10 / 21
未確認飛行物体9
しおりを挟む
想像を遥かに超えた人物の姿にマルクは思わず立ち上がり聖剣へ手を伸ばす。
だがマルクを除く四人の王は少なくとも驚いた素振りは見せず冷静を保っていた。
「ここがどこだか分かってんのか?」
先に口を開いたのはベイノバだった。
「ちんけな人間が作り出した亜空間と言ったところか?」
「その気になれば俺らごとてめぇを消滅させることができる場所だ」
「大国の王四人と勇者一人の命と引き換えに吾輩の命を貰おうというのか? フッ。そのような安価では交渉の場にすら着けんな」
「舐めた野郎だ。俺が指示を出せば今すぐにでもこの空間ごとてめぇを殺してやれるつってんだよ」
恐らくやるとなれば躊躇なく引き金を引ける。鋭い眼光を向けるベイノバからはその覚悟が感じられた。
「止めとけ」
だがそんなベイノバを止めたのはアーサーだった。
「どうやったかは知らんがこの場所に外から入ってきたのなら出ることも容易いだろう」
「アーサーの言う通りじゃ。確実にこやつを仕留められるのならこの老いぼれの命くれてやろう。じゃが、こやつもそこまでバカではあるまい。それに魔力を扱う者であるならそれが出来るのも知っておろう。それを承知の上でこの場所に現れたのなら策はあるということじゃ」
二人の言葉で冷静を取り戻したのかベイノバは魔王への眼光を外し葉巻を手に取るとアーサーとヴァレンスへ向け軽く両手を広げて見せた。
そしてヴァレンスはマルクへ目をやると一度頷く。それを見たマルクは聖剣から手を離し椅子に座り直した。
「それで? そちは一体何しに来はったんやろか?」
「提案だ。もっとも貴様らに聞く気があるのならだがな」
「うむ。まずはどのような提案か聞いてみようではないか」
ヴァレンスはどうだと問いかけるように他の四人へ目をやる。
それに対し皆、意義はないと沈黙で答えた。
「どうやら意見はまとまったようだな」
マードファスはそう言うとテーブルから足を下ろした。
「吾輩からの提案は単純だ。アレを潰すまでの間、一時休戦とし手を組もうではないか」
「アレというのはお前の城に現れた飛行物体か?」
「あぁそうだ」
ハッ、とその言葉にベイノバは先程の仕返しか嘲笑的な笑いをわざとらしくして見せた。
「意外だな。てめぇはてっきりあっちと手を組んで俺らを潰しにくるかと思ってたが?」
「吾輩もそうしようと思ったが、どうやらあっちにその気はないらしい」
「あの中に入ったん?」
ゆっくりと左右へ首を振るマードファス。
「いや、我が城に近づいた時点で攻撃を受けた。聞く耳はないようだ」
「じゃから儂らと手を組みアレを潰そうというのか」
「そういうことだ。だが貴様らにとっても悪い話ではあるまい」
「お前の力は強大だ。それは認めよう。だがそのお前が自身の軍勢を率いても勝てんと判断するほどアレは力をもっているのか?」
「もしアレが吾輩の知っているモノならだが――。吾輩と配下だけでは厳しいだろう」
マルクにとって魔王軍をも凌ぐ力を持っているということも驚愕的な事実ではあったが、それ以上に興味を引いたのはマードファスがアレを知っている可能性があるということ。それはヴァレンスも同様のようでマルクが浮かべていた疑問を代わりにマードファスへ投げかけた。
「知っておるのか? アレを?」
「確証はない。だがもし手を組むのなら知っていることは話してやろう」
その言葉に四人の国王はどう決断すべきかを、時折互いに視線を合わせながらも各々考え始めた。現状とリスクを加味し、ありとあらゆる可能性を想像しているのだろう。
それにより辺りに流れ始めた沈黙の中、向かい合って座るマルクの一切警戒の緩まぬ双眸とマードファスの余裕に満ちた双眸は交差した。
「そっちが裏切らない保証はどこにある?」
「無いな。だがもし同じ戦場に立つのなら貴様が後ろから斬りかかって来ない保証はどこにある?」
「どこにもない」
「そういうことだ。だが貴様も体感したはずだ。吾輩らを襲ったあの光の威力を」
マードファスは立てた指で上を指差した。
「万全でないとはいえ聖剣と魔剣の力を使いやっと相殺出来た。互いに協力しなければ、いや、少なくともここでいがみ合っていてはアレを独り勝ちさせるだけだ」
「協力するフリをして最後に美味しいところを頂こうって腹の可能性もある」
「それも悪くない」
すると魔王は提案の答えを国王らが出す前に立ち上がった。
「今の貴様らには考える時間が必要だろう。また来る時までに答えを出しておけ」
そして話し合いの最中、部屋を適当に歩いたり外を眺めていた魔族が魔王の傍へ戻ると二人は現れたブラックホールのような空間の歪みに消えていった。
マードファスは去ったが提案まで消えた訳ではない。会議の議題は依然としてマードファスの提案に関してだった。
「皆の率直な意見が聞きたい」
「もし魔王がこちらの手を必要としているのならそこまで焦って協力関係を結ぶ必要もないだろう。まずはアレの戦力を大体でも探るべきだ」
「そやなぁ。もし仮に魔王と手を組むんやとしても準備は必要やろうからすぐにちゅうんは厳しいやろ」
「安全面を確保出来ないんだったらあんな野郎と組むなんてのはリスクしかないだろ。現状で言えば反対だ」
アーサー、陽花里、ベイノバの意見を聞いたヴァレンスの視線は最後にマルクで止まった。
だがマルクを除く四人の王は少なくとも驚いた素振りは見せず冷静を保っていた。
「ここがどこだか分かってんのか?」
先に口を開いたのはベイノバだった。
「ちんけな人間が作り出した亜空間と言ったところか?」
「その気になれば俺らごとてめぇを消滅させることができる場所だ」
「大国の王四人と勇者一人の命と引き換えに吾輩の命を貰おうというのか? フッ。そのような安価では交渉の場にすら着けんな」
「舐めた野郎だ。俺が指示を出せば今すぐにでもこの空間ごとてめぇを殺してやれるつってんだよ」
恐らくやるとなれば躊躇なく引き金を引ける。鋭い眼光を向けるベイノバからはその覚悟が感じられた。
「止めとけ」
だがそんなベイノバを止めたのはアーサーだった。
「どうやったかは知らんがこの場所に外から入ってきたのなら出ることも容易いだろう」
「アーサーの言う通りじゃ。確実にこやつを仕留められるのならこの老いぼれの命くれてやろう。じゃが、こやつもそこまでバカではあるまい。それに魔力を扱う者であるならそれが出来るのも知っておろう。それを承知の上でこの場所に現れたのなら策はあるということじゃ」
二人の言葉で冷静を取り戻したのかベイノバは魔王への眼光を外し葉巻を手に取るとアーサーとヴァレンスへ向け軽く両手を広げて見せた。
そしてヴァレンスはマルクへ目をやると一度頷く。それを見たマルクは聖剣から手を離し椅子に座り直した。
「それで? そちは一体何しに来はったんやろか?」
「提案だ。もっとも貴様らに聞く気があるのならだがな」
「うむ。まずはどのような提案か聞いてみようではないか」
ヴァレンスはどうだと問いかけるように他の四人へ目をやる。
それに対し皆、意義はないと沈黙で答えた。
「どうやら意見はまとまったようだな」
マードファスはそう言うとテーブルから足を下ろした。
「吾輩からの提案は単純だ。アレを潰すまでの間、一時休戦とし手を組もうではないか」
「アレというのはお前の城に現れた飛行物体か?」
「あぁそうだ」
ハッ、とその言葉にベイノバは先程の仕返しか嘲笑的な笑いをわざとらしくして見せた。
「意外だな。てめぇはてっきりあっちと手を組んで俺らを潰しにくるかと思ってたが?」
「吾輩もそうしようと思ったが、どうやらあっちにその気はないらしい」
「あの中に入ったん?」
ゆっくりと左右へ首を振るマードファス。
「いや、我が城に近づいた時点で攻撃を受けた。聞く耳はないようだ」
「じゃから儂らと手を組みアレを潰そうというのか」
「そういうことだ。だが貴様らにとっても悪い話ではあるまい」
「お前の力は強大だ。それは認めよう。だがそのお前が自身の軍勢を率いても勝てんと判断するほどアレは力をもっているのか?」
「もしアレが吾輩の知っているモノならだが――。吾輩と配下だけでは厳しいだろう」
マルクにとって魔王軍をも凌ぐ力を持っているということも驚愕的な事実ではあったが、それ以上に興味を引いたのはマードファスがアレを知っている可能性があるということ。それはヴァレンスも同様のようでマルクが浮かべていた疑問を代わりにマードファスへ投げかけた。
「知っておるのか? アレを?」
「確証はない。だがもし手を組むのなら知っていることは話してやろう」
その言葉に四人の国王はどう決断すべきかを、時折互いに視線を合わせながらも各々考え始めた。現状とリスクを加味し、ありとあらゆる可能性を想像しているのだろう。
それにより辺りに流れ始めた沈黙の中、向かい合って座るマルクの一切警戒の緩まぬ双眸とマードファスの余裕に満ちた双眸は交差した。
「そっちが裏切らない保証はどこにある?」
「無いな。だがもし同じ戦場に立つのなら貴様が後ろから斬りかかって来ない保証はどこにある?」
「どこにもない」
「そういうことだ。だが貴様も体感したはずだ。吾輩らを襲ったあの光の威力を」
マードファスは立てた指で上を指差した。
「万全でないとはいえ聖剣と魔剣の力を使いやっと相殺出来た。互いに協力しなければ、いや、少なくともここでいがみ合っていてはアレを独り勝ちさせるだけだ」
「協力するフリをして最後に美味しいところを頂こうって腹の可能性もある」
「それも悪くない」
すると魔王は提案の答えを国王らが出す前に立ち上がった。
「今の貴様らには考える時間が必要だろう。また来る時までに答えを出しておけ」
そして話し合いの最中、部屋を適当に歩いたり外を眺めていた魔族が魔王の傍へ戻ると二人は現れたブラックホールのような空間の歪みに消えていった。
マードファスは去ったが提案まで消えた訳ではない。会議の議題は依然としてマードファスの提案に関してだった。
「皆の率直な意見が聞きたい」
「もし魔王がこちらの手を必要としているのならそこまで焦って協力関係を結ぶ必要もないだろう。まずはアレの戦力を大体でも探るべきだ」
「そやなぁ。もし仮に魔王と手を組むんやとしても準備は必要やろうからすぐにちゅうんは厳しいやろ」
「安全面を確保出来ないんだったらあんな野郎と組むなんてのはリスクしかないだろ。現状で言えば反対だ」
アーサー、陽花里、ベイノバの意見を聞いたヴァレンスの視線は最後にマルクで止まった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法使いと皇の剣
1111
ファンタジー
かつて世界は一つだった。
神々が大陸を切り離し閉ざされた世界で
魔法使いのミエラは父の復讐と神の目的を知る為
呪われた大陸【アルベスト】を目指す。
同じく閉ざされた世界で〔皇の剣〕と呼ばれるジンは
任務と大事な家族の為、呪われた大陸を目指していた。
旅の中で、彼らは「神々の力の本質」について直面する。神とは絶対的な存在か、それとも恐れるべき暴君か。人間とは、ただ従うべき存在なのか、それとも神を超える可能性を秘めたものなのか。
ミエラに秘められた恐るべき秘密が、二人を究極の選択へと導いていく。
私、こう見えて魔王なんです。
タニマリ
ファンタジー
二千年もの長き年月に渡り魔王を勤めていた父が、老衰のため|崩御《ほうぎょ》した。
後を継ぐのは当然、兄のメメシスだと思っていたのに、なんと兄は私に魔王の座を押し付けて逃げやがったのだ。
この五百年間、勇者が城に侵入してきたたことはないって話だったので嫌々ながらも引き受けたのに、バカみたいにめちゃくちゃ強い勇者一行が攻め入ってきて……
こんなの全然、聞いてないんだけど──────!!
【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される
はくら(仮名)
ファンタジー
※2024年6月5日 番外編第二話の終結後は、しばらくの間休載します。再開時期は未定となります。
※ノベルピアの運営様よりとても素敵な表紙イラストをいただきました! モデルは作中キャラのエイラです。本当にありがとうございます!
※第二部完結しました。
光魔導士であるシャイナはその強すぎる光魔法のせいで戦闘中の仲間の目も眩ませてしまうほどであり、また普段の素行の悪さも相まって、旅のパーティーから追放されてしまう。
※短期連載(予定)
※当作品はノベルピアでも公開しています。
※今後何かしらの不手際があるかと思いますが、気付き次第適宜修正していきたいと思っています。
※また今後、事前の告知なく各種設定や名称などを変更する可能性があります。なにとぞご了承ください。
※お知らせ
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界を服従して征く俺の物語!!
ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。
高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。
様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。
なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?
マリアベルの迷宮
とっとこまめたろう
ファンタジー
セラフィト帝国の第三皇子レグルスは、竜の召喚士である『白の魔女』を手に入れるために幻の国ウィスト公国に派遣されることとなる。しかし、手掛かりと成り得た大公家は兄皇子に処断されてしまった。レグルスは唯一生き残った息女を政略的に花嫁に迎えることになるが……?
女を絆そうと四苦八苦する男と、鉄の心で武装した女の、政略結婚から始まる復讐劇と恋愛物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】腐女子が王子~独身中年女性が異世界王子に転生、ヲタクの知識と魔法と剣術で推しメンの危機を守ります~
黒夜須(くろやす)
ファンタジー
腐女子のアラサ―がずっと好きだった漫画の第二王子に転生した。8歳の王子に生まれ変わったが中身はアレサ―腐女子である。自分の推しメンの存在が気になったしょうがない。推しメン同士の絡みが見たいと期待しているところで、この漫画の推しメンを含む登場人物は不幸になることを思い出した。それを阻止しようと動いているとこの国の闇に触れることになる。漫画では語られなかった事実を知ることになり、国の謎を王位継承権を持つ兄ともに探っていく。
兄は弟を溺愛しており、異常な執着心をみせるようになる。最初は気に留めなかったが次第に弟も心惹かれるようになる。
※主人公以外にBL(チャラ男×クール)カップルが登場します。NLもあります。主人公はおばさん王子、そして婚約者になるべき相手はおじさん令嬢ですが、兄が止めるので二人はくっつきません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果
kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。
自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。
魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる