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未確認飛行物体7

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 脱衣室から浴場に足を踏み入れると、そこは温泉にでも来たのではないかと思わせるほど大きく立派だった。
 それに高ぶる心内を抑えつつも、汗を流し体を洗ったマルクと宗弥はライオン形の蛇口からエメラルドグリーンの湯が流れ続ける湯船に体を浸からせる。肩までしっかり湯に沈ませると口から全身の力が抜けていった。メイドの言う通り確かに適温なその湯は体に出来た無数の傷に少し染みたが、それ以上にずっと浸かっていたいと思わせるほどに心地好い。
 そんな湯に浸かっていたマルクだったが心残りにふと溜息を引き出す。

「ゴウ大丈夫かな」

 隣から聞こえた別種の溜息に宗弥は彼へ横目をやった。

「タフな奴だ。問題ない。今頃、どこかで野宿でもしてるだろう」
「だといいけど。――でもやっぱりマードファスを逃がしたのは間違いだったのかな?」
「今更後悔しても遅い。それに皆生きていてまだ魔王を倒す機会がある。結果としては良いと思うが?」
「まぁそうだけど」

 結局、マルクはスッキリとしない曇った空のような気分のまま湯に浸かり続けた。
 そして暫く入り続け身も心も癒されたところで二人は湯から上がった。脱衣所に入るとまず洗濯乾燥を短時間で行ってくれる機械から服を取り出す。その間に額の傷から痛みがほぼ消えていることに気が付いたマルクは近くに設置されていた鏡で確認してみた。

「あっ! もう傷が治りかけてる」

 メイドの言っていた特別な配合のおかげか出血は止まり、早速治り始めていた。それは宗弥も同じで恐らくフローリーとアリアも同じなのだろう。
 そして汗を流しさっぱりとしたそんな彼らを客室で待っていたのは――溢れんばかりのご馳走。それは機嫌の悪かった腹の虫も満足するほど美味しい料理。
 そして湯に浸かり料理を食べた四人は戦いの疲れが呼び寄せた睡魔に襲われるが、抗うことはせず素直にベッドへ入り眠りに就いた。

「それじゃあみんなお疲れ様。お休み」
「お休みなさい」
「お休みー」

 しっかりとした栄養と休息を取ったお陰で――翌朝、マルクはスッキリと目を覚ました。清々しく疲れの一切残っていない体は軽い。一日の始まりとしては最高の朝を迎えた彼は起き上がるとまず大きく伸びをした。体中にあった傷から痛みはほぼ消え(触ったら少し痛い程度)本調子といった具合。
 そしてマルクはまだ寝ている仲間を起こさぬよう静寂に紛れるようにベッドを降り、部屋を出た。
 それから何か目的があるわけではないが廊下を歩いていると一人の兵士からヴァレンスの伝言が伝えられた。それは謁見の間に来るようにというもの。それに従いマルクはそのまま謁見の間へ。
 見張りの兵士に朝の挨拶をすると開けて貰ったドアを通り中へ足を踏み入れる。謁見の間には王座に座るヴァレンスとその前に堂々たる立ち姿の鎧を身に纏った大男の姿があった。
 その大男は鎧の上にマントを付けており、そこには大きくセルガラ王国国章(翼を広げオリーブをくわえた鳩と王冠、オリーブの木が描かれた盾とそれを両側で支える象と虎)が描かれていた。

「来たかマルクよ」

 先に気が付いたヴァレンスの言葉にその鎧の大男はマルクの方を振り返った。さっぱりとした短髪に口を囲う髭、幾多の修羅場を潜り抜けてきたであろう双眸。そして右目上には深く短い傷跡があった。肩幅が広く随分なガタイをしたその大男から若さは感じられなかったもののちょっとやそっとでは得られない気迫のようなものがひしひしと伝わる。
 そんな大男の名はヘクトラ・S・ユリサス。セルガラ王国騎士団の団長を務める言わば王国の守護者。
 そして振り返ったヘクトラはマルクの姿に久しぶりに会った叔父のような反応を見せる。

「魔王討伐の件、残念だったな」
「僕にもっと力があれば倒せたかもしれません」
「仕方あるまい。相手はあの魔王だ」
「ではヘクトラ騎士団長。マルクも来たことじゃ。報告を頼む」

 ヴァレンスの声にヘクトラは再び王座の方を向く。

「国王様のご命令通り今朝、少数の兵を連れ魔王城を偵察して参りましたが――確かに得体の知れない円盤型の飛行物体が魔王城上空を浮遊しておりました。ですが私《わたくし》が目にしたのは巨大な円盤型飛行物体一隻のみです」
「となるとそれが本艦の可能性が高いですね」
「私もマルクと同意見です。あれは言わば城。攻めるならばあれを狙うことになるでしょう」

 報告を受けヴァレンスは何かを考えている様子だった。

「じゃがまだ情報が足りぬ上に魔王の脅威も去っておらん。問題は山積みじゃ。――ヘクトラ騎士団長。兎に角、今は気を緩めるでないぞ」
「はっ。承知いたしました」

 その言葉に気を引き締めるように返事をするとヘクトラは頭を下げた。

「それとマルクよ。本日、ここセルガラで緊急四ヶ国国王会議を開くことが決まった。それにお主も参加し現状を伝えてはくれんか?」
「お任せください」

(既に頭を上げていたが)ヘクトラを真似るようにマルクも返事の後に頭を下げる。

「では時間になったら兵に呼びに行かせる。それまでは自由に過ごすとよい」
「分かりました」
「儂からは以上じゃ」
「では失礼いたします」

 そしてヘクトラとマルクは同時に頭を下げると謁見の間を後にした。
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