四月の忘れ事

佐武ろく

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第三章:危険な遊び

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 そして更にそこから夜を熟成させた後。こちらのことなど知ったこっちゃないと言うように進み続ける時間は、本来の目的を実行する時間へと変わっていた。

「そろそろやるか」
「そーだね。んー! 緊張してきた」
「はぁ。こーゆー時にしか祈らねーオレでも神は助けてくれっかな」
「呼び捨てにした時点でダメだね。だから自分の身は自分で守りな。流石にあの時みたいに幽霊は殴ってあげられないからさ」
「大丈夫だろ。今回は蓮が殴らず斬ってくれるって」
「まぁ、あの時はお前が泣きべそかいてたのに何もしてないからな」
「だから泣いてねー」

 そんな会話をしながら俺らは椅子にテーブルその他の持って来た物を片付け一か所にまとめた。必要な物はちゃんと残して。

「お菓子と術札と刀。よしっと」

 お菓子と術札を片手に持ちもう片方の手にランタンを持った夕晴は俺の手にある刀を最後に指差し最終確認を済ませた。
 だが莉緒はまだどこか不安気。すると溜息を零し残り少ない安心を更に吐き出してしまった。

「なぁ。ホントにやるのか?」
「りおぉ」

 今更止めてよ、と言う続きの言葉が聞こえてきそうな溜息交じりの声が返されるが莉緒にとってさっきの質問は特に意味はないようだった。

「分かってる。言ってみただけだって」
「じゃあ術札置くからこれ持って照らしてて」

 夕晴はランタンを莉緒に渡し川の傍へ。そして五枚の内、四枚を砂利の上に並べた。

「思ったんだけど、そのお菓子をその中に置いたらいいんじゃねーか? それ食べるのかは分かんねーけど」
「ナイスアイディア! さっすが莉緒」

 パチンと良い音を響かせながら莉緒を指差した夕晴はその提案通りお菓子の箱を術札の中心に置いた。

「これでいいね」

 立ち上がった夕晴はもう一度確認すると莉緒からランタンを受け取った。

「それじゃあ諸君、集合だ」

 夕晴、俺、莉緒。その術札の前に俺らは並んだ。

「莉緒始めていいよ」
「――おっけ。撮り始めた」
「蓮。大丈夫?」
「いつでも」
「じゃあみんなでやろうか」

 そう言って夕晴は唯一の明りであるランタンを消して足元に置いた。
 光が消えた直後、視界は一気に夜の暗闇に翻弄されたが満月の月光が思ったよりは明るくこの場所を照らしていた。

「せーの」

『川子ちゃん。川子ちゃん。一緒に遊びましょ。お菓子もほら。川子ちゃん。川子ちゃん。一緒に遊びましょ』

 重なり合う高低差のある三つの声。それを聞きながら俺の脳裏では全く同じ状況を思い出されていた。今よりも高い声が、今よりも明るい中で、今と同じ場所、今と同じ言葉を重ね合わせていた子どもの頃。好奇心に満ちた声が川と木々の音に交じり淡い風に乗って広がっていく。同じようにこの話を試した時の事を。
 でも同じように並ぶ、左右のどちらかに颯羊がいたかは分からない。
 だけど現実とシンクロするようにその記憶はより鮮明になっていった。術札なんか無くて目の前には置かれたお菓子の箱。突然、吹いた強い風。今と共に記憶が進んでいく。

『何して遊びましょ。川子ちゃんの好きな遊びで遊びましょ』

 そしてあの頃と同じように言葉を言い終わった後、辺りは静寂に包み込まれた。あの頃は何が起こるか分からないという事に対しての入り混じった感情からの刺激がそうさせたのか、どこか心躍ってたが今はそうじゃない。いつ出てくるか分からないその存在への警戒心は強まり、緊張感の濃さが目立つ。風が止んで木々が黙り、川のせせらぎ以外の音が無いこの静けさと月明り以外の光がなく視界が不十分だという事も影響してるんだろう。
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