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第三章:危険な遊び
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土曜日、当日。十八時半頃。俺らは秘密基地の近くにある川に集合し決行までの時間を過ごしていた。
少し粗い木漏れ日となって降り注ぐ夕日と同じように穏やかに流れる川の辺。砂利に置かれたアウトドアチェアとテーブル。そしてその上には飲み物とピザと色々な食べ物にデザートが置かれていた。
「なんでだよ!」
椅子に座りピザを食べる俺と夕晴を指差しながら莉緒はそう叫んだ。その声は木々の中を駆け抜け寒い朝の空気のように澄んだ空気へ溶けていく。
「何でって?」
そんな莉緒に対して夕晴はキョトンとしながら訊き返した。その疑問が何に向けられているのか全く持って分からないと言うように。
「なんだよこれ?」
「何ってペパロニ入りのピザとあと唐揚げに――」
「これから悪霊退治すんだぞ? あぶねーかもしれねーのに」
「だからリラックスする為にこうやってここに馴染んでるんじゃん。あと腹ごしらえと折角の場所だから楽しむために。ほんとはバーベキューが良かったけど片付けも面倒だし誰も道具無かったから」
「緊張感なさ過ぎだろ」
溜息と共に顔に手を当て肩を落とす莉緒。呆れてるんだろう。
「まぁ落ち着けよ莉緒。別に俺らは気を抜いてる訳じゃないし。なによりまだまだ時間はあるんだぞ。落ち着いて色々と確認しとくぞ」
「そうそう。まずは座りなって」
「ったく」
莉緒は吐き捨てるようにそう言いながらも歩き出し椅子に腰を下ろした。
「はい。ペパロニ入りのピザ。こうやってこのピザを食べられるのが生きる意味だからまたやろうね。だからみんな無事で」
夕晴がピザを掲げると俺も莉緒も同じようにピザを掲げた。
それから時間までの間、俺らは呼び出しの手順や何やらを確認しながらこのちょっとしたパーティーを楽しんだ。
そして時間は進み自然からバトンを受け取った人工ライトがテーブルを照らす。
「それじゃあ最後にもっかい確認しとこうか」
すっかり片付いた(ライトのランタンだけは残った)テーブルに夕晴は例の術札を置いた。よく分からない文字(もしくは記号)や模様が描かれた物が合計六枚。その内の五枚は同じ(よく見ると若干違うが)で一枚だけが違ってる。
「まずこれが閉じ込める為のやつ」
言葉と共に手に取ったのは五枚の術札。
「これを四つは予め貼り付けておいて最後の一枚はその時に貼る。そしてこれ」
今度は五枚はテーブルに戻され、一枚がテーブルを離れた。
「これが言わば攻撃手段らしい。何でもいいから武器になりそうな物に貼り付ければ使えるとか。だからこれを買ってきました」
その術札は持ったまま夕晴がバッグから取り出したのは玩具の刀。百均で売ってるやつ。それを袋から出し刀身を抜くと鞘は適当にバッグへ突き刺した。
「これにこの術札を貼り付ける……っと」
安っぽい白刀身に貼り付けられただけでその術札も偽物に見えるのは何故だろう。
「これであとは、えいっ! って感じ」
何度か空を斬るその姿はただ遊んでるようにしか見えない。
「お前やっぱ騙されてるんじゃねーか?」
「失礼な。確かに荒川さんは怪しい感じがするけど、大丈夫だって……多分」
「いくら払ったんだよ?」
「それが! なんとタっダー」
少し歌うように陽気な調子で夕晴は答えた。
「マジで騙されてるって。いや、マジで」
「違うよ。その代わり様子を動画に撮ってくれって頼まれたの」
だが莉緒は依然と訝し気な視線を向けていた。その気持ちは分からないでもない。確かにあの荒川さんという人は(失礼は承知だが)どこか胡散臭さを感じる。あの声か話し方か理由は分からないけど。
「だから撮影係が一人とタイミングを見計らって最後の一枚を貼るのが一人と侍が一人。どうする?」
「じゃあ俺がそれでいい」
俺はそう言って刀を指差した。別に戦いたいわけじゃないが一番乗り気じゃなかった莉緒にさせる訳にもいかないし、夕晴は今回の事に関して一番働いてる。だからやろうと思っただけだ。決して侍に憧れてたわけじゃない。
「おっ、蓮は侍が良いんだね。じゃあよろしく。そう言えば蓮って剣道やってたよね。丁度いいじゃん」
「四日だけな」
「そうだっけ?」
「それやってたって言えねーだろ」
「まぁでもなんか刀似合うしよろしく。それじゃあ僕は術札係しようかな。一応、莉緒は元々乗り気じゃなかった訳だから一番安全なかつ重要な撮影係でいいよ。ちなみにちゃんと撮れなかったらこの術札代、請求されるかもしれないから」
「マジかよ……」
「分からないけどされてもおかしくないじゃん。だって代わりにって言われたのを撮れなかったんだし」
「まぁ撮ればいいんだろ。大丈夫だろ」
これで役割は決まった。後は自分の役割に集中するだけ。
「ではでは。流れとしてはまず三人で呼び出しの儀式をして、川子ちゃんが出てきたら予め設置した術札の中へ誘導する。話だと川から出てくるらしいから川の前とかでいいかもね。そして僕がタイミングを見計らって捕らえるからそうしたら一応、話しが出来るか確認。ここは手早くやろうか。僕が声かけてみるよ。それで無理ならすぐに蓮がその名刀、二桜<ふたざくら>一文字でバッサリ。もし話が出来たら颯羊の事を聞いてみよう。どの道、最後はバッサリね。最悪、退治できなかったら全力で逃げる。離れ離れになったらスマホで連絡取るか一人でも連絡取れなかったら十時に秘密基地集合で」
夕晴は俺と莉緒の顔へ順に目をやった。
「これでいい?」
「あぁ」
「りょーかい」
「それじゃあ」
そして夕晴は手を三人の中心辺りに伸ばした。突然の事だったが少し遅れて莉緒と俺も手を重ねた。
「ほんとに危ないかもしれないけど、昔の僕らの所為で颯羊が連れてかれちゃったかもしれない。だから僕らで取り戻そう。でもやっぱり確証が無いわけだから最優先は自分たちの安全で。それじゃあいい?」
これから行うことへの確認だとは思うが、それが掛け声のものか川子のものかは分からなかった。だが俺も莉緒も頷いて見せる。
「Who you gonna call?」
すると聞き覚えのあるフレーズをやたらいい発音で口にした夕晴。
「Ghost Busters!」
だが結局、俺も莉緒も反応できず夕晴の声が辺りに響き押し上げられるように手が上がった。
「一度やってみたかったんだよね」
そこには一人満足に満たされた夕晴の笑みがあった。
少し粗い木漏れ日となって降り注ぐ夕日と同じように穏やかに流れる川の辺。砂利に置かれたアウトドアチェアとテーブル。そしてその上には飲み物とピザと色々な食べ物にデザートが置かれていた。
「なんでだよ!」
椅子に座りピザを食べる俺と夕晴を指差しながら莉緒はそう叫んだ。その声は木々の中を駆け抜け寒い朝の空気のように澄んだ空気へ溶けていく。
「何でって?」
そんな莉緒に対して夕晴はキョトンとしながら訊き返した。その疑問が何に向けられているのか全く持って分からないと言うように。
「なんだよこれ?」
「何ってペパロニ入りのピザとあと唐揚げに――」
「これから悪霊退治すんだぞ? あぶねーかもしれねーのに」
「だからリラックスする為にこうやってここに馴染んでるんじゃん。あと腹ごしらえと折角の場所だから楽しむために。ほんとはバーベキューが良かったけど片付けも面倒だし誰も道具無かったから」
「緊張感なさ過ぎだろ」
溜息と共に顔に手を当て肩を落とす莉緒。呆れてるんだろう。
「まぁ落ち着けよ莉緒。別に俺らは気を抜いてる訳じゃないし。なによりまだまだ時間はあるんだぞ。落ち着いて色々と確認しとくぞ」
「そうそう。まずは座りなって」
「ったく」
莉緒は吐き捨てるようにそう言いながらも歩き出し椅子に腰を下ろした。
「はい。ペパロニ入りのピザ。こうやってこのピザを食べられるのが生きる意味だからまたやろうね。だからみんな無事で」
夕晴がピザを掲げると俺も莉緒も同じようにピザを掲げた。
それから時間までの間、俺らは呼び出しの手順や何やらを確認しながらこのちょっとしたパーティーを楽しんだ。
そして時間は進み自然からバトンを受け取った人工ライトがテーブルを照らす。
「それじゃあ最後にもっかい確認しとこうか」
すっかり片付いた(ライトのランタンだけは残った)テーブルに夕晴は例の術札を置いた。よく分からない文字(もしくは記号)や模様が描かれた物が合計六枚。その内の五枚は同じ(よく見ると若干違うが)で一枚だけが違ってる。
「まずこれが閉じ込める為のやつ」
言葉と共に手に取ったのは五枚の術札。
「これを四つは予め貼り付けておいて最後の一枚はその時に貼る。そしてこれ」
今度は五枚はテーブルに戻され、一枚がテーブルを離れた。
「これが言わば攻撃手段らしい。何でもいいから武器になりそうな物に貼り付ければ使えるとか。だからこれを買ってきました」
その術札は持ったまま夕晴がバッグから取り出したのは玩具の刀。百均で売ってるやつ。それを袋から出し刀身を抜くと鞘は適当にバッグへ突き刺した。
「これにこの術札を貼り付ける……っと」
安っぽい白刀身に貼り付けられただけでその術札も偽物に見えるのは何故だろう。
「これであとは、えいっ! って感じ」
何度か空を斬るその姿はただ遊んでるようにしか見えない。
「お前やっぱ騙されてるんじゃねーか?」
「失礼な。確かに荒川さんは怪しい感じがするけど、大丈夫だって……多分」
「いくら払ったんだよ?」
「それが! なんとタっダー」
少し歌うように陽気な調子で夕晴は答えた。
「マジで騙されてるって。いや、マジで」
「違うよ。その代わり様子を動画に撮ってくれって頼まれたの」
だが莉緒は依然と訝し気な視線を向けていた。その気持ちは分からないでもない。確かにあの荒川さんという人は(失礼は承知だが)どこか胡散臭さを感じる。あの声か話し方か理由は分からないけど。
「だから撮影係が一人とタイミングを見計らって最後の一枚を貼るのが一人と侍が一人。どうする?」
「じゃあ俺がそれでいい」
俺はそう言って刀を指差した。別に戦いたいわけじゃないが一番乗り気じゃなかった莉緒にさせる訳にもいかないし、夕晴は今回の事に関して一番働いてる。だからやろうと思っただけだ。決して侍に憧れてたわけじゃない。
「おっ、蓮は侍が良いんだね。じゃあよろしく。そう言えば蓮って剣道やってたよね。丁度いいじゃん」
「四日だけな」
「そうだっけ?」
「それやってたって言えねーだろ」
「まぁでもなんか刀似合うしよろしく。それじゃあ僕は術札係しようかな。一応、莉緒は元々乗り気じゃなかった訳だから一番安全なかつ重要な撮影係でいいよ。ちなみにちゃんと撮れなかったらこの術札代、請求されるかもしれないから」
「マジかよ……」
「分からないけどされてもおかしくないじゃん。だって代わりにって言われたのを撮れなかったんだし」
「まぁ撮ればいいんだろ。大丈夫だろ」
これで役割は決まった。後は自分の役割に集中するだけ。
「ではでは。流れとしてはまず三人で呼び出しの儀式をして、川子ちゃんが出てきたら予め設置した術札の中へ誘導する。話だと川から出てくるらしいから川の前とかでいいかもね。そして僕がタイミングを見計らって捕らえるからそうしたら一応、話しが出来るか確認。ここは手早くやろうか。僕が声かけてみるよ。それで無理ならすぐに蓮がその名刀、二桜<ふたざくら>一文字でバッサリ。もし話が出来たら颯羊の事を聞いてみよう。どの道、最後はバッサリね。最悪、退治できなかったら全力で逃げる。離れ離れになったらスマホで連絡取るか一人でも連絡取れなかったら十時に秘密基地集合で」
夕晴は俺と莉緒の顔へ順に目をやった。
「これでいい?」
「あぁ」
「りょーかい」
「それじゃあ」
そして夕晴は手を三人の中心辺りに伸ばした。突然の事だったが少し遅れて莉緒と俺も手を重ねた。
「ほんとに危ないかもしれないけど、昔の僕らの所為で颯羊が連れてかれちゃったかもしれない。だから僕らで取り戻そう。でもやっぱり確証が無いわけだから最優先は自分たちの安全で。それじゃあいい?」
これから行うことへの確認だとは思うが、それが掛け声のものか川子のものかは分からなかった。だが俺も莉緒も頷いて見せる。
「Who you gonna call?」
すると聞き覚えのあるフレーズをやたらいい発音で口にした夕晴。
「Ghost Busters!」
だが結局、俺も莉緒も反応できず夕晴の声が辺りに響き押し上げられるように手が上がった。
「一度やってみたかったんだよね」
そこには一人満足に満たされた夕晴の笑みがあった。
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