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第二章:暗がりのアルバム
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「いや。僕は何も。ここで遊んだのは覚えてるけど、どれも莉緒と蓮が一緒かな。蓮は?」
「何も。一緒に遊んだ覚えはないな」
「オレも。もしかしてここで遊んだ事ないとか?」
「んー。それもあるかも」
夕晴はそう言いながらシーソーを降りると隣の雲梯へと足を進めた。
「確か莉緒ってこれ最後まで行けた事なかったよね?」
「子どもの頃の話だろ? 今はよゆーだっての」
「じゃあ、どうぞ」
「見てろよ」
自信たっぷりな莉緒は夕晴の所まで行くと雲梯に手を伸ばした。そして足を曲げながら(中央付近まで行けば足は着かないがそれまでは着くかもしれないからだろう)ぶら下がると一つ一つ前へ進み始める。
するとそんな莉緒の後方で雲梯にぶら下がった夕晴は、その後を追い出した。
「ほらほら、速くしないと捕まえちゃうぞー」
「おまっ! 触んなよ。それはズルだかんな」
先に出発した莉緒との差はあったはずだったが気が付けば夕晴はすぐ後ろへ。
そして夕晴は両脚で莉緒の体を挟むと逃がさないように足同士でロックを掛けた。
「おい! 離せよ! ズリぃーだろ」
「莉緒、絶対に手離さないでよ? 信じてるから」
「は? ちょっ、お前何し――」
すると夕晴は両手を雲梯から離し上体を大きく逸らせ地面へと頭を近づけた。そんな夕晴ごと、莉緒は必死で雲梯にぶら下がってる。数秒、服が捲れ鍛え上げられた――訳ではないが細く白いお腹が顔を見せながらも地面へと両手を伸ばし続ける夕晴。
そしてもう満足したのか莉緒がそろそろ限界だと思ったのか、夕晴は上体を起こすとおんぶされるように莉緒に抱き付いた。
「さっすが莉緒! 昔よりやるじゃん」
「おまっ……。もう無理……」
最後、莉緒は手を離し地面へ落ちるように下りたが夕晴はそのまま雲梯に捕まりあっという間に最後まで渡り切った。体操の着地のように地面に着地すると夕晴は清々しい顔で莉緒の元へ。
「マジでふざけんなよ」
「流石に高校生になってこれ渡れないはないでしょ。だからちょっとね。それに僕軽かったでしょ?」
「くそ重かったわ!」
「なら筋力不足だね。もっと鍛えるように」
「お前と一緒にすんな! この猿が!」
「運動神経抜群って言ってくれない?」
昔から夕晴は身軽で誰よりも運動神経は抜群だった。今のを見て思い出したが、あの秘密基地やこの公園にある木によく誰かと上ってたな。
――でも誰とだ?
「夕晴」
「ん? なに? もしかして蓮も一緒にやりたい? もっとすごい技のとか」
「いや、それはいい。それよりお前ってよく木登りしてたよな?」
「うん。してたね」
「誰かとしてなかったか? 競争とか一緒に高いとこまで上ったり誰かと」
「そー言われれば……あれ? 誰だっけ? 莉緒には無理だから。蓮?」
「数回ならな。でもお前がよく一緒に上ってたのって別の奴だろ」
「そうだった気もする――かも。でもよく思い出せないや」
「おい。それってもしかして」
莉緒は続きを言わなかったが夕晴も当然ながら俺も同じことを思ってた、はず。その誰かは長宅颯羊かもしれないと。
だけど結局、それが誰かを思い出す事も他に何かを思い出す事もなく俺らは公園を後にした。
公園を出た後、俺らは莉緒の奢りで蕎麦を食べに行った。
「頼むから高いのは止めてくれ」
「僕、天ぷらも食べたい。蓮は?」
「蕎麦と天ぷら。いいね」
「わーったから安いやつな」
ざる蕎麦と天ぷら。三人の前にはそのメニューが並んだ。そして俺と夕晴はそれを莉緒よりも美味しくいただいた。誰かの奢りで(この場合、誰かと言っても心を許せる友人に限るが)食べる飯がこんなにも美味いのはどうしてだろうか。ついでにこの謎も解明したい気分だ。
そしてそれは一番食べるのが遅い莉緒が半分ぐらい食べた頃。
「そーいや。小中の奴らに聞いたんだろ? どうだったんだ?」
昨日、夕晴が訊いておくと言っていた事を思い出した莉緒が尋ねた。
「あー、あれね。誰も知らないって言ってた。やっぱり僕らと同じ学校に長宅颯羊なんて子いなかったんだよ」
「やっぱオレたちがあの場所か学校外で出会ったっぽいよな」
「お前、他校にも知り合いいるだろ? そいつらに訊いたら何かわかるんじゃないか?」
「いいよー。――その天ぷらくれるなら」
夕晴は交換条件と言うように俺のとり天を箸で指した。
「なんで?」
「食べたいから」
俺は夕晴からその視線を一度、莉緒へ移した。すると莉緒は自分の天ぷらを守るように手を翳した。
「オレのはやらねーぞ。例え夕晴が訊かなくなってもな」
さながら我が子を守る動物のような表情を浮かべる莉緒。正直、別にただ見ただけだ。あっちを食えなんて言うつもりはない。
「俺の金なら考えるが、莉緒の奢りだし。食えよ」
「やったー!」
夕晴は跳ねた声でそう言うと容赦なくとり天を自分のお皿へ。すると次はそこに乗っていた半分食べたとり天を俺のお皿へ戻した。
「流石に全部は悪いから半分でいいよ」
「そりゃどうも」
そう言ってふと莉緒の方を見遣るとまだ俺から天ぷらを守っていた。
「いつまでやってんだよ。お前が一番遅いんだから早く食え」
* * * * *
「何も。一緒に遊んだ覚えはないな」
「オレも。もしかしてここで遊んだ事ないとか?」
「んー。それもあるかも」
夕晴はそう言いながらシーソーを降りると隣の雲梯へと足を進めた。
「確か莉緒ってこれ最後まで行けた事なかったよね?」
「子どもの頃の話だろ? 今はよゆーだっての」
「じゃあ、どうぞ」
「見てろよ」
自信たっぷりな莉緒は夕晴の所まで行くと雲梯に手を伸ばした。そして足を曲げながら(中央付近まで行けば足は着かないがそれまでは着くかもしれないからだろう)ぶら下がると一つ一つ前へ進み始める。
するとそんな莉緒の後方で雲梯にぶら下がった夕晴は、その後を追い出した。
「ほらほら、速くしないと捕まえちゃうぞー」
「おまっ! 触んなよ。それはズルだかんな」
先に出発した莉緒との差はあったはずだったが気が付けば夕晴はすぐ後ろへ。
そして夕晴は両脚で莉緒の体を挟むと逃がさないように足同士でロックを掛けた。
「おい! 離せよ! ズリぃーだろ」
「莉緒、絶対に手離さないでよ? 信じてるから」
「は? ちょっ、お前何し――」
すると夕晴は両手を雲梯から離し上体を大きく逸らせ地面へと頭を近づけた。そんな夕晴ごと、莉緒は必死で雲梯にぶら下がってる。数秒、服が捲れ鍛え上げられた――訳ではないが細く白いお腹が顔を見せながらも地面へと両手を伸ばし続ける夕晴。
そしてもう満足したのか莉緒がそろそろ限界だと思ったのか、夕晴は上体を起こすとおんぶされるように莉緒に抱き付いた。
「さっすが莉緒! 昔よりやるじゃん」
「おまっ……。もう無理……」
最後、莉緒は手を離し地面へ落ちるように下りたが夕晴はそのまま雲梯に捕まりあっという間に最後まで渡り切った。体操の着地のように地面に着地すると夕晴は清々しい顔で莉緒の元へ。
「マジでふざけんなよ」
「流石に高校生になってこれ渡れないはないでしょ。だからちょっとね。それに僕軽かったでしょ?」
「くそ重かったわ!」
「なら筋力不足だね。もっと鍛えるように」
「お前と一緒にすんな! この猿が!」
「運動神経抜群って言ってくれない?」
昔から夕晴は身軽で誰よりも運動神経は抜群だった。今のを見て思い出したが、あの秘密基地やこの公園にある木によく誰かと上ってたな。
――でも誰とだ?
「夕晴」
「ん? なに? もしかして蓮も一緒にやりたい? もっとすごい技のとか」
「いや、それはいい。それよりお前ってよく木登りしてたよな?」
「うん。してたね」
「誰かとしてなかったか? 競争とか一緒に高いとこまで上ったり誰かと」
「そー言われれば……あれ? 誰だっけ? 莉緒には無理だから。蓮?」
「数回ならな。でもお前がよく一緒に上ってたのって別の奴だろ」
「そうだった気もする――かも。でもよく思い出せないや」
「おい。それってもしかして」
莉緒は続きを言わなかったが夕晴も当然ながら俺も同じことを思ってた、はず。その誰かは長宅颯羊かもしれないと。
だけど結局、それが誰かを思い出す事も他に何かを思い出す事もなく俺らは公園を後にした。
公園を出た後、俺らは莉緒の奢りで蕎麦を食べに行った。
「頼むから高いのは止めてくれ」
「僕、天ぷらも食べたい。蓮は?」
「蕎麦と天ぷら。いいね」
「わーったから安いやつな」
ざる蕎麦と天ぷら。三人の前にはそのメニューが並んだ。そして俺と夕晴はそれを莉緒よりも美味しくいただいた。誰かの奢りで(この場合、誰かと言っても心を許せる友人に限るが)食べる飯がこんなにも美味いのはどうしてだろうか。ついでにこの謎も解明したい気分だ。
そしてそれは一番食べるのが遅い莉緒が半分ぐらい食べた頃。
「そーいや。小中の奴らに聞いたんだろ? どうだったんだ?」
昨日、夕晴が訊いておくと言っていた事を思い出した莉緒が尋ねた。
「あー、あれね。誰も知らないって言ってた。やっぱり僕らと同じ学校に長宅颯羊なんて子いなかったんだよ」
「やっぱオレたちがあの場所か学校外で出会ったっぽいよな」
「お前、他校にも知り合いいるだろ? そいつらに訊いたら何かわかるんじゃないか?」
「いいよー。――その天ぷらくれるなら」
夕晴は交換条件と言うように俺のとり天を箸で指した。
「なんで?」
「食べたいから」
俺は夕晴からその視線を一度、莉緒へ移した。すると莉緒は自分の天ぷらを守るように手を翳した。
「オレのはやらねーぞ。例え夕晴が訊かなくなってもな」
さながら我が子を守る動物のような表情を浮かべる莉緒。正直、別にただ見ただけだ。あっちを食えなんて言うつもりはない。
「俺の金なら考えるが、莉緒の奢りだし。食えよ」
「やったー!」
夕晴は跳ねた声でそう言うと容赦なくとり天を自分のお皿へ。すると次はそこに乗っていた半分食べたとり天を俺のお皿へ戻した。
「流石に全部は悪いから半分でいいよ」
「そりゃどうも」
そう言ってふと莉緒の方を見遣るとまだ俺から天ぷらを守っていた。
「いつまでやってんだよ。お前が一番遅いんだから早く食え」
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