけで言えば同じは精々二人程度。向かい合ったデスクを挟み今では全員が立ち上がっている。
 すると空切は半分ほど進んだ所で立ち止まると同時に片足を軸に後ろを振り返った。

「ちょっとまたなの? 最近こんなのばっかじゃなーい。ぜんっぜんあたしの好みじゃないわ」

 不満気な口調でさえ色気を纏う空切に外から顔を覗かせたラウルは鞘を手にしながら両手を合わせて見せた。

「すみません。ですが、次はきっとあなたにも満足してもらえると思いますよ。今回はその準備ということで」
「はぁ~。ほんとヤになっちゃうわぁ」

 溜息を零し同時に顔を俯かせた空切。だが先に視線を戻しラウルを見上げると、それから視線はそのまま顔だけを上げては彼を見下ろし、最後は真っすぐ見つめた。
 しかしその視線はどこか睨み付けるような鋭さを帯びていた。

「そろそろ本気で君には、この溜まった欲求不満を満たして貰わないといけなくなるのかも」

 そして表情はそのまま彼女は舌なめずりをして見せた。
 だが対するラウルは一定して表情を変えず、一切動じてる様子はない。

「約束はお守りしますので。今回のところは」

 するとその時、空切の後方にいた人間の男がポケットからナイフを取り出すと刃先で狙いを定めながら走り出した。

「まぁ君のお願いなら――」

 男は背後まで接近すると彼女の声を遮りナイフを突き出した。

「何ごちゃごちゃ言ってんだよ!」

 だがその刃先が空切へ突き出されるよりも先に、彼女は刀を振り上げながら男を正面に捉えていた。それは余りにも一瞬の出来事で、たった一回の瞬きをした後にはすでに彼女は振り返り刀を振り上げた後のような。その間だけ世界が二コマだけで構成されていたかのような一瞬の出来事だった。
 そんな一瞬後の世界では、男の腕はナイフを握ったまま宙を舞っていた。断面から一瞬だが出血すらさせない程の一刀を受けた腕は、体から切離された事に気づかぬまま一人だけ先へと進む。
 一方どの感覚よりも先に違和感の訪れた男の足が止まると、同時に容器を倒してしまったかのように床へは大量の鮮血が吐き出された。男の中で理解と痛みのどちらが早かったのかは分からない。だた自分の無くなった腕を見つめながら男は叫び声を上げた。その声と共に一歩二歩と覚束ない足取りが後ずさる。

「仕方ないわね」
「ありがとうございます」

 背中でそのお礼を聞きながら、空切はデスクを乗り越え尖鋭な爪を伸ばす獣人の手首を見るまでもなく掴み止めた。遅れて顔を向けると睨み付けながらもう片方の手を振り上げるネコ科のリバット。
 だが空切はそれよりも素早く掴んだ手を引き寄せると、彼女の頭を鷲掴みにしデスクへと叩きつけた。そしてそのまま自身の体を持ち上げると逆立ち状態となり片手でバランスを取りながら反対側――デスク上へと着地。
 丁度、そんな彼女と入れ違いで回り込んでは背後から襲い掛かってきていた犬耳の生えた人獣バットは消えた残像を殴り空振していた。
 一方でデスク上から周囲を一見し状況を確認する空切。視線を右から左へ。ぐるり振り返りながら少し顔を左へ向け視線で円を描く。
 だがそこに長居はせず、見終えるや否や足元を狙い振られたゴルフクラブを避けながら彼女はバク宙をしながら床へと下りた。その位置はクラブを手にした縞馬獣人の真横。

「次はもっと上手くやらなくちゃね」

 そして空切は刀を構えるとそのまま一閃。

「と言っても次はないんだけど」

 獣人の首を気持ちのいいほど綺麗に刎ねた。
 すると空切は斬り離された首へ手を伸ばすと倒れていく体を無視し、その頭をデスクの向こう側に居たイヌ科のリィバッツ獣人へと放った。ボールでも渡すように緩やかな速度で小さく放物線を描く生首。
 突然投げられたからか仲間の首だからか、リィバッツは一驚に喫しながらもその生首を両手で丁寧に受け取った。
 しかしその間に彼女との間合いを一瞬で詰めた空切は、情などという言葉は知らないとでも言うように抱えた首ごとリィバッツへ刀を突き出し貫通させた。的確に心臓を貫いた刀は背から顔を見せることは無く、最小限で任務を果たすとすぐさま引き抜かれていく。
 そして刀身を血に濡らしせながら刀が抜かれると――少し遅れてリィバッツは空切の方へと倒れていった。
 だがそんなリィバッツの顔へ刀の身幅部分を当て横へと退け、次なる獲物へと刀を振った。
 それから一方的な戦闘は続き――気が付けば室内に残る命は残り三つ。
 デスクに立つ空切は椅子に座るアニキと呼ばれた熊の獣人へ切先を見下ろしながら向けていた。返り血はあれど相変わらず綺麗な肌の空切に比べ、獣人の方は傷だらけ。一目でどのような戦いが繰り広げられたか分かる程に二人には差があった。

「メインに残してた割には大して変わらないわね」

 口調から既に落胆の色が伺える空切は刀を振り上げた。
 だが、そんな彼女と獣人との間にラウルが滑り込む。

「彼だけは次の楽しみの為に生かしておいてくれませんか?」

 ラウルの顔に手を止めた空切は少し動きを止めその提案を検討し始める。

「それを生かしといたらあたしを満足させてくれるっていうの?」
「私の予想だとそうなりますね」

 構えた刀はそのままに視線だけを逸らし更に何やら考える空切。その間、ラウルはおろか獣人でさえも判決を待つようにただじっとしていた。

「――分かったわ。でも、もし次に物足りなかったら……」

 言葉を一度、途切れさせた空切は刀を下げるとその場にしゃがみラウルの持っていた鞘を手に取った。
 そして刃先からゆっくりと納めてゆく。

「その時は君に責任を取ってもらうわね」

 微笑みこそ浮かべていたものの警告のようにそう言うと同時に彼女は刀を鞘に納めた。
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