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未確認飛行物体1
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乱れた呼吸に合わせ上下する肩。それに連動して左耳で揺れるピアス。どの傷から流れているかも分からない血は頬を通り、顎先から一定のリズムで床に滴っている。勇気と優しさに満ちた相形に加え黒髪がより誠実さを感じさせた。
そんな勇者マルクは傷だらけで片膝を着きながら真っすぐとした双眸で、同じく体中の傷が激戦を物語る魔王マードファスを見つめていた。
「はぁ……はぁ……」
意識などせずとも勝手に繰り返される口呼吸は荒く、彼の疲労具合が伺える。
すると魔王への視線を外したマルクは、一度後ろを振り向いた。
そこには先端部分が少し曲がった魔女帽子、魔杖の大杖と共に横向きで倒れる少女がいた。編み上げロングブーツとショートパンツ、ロングコートを着た魔術師アリア・クローリーだ。
その背丈はあまり大きくなく――というよりむしろ小さい方だろう。そして彼女の特徴の一つでもある常に自信に満ち大きく凛とした目には、残念ながら瞼が蓋をしてしまっていた。更に幼さ残る顔も細かな傷や埃などで汚れてしまっている。
そしてその奥にはもう一人。ここまで苦楽を共にした仲間が意識を失っい倒れていた。黒シャツに黒いネクタイとジャケットなしのストライプ黒スーツを着た白髪の小柄な武道家ゴウ。
シャツの上からでも分かる程に鍛え上げられた肉体と今は閉じているが三白眼とが相俟って少し威圧感を感じさせるが根は優しい青年。
二人の姿はマルクの心にずっと存在していた想いを更に強いものにした。
「村のみんな……これまで出会ってきた人々――僕をここまで支えてくれた仲間達。この世界の全ての人の為にも――ここで負けるわけにはいかない」
するとその責任感とも言うべき強き想いに呼応するかのように、聖剣は光を帯び始める。
だがそれは魔王マ―ドファスとて同じだった。勇者マルクの光が強くなるにつれマ―ドファスの黒紫色の魔力も強さを増していく。まるで光りに比例して濃くなる影のように。
そして聖剣を片手にマルクは初めの人型から変形を重ねたマ―ドファスの姿を再確認するように眺めた。
曲線を描き伸びるツノはまるで闇を体現するかのように黯い。それだけで十分に不気味さを醸し出す飛膜、獰猛な肉食獣の牙よりも尖鋭な爪と歯。死すらも恐れぬ真っ赤な目、自らを力の権化と主張するような薄紫色の肉体。
そしてその巨体が最終形態であることを信じ――いや、願いながらマルクは聖剣を力強く握り直した。
「人間にしてはよくやった。だが貴様もここまでだ!」
自分の勝利を信じて疑わないマ―ドファスの地響きのような声を聞きながら、マルクは目を瞑り一度だけ深呼吸をした。
――これで全てが終わる。この一振りでこの世界の運命が決まる。是が非でも勝たなければならない。その使命感は責任として重く両肩に圧し掛かる――と同時に勇気と力も与えた。
「これで終わりだ! 勇者マルク・ミルケイ!」
その言葉を合図に目を開いたマルクは力強く地を一蹴。聖剣と魔剣――相反する剣を構えたマルクとマ―ドファスはすぐに互いの間合いに入った。
そして決着の為、剣を振り上げる。まるで鏡写しのように二人は同時に剣を振り下ろし始めた。
だがその瞬間――天井を突き破り瞬く間に謎の光が二人の頭上へと降り注いだ。二人を容易に呑み込める程に巨大で眩い謎の光。それが太陽の光のように優しいものではないことをマルクの本能や第六感というべき直感は瞬時に判断する。
だがあまりにも不意のことにそれが何かを確認する余裕はなく、反射的にマ―ドファスを倒すはずだった聖剣の力をその光へ。
「(まずい!)」
そう心の中で声を上げるマルクだったが、マ―ドファスも同様に魔力を溜めた魔剣をその謎の光へぶつけている事に気が付くと、一旦だがその焦りは顔を引っ込めた。同時にこれがマ―ドファスによるものではないことを悟る。だがそれに連なり新たな疑問が浮かび上がった。
『僕でもマードファスでもないなら一体誰が?』
するとその疑問に答えるように二人の力で打ち消された光の向こう側が、徐々に見え始めた。
消し飛んだ天井から見えたのはあの分厚くどす黒い雲――ではなくそれを覆い隠す程に大きな空飛ぶ円盤一隻とその下に浮遊している無数の小型円盤。少なくともマルクにとってそれは見たことも聞いたこともない謎の物体であり、それが空を覆うように浮遊している光景は異様だった。
「なんだ……これ?」
余りの青天の霹靂に思わず心の声が漏れる。
そんな勇者マルクは傷だらけで片膝を着きながら真っすぐとした双眸で、同じく体中の傷が激戦を物語る魔王マードファスを見つめていた。
「はぁ……はぁ……」
意識などせずとも勝手に繰り返される口呼吸は荒く、彼の疲労具合が伺える。
すると魔王への視線を外したマルクは、一度後ろを振り向いた。
そこには先端部分が少し曲がった魔女帽子、魔杖の大杖と共に横向きで倒れる少女がいた。編み上げロングブーツとショートパンツ、ロングコートを着た魔術師アリア・クローリーだ。
その背丈はあまり大きくなく――というよりむしろ小さい方だろう。そして彼女の特徴の一つでもある常に自信に満ち大きく凛とした目には、残念ながら瞼が蓋をしてしまっていた。更に幼さ残る顔も細かな傷や埃などで汚れてしまっている。
そしてその奥にはもう一人。ここまで苦楽を共にした仲間が意識を失っい倒れていた。黒シャツに黒いネクタイとジャケットなしのストライプ黒スーツを着た白髪の小柄な武道家ゴウ。
シャツの上からでも分かる程に鍛え上げられた肉体と今は閉じているが三白眼とが相俟って少し威圧感を感じさせるが根は優しい青年。
二人の姿はマルクの心にずっと存在していた想いを更に強いものにした。
「村のみんな……これまで出会ってきた人々――僕をここまで支えてくれた仲間達。この世界の全ての人の為にも――ここで負けるわけにはいかない」
するとその責任感とも言うべき強き想いに呼応するかのように、聖剣は光を帯び始める。
だがそれは魔王マ―ドファスとて同じだった。勇者マルクの光が強くなるにつれマ―ドファスの黒紫色の魔力も強さを増していく。まるで光りに比例して濃くなる影のように。
そして聖剣を片手にマルクは初めの人型から変形を重ねたマ―ドファスの姿を再確認するように眺めた。
曲線を描き伸びるツノはまるで闇を体現するかのように黯い。それだけで十分に不気味さを醸し出す飛膜、獰猛な肉食獣の牙よりも尖鋭な爪と歯。死すらも恐れぬ真っ赤な目、自らを力の権化と主張するような薄紫色の肉体。
そしてその巨体が最終形態であることを信じ――いや、願いながらマルクは聖剣を力強く握り直した。
「人間にしてはよくやった。だが貴様もここまでだ!」
自分の勝利を信じて疑わないマ―ドファスの地響きのような声を聞きながら、マルクは目を瞑り一度だけ深呼吸をした。
――これで全てが終わる。この一振りでこの世界の運命が決まる。是が非でも勝たなければならない。その使命感は責任として重く両肩に圧し掛かる――と同時に勇気と力も与えた。
「これで終わりだ! 勇者マルク・ミルケイ!」
その言葉を合図に目を開いたマルクは力強く地を一蹴。聖剣と魔剣――相反する剣を構えたマルクとマ―ドファスはすぐに互いの間合いに入った。
そして決着の為、剣を振り上げる。まるで鏡写しのように二人は同時に剣を振り下ろし始めた。
だがその瞬間――天井を突き破り瞬く間に謎の光が二人の頭上へと降り注いだ。二人を容易に呑み込める程に巨大で眩い謎の光。それが太陽の光のように優しいものではないことをマルクの本能や第六感というべき直感は瞬時に判断する。
だがあまりにも不意のことにそれが何かを確認する余裕はなく、反射的にマ―ドファスを倒すはずだった聖剣の力をその光へ。
「(まずい!)」
そう心の中で声を上げるマルクだったが、マ―ドファスも同様に魔力を溜めた魔剣をその謎の光へぶつけている事に気が付くと、一旦だがその焦りは顔を引っ込めた。同時にこれがマ―ドファスによるものではないことを悟る。だがそれに連なり新たな疑問が浮かび上がった。
『僕でもマードファスでもないなら一体誰が?』
するとその疑問に答えるように二人の力で打ち消された光の向こう側が、徐々に見え始めた。
消し飛んだ天井から見えたのはあの分厚くどす黒い雲――ではなくそれを覆い隠す程に大きな空飛ぶ円盤一隻とその下に浮遊している無数の小型円盤。少なくともマルクにとってそれは見たことも聞いたこともない謎の物体であり、それが空を覆うように浮遊している光景は異様だった。
「なんだ……これ?」
余りの青天の霹靂に思わず心の声が漏れる。
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