エイリアンの侵略に人類は魔王と手を組んだ

佐武ろく

文字の大きさ
上 下
2 / 21

未確認飛行物体1

しおりを挟む
 乱れた呼吸に合わせ上下する肩。それに連動して左耳で揺れるピアス。どの傷から流れているかも分からない血は頬を通り、顎先から一定のリズムで床に滴っている。勇気と優しさに満ちた相形に加え黒髪がより誠実さを感じさせた。
 そんな勇者マルクは傷だらけで片膝を着きながら真っすぐとした双眸で、同じく体中の傷が激戦を物語る魔王マードファスを見つめていた。

「はぁ……はぁ……」

 意識などせずとも勝手に繰り返される口呼吸は荒く、彼の疲労具合が伺える。
 すると魔王への視線を外したマルクは、一度後ろを振り向いた。
 そこには先端部分が少し曲がった魔女帽子、魔杖の大杖と共に横向きで倒れる少女がいた。編み上げロングブーツとショートパンツ、ロングコートを着た魔術師アリア・クローリーだ。
 その背丈はあまり大きくなく――というよりむしろ小さい方だろう。そして彼女の特徴の一つでもある常に自信に満ち大きく凛とした目には、残念ながら瞼が蓋をしてしまっていた。更に幼さ残る顔も細かな傷や埃などで汚れてしまっている。
 そしてその奥にはもう一人。ここまで苦楽を共にした仲間が意識を失っい倒れていた。黒シャツに黒いネクタイとジャケットなしのストライプ黒スーツを着た白髪の小柄な武道家ゴウ。
 シャツの上からでも分かる程に鍛え上げられた肉体と今は閉じているが三白眼とが相俟って少し威圧感を感じさせるが根は優しい青年。
 二人の姿はマルクの心にずっと存在していた想いを更に強いものにした。

「村のみんな……これまで出会ってきた人々――僕をここまで支えてくれた仲間達。この世界の全ての人の為にも――ここで負けるわけにはいかない」

 するとその責任感とも言うべき強き想いに呼応するかのように、聖剣は光を帯び始める。
 だがそれは魔王マ―ドファスとて同じだった。勇者マルクの光が強くなるにつれマ―ドファスの黒紫色の魔力も強さを増していく。まるで光りに比例して濃くなる影のように。
 そして聖剣を片手にマルクは初めの人型から変形を重ねたマ―ドファスの姿を再確認するように眺めた。
 曲線を描き伸びるツノはまるで闇を体現するかのように黯い。それだけで十分に不気味さを醸し出す飛膜、獰猛な肉食獣の牙よりも尖鋭な爪と歯。死すらも恐れぬ真っ赤な目、自らを力の権化と主張するような薄紫色の肉体。
 そしてその巨体が最終形態であることを信じ――いや、願いながらマルクは聖剣を力強く握り直した。

「人間にしてはよくやった。だが貴様もここまでだ!」

 自分の勝利を信じて疑わないマ―ドファスの地響きのような声を聞きながら、マルクは目を瞑り一度だけ深呼吸をした。
 ――これで全てが終わる。この一振りでこの世界の運命が決まる。是が非でも勝たなければならない。その使命感は責任として重く両肩に圧し掛かる――と同時に勇気と力も与えた。

「これで終わりだ! 勇者マルク・ミルケイ!」

 その言葉を合図に目を開いたマルクは力強く地を一蹴。聖剣と魔剣――相反する剣を構えたマルクとマ―ドファスはすぐに互いの間合いに入った。
 そして決着の為、剣を振り上げる。まるで鏡写しのように二人は同時に剣を振り下ろし始めた。
 だがその瞬間――天井を突き破り瞬く間に謎の光が二人の頭上へと降り注いだ。二人を容易に呑み込める程に巨大で眩い謎の光。それが太陽の光のように優しいものではないことをマルクの本能や第六感というべき直感は瞬時に判断する。
 だがあまりにも不意のことにそれが何かを確認する余裕はなく、反射的にマ―ドファスを倒すはずだった聖剣の力をその光へ。

「(まずい!)」

 そう心の中で声を上げるマルクだったが、マ―ドファスも同様に魔力を溜めた魔剣をその謎の光へぶつけている事に気が付くと、一旦だがその焦りは顔を引っ込めた。同時にこれがマ―ドファスによるものではないことを悟る。だがそれに連なり新たな疑問が浮かび上がった。

『僕でもマードファスでもないなら一体誰が?』

 するとその疑問に答えるように二人の力で打ち消された光の向こう側が、徐々に見え始めた。
 消し飛んだ天井から見えたのはあの分厚くどす黒い雲――ではなくそれを覆い隠す程に大きな空飛ぶ円盤一隻とその下に浮遊している無数の小型円盤。少なくともマルクにとってそれは見たことも聞いたこともない謎の物体であり、それが空を覆うように浮遊している光景は異様だった。

「なんだ……これ?」

 余りの青天の霹靂に思わず心の声が漏れる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

魔法使いと皇の剣

1111
ファンタジー
かつて世界は一つだった。 神々が大陸を切り離し閉ざされた世界で 魔法使いのミエラは父の復讐と神の目的を知る為 呪われた大陸【アルベスト】を目指す。 同じく閉ざされた世界で〔皇の剣〕と呼ばれるジンは 任務と大事な家族の為、呪われた大陸を目指していた。 旅の中で、彼らは「神々の力の本質」について直面する。神とは絶対的な存在か、それとも恐れるべき暴君か。人間とは、ただ従うべき存在なのか、それとも神を超える可能性を秘めたものなのか。 ミエラに秘められた恐るべき秘密が、二人を究極の選択へと導いていく。

私、こう見えて魔王なんです。

タニマリ
ファンタジー
二千年もの長き年月に渡り魔王を勤めていた父が、老衰のため|崩御《ほうぎょ》した。 後を継ぐのは当然、兄のメメシスだと思っていたのに、なんと兄は私に魔王の座を押し付けて逃げやがったのだ。 この五百年間、勇者が城に侵入してきたたことはないって話だったので嫌々ながらも引き受けたのに、バカみたいにめちゃくちゃ強い勇者一行が攻め入ってきて…… こんなの全然、聞いてないんだけど──────!!

【第二部完結】 最強のFランク光魔導士、追放される

はくら(仮名)
ファンタジー
※2024年6月5日 番外編第二話の終結後は、しばらくの間休載します。再開時期は未定となります。 ※ノベルピアの運営様よりとても素敵な表紙イラストをいただきました! モデルは作中キャラのエイラです。本当にありがとうございます! ※第二部完結しました。 光魔導士であるシャイナはその強すぎる光魔法のせいで戦闘中の仲間の目も眩ませてしまうほどであり、また普段の素行の悪さも相まって、旅のパーティーから追放されてしまう。 ※短期連載(予定) ※当作品はノベルピアでも公開しています。 ※今後何かしらの不手際があるかと思いますが、気付き次第適宜修正していきたいと思っています。 ※また今後、事前の告知なく各種設定や名称などを変更する可能性があります。なにとぞご了承ください。 ※お知らせ

マリアベルの迷宮

とっとこまめたろう
ファンタジー
セラフィト帝国の第三皇子レグルスは、竜の召喚士である『白の魔女』を手に入れるために幻の国ウィスト公国に派遣されることとなる。しかし、手掛かりと成り得た大公家は兄皇子に処断されてしまった。レグルスは唯一生き残った息女を政略的に花嫁に迎えることになるが……? 女を絆そうと四苦八苦する男と、鉄の心で武装した女の、政略結婚から始まる復讐劇と恋愛物語。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

処理中です...