3 / 31
第一章:記憶の友達
2
しおりを挟む
翌日、学校が終わると俺らは予定通り子どもの頃によく遊んだ秘密基地へと向かった。
長い間、人の手が入ってないんだろう。そこは子どもの頃よりも鬱蒼としていた。空からは神の微笑みのような陽光が降り注ぎ、草も木もそれぞれが思い思い気兼ねなく育っている。普段はコンクリートに囲まれ、見慣れてる所為かその緑の自然はどこか神秘的にも見えた。
でもそんな草木に囲まれながらも俺らの秘密基地は思ったりよりもちゃんと残っていて感動さえ覚えた。しかし同時に昔とは違い自然に吞み込まれ始め、緑の交じったそれは荒廃した世界の産物のようでどこか非日常を感じさせた。
そんな光景にまるで繁栄していた頃を思い出すようにあの時の事が蘇る。
元々は(壊れたのか何かの理由で作り止めたのかは分からないけど)小屋の骨組みだけが残った建物だった。それを俺らは家にあった穴の開いた布やビニールシートとか色々なモノを使って外見を基地っぽく仕上げた。中もそこら辺で拾ってきたゴミや木なんかを使って適当に。
そんな基地の大方は(多少なりとも劣化や荒廃はあれど)何も変わってない。だからか外から見ているだけでもあの頃をより鮮明に思い出せる。
「やっばー。なっちぃー!」
「あっ! これ僕が家から持って来たやつだ。お姉ちゃんの勝手に盗んでめちゃくちゃ怒られたっけ。懐かしいなぁ」
「思ったより変わってないな」
「いやぁー。でもよく三人だけでこれだけ作れたよな」
「そうだよね」
莉緒のその言葉に夕晴は頷いていたが、俺は何故か違和感のようなものを感じた。それが何なのかは分からないが少し引っ掛かるような気がした。
「確かここの近くにすっげーカブトムシとかクワガタとかが捕れる木があったんだよな」
「あったな。デカいやつだけ捕まえて誰が一番かってやってたっけ」
「やってたねー。そんな事。今じゃ何であんなのに夢中になってたんだか分かんないけど」
「いや、カッケーだろ?」
「だって結局は単なる虫だよ? もう触りたくも無いね。キモい」
「とか言いつつ一番デカいの捕まえてたのって夕晴じゃなかったっけ?」
「ムカつくけどそうだったわ。はぁー。なのに今じゃ年上ばっか追っかけてるんだもんな」
俺は莉緒のその何気ない言葉にふと思った事があった。
「そう言われれば夕晴っていつも年上だよな。小さい頃って結構、姉貴にべったりだったとこもあるし――お前ってシスコンなの?」
するとそんな俺の言葉に夕晴は透かさず反論してきた。
「はぁー? 違うって。確かに年上のおねーさんの方が好きだけど。それはおねーさんたちは僕の事を可愛がってくれるから。僕はおねーさんたちに癒しを提供して、その代わりに可愛がってもらってるだけ」
「ホントはちょろいって思ってんだろ?」
「ちょっ! ほんとに莉緒は人聞きの悪いことばっか言う」
「淋しいならお前も彼女つくれよ。オレみたいにな」
「はいはい。もうこの話は終わりね」
そんな会話をしながら俺らは中へ入った。中も時の流れによる変化ぐらいでそんなに変わってない。それに少し古臭い匂いがしたが今の俺にはそれすらも懐古の種となった。
「って言うかこんな狭かったっけ?」
「まぁ俺らもう高校生だしな」
「あの頃はまだ小学生のおこちゃまだったからな。つっても夕晴はそんなに変わらねーけど」
そう言いながら(三人の中で一番背の低い)夕晴の頭を撫でる莉緒。だがすぐにその手は払い除けられた。
「まっ、別に僕は自分の背が低いのをコンプレックスって思ってないからね。莉緒みたいな顔か蓮みたいな男前だったら低いのは嫌だけど、この顔だったら低くても別にいーかな」
むしろ勝ち誇ったような表情を浮かべながら夕晴は顔の隣でピースを添えた。
「何でオレと蓮の顔を分けたんだよ」
「さぁー? でももしなるなら蓮がいいとは思うなぁー」
俺は別に夕晴の味方をする訳じゃないがそっと莉緒の肩に手を乗せた。なんか悪いな。正直、どーでもいいけど。
「おい。止めろ! オレだってな。結構モテるんだぞ!」
「嫌だなぁ。別にカッコよくないとは言ってないって」
夕晴の隣で頷く俺。今は完全にこっち側に立ってしまったようだ。
そんな俺らへ向けられた莉緒の顰めた顔と睨むような双眸(微かに潤んでいるようにも見えるが)。
「止めろ! その言い方が腹立つ! オレだってな……」
言葉の続きを握り潰すように莉緒は拳を固くした。
何でこんな事でこんなに感情的になれるんだよ、とは思いはしたが別に今更口にしないし、驚きもしない。
「何だろう。――僕は可愛い。蓮はイケメン。莉緒はその間って感じ」
「何だよそれ。中途半端ってことじゃねーか!」
「いやいや。違うって。カッコいいけど可愛い部分もあるってこと」
「むしろ良いとこ取りだろ」
「そうそう。顔はカッコいいのにヘアピンとかしてね」
「ギャップってやつだな」
すると段々と莉緒の表情は満更でもないと言うようなものへと変わっていった。
「そ、そうか?」
「そうそう。むしろ羨ましい……かも」
「そーだな」
最期は適当に返事をしてた訳だが莉緒の顔には少し照れたような笑みが浮かんでいた。
そんな莉緒に俺と夕晴は密かに拳と拳をぶつけ合わせた。元はと言えばお前の所為だけどな。
長い間、人の手が入ってないんだろう。そこは子どもの頃よりも鬱蒼としていた。空からは神の微笑みのような陽光が降り注ぎ、草も木もそれぞれが思い思い気兼ねなく育っている。普段はコンクリートに囲まれ、見慣れてる所為かその緑の自然はどこか神秘的にも見えた。
でもそんな草木に囲まれながらも俺らの秘密基地は思ったりよりもちゃんと残っていて感動さえ覚えた。しかし同時に昔とは違い自然に吞み込まれ始め、緑の交じったそれは荒廃した世界の産物のようでどこか非日常を感じさせた。
そんな光景にまるで繁栄していた頃を思い出すようにあの時の事が蘇る。
元々は(壊れたのか何かの理由で作り止めたのかは分からないけど)小屋の骨組みだけが残った建物だった。それを俺らは家にあった穴の開いた布やビニールシートとか色々なモノを使って外見を基地っぽく仕上げた。中もそこら辺で拾ってきたゴミや木なんかを使って適当に。
そんな基地の大方は(多少なりとも劣化や荒廃はあれど)何も変わってない。だからか外から見ているだけでもあの頃をより鮮明に思い出せる。
「やっばー。なっちぃー!」
「あっ! これ僕が家から持って来たやつだ。お姉ちゃんの勝手に盗んでめちゃくちゃ怒られたっけ。懐かしいなぁ」
「思ったより変わってないな」
「いやぁー。でもよく三人だけでこれだけ作れたよな」
「そうだよね」
莉緒のその言葉に夕晴は頷いていたが、俺は何故か違和感のようなものを感じた。それが何なのかは分からないが少し引っ掛かるような気がした。
「確かここの近くにすっげーカブトムシとかクワガタとかが捕れる木があったんだよな」
「あったな。デカいやつだけ捕まえて誰が一番かってやってたっけ」
「やってたねー。そんな事。今じゃ何であんなのに夢中になってたんだか分かんないけど」
「いや、カッケーだろ?」
「だって結局は単なる虫だよ? もう触りたくも無いね。キモい」
「とか言いつつ一番デカいの捕まえてたのって夕晴じゃなかったっけ?」
「ムカつくけどそうだったわ。はぁー。なのに今じゃ年上ばっか追っかけてるんだもんな」
俺は莉緒のその何気ない言葉にふと思った事があった。
「そう言われれば夕晴っていつも年上だよな。小さい頃って結構、姉貴にべったりだったとこもあるし――お前ってシスコンなの?」
するとそんな俺の言葉に夕晴は透かさず反論してきた。
「はぁー? 違うって。確かに年上のおねーさんの方が好きだけど。それはおねーさんたちは僕の事を可愛がってくれるから。僕はおねーさんたちに癒しを提供して、その代わりに可愛がってもらってるだけ」
「ホントはちょろいって思ってんだろ?」
「ちょっ! ほんとに莉緒は人聞きの悪いことばっか言う」
「淋しいならお前も彼女つくれよ。オレみたいにな」
「はいはい。もうこの話は終わりね」
そんな会話をしながら俺らは中へ入った。中も時の流れによる変化ぐらいでそんなに変わってない。それに少し古臭い匂いがしたが今の俺にはそれすらも懐古の種となった。
「って言うかこんな狭かったっけ?」
「まぁ俺らもう高校生だしな」
「あの頃はまだ小学生のおこちゃまだったからな。つっても夕晴はそんなに変わらねーけど」
そう言いながら(三人の中で一番背の低い)夕晴の頭を撫でる莉緒。だがすぐにその手は払い除けられた。
「まっ、別に僕は自分の背が低いのをコンプレックスって思ってないからね。莉緒みたいな顔か蓮みたいな男前だったら低いのは嫌だけど、この顔だったら低くても別にいーかな」
むしろ勝ち誇ったような表情を浮かべながら夕晴は顔の隣でピースを添えた。
「何でオレと蓮の顔を分けたんだよ」
「さぁー? でももしなるなら蓮がいいとは思うなぁー」
俺は別に夕晴の味方をする訳じゃないがそっと莉緒の肩に手を乗せた。なんか悪いな。正直、どーでもいいけど。
「おい。止めろ! オレだってな。結構モテるんだぞ!」
「嫌だなぁ。別にカッコよくないとは言ってないって」
夕晴の隣で頷く俺。今は完全にこっち側に立ってしまったようだ。
そんな俺らへ向けられた莉緒の顰めた顔と睨むような双眸(微かに潤んでいるようにも見えるが)。
「止めろ! その言い方が腹立つ! オレだってな……」
言葉の続きを握り潰すように莉緒は拳を固くした。
何でこんな事でこんなに感情的になれるんだよ、とは思いはしたが別に今更口にしないし、驚きもしない。
「何だろう。――僕は可愛い。蓮はイケメン。莉緒はその間って感じ」
「何だよそれ。中途半端ってことじゃねーか!」
「いやいや。違うって。カッコいいけど可愛い部分もあるってこと」
「むしろ良いとこ取りだろ」
「そうそう。顔はカッコいいのにヘアピンとかしてね」
「ギャップってやつだな」
すると段々と莉緒の表情は満更でもないと言うようなものへと変わっていった。
「そ、そうか?」
「そうそう。むしろ羨ましい……かも」
「そーだな」
最期は適当に返事をしてた訳だが莉緒の顔には少し照れたような笑みが浮かんでいた。
そんな莉緒に俺と夕晴は密かに拳と拳をぶつけ合わせた。元はと言えばお前の所為だけどな。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
吉原遊郭一の花魁は恋をした
佐武ろく
ライト文芸
飽くなき欲望により煌々と輝く吉原遊郭。その吉原において最高位とされる遊女である夕顔はある日、八助という男と出会った。吉原遊郭内にある料理屋『三好』で働く八助と吉原遊郭の最高位遊女の夕顔。決して交わる事の無い二人の運命はその出会いを機に徐々に変化していった。そしていつしか夕顔の胸の中で芽生えた恋心。だが大きく惹かれながらも遊女という立場に邪魔をされ思い通りにはいかない。二人の恋の行方はどうなってしまうのか。
※この物語はフィクションです。実在の団体や人物と一切関係はありません。また吉原遊郭の構造や制度等に独自のアイディアを織り交ぜていますので歴史に実在したものとは異なる部分があります。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる