四月の忘れ事

佐武ろく

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第三章:危険な遊び

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「――呪文が必要なタイプとそうじゃないやつ。ですか?」
『大体正解だね。正確には、特定の条件がいるタイプと誰彼構わず襲い掛かるタイプ。もちろん例外もあるけど。例えば今回の話は前者で、後者は幽霊スポットとか足を踏み入れた人間を誰彼構わず呪ったり怪我をさせたり最悪の場合は殺してしまったりするタイプだ。でもどうしてこの二つに分かれているのかは分からない。君たちも今まで色々と怖い話や都市伝説なんかを聞いた事あると思うけど、今回みたいに呼び出す方法があるのと単にあそこに行ったらヤバイみたいなのがあったと思うだ』

 確かに今までそう言う類の話を(主に夕晴から)聞いた事があるが大体その二種類だ。

『まぁこういうのは大抵は誰かが作ったものだし、より相手を怖がらせる為に近づかない方がいいタイプにしてるかちょっと興味を引くためにそう言う儀式系にしてるかだと思うんだけどね。でも本物と言われる類でもその二種類に分かれるのは確かなんだ。ここで話が戻るけど、儀式系の話っていうのは儀式の部分が割と簡略化された場合が殆どで、特徴的な部分が残るのが多い。でも実は霊っていうのは総じてこの世とあの世の狭間の存在。だから共通する部分も多いんだ。霊を呼ぶにあたっての基本知識とでも言えば分かりやすいかな。世に出回る話は大抵その部分が削られてるんだよね』
「えーっと。つまり?」
『つまり最初の質問に戻ると、もしあの話の通りに儀式をしたとしても肝心の削られた部分が満たされてなければ何も起こらない。偶然その部分が満たされてれば何かが起こる可能性があるって感じかな。だからあの話通りに川子ちゃんを呼び出そうと儀式をしたら八対二の割合で何かが起こるはず。もちろん二が起こる可能性ね。あの話自体あまり確証的じゃないから確率的にはこれぐらいの数字になると思うよ』
「なるほど。あの、それでその基本知識っていうのは?」
『それは簡単。時刻は丑三つ時つまり午前二時から午前二時三十分の間。満月か新月の日。曇りの日、特に月は顔を出していて辺りが曇ってるなんてのは最高だね。あとは供物の方向やお祈りをする方向などは全て鬼門つまり北東へ向ける。全ての条件を満たしてる必要は無いけど、満たしてる方がより好条件って感じだね』

 俺はそれを聞きながらもし霊に連れて行かれたらどうなるのか、連れ戻せるのかという疑問が思い浮かび夕晴に訊いてもらう事にした。自分で訊いても良かったのだが、夕晴以外はずっと黙ったままだったからここで急に声を出すのはどこか嫌だった。

「それじゃあ、この川子ちゃんの話だと呼び出したら復讐を手伝うか出来なかったら川に引きずり込まれるってあるんですけど、もし引きずり込まれたらどうなるんですか? もしそうなったらその人って助けられますか?」
『どうなるか、かぁ。基本的にはその霊と同じように狭間に連れてかれると思うよ。でもその霊は死んでて引きずり込まれた人間は生きてる。そこが問題だよね。これに関しては色々と意見はあるんだ。その時点で死んでしまい同じように狭間の霊になるとかしばらくは生きて生気を吸われるとか。色々とね。だから、正直に言ってどうなるかは分からない。神のみぞ知るって感じかな。そして、その人を助けられるかって事だけど。答えはこれも分からない、だ。引きずり込まれた者がどうなるか分からない以上、その後の救出に関しても分からない。死んでたら助けられないし、まぁ成仏を助けるとするなら出来るかもしれないけど、今はそう言う意味では言ってないと思うから助けられないし、生きてたとしても狭間からこちら側へどう連れ戻すか確実な方法はないからね。それに仮に生きてたとしても生気を吸われてたら制限時間があるだろうし、とにかく分からないことだらけだ。でも逆に言えば分からないからこそ可能性はあるとも言えるよね』
「じゃあ――」

 夕晴がそう言葉を挟もうとしたが荒川さんの言葉はそれを突っ切った。

『でももし本当に引きずり込まれたとしたら。まず第一にやるべき事は引きずんだ霊の特定。そして……』
「そして?」

 でも今度は珈琲でも飲んでいるのか僅かな間と夕晴が一言挟むだけの余白が開いた。
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