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第四章:黯の中
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実際には鳴ってない開戦のゴングが響くと、俺と夕晴は影二つと、莉緒は希望通り太っちょ影と。目の前の影が何なのかという疑問は依然とあったが、今は飛んでくる打撃から身を守り相手を動けなくするのが先決。別に普段から喧嘩っ早いという訳でも喧嘩慣れしてるという訳でもないが、この影にはさほど苦労はしなかった。まともに殴られ蹴られたのは数回程度。
そして決着は割とすぐだった。先に俺と夕晴が終わり、少しして莉緒が念願の勝利を収めた。まるでボクシング映画さながら太っちょ影が倒れると莉緒は両手を大きく上げた。
「よっしゃ! オレだってやれば出来るんだ! そしてオレはあの時、泣いてない!」
「いや、それは関係ないでしょ。泣いてたし」
だが聞こえてないのかその振りなのか(恐らく後者だ)莉緒は少しの間、両手を上げ天を仰いだ。少し荒れた息を整えながら。
すると俺らを取り囲むこの公園に変化が起き始めた。まず起きた変化は初めに地面に倒れた影。塵が風に飛ばされるように徐々に姿が消え始めたのだ。そして次は公園の景色自体。辺りは再度、黯に包まれ出した。
そしてたった数秒で最初の黯い空間へと戻ってきた。最初同様に俺ら三人だけがいて足元には俺らの鞄が落ちてる。
「一体どうなってるの?」
夕晴の動揺した声を聞きながら辺りを見回してみるがやっぱり何も見当たらない。
「おい。夕晴」
「ん?」
すると突然、やけに落ち着いた声で莉緒が夕晴を呼んだ。何かと思い俺も夕晴と共に莉緒を見遣る。
「落ち着いて聞けよ」
その言葉に俺は莉緒から夕晴へ視線を向けた。一瞬、何を言ってるのか分からなかったがすぐに莉緒が言わんとする事は理解できた。
「なに?」
「今、お前の右肩にそこそこデカい虫が――」
莉緒が言い切るより先に夕晴は虫という単語に反射的に反応したように右肩を払った。そして素早く右へ視線を向け下に落ちた何かの幼虫を確認した。それは先程のと同じように影で出来た虫(姿形からか虫だという事はハッキリ分かる)。
「うげぇ。キモっ!」
言葉と共に顔一杯を染め上げる嫌悪感。
だがどうして夕晴の肩に虫が乗っていたのかは分からない(しかも突然)。そもそもこの虫が本物なのかも。たった一匹の虫だけではなくそこには大量の疑問が現れていた。
するとそんな疑問に囲まれていると上から降ってきた何かが夕晴の頭に当たり俺らの前まで飛んできた。俺と莉緒はその何かへ同時に視線を落とす。
それは虫だった。
「何で虫が?」
莉緒がそう呟いた直後、視線の先で頭上から夕晴へ向け滝のように何かが降り注いだ。それは虫だった。一瞬夕晴の姿が見えなくなるほど大量で多種多様な虫。
でも何故、夕晴なのかは分からない。それにそんな疑問もありはしたが、俺と莉緒は眼前の光景を何も言えず唖然としながら見つめるしかなった。虫滝の中から出て来てこちらへ歩いてくる夕晴の姿をただじっと。
だが無言のまま足を進め淡々と体に着いた虫を払う夕晴は、思ったよりは穏やかな表情をしていた。夕晴にとってもそれぐらい突然で色々と謎の多すぎる出来事だったのだろうか。
そしてすぐ目の前までやってきた夕晴は自分で体をチェックすると次に俺らへ両手を横に広げて見せた。
「他についてない?」
そしてそのままぐるりと一周。
「いや、ついてない。見たところはな」
「良かっ、んっ!」
すると突然、声を上げ背中を逸らせた。
「待って……。背中に一匹いる。取って」
そう言って夕晴は制服をズボンから出しながら背中を向けた。
「真ん中辺りにいる。服にくっ付いてるから」
俺は手を入れると言われた場所まで伸ばし、そこにいた一匹の虫を取り出した。
「取れたぞ」
そう言いながら取り出したその虫はそのまま適当に放り捨てた。
「ありがと」
お礼を言うと夕晴はベルトを外し服を直し始める。
「おい、夕晴。大丈夫か?」
やけに落ち着てて平然としてるからだろう、そう尋ねる莉緒が逆に恐々としていた。
そして決着は割とすぐだった。先に俺と夕晴が終わり、少しして莉緒が念願の勝利を収めた。まるでボクシング映画さながら太っちょ影が倒れると莉緒は両手を大きく上げた。
「よっしゃ! オレだってやれば出来るんだ! そしてオレはあの時、泣いてない!」
「いや、それは関係ないでしょ。泣いてたし」
だが聞こえてないのかその振りなのか(恐らく後者だ)莉緒は少しの間、両手を上げ天を仰いだ。少し荒れた息を整えながら。
すると俺らを取り囲むこの公園に変化が起き始めた。まず起きた変化は初めに地面に倒れた影。塵が風に飛ばされるように徐々に姿が消え始めたのだ。そして次は公園の景色自体。辺りは再度、黯に包まれ出した。
そしてたった数秒で最初の黯い空間へと戻ってきた。最初同様に俺ら三人だけがいて足元には俺らの鞄が落ちてる。
「一体どうなってるの?」
夕晴の動揺した声を聞きながら辺りを見回してみるがやっぱり何も見当たらない。
「おい。夕晴」
「ん?」
すると突然、やけに落ち着いた声で莉緒が夕晴を呼んだ。何かと思い俺も夕晴と共に莉緒を見遣る。
「落ち着いて聞けよ」
その言葉に俺は莉緒から夕晴へ視線を向けた。一瞬、何を言ってるのか分からなかったがすぐに莉緒が言わんとする事は理解できた。
「なに?」
「今、お前の右肩にそこそこデカい虫が――」
莉緒が言い切るより先に夕晴は虫という単語に反射的に反応したように右肩を払った。そして素早く右へ視線を向け下に落ちた何かの幼虫を確認した。それは先程のと同じように影で出来た虫(姿形からか虫だという事はハッキリ分かる)。
「うげぇ。キモっ!」
言葉と共に顔一杯を染め上げる嫌悪感。
だがどうして夕晴の肩に虫が乗っていたのかは分からない(しかも突然)。そもそもこの虫が本物なのかも。たった一匹の虫だけではなくそこには大量の疑問が現れていた。
するとそんな疑問に囲まれていると上から降ってきた何かが夕晴の頭に当たり俺らの前まで飛んできた。俺と莉緒はその何かへ同時に視線を落とす。
それは虫だった。
「何で虫が?」
莉緒がそう呟いた直後、視線の先で頭上から夕晴へ向け滝のように何かが降り注いだ。それは虫だった。一瞬夕晴の姿が見えなくなるほど大量で多種多様な虫。
でも何故、夕晴なのかは分からない。それにそんな疑問もありはしたが、俺と莉緒は眼前の光景を何も言えず唖然としながら見つめるしかなった。虫滝の中から出て来てこちらへ歩いてくる夕晴の姿をただじっと。
だが無言のまま足を進め淡々と体に着いた虫を払う夕晴は、思ったよりは穏やかな表情をしていた。夕晴にとってもそれぐらい突然で色々と謎の多すぎる出来事だったのだろうか。
そしてすぐ目の前までやってきた夕晴は自分で体をチェックすると次に俺らへ両手を横に広げて見せた。
「他についてない?」
そしてそのままぐるりと一周。
「いや、ついてない。見たところはな」
「良かっ、んっ!」
すると突然、声を上げ背中を逸らせた。
「待って……。背中に一匹いる。取って」
そう言って夕晴は制服をズボンから出しながら背中を向けた。
「真ん中辺りにいる。服にくっ付いてるから」
俺は手を入れると言われた場所まで伸ばし、そこにいた一匹の虫を取り出した。
「取れたぞ」
そう言いながら取り出したその虫はそのまま適当に放り捨てた。
「ありがと」
お礼を言うと夕晴はベルトを外し服を直し始める。
「おい、夕晴。大丈夫か?」
やけに落ち着てて平然としてるからだろう、そう尋ねる莉緒が逆に恐々としていた。
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