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第四章:黯の中
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それから須臾の間、俺はアパートの前でその相手を待っていた。
「れーん」
するとその声と共にその相手が現れた。夕晴だ。
「悪いな。急に」
「いや、いいよ。別に用事も無かったし。それより本気?」
「あぁ。ここの二〇三号室だ。にしてもお前、本当にピッキング出来るのか? 一応、アパートだぞ?」
俺の疑問に対して夕晴は両手を腰に当て胸を張った。
「自慢じゃないけど、僕は映画で華麗にピッキングするとこを見て一時期ピッキングにハマってたんだよね。それで南京錠とか色んなやつで練習しまくって割と開けられるようになった。ほら、僕って器用だし」
広げた両手の指をウェーブさせながら夕晴は自慢気な表情を浮かべている。でも事実、凄い。
「なら頼む」
「任せて」
そして自信満々の夕晴と共に階段を上り俺は再び二〇三号室の前へ。
「周りは見とく。手早くな」
「やる前に一応言っておくけど、練習は沢山したけど実践は初めてなんだよね」
映画の真似でもしてるのか髪の中からピッキングの道具を取り出した夕晴は今更ながらそんな事を言い出した。でもここで止める訳にもいかない。(待ってる間に確認したのだが)幸いここは人通りが少ない。後はこのアパートに住む人の出入りがない事を祈るだけだ。
「失敗しても別に警報が鳴る訳じゃない。気楽にやれ」
「調べたの?」
「いや。でも見た目からして鳴らないだろ」
「貴重な情報ありがとう。少し緊張してきた。でもやる気も出て来た」
それから俺は通りや他のドアを気にして、夕晴は(何をしてるか分からないが)鍵を開ける為にカチャカチャと何かをしていた。
「あっ。開いた」
それは突然かつあっけない声だった。カチャという開錠の音が聞こえたかと思うと夕晴が零すように呟いた。
「本当か?」
「うん。ほら」
夕晴は証拠だと言うようにドアノブを捻りドアを開けて見せる。
「でもほんとにこの場所が関係あるの?」
「確証はない。だけどある気がする。理由も無いがな」
「ほんとに大丈夫?」
そう心配そうな表情でこちらを見る夕晴から俺はドアノブを取った。
「もう帰ってもいいぞ。あと、助かった」
お礼を伝え俺はドアを完全に開けた。そこに広がっていたのは、狭い玄関と短い通路、向こうには閉じた襖。それと横から覗き込む夕晴。何てことない入居前の空き部屋だった。
「別にふつーだね」
「そーだな」
俺はそう答えると一度、周りを確認し玄関へ足を踏み入れた。そんな俺の後を追い夕晴も玄関に入ると後ろでドアがゆっくり閉まる間、俺らはただ部屋の中を眺めるだけ。そして数秒という時間をかけドアはカチャリと閉じた。
ドアの音が室内へ波紋のように広がり消えると、部屋の中は不気味な程までに森閑としまるで人の侵入を拒むよう。
でもそう感じるだけでそれ以外を除けばただの空き部屋。それにここまで不思議な感覚を感じていた割には今のところ何もない。
「ねぇ。何か思い出した?」
俺が若干の落胆を感じていると隣で夕晴がそう尋ねてきた。しかも気のせいかその声は恐々としてる気がする。
「いや」
「僕……。ここ、来たことある」
その言葉に横を見遣ると夕晴は真っすぐ正面を見たまま顔を固まらせていた。
「あの子の家だ」
「あの子って。お前、何言って……」
俺はそう言いながら顔を前へ戻した。狭い通路が伸びて奥に閉じた襖がある目の前の光景へ。
だがそこにはさっきまでいなかったはずの少女が一人立っていた。
『いらっしゃい。今日はお母さん少し遅いからゆっくりしてってね』
後ろで手を組み上半身を小さく左右に動かすその少女は嬉しそうだが少しだけ面映げでもあった。なのに顔ははっきりと見えない(だからそう感じるというだけで本当は違うかもしれない)。そしてその少女は後ろを振り返ると向こうの襖へと消えてしまった。
「れーん」
するとその声と共にその相手が現れた。夕晴だ。
「悪いな。急に」
「いや、いいよ。別に用事も無かったし。それより本気?」
「あぁ。ここの二〇三号室だ。にしてもお前、本当にピッキング出来るのか? 一応、アパートだぞ?」
俺の疑問に対して夕晴は両手を腰に当て胸を張った。
「自慢じゃないけど、僕は映画で華麗にピッキングするとこを見て一時期ピッキングにハマってたんだよね。それで南京錠とか色んなやつで練習しまくって割と開けられるようになった。ほら、僕って器用だし」
広げた両手の指をウェーブさせながら夕晴は自慢気な表情を浮かべている。でも事実、凄い。
「なら頼む」
「任せて」
そして自信満々の夕晴と共に階段を上り俺は再び二〇三号室の前へ。
「周りは見とく。手早くな」
「やる前に一応言っておくけど、練習は沢山したけど実践は初めてなんだよね」
映画の真似でもしてるのか髪の中からピッキングの道具を取り出した夕晴は今更ながらそんな事を言い出した。でもここで止める訳にもいかない。(待ってる間に確認したのだが)幸いここは人通りが少ない。後はこのアパートに住む人の出入りがない事を祈るだけだ。
「失敗しても別に警報が鳴る訳じゃない。気楽にやれ」
「調べたの?」
「いや。でも見た目からして鳴らないだろ」
「貴重な情報ありがとう。少し緊張してきた。でもやる気も出て来た」
それから俺は通りや他のドアを気にして、夕晴は(何をしてるか分からないが)鍵を開ける為にカチャカチャと何かをしていた。
「あっ。開いた」
それは突然かつあっけない声だった。カチャという開錠の音が聞こえたかと思うと夕晴が零すように呟いた。
「本当か?」
「うん。ほら」
夕晴は証拠だと言うようにドアノブを捻りドアを開けて見せる。
「でもほんとにこの場所が関係あるの?」
「確証はない。だけどある気がする。理由も無いがな」
「ほんとに大丈夫?」
そう心配そうな表情でこちらを見る夕晴から俺はドアノブを取った。
「もう帰ってもいいぞ。あと、助かった」
お礼を伝え俺はドアを完全に開けた。そこに広がっていたのは、狭い玄関と短い通路、向こうには閉じた襖。それと横から覗き込む夕晴。何てことない入居前の空き部屋だった。
「別にふつーだね」
「そーだな」
俺はそう答えると一度、周りを確認し玄関へ足を踏み入れた。そんな俺の後を追い夕晴も玄関に入ると後ろでドアがゆっくり閉まる間、俺らはただ部屋の中を眺めるだけ。そして数秒という時間をかけドアはカチャリと閉じた。
ドアの音が室内へ波紋のように広がり消えると、部屋の中は不気味な程までに森閑としまるで人の侵入を拒むよう。
でもそう感じるだけでそれ以外を除けばただの空き部屋。それにここまで不思議な感覚を感じていた割には今のところ何もない。
「ねぇ。何か思い出した?」
俺が若干の落胆を感じていると隣で夕晴がそう尋ねてきた。しかも気のせいかその声は恐々としてる気がする。
「いや」
「僕……。ここ、来たことある」
その言葉に横を見遣ると夕晴は真っすぐ正面を見たまま顔を固まらせていた。
「あの子の家だ」
「あの子って。お前、何言って……」
俺はそう言いながら顔を前へ戻した。狭い通路が伸びて奥に閉じた襖がある目の前の光景へ。
だがそこにはさっきまでいなかったはずの少女が一人立っていた。
『いらっしゃい。今日はお母さん少し遅いからゆっくりしてってね』
後ろで手を組み上半身を小さく左右に動かすその少女は嬉しそうだが少しだけ面映げでもあった。なのに顔ははっきりと見えない(だからそう感じるというだけで本当は違うかもしれない)。そしてその少女は後ろを振り返ると向こうの襖へと消えてしまった。
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