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第三章:危険な遊び
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『それはどうだろうね。そもそも、もしそうなったらいなくなった事にさえ気が付かない訳だから完全にないとは言えないよね。もしかしたら気が付かないだけで誰かいなくなってるかもしれない訳だし』
「そうですよね」
『あっ、でもとある文献にはこんな話が書かれてたんだ。ある夫婦がいて妻はある日、夫の浮気を発見した。問い詰めたけど夫は認めず、それに酷く怒った妻はついに自殺をしてしまったんだ。そのとてつもない怨念と共に。そしてその数日後、夫の浮気相手は病に倒れ間もなくして帰らぬ人となった。そして夫も度々恐ろしい体験をするようになったんだ。夫は妻の怨念だと陰陽師に相談した。だけどある日、夫は忽然と姿を消し周りの人間の記憶からも消えてしまった。まるで最初からこの世に存在しなかったみたいにね』
「でもどうしてそれが分かるんですか? さっき言ってたみたいに普通、誰も気が付かないですよね?」
『それは夫が消える前に相談してた陰陽師のお陰だよ。陰陽師は自分のメモを発見したんだ。そこには家の情報だけが書かれてたけど陰陽師はそれが何のメモか全く思い出せなかった。だからその家へ行ってみたがそこは単なる空き家。直感なんだろうね、でも気になった陰陽師が色々と調べてみるとそこには良くないものが隠れてたんだ。まぁ彼の妻だね。そして陰陽師によって退治されるとその夫が戻り人々も思い出したって話。本当かどうかは分からないけどね。まぁ、ひとつ言えるのは人の怨念というのは時にあり得ないような事を巻き起こしてしまうってことだよ。強すぎるエネルギーは時空なんかに干渉して想像もつかないような事を引き起こす恐れがある。もしかしたら忘れてるんじゃなくてこの話でいうところの彼の妻が、ずっと夫と一緒に居る為に彼と自分の存在しないパラレルワールドを作り出してしまったのかもしれない。本来の世界から分枝した別の世界として。でも分枝する前の物は当然残ってる訳だからその一つと陰陽師によってその世界は本来の世界と再び一体化した』
この人は小説や漫画を描いた方がいいんじゃないか? 俺は密かにそんな事を思っていた。
『なんて最後のはただの妄想話だけどね。まぁでも、夕晴君も無闇矢鱈に人から恨みを買うような事はしない方がいいよ』
「気を付けます」
『損はあれど得なんてないからね。他に訊きたい事は?』
「いや、もう大丈夫です。ありがとうございました」
『いやいや。これぐらいどうってことないよ。またいつでも訊いてくれていいからね。こういう類なら話すのはむしろ大歓迎さ』
「それじゃあ何かあったら連絡します」
『はいはーい。それじゃーね』
何故だろうか。聞いていただけだが電話が切れた途端、どっと疲れが押し寄せてきたのは。その疲れに心の中で溜息を零しているとふと叔母の事を思い出した。たまに会えば途切れることなく次から次へと話しをするマシンガントークの叔母だ。別に嫌いという訳ではないが少し疲れる。でもそんな俺を見かねた母が毎回、割って入ってくるから少し話した所で解放されるのだ。これはあの時の疲労に似ているのかもしれない。
「はぁー。物凄い人だったね」
苦笑いを浮かべながら夕晴は溜息の後にそう零した。
「そうですよね」
『あっ、でもとある文献にはこんな話が書かれてたんだ。ある夫婦がいて妻はある日、夫の浮気を発見した。問い詰めたけど夫は認めず、それに酷く怒った妻はついに自殺をしてしまったんだ。そのとてつもない怨念と共に。そしてその数日後、夫の浮気相手は病に倒れ間もなくして帰らぬ人となった。そして夫も度々恐ろしい体験をするようになったんだ。夫は妻の怨念だと陰陽師に相談した。だけどある日、夫は忽然と姿を消し周りの人間の記憶からも消えてしまった。まるで最初からこの世に存在しなかったみたいにね』
「でもどうしてそれが分かるんですか? さっき言ってたみたいに普通、誰も気が付かないですよね?」
『それは夫が消える前に相談してた陰陽師のお陰だよ。陰陽師は自分のメモを発見したんだ。そこには家の情報だけが書かれてたけど陰陽師はそれが何のメモか全く思い出せなかった。だからその家へ行ってみたがそこは単なる空き家。直感なんだろうね、でも気になった陰陽師が色々と調べてみるとそこには良くないものが隠れてたんだ。まぁ彼の妻だね。そして陰陽師によって退治されるとその夫が戻り人々も思い出したって話。本当かどうかは分からないけどね。まぁ、ひとつ言えるのは人の怨念というのは時にあり得ないような事を巻き起こしてしまうってことだよ。強すぎるエネルギーは時空なんかに干渉して想像もつかないような事を引き起こす恐れがある。もしかしたら忘れてるんじゃなくてこの話でいうところの彼の妻が、ずっと夫と一緒に居る為に彼と自分の存在しないパラレルワールドを作り出してしまったのかもしれない。本来の世界から分枝した別の世界として。でも分枝する前の物は当然残ってる訳だからその一つと陰陽師によってその世界は本来の世界と再び一体化した』
この人は小説や漫画を描いた方がいいんじゃないか? 俺は密かにそんな事を思っていた。
『なんて最後のはただの妄想話だけどね。まぁでも、夕晴君も無闇矢鱈に人から恨みを買うような事はしない方がいいよ』
「気を付けます」
『損はあれど得なんてないからね。他に訊きたい事は?』
「いや、もう大丈夫です。ありがとうございました」
『いやいや。これぐらいどうってことないよ。またいつでも訊いてくれていいからね。こういう類なら話すのはむしろ大歓迎さ』
「それじゃあ何かあったら連絡します」
『はいはーい。それじゃーね』
何故だろうか。聞いていただけだが電話が切れた途端、どっと疲れが押し寄せてきたのは。その疲れに心の中で溜息を零しているとふと叔母の事を思い出した。たまに会えば途切れることなく次から次へと話しをするマシンガントークの叔母だ。別に嫌いという訳ではないが少し疲れる。でもそんな俺を見かねた母が毎回、割って入ってくるから少し話した所で解放されるのだ。これはあの時の疲労に似ているのかもしれない。
「はぁー。物凄い人だったね」
苦笑いを浮かべながら夕晴は溜息の後にそう零した。
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