四月の忘れ事

佐武ろく

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第三章:危険な遊び

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『祈るだけだよ。僕も知らないその後の世界でその人が人間として生きているという事を祈るだけ。基本的にはその霊を成仏というのかなんというのか消してしまえばいい。だけど霊というのは時に妖怪に近い存在に成ってしまう事があるらしいんだ。言葉を選ばずに言うなら妖怪もどきとでもいうのかも。いや、でも妖怪って言うのはそもそも人間が説明できないような不可思議な出来事を説明する為に生み出された存在とも言われてるからこれは適切じゃないかもね。僕自身は幽霊より上位の存在と思ってるけど……まぁいいか。今はそこは重要じゃない訳だし呼び方もそれもどうでもいい。そしてその状態になった霊というのはある種の自我を持ち始める。というより理性の方が正しいのかもね。つまり自分の中にあるエネルギーをある程度コントロールして発散出来るんだ。あぁそうだ。幽霊と言うのは君たちも知っての通り怨念などの強力な負のエネルギーによってこの世界に留まり人間へ害を成す事が出来ると言われてるんだけど、その幽霊っていうのは個体差はあれどその強力過ぎる負のエネルギーを発散する事にしか興味が無い。と言うかそれしか考えられないんだ。簡単に言えば君たちもとてつもない怒りに襲われた事はあるでしょ? その時って言うのはその怒りをどう発散するか。どう怒りの対象へぶつけるかって言う事が頭を埋め尽くしてると思うんだ。でも理性がそれを抑え段々と落ち着きを取り戻していく。幽霊にはその理性が無い。ただ自分の中にある負のエネルギーを発散して――まぁ恨みを果たすって事だね。それしか頭にない。だから誰彼構わず襲ったりするんだ。ここで! よく考えてみて欲しい。さっき二つのタイプがあるって言ったよね。そしてそのタイプ分けはどうされてるか分からないとも。だけど僕は思うだ。もしかしたらこの違いなんじゃないかって。ある程度の理性、つまり妖怪もどきと成った幽霊が儀式的な事を必要とするんじゃないかって。そしてそうじゃない、ただ負のエネルギーをぶつける事しか頭にない幽霊がそういう儀式を必要としないタイプなんじゃないかって。そこで出てくる問題は、なぜ妖怪もどきと成った幽霊は儀式的なモノが必要になってくるのか。それは確実性なんじゃないかと僕は思ってる。要は取引だよ。川子ちゃんの話にもあったように、復讐を手伝ってそれが達成できなければ一人連れてかれる。そうする事によって自分を呼び出した人間に自分の復讐を手伝わせ確実に復讐を達成する。怒りの対象へ的確に自分の怒りをぶつけようとしてるんだ。だけどそうなるとまたもや問題が出てくる。この場合、彼らは場所を選ばないが儀式をする人間が必要になるんだ。逆に言えば人間が儀式をしなければ姿を現すことが出来ない。その間、力を溜めているかもしれないけど結局はそれを発散できなければ意味がない訳で――』

 莉緒は序盤から既に理解することを放棄し、俺も(恐らく夕晴も)途中から置いてけぼり。だが饒舌に話す彼を止める事は誰にも出来ず、次から次へと飛んでくる言葉の弾丸にただ圧倒されるだけだった。
 そんな中、終わりの見えないその話に対して夕晴が勇気を振り絞り割って入った。

「あー、あの。つまりどういうことですか?」
『つまり一言で片づけるなら、分からないだね。あれこれ話したけど仮説や推測の域をまだ越えられない。申し訳ないけど、死後の世界がどうなってるか分からないようにこれも分からないんだ。仮説を立てる事も出来るど、どれも決定力に欠けるのは事実。それにこの川子ちゃんの話に関しては幽霊か妖怪かも分からない訳で、更に言えばその存在すら危うい。だから正確な答えとしては、やってみないと分からない、かな』
「実際に呼んでみないと分からないってことですか?」
『そう言う事だね。でもこういうのは専門的な知識がある人と一緒じゃないと危険な可能性もあるからね。引きずり込まれたりしたら命に関わるかもしれない。未知だからこそ色々な可能性があると同時に危険なんだ』
「あっ、もうひとついいですか?」
『ん? なに?』
「そういう霊とか妖怪とかに引きずり込まれて姿を消した人間の事を周りの人が忘れてしまうっていうのはあるんですか? その存在が無かった事にされるみたいな」
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