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「一色 神速・T・スカリ』
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「止めて!」
だが吉川はそう叫ぶのと同時に走り出し、一歩二歩と男へ横から突っ込んだ。彼女の予想外の不意打ちに対しバランスを崩した男はそのまま車へと突っ込む。
その最中――雨の中を雷鳴のように駆け抜けていく一発の銃声。遅れて真壁の体を流れる雨水に赤い色が混じり始めた。だが既にびしょ濡れの服はさりげなく赤いシミを広げるだけで、頭から滝のように流れる雨に足元へと洗い流されていくも、溜まりを作る事すら無く流れに乗って側溝へと消えていく。傍から見ればびしょ濡れの人と言うのが一番の印象だろう。
一方で確実な痛みに顔を歪めた真壁は、腹部に手をやると少し躊躇いながらも吉川に背を向けると脇目も振らず走り出した。待ち伏せていた路地を曲がり全力でその場から離れていく。
「こりゃマズい……か」
全てを屋上から見ていたスカリは逃げ行く真壁を目で追いながら焦燥とした声で呟いた。そしてスマホを耳元へ持っていきながら踵を返し屋上を後にした。
それから程なくして――。通行人が見向きもしないような路地の中腹に倒れるように座り込んだ真壁の姿はあった。腹部を押さえながら全身で雨に打たれている真壁の双眸はもはや開いているのかすら分からない程に細い。それは今にも途切れそうな意識の最後の砦なのだろう。だが余りにもか細く、頼りない蝋燭の火のようだった。
するとそんな真壁へ降り注ぐ雨だけが突如止んだ。
「大丈夫。死にはしない」
傘を差したスカリはしゃがみ込むと真壁の隙間のような目へそう語りかけた。その言葉に安堵したのか、彼は完全に気を失ってしまったらしく目も完全に閉じてしまった。
丁度それと入れ替わり、やってきた車が路地の片側を塞ぎ停車。運転席からはスーツ姿の男性が傘も差さずに降りて来た。それは金融関係もしくはアイティーやベンチャー企業の社長といった風貌をしたオールバックの青木葉蒼穹。ハングリーフルの二人から紹介された彼は頼れる良き友人でありこれまで何度も仕事を手伝って貰った最早何でも屋の仲間だった。
「スカリ」
軽く片手を上げ名前を呼びながら彼女の元まで足を進める蒼穹。
しかし不思議な事に雨の中を手ぶらで歩いるにも関わらず、髪もスーツにさえも水飛沫一滴すら付いていなかった。
「急にごめん――っていうかそれってそんな使い方も出来るの?」
スカリは傍で足を止めた蒼穹の頭上を指差しながらちょっとした吃驚で眉間に皺を寄せていた。そこには一見すると何も無かったが、上空から降り注ぐ雨粒は彼の頭上で明らかに何かで防がれそのまま背後へ流れ落ちている。
「器用に調整すればね」
そう言った蒼穹が指をパチンと鳴らすと、彼の頭上だけでなくスカリを含んだ路地の雨が止んだ。正確にはスカリから車までが。
「おぉー。便利ぃ」
傘を外しても濡れない事にスカリは感嘆の声を漏らしながら頭上を見上げた。雨は見えない透明な何かに阻まれては、そのままスカリの横へ小さな滝となり流れている。
「それより彼、大丈夫?」
「取り敢えず応急の止血だけしながらかな」
「ならこうしようか」
そう言うと蒼穹は真壁のシャツボタンを下部分だけ外し、傷口を確認した。倒れたビンから零れる液体の様に、ドクっドクっと少し粘り気のある血液が今も溢れ出ている。
すると傷口を目視で確認した蒼穹は片手を翳した。でも手はほぼ撫でるように上空を通過しただけ。
だがそこには傷口を中心に四角く透明な何かが皮膚を押さえつけていた。
「これで少しは大丈夫なはず」
「おぉーそんなことまで」
「力加減が難しいんだけどね。まぁそんな事より早く運んであげようか」
「それじゃああの場所にお願い」
「おっけ」
返事をしながら蒼穹は真壁を抱え上げると車の後部座席へと乗せた。その間にスカリは助手席へ。最後に蒼穹が運転席へ乗り込むと三人は雨が地面を打つ路地を後にした。
車は十分程度で目的の場所へ到着。素朴な裏口からは何のお店か分からなかったが、人様の家でないことは一目で分かる。車が一台だけ駐車されているところを見れば誰かがいるらしい。
そんな建物へスカリを先頭に真壁を抱えた蒼穹は入って行った。中は倉庫のようになっており、慣れた足取りで右手へ進むとそこには壁へ不自然にドア状の穴が開いていた。ドアも何もない口を開けたように開いた穴とその周辺で雑に並ぶ段ボール。
その先は一歩分だけ道が続き、すぐ左へ向け下る階段が伸びている。だが疑問に感じる事も無く二人はその階段を下りて行った。
倉庫から下った地下に広がっていたのは、一目で見回せる程の部屋。白と木で彩られた部屋は全体的に明るくお洒落な一室となっていた。右手にテーブルと椅子、左手に長方形の台と棚が置いてある。
そして右側の椅子には白衣を羽織った女性が足を組んで座っていた。ネクタイの無いスリーピーススーツと胸元でシンプルなネックレスが光り、暗赤色の瞳と七対三で左へ流したハンサムショート。それはスカリが贔屓にしているメーナ・フェバットだった。
「メナさん。急にごめんね」
「むしろ予約なんてないわよ。そこに」
顔前で両手を合わせるスカリに返事をした後、横の台を持っていたペンで指すと蒼穹は真壁を寝かせた。
「それじゃあ俺は仕事に戻るから」
「ありがとねー」
「そろそろウチの常連になってがめつい女達を集めてくれない?」
「それはちょっと……でもお店には来ます」
そして一足先に蒼穹は階段を上がって行った。
だが吉川はそう叫ぶのと同時に走り出し、一歩二歩と男へ横から突っ込んだ。彼女の予想外の不意打ちに対しバランスを崩した男はそのまま車へと突っ込む。
その最中――雨の中を雷鳴のように駆け抜けていく一発の銃声。遅れて真壁の体を流れる雨水に赤い色が混じり始めた。だが既にびしょ濡れの服はさりげなく赤いシミを広げるだけで、頭から滝のように流れる雨に足元へと洗い流されていくも、溜まりを作る事すら無く流れに乗って側溝へと消えていく。傍から見ればびしょ濡れの人と言うのが一番の印象だろう。
一方で確実な痛みに顔を歪めた真壁は、腹部に手をやると少し躊躇いながらも吉川に背を向けると脇目も振らず走り出した。待ち伏せていた路地を曲がり全力でその場から離れていく。
「こりゃマズい……か」
全てを屋上から見ていたスカリは逃げ行く真壁を目で追いながら焦燥とした声で呟いた。そしてスマホを耳元へ持っていきながら踵を返し屋上を後にした。
それから程なくして――。通行人が見向きもしないような路地の中腹に倒れるように座り込んだ真壁の姿はあった。腹部を押さえながら全身で雨に打たれている真壁の双眸はもはや開いているのかすら分からない程に細い。それは今にも途切れそうな意識の最後の砦なのだろう。だが余りにもか細く、頼りない蝋燭の火のようだった。
するとそんな真壁へ降り注ぐ雨だけが突如止んだ。
「大丈夫。死にはしない」
傘を差したスカリはしゃがみ込むと真壁の隙間のような目へそう語りかけた。その言葉に安堵したのか、彼は完全に気を失ってしまったらしく目も完全に閉じてしまった。
丁度それと入れ替わり、やってきた車が路地の片側を塞ぎ停車。運転席からはスーツ姿の男性が傘も差さずに降りて来た。それは金融関係もしくはアイティーやベンチャー企業の社長といった風貌をしたオールバックの青木葉蒼穹。ハングリーフルの二人から紹介された彼は頼れる良き友人でありこれまで何度も仕事を手伝って貰った最早何でも屋の仲間だった。
「スカリ」
軽く片手を上げ名前を呼びながら彼女の元まで足を進める蒼穹。
しかし不思議な事に雨の中を手ぶらで歩いるにも関わらず、髪もスーツにさえも水飛沫一滴すら付いていなかった。
「急にごめん――っていうかそれってそんな使い方も出来るの?」
スカリは傍で足を止めた蒼穹の頭上を指差しながらちょっとした吃驚で眉間に皺を寄せていた。そこには一見すると何も無かったが、上空から降り注ぐ雨粒は彼の頭上で明らかに何かで防がれそのまま背後へ流れ落ちている。
「器用に調整すればね」
そう言った蒼穹が指をパチンと鳴らすと、彼の頭上だけでなくスカリを含んだ路地の雨が止んだ。正確にはスカリから車までが。
「おぉー。便利ぃ」
傘を外しても濡れない事にスカリは感嘆の声を漏らしながら頭上を見上げた。雨は見えない透明な何かに阻まれては、そのままスカリの横へ小さな滝となり流れている。
「それより彼、大丈夫?」
「取り敢えず応急の止血だけしながらかな」
「ならこうしようか」
そう言うと蒼穹は真壁のシャツボタンを下部分だけ外し、傷口を確認した。倒れたビンから零れる液体の様に、ドクっドクっと少し粘り気のある血液が今も溢れ出ている。
すると傷口を目視で確認した蒼穹は片手を翳した。でも手はほぼ撫でるように上空を通過しただけ。
だがそこには傷口を中心に四角く透明な何かが皮膚を押さえつけていた。
「これで少しは大丈夫なはず」
「おぉーそんなことまで」
「力加減が難しいんだけどね。まぁそんな事より早く運んであげようか」
「それじゃああの場所にお願い」
「おっけ」
返事をしながら蒼穹は真壁を抱え上げると車の後部座席へと乗せた。その間にスカリは助手席へ。最後に蒼穹が運転席へ乗り込むと三人は雨が地面を打つ路地を後にした。
車は十分程度で目的の場所へ到着。素朴な裏口からは何のお店か分からなかったが、人様の家でないことは一目で分かる。車が一台だけ駐車されているところを見れば誰かがいるらしい。
そんな建物へスカリを先頭に真壁を抱えた蒼穹は入って行った。中は倉庫のようになっており、慣れた足取りで右手へ進むとそこには壁へ不自然にドア状の穴が開いていた。ドアも何もない口を開けたように開いた穴とその周辺で雑に並ぶ段ボール。
その先は一歩分だけ道が続き、すぐ左へ向け下る階段が伸びている。だが疑問に感じる事も無く二人はその階段を下りて行った。
倉庫から下った地下に広がっていたのは、一目で見回せる程の部屋。白と木で彩られた部屋は全体的に明るくお洒落な一室となっていた。右手にテーブルと椅子、左手に長方形の台と棚が置いてある。
そして右側の椅子には白衣を羽織った女性が足を組んで座っていた。ネクタイの無いスリーピーススーツと胸元でシンプルなネックレスが光り、暗赤色の瞳と七対三で左へ流したハンサムショート。それはスカリが贔屓にしているメーナ・フェバットだった。
「メナさん。急にごめんね」
「むしろ予約なんてないわよ。そこに」
顔前で両手を合わせるスカリに返事をした後、横の台を持っていたペンで指すと蒼穹は真壁を寝かせた。
「それじゃあ俺は仕事に戻るから」
「ありがとねー」
「そろそろウチの常連になってがめつい女達を集めてくれない?」
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