34 / 46
第四章:黯の中
5
しおりを挟む
「そのアパートの部屋に入った時、少女の事を。多分だけど、僕は彼女を知ってる。いや、知ってた。分からないけど確かに僕はあの部屋を訪れた事がある」
「本気で言ってるのか?」
「もちろん。だから莉緒も一回あの場所に行った方がいいと思う。僕と蓮が言ってる事が分かるよ」
夕晴がそう言うと莉緒は少し戸惑ったような表情を見せ、俺の方へ顔を向けた。
「俺も少女の事は思い出した。でも名前も顔も分からない。それに夕晴はあの場所が嫌な感じがするって言ってたけど俺にはそれは分からなかった。だからもし一緒に行くなら覚悟はしといた方がいいかもしれない。あの時みたいな事が起こるかもしれないからな」
俺から目を逸らさず莉緒はほんの数秒だが黙ったままだった。そしてその後、莉緒はその答えを口にした。
「――なら二人で行ってきてくれ。オレはいい」
少し考えての答えかそれとも答えは決まっていたのか、莉緒は俺の目を見ながら返事をした。
「そうか。分かった。何か分かったら教える」
「そりゃどーも」
莉緒は立ち上がりながらそう言うとそのまま教室を出て行った。
「それで、また行くっていつ行くの?」
「別に決めてない。今日でも俺はいい」
「じゃあ明日にしない?」
「分かった」
「ありがと」
微笑みでお礼を口にすると夕晴も立ち上がり教室を後にした。
そして予定通り次の日の放課後、俺はあのアパート前へ一足先に来ていた。それから少しして夕晴と合流した訳だが。
「来ないんじゃなかったのか?」
夕晴の隣には莉緒の姿もあった。
「そのつもりだったよ。でも……」
「僕が昨日もし何もなかったら来なくてもいいよって連れて来たんだ」
「それで今日もいるって事は」
「お前らの言う通り確かにオレも覚えがあった。少女が家の中に立ってて迎え入れてくれてた」
「お前も夕晴みたいに変な感じはあったのか?」
「あった。不気味でこれ以上近づきたくないって思わせるような感覚がな。お前はほんとに何も感じないのか?」
「なにも。少女の事は確かに思い出した。でもそんな感じは全くない」
俺の答えに莉緒と夕晴は顔を見合わせた。
「今回は中に入ろうと思ってるが、お前ら大丈夫か?」
「出来る事ならヤだけど、たぶん大丈夫かも」
「来たからにはな。覚悟してる」
「止めたかったらいつでも言ってくれ」
言葉の後、先に歩き出した俺に続いた二人と共に階段を上り二〇三号室へ。そしてもはやお決まりのように夕晴がサクッと鍵を開け、まずは玄関に足を踏み入れた。
何度見ても確かにそこには嬉しそうな少女がいて俺を迎えてくれたという記憶が残されている。そして二人の言う不気味な感覚は相変わらず全くといっていいほどに感じない。
だが莉緒と夕晴は人見知りな子どものように少し俺の後ろに隠れていた。
「行くぞ?」
「うん」
「いいぞ」
少し制服を引かれる感覚を感じながら俺は靴を脱ぎ家へ上がった。その片足が框を越えフローリングに触れたその瞬間。何かが起こるかもと思ったが別にそんな事は無かった。そして俺を含め後ろの二人も完全に家の内側へ。
「何か変わったか?」
「いや。僕は何も」
「オレも」
後ろからの返事を聞いて異常が無い事を確認した俺は辺りを見回しながら少女の向かった襖へとゆっくり足を進めた。玄関から進むとすぐに(あまり広くはないが)キッチンがあり、そこを通り過ぎると目的の襖前。
「開けるぞ」
返事は無かったが代わりに服を引く感覚が少し強まるのを感じた。
そして襖へ手を伸ばした俺はやや勢いよく一気に横へと引いた。そこに広がっていたのは何てことない和室。部屋の前で中を一見してから中へ足を踏み入れる。
「本気で言ってるのか?」
「もちろん。だから莉緒も一回あの場所に行った方がいいと思う。僕と蓮が言ってる事が分かるよ」
夕晴がそう言うと莉緒は少し戸惑ったような表情を見せ、俺の方へ顔を向けた。
「俺も少女の事は思い出した。でも名前も顔も分からない。それに夕晴はあの場所が嫌な感じがするって言ってたけど俺にはそれは分からなかった。だからもし一緒に行くなら覚悟はしといた方がいいかもしれない。あの時みたいな事が起こるかもしれないからな」
俺から目を逸らさず莉緒はほんの数秒だが黙ったままだった。そしてその後、莉緒はその答えを口にした。
「――なら二人で行ってきてくれ。オレはいい」
少し考えての答えかそれとも答えは決まっていたのか、莉緒は俺の目を見ながら返事をした。
「そうか。分かった。何か分かったら教える」
「そりゃどーも」
莉緒は立ち上がりながらそう言うとそのまま教室を出て行った。
「それで、また行くっていつ行くの?」
「別に決めてない。今日でも俺はいい」
「じゃあ明日にしない?」
「分かった」
「ありがと」
微笑みでお礼を口にすると夕晴も立ち上がり教室を後にした。
そして予定通り次の日の放課後、俺はあのアパート前へ一足先に来ていた。それから少しして夕晴と合流した訳だが。
「来ないんじゃなかったのか?」
夕晴の隣には莉緒の姿もあった。
「そのつもりだったよ。でも……」
「僕が昨日もし何もなかったら来なくてもいいよって連れて来たんだ」
「それで今日もいるって事は」
「お前らの言う通り確かにオレも覚えがあった。少女が家の中に立ってて迎え入れてくれてた」
「お前も夕晴みたいに変な感じはあったのか?」
「あった。不気味でこれ以上近づきたくないって思わせるような感覚がな。お前はほんとに何も感じないのか?」
「なにも。少女の事は確かに思い出した。でもそんな感じは全くない」
俺の答えに莉緒と夕晴は顔を見合わせた。
「今回は中に入ろうと思ってるが、お前ら大丈夫か?」
「出来る事ならヤだけど、たぶん大丈夫かも」
「来たからにはな。覚悟してる」
「止めたかったらいつでも言ってくれ」
言葉の後、先に歩き出した俺に続いた二人と共に階段を上り二〇三号室へ。そしてもはやお決まりのように夕晴がサクッと鍵を開け、まずは玄関に足を踏み入れた。
何度見ても確かにそこには嬉しそうな少女がいて俺を迎えてくれたという記憶が残されている。そして二人の言う不気味な感覚は相変わらず全くといっていいほどに感じない。
だが莉緒と夕晴は人見知りな子どものように少し俺の後ろに隠れていた。
「行くぞ?」
「うん」
「いいぞ」
少し制服を引かれる感覚を感じながら俺は靴を脱ぎ家へ上がった。その片足が框を越えフローリングに触れたその瞬間。何かが起こるかもと思ったが別にそんな事は無かった。そして俺を含め後ろの二人も完全に家の内側へ。
「何か変わったか?」
「いや。僕は何も」
「オレも」
後ろからの返事を聞いて異常が無い事を確認した俺は辺りを見回しながら少女の向かった襖へとゆっくり足を進めた。玄関から進むとすぐに(あまり広くはないが)キッチンがあり、そこを通り過ぎると目的の襖前。
「開けるぞ」
返事は無かったが代わりに服を引く感覚が少し強まるのを感じた。
そして襖へ手を伸ばした俺はやや勢いよく一気に横へと引いた。そこに広がっていたのは何てことない和室。部屋の前で中を一見してから中へ足を踏み入れる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
私と継母の極めて平凡な日常
当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。
残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。
「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」
そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。
そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。
※他のサイトにも重複投稿しています。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる