四月の忘れ事

佐武ろく

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第一章:記憶の友達

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「なぁなぁ! 聞いてくれよ!」

 次の日。まだ朝だと言うのに莉緒はいつも以上に高いテンションで目の前の席に座った。

「おっはよー」

 その直後、カバンを持ったままの夕晴が隣の席へ。

「ねぇ、聞いてよ」
「おい! 夕晴。オレが先だぞ!」
「あっ。そうだったの? じゃーどーぞ」

 発言権を返してもらった莉緒は俺の机へ少し前のめりになって凭れかかった。

「実はオレ――見ちまったんだよ」
「幽霊の話してる?」
「ホラーでも見た所為じゃねーのか?」
「ちげーよ! それにホラーじゃねーって」
「まぁ、莉緒って怖いの苦手だもんね」
「うっせ! あんなのよゆーだ! じゃなくて。夢だよ! 夢!」
「夢なんて誰でも見るだろ。お前、見た事なかったのか?」

 少しからかいながらそう言った俺はてっきりいつもみたいに夕晴が乗ってくるかと思った。だけど今回はそうじゃなかった。

「もしかして、昨日蓮が言ってたやつ?」
「そう! って何で分かんだよ?」

 いつもより真面目さの増した声だった夕晴に俺の視線も向く。

「――実は。僕も見たんだよね。知らない少年と少女と一緒に僕らがあの秘密基地で遊んでた」

 さっきまで微かに残っていた眠気が一気に吹き飛んだ俺は夕晴から莉緒へ視線をやった。

「オレも同じ」
「他に何か見たか? 俺が話してないような事とか。顔とか見たか?」

 だが二人は同時に首を振った。

「でも蓮とはちょっと違ってその子たちの顔は見えなかったけど何だか知ってるような気はしたよ」
「オレも。ずっと一緒に遊んでたみたいに感じた。二人に対してと同じ感じ」
「もしかして俺だけが知らないやつとか?」
「だったら何で蓮もその夢を見るの? それに夢の中じゃ一緒だったし」
「そうだよな」
「――なぁ」

 すると莉緒のどこか震えた声が聞こえた。

「その二人ってもしかしてあの場所でずっと昔死んだ奴だとかなんじゃ? 実は子どものオレたちと一緒に遊んでた幽霊とか」

 俺と夕晴はほぼ同時に互いを見合った。そして少し目を合わせ続けると再び莉緒へ。

「そりゃないだろ」
「それに何で今更? ってなるじゃん」
「夢の中じゃ実際に会話してる訳だし、というかそれなら覚えてんだろ」
「だけど。こんなのおかしいだろ。子どもの自分たちは楽しそうに遊んでるのに全く覚えてないって。もしかしたらずっと一緒にいるのかも。今もそこ――」
「わっ!」

 突然、声を上げた夕晴と直後に続いた莉緒の「ひゃっ!」という声。そして最後は夕晴の笑い声でそれらは包み込まれた。

「ビックリし過ぎだって」
「誰だって急に大声出されたらビビるだろ!」
「でも蓮はびくともしなかったよ?」
「こいつは――鈍感なんだよ」

 サラッと飛び火が来たが別にいい。

「全く、そんなんだから一緒にお化け屋敷入った時も女の子みたいに引っ付きっぱなしなんだよ」
「出て来た時、顔死んでたもんな」
「うっせー! 入らなかった奴には何も言われたくねー」
「よゆーって言ったのお前だろ」
「入る前から小鹿みたいにビビって入れない奴よりかはマシだな」
「でも僕、一回だけ蓮と一緒にもっと怖いとこ入った事あるけど涼しい顔してたよ。というかめんどくさそうな顔してたっけ。僕は叫んで蓮の腕に掴まって、むちゃくちゃ楽しかったけど」
「あれの何がいいのか意味が分からん」
「今分かった。お前らは感情の一部が死んでんだよ。恐怖を感じられないなんざ危険を避けられないって事だからな。故にオレの方が生物として優秀」

 何故か胸を張り勝ち誇る莉緒。

「でも蓮さ。昔、近所の犬に追いかけられて怖かったって言ってた事あったよね」
「あったな。俺が家の前、通った時に犬の体当たりで門が開いてそのまま追いかけられた」
「もしかしてあの噛むやつか? しかもデカい」
「それ」

 さっきまでの勝ち誇った表情はどこへやら莉緒は一瞬にして顔を顰めた。

「でも蓮にも当然僕にも恐怖はあるわけで、という事はやっぱり莉緒が……」
「はい。以上! この話は終わり」

 大声で強引かつ無理矢理に夕晴の言葉を終わらせた莉緒は、また話を続けないようにすぐに話題を別のへ変えた。

「――で? これってただの偶然で片付けるべきか? それとも――」
「そりゃあ調べるでしょ! 何か楽しそうだし」

 莉緒の言葉を遮り浮かれた様子の夕晴。そして二人は俺へ意見を訊くように視線を向けた。気にはなってたけど正直、単なる夢だしとも思ってた。だけどこうして三人して同じ夢を見たとなると少し奇妙な気もする。

「まぁ別にやることもないしな」
「じゃあけってーい!」
「んじゃ早速、今日行くか。秘密基地に」

 そしてその日の六つの授業を終えた放課後、俺らはまた秘密基地を訪れていた。昨日来たばっかりだからそれはそうだが、何も変わってない。そしてまずあの懐中時計を取り出そうと缶を開けてみる。それも当然ながら昨日、閉じた時と同じ。

「映画とかならここでこのメモに返事が書かれてたり懐中時計が消えてたりすんだけどな」
「いーい? りー君。僕らがいるのは現実なんだよ?」

 まるで小さな子どもに言い聞かせるようにゆっくりとそして甘え声のような声を出す夕晴。

「キモイんだよ」

 そんな夕晴へ言葉と共に軽く拳が伸びる。

「れーん。莉緒がキモイって言ったぁー。あと殴ったぁー」

 作られた涙声で俺の陰に隠れ制服を掴む夕晴。

「何やってんだよ。お前ら」
「だってさ」
「お前だよ!」

 溜息交じりでそう言うとその茶番はあっさり終わりを告げた。

「でもあの少年と少女が誰かってどうやって調べるの?」
「さぁな」

 三人で真実を突き止めようと意気込み、ここへ来たは良いが肝心の策は誰も持っていなかった。
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