四月の忘れ事

佐武ろく

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第四章:黯の中

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 でも気が付けば俺は地面にうつ伏せで寝転がっていた。まだ現状が把握できないまま地面に手を着けゆっくりと起き上がる。

「っつ」

 若干の痛みを感じながら起き上がってみると同じように莉緒と夕晴が顔を上げるのが見えた。

「あれ? 僕ら……」
「助かった……のか?」

 二人の無事を確認した俺は体を起こしながら辺りを見回した。またあの黯の空間だ。
 それを確認すると今度は付近を見回し見つけた鞄を手に取って、側面にあるポケットからお茶を取り出した。

「何で分かったんだ? 落ちても大丈夫って?」

 お茶を飲んでると(同じように自分の鞄から飲み物を取り出す夕晴の隣から)莉緒がそう訊いてきた。

「分かった訳じゃない」
「じゃあ何で飛んだの?」
「お前らが戻る前に追いつかれて俺は食われる。ギリギリで戻ったとしても逃げ場はなかったし食われる。食われて死ぬぐらいなら飛んで死んだ方がマシだろ。それにさっきからあっという間に場所が変わるからもしかしたら大丈夫なのかもって思っただけだ」
「じゃあお前、死ぬかもしれないけど飛んだのか?」
「そうだな」
「マジかコイツ……」

 肩を落とし顔を手で覆う莉緒。

「いやいや、僕は蓮に賛成。あんなのに食われるぐらいなら落ちた方がマシだよ。最後に見るのがあれってキモ過ぎ。まだ莉緒の顔の方が良いって」
「おい! オレとあれを比べんな」
「冗談だって。でも最後に莉緒の顔を見ながら死ぬ場面って、それ莉緒に殺されてるよね?」
「可能性はある」
「えー。止めてよ。ほら、アメちゃんあげるからさ」

 夕晴は鞄のポケットから取り出した飴をひとつ莉緒に投げた。

「人を飴で釣るな」

 そうは言いつつも莉緒は飴をキャッチすると封を切り桃色の球体を口へ放り込む。俺はそのやり取りを見ながらもう一口飲んだお茶の蓋を閉め鞄の傍に置いた。
 するとどこからかその声だけで獰猛さが伝わる犬の唸り声が聞こえてきた。

「おいおい。次は一体何だってんだよ」

 その唸り声が自分の背後から聞こえてると分かると俺は顔を後ろへ振り向かせた。相変わらず黯が広がりそこには何も見えない。
 だが少しの間、目を凝らして見ていると薄っすらその姿が露わになっていった。
 それは声通り犬。ではあったが普通の犬ではなく頭が三つ並んだ犬だった。その姿形は俺もよく知るあの神話の生き物。

「はぁ? ケルベロスじゃん。なんでだよ」
「でもさっきの巨大虫といいこのヘンテコな場所といい、もう別に何が起きても変じゃないでしょ」

 もうすっかり耐性が出来たのか莉緒も夕晴も(もちろん俺も)ケルベロスという実在しないはずの生き物が目の前にいるのにも関わらずそこまで驚いてはいなかった。

「ここまできたらケルベロスの一匹や二匹、出るって」

 若干、呆れたような声でそんな事を言う夕晴。
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