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第二章:暗がりのアルバム
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「おぉー、すげー! まだやってるよ」
昼ご飯を食べ終えた俺らは子どもの頃によく行っていた小さな駄菓子屋へ来ていた。もちろん、長宅颯羊を何か思い出せるかもということで。だが少しぐらいは食後のデザートを食べようという気持ちもあった。
早速、中に入ってみると狭い店内には色々な懐かしいお菓子が並んでいた。記憶と同じ配置で同じお菓子がずらりと。その景色もさることながら昔食べたお菓子のパッケージに懐古の情が体中を駆け巡るのを感じた。
「ヤングドーナツにどらチョコ。よく食べたわー」
「僕はうまい棒とビッグカツ。あとはきなこ棒だなぁ。蓮は?」
「酢だこと焼きそば屋さん太郎とかチョコバットとか」
その他にも食べてた駄菓子は沢山あり、スーパーで見かけるものや久しぶりに見たものなど懐かしさは止まらなかった。その懐かしさに突き動かされるようにお菓子を選んでいた俺らはいつの間にかあの頃は出来なかった大人買いをしていた。
「スーパーボールくじってまだあんだな」
「ほんとだ。僕当たった試しないや」
すると何やら腕を組んだ莉緒が勝ち誇ったように笑い始めた。
「実はな。オレは当てた事あんだぜ!」
「へぇーすごいね」
意気揚々と自分を指差す莉緒だったが夕晴はどうでもいいと言うようにさらっとあしらった。
だが莉緒の表情は依然と勝ち誇っている。
「しかも一度や二度じゃねぇ。なんと! 五連続だ!」
声高らかにそう言いながら五本の指を立てた手を夕晴へ突き出した。
「わぁーお! それはほんとに凄い!」
「ほぉー。あの時の坊主か」
夕晴の本気の称賛に続くように店主のじいさんが莉緒の顔をまじまじと見ながらそう言った。
「あれ? じーさん覚えてんの?」
「当たり前じゃ。あの時はズルを疑ってすまんな」
「いーって。誰でもあの奇跡を見たら信じるより先に疑うもんだから」
「それにしてもあの坊主がこんなに大きくなっとるとはの。時の流れっちゅーのは早いもんじゃ。そういや、そこの兄ちゃんもいたな」
じいさんは先に買い物を済ませ二人の後ろにいた俺を指差した。確かに覚えてる。莉緒が大燥ぎしてたのを。
「蓮もいたの?」
「あぁ」
すると夕晴は俺からじいさんへ視線を戻した。
「おじいさん。他には誰か一緒に来てる子どもっていた? 男の子か女の子かも」
「そーじゃのぉ」
じいさんは夕晴にそう尋ねられその時の事を良く思い出そうとしている様子だった。
「いや。多分、いなかったと思うがの」
「そう。ありがとう」
「おぉ、そうじゃ。あの時、疑ったお詫びじゃ。あれを一本ずつ持っていくといい」
そして俺らは一人一本ラムネを手に駄菓子屋を出た。
「やったー。ラムネなんていつぶりだろう」
「ったくオレに感謝しろよ。お前ら」
「お前じゃなくてじいさんにな」
「いや、それは……。まぁいいや」
子どもの頃以来に飲むラムネ。俺はまずビー玉を(確かこれ本当はビーじゃなくてエー玉だって聞いた事があるような)落とし蓋を開けた。そして一口。味覚だけじゃなく記憶も刺激する懐かしい味と炭酸が口に広がった。
『蓮も飲む?』
するとほんの一言。丁度、この駄菓子屋の前でそんな事を言われた記憶が脳裏を過った。相手が誰だかは思い出せない。でもそう言われてラムネを差し出された。
「……蓮? おーい」
我に返ると俺の顔を覗き込む夕晴と目が合った。
「どしたの? あっ、もしかしてこれが欲しいとか?」
そう言って夕晴が指差したのは俺が見つめていた場所の後ろにあったガチャガチャ。
「いや。――お前ら昔、ここで俺にラムネ一口あげたことあるか?」
「さぁ? あるんじゃね? 覚えてねーけど」
「僕も。莉緒のラムネ奪ったのは覚えてるし、ないとは言えないかな」
「そうか」
俺はついさっき脳裏に過った一瞬の記憶を再度思い出した。二人とはどこか違う気もするがそう確信する事も出来ない。もしかしたら相手は颯羊かもしれないなんて可能性も当然ながらそこにはあった。
だがいくら考えても更に思い出せそうな気配はない。
「にしても昔ここに来て食べてた事以外はなんにも思い出せなかったなぁ。お前たちとここに来たのは覚えてるけど颯羊とかその女の子とは覚えねーな」
「僕も」
店前でラムネを飲む俺らは当初の目的は何も果たせず、ただ懐古の念が湧き上がるのを胸の内に感じるだけだった。
「次は? どこ行くんだ? 他にどっかあったか?」
「神社でしょ? 莉緒が自分で言ったんじゃん」
「あー。そーだった。んじゃ行くか」
そしてラムネを飲みお菓子を食べながら俺らは昔、数回行った神社へと向かった。正直、俺は全然覚えてない。
「よし! 僕の勝ちー!」
ガッツポーズをすると夕晴は言葉に合わせ石階段を上り始めた。
「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!」
数段上に夕晴、莉緒、そして俺という順で石階段に並んだ俺らは頂上の鳥居を目指し何度目か分からない勝負をする為、手を出した。
「じゃんけん、ぽん!」
誰かが勝っては進み、誰かが勝っては進み。勝負は続きようやく……。
「やったー! 僕がいっちばーん!」
鳥居の足元に立ち空へ人差し指を突き上げ、勝利を表しながら俺らを見下ろしていたのは夕晴だった。
「くっそー。あいつパーとチョキでほとんど勝つから結局、差がついちまった」
「もう普通に上がって良いか?」
「いいよー」
莉緒は負けたくなかったようで敗北感を露わにしながら残りを上り始め、そんな莉緒の後に続き特に悔しさも無い俺も残りを上がる。
だが、鳥居に近づいたその時。
『いっちばーん! やった! 初めて勝っちゃった』
さっきの夕晴のように空を指差す誰かの記憶が駄菓子屋の時と同じで脳裏を一瞬だけ過った。俺はその誰かを今みたいに下から見上げている。でもその場面だけで他には何も分からない。何も思い出せない。
そしてやっぱりこれが颯羊との忘れてた想い出なんだろうか、そう思いながらもどこか違和感のようなものを感じていた。
「蓮? 何やってんの?」
「――あぁ。悪い」
夕晴の声で我に返った俺は残りの階段を上り二人と神社の境内へ足を踏み入れた。
昼ご飯を食べ終えた俺らは子どもの頃によく行っていた小さな駄菓子屋へ来ていた。もちろん、長宅颯羊を何か思い出せるかもということで。だが少しぐらいは食後のデザートを食べようという気持ちもあった。
早速、中に入ってみると狭い店内には色々な懐かしいお菓子が並んでいた。記憶と同じ配置で同じお菓子がずらりと。その景色もさることながら昔食べたお菓子のパッケージに懐古の情が体中を駆け巡るのを感じた。
「ヤングドーナツにどらチョコ。よく食べたわー」
「僕はうまい棒とビッグカツ。あとはきなこ棒だなぁ。蓮は?」
「酢だこと焼きそば屋さん太郎とかチョコバットとか」
その他にも食べてた駄菓子は沢山あり、スーパーで見かけるものや久しぶりに見たものなど懐かしさは止まらなかった。その懐かしさに突き動かされるようにお菓子を選んでいた俺らはいつの間にかあの頃は出来なかった大人買いをしていた。
「スーパーボールくじってまだあんだな」
「ほんとだ。僕当たった試しないや」
すると何やら腕を組んだ莉緒が勝ち誇ったように笑い始めた。
「実はな。オレは当てた事あんだぜ!」
「へぇーすごいね」
意気揚々と自分を指差す莉緒だったが夕晴はどうでもいいと言うようにさらっとあしらった。
だが莉緒の表情は依然と勝ち誇っている。
「しかも一度や二度じゃねぇ。なんと! 五連続だ!」
声高らかにそう言いながら五本の指を立てた手を夕晴へ突き出した。
「わぁーお! それはほんとに凄い!」
「ほぉー。あの時の坊主か」
夕晴の本気の称賛に続くように店主のじいさんが莉緒の顔をまじまじと見ながらそう言った。
「あれ? じーさん覚えてんの?」
「当たり前じゃ。あの時はズルを疑ってすまんな」
「いーって。誰でもあの奇跡を見たら信じるより先に疑うもんだから」
「それにしてもあの坊主がこんなに大きくなっとるとはの。時の流れっちゅーのは早いもんじゃ。そういや、そこの兄ちゃんもいたな」
じいさんは先に買い物を済ませ二人の後ろにいた俺を指差した。確かに覚えてる。莉緒が大燥ぎしてたのを。
「蓮もいたの?」
「あぁ」
すると夕晴は俺からじいさんへ視線を戻した。
「おじいさん。他には誰か一緒に来てる子どもっていた? 男の子か女の子かも」
「そーじゃのぉ」
じいさんは夕晴にそう尋ねられその時の事を良く思い出そうとしている様子だった。
「いや。多分、いなかったと思うがの」
「そう。ありがとう」
「おぉ、そうじゃ。あの時、疑ったお詫びじゃ。あれを一本ずつ持っていくといい」
そして俺らは一人一本ラムネを手に駄菓子屋を出た。
「やったー。ラムネなんていつぶりだろう」
「ったくオレに感謝しろよ。お前ら」
「お前じゃなくてじいさんにな」
「いや、それは……。まぁいいや」
子どもの頃以来に飲むラムネ。俺はまずビー玉を(確かこれ本当はビーじゃなくてエー玉だって聞いた事があるような)落とし蓋を開けた。そして一口。味覚だけじゃなく記憶も刺激する懐かしい味と炭酸が口に広がった。
『蓮も飲む?』
するとほんの一言。丁度、この駄菓子屋の前でそんな事を言われた記憶が脳裏を過った。相手が誰だかは思い出せない。でもそう言われてラムネを差し出された。
「……蓮? おーい」
我に返ると俺の顔を覗き込む夕晴と目が合った。
「どしたの? あっ、もしかしてこれが欲しいとか?」
そう言って夕晴が指差したのは俺が見つめていた場所の後ろにあったガチャガチャ。
「いや。――お前ら昔、ここで俺にラムネ一口あげたことあるか?」
「さぁ? あるんじゃね? 覚えてねーけど」
「僕も。莉緒のラムネ奪ったのは覚えてるし、ないとは言えないかな」
「そうか」
俺はついさっき脳裏に過った一瞬の記憶を再度思い出した。二人とはどこか違う気もするがそう確信する事も出来ない。もしかしたら相手は颯羊かもしれないなんて可能性も当然ながらそこにはあった。
だがいくら考えても更に思い出せそうな気配はない。
「にしても昔ここに来て食べてた事以外はなんにも思い出せなかったなぁ。お前たちとここに来たのは覚えてるけど颯羊とかその女の子とは覚えねーな」
「僕も」
店前でラムネを飲む俺らは当初の目的は何も果たせず、ただ懐古の念が湧き上がるのを胸の内に感じるだけだった。
「次は? どこ行くんだ? 他にどっかあったか?」
「神社でしょ? 莉緒が自分で言ったんじゃん」
「あー。そーだった。んじゃ行くか」
そしてラムネを飲みお菓子を食べながら俺らは昔、数回行った神社へと向かった。正直、俺は全然覚えてない。
「よし! 僕の勝ちー!」
ガッツポーズをすると夕晴は言葉に合わせ石階段を上り始めた。
「パ・イ・ナ・ツ・プ・ル!」
数段上に夕晴、莉緒、そして俺という順で石階段に並んだ俺らは頂上の鳥居を目指し何度目か分からない勝負をする為、手を出した。
「じゃんけん、ぽん!」
誰かが勝っては進み、誰かが勝っては進み。勝負は続きようやく……。
「やったー! 僕がいっちばーん!」
鳥居の足元に立ち空へ人差し指を突き上げ、勝利を表しながら俺らを見下ろしていたのは夕晴だった。
「くっそー。あいつパーとチョキでほとんど勝つから結局、差がついちまった」
「もう普通に上がって良いか?」
「いいよー」
莉緒は負けたくなかったようで敗北感を露わにしながら残りを上り始め、そんな莉緒の後に続き特に悔しさも無い俺も残りを上がる。
だが、鳥居に近づいたその時。
『いっちばーん! やった! 初めて勝っちゃった』
さっきの夕晴のように空を指差す誰かの記憶が駄菓子屋の時と同じで脳裏を一瞬だけ過った。俺はその誰かを今みたいに下から見上げている。でもその場面だけで他には何も分からない。何も思い出せない。
そしてやっぱりこれが颯羊との忘れてた想い出なんだろうか、そう思いながらもどこか違和感のようなものを感じていた。
「蓮? 何やってんの?」
「――あぁ。悪い」
夕晴の声で我に返った俺は残りの階段を上り二人と神社の境内へ足を踏み入れた。
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