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「一色 神速・T・スカリ』
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「とにかく明日の細かい時間と場所はあとで送る」
「はいよー」
「つーか、コントラクターが悪さしてるってのはそいつらの元々のもんだろ」
「人間は力を手に入れると大きくなっちまうんだよ。もし契約なんてもんが無きゃ、起きなかった犯罪もあるだろうよ」
「もしコントラクターが消えたらおめーは無職だな」
ニヤリ、勝ち誇ったようにも見える表情をルエルは浮かべた。
「何言ってんだ。そうなったら一課だ。古巣に戻るってやつだな」
その隣で一足先に食べ終えたスカリはお箸を置き、手を合わせると丁寧に挨拶を済ませた。
「そんじゃまた明日~」
そして立ち上がったスカリは早足でドアまで行くと先に開いてから振り返った。
「須藤さーん。ご馳走様~」
満面の笑みで華麗に手を振りそれを言い残すと何かを言われる前に風の如き足取りで外へ。
「スカリおま――」
一瞬、慌てた様子で振り向く須藤だったが直ぐに諦めたと溜息を零した。
「おい! 金さえ払えりゃ誰でもいい。逃げんなよ」
「スカリちゃんの分はちゃんとスカリちゃんから貰うのでいいですよ」
「ダメだ! あの野郎から金は舞い降りない」
「公務員舐めんな。こんくらい払ってやるっての」
それからゆっくりと定食を食べ終えた須藤はちゃんと二人分の食事代を払って仕事へと戻った。
* * * * *
翌日。スカリは古びたビルの前に立っていた。どんよりとした鉛色の雲が頭上を覆い尽す中、彼女は電話を一本。
「もしもし。着いた」
「様子はどうだ?」
「別に。ただの空きビルって感じ」
「そういう体だとは言ったが、本当にコントラクターの可能性もある気を付けろよ」
「それ必要ある?」
「人間の場合、間違っても殺すなってこった。怪我も軽いのまでだ」
「はいよ」
通話を終えたスカリは早速、狭いビルの階段を上り始めた。交互に鳴り響く足音の先――彼女を迎えたのは右手の冷たいドアとその前に立つ二人の男。
「おい。止まれ」
階段側の男はスカリを見るや否や静かに言葉を口にした。落ち着き払った余裕は警告的で力を誇示しているようにも捉えられる。
だがスカリは一定の調子で階段を上り続けた。
「Frågade du efter yangnyeom-kyckling?」
流暢な外国語を口にしながら状況を理解出来てないと笑顔を浮かべる彼女は、また一歩と階段を上がった。
「何言ってやがる?」
すると階段を上り切ったスカリに対し男は銃を抜き、額へ突き付けた。
「失せろ。言葉が分からなくてもコイツは万国共通だろ」
「Lagomärbäst」
スカリは満面の笑みから不敵なものへと変えると、一瞬にして銃の手を払いそのまま壁へ叩き付けた。先手を取った彼女は後方で遅れながら銃を抜いた男を一瞥し、手前の体の陰へ潜り込んだ。
そこからほんの数手で男は無力化。それは壁に叩き付けられた銃が地面に落ちるまでの間で起きた出来事だった。更にその間も向こう側の銃口は仲間の背中を見つめ続けていた。
そして気絶した男が地面に倒れるより先、スカリはもう一人の男を目掛けてその体を蹴り飛ばし――同時に接近。陰から飛び出すと引き金を引く暇すら与えぬ間に地面へと伏す事となった。
「さてと、中には何人いるのかなぁ」
微かに言葉を躍らせながらスカリはドア前で立ち止まるとノブへ手を伸ばした。しかし目前で止めると手を引いた。
そして片足が上がると――ドアを蹴破った。
「よーし。警察だー。全員手を上げろぉ――ってこれは詐欺罪になるのかな?」
だが彼女の目に映ったのは人っ子一人いない部屋。
ではあったが、そこには不自然なブルーシートが小山を築いていた。ゆっくりと近づいた彼女はそっとブルーシートを捲った。
「これは……」
青の下で眠っていたのは雪のように真っ白な粉が詰まった袋の山。
「どうだった?」
「ドア前に二人。中は無人――いや、可愛い子ちゃん達が一杯かな?」
「不法移民か? 誘拐か?」
「いや、そうじゃなくて。薬物っぽいやつを見つけたって事」
「ヤクだと? 直ぐに警官を送る。お前さんはそこでその可愛い子ちゃんってのを見張ってろ」
「はいよ」
スマホを仕舞ったスカリはぐるり辺りを見回した。長い間、使われた痕跡のない空き部屋とすっかり役割を全う出来なくなったドア。それだけ。
「はぁあ。壊さなきゃ良かった」
そうボヤきながら彼女はドア横に腰を下ろすと壁へ凭れ掛かった。
それから約十分後。狭いビル内へ階段を上る音が響き渡った。複数の足音と雑談する声。だがそれは直ぐに一変した。
一瞬にして警戒態勢に入っただらりとしたスーツ姿の男五人組はドアの無くなった部屋の中へ。無人の室内に入り込み辺りを警戒で埋め尽くすが、ドアが壊れ見張りがやられている以外に異常はない。ブルーシートに隠されたブツも。
交戦は疎か全てが無事――五人はほぼ同時、暗黙的に安堵した。
その時、それとすれ違うように一番入口と近い一人の頭上から影が舞い降りる。地面着地までの間にまず一人。脳天に振り落とされた悪魔のようなひと蹴りは男を地面に沈め、スカリはそのまま上に舞い降りた。まるで天使のように。
そして後方の音に全員が振り返った。
「何もんだ!」
続けて一人の男が叫ぶ。
直後、返事の代わりに鳴り響いた音と共に三人の成人男性の体が飛んだ。一人に対して一撃。だが瞬く間に四人を転がしたスカリの前に残ったのは、壁の傍に立つ他より一回り大きな体の男だった。
「はいよー」
「つーか、コントラクターが悪さしてるってのはそいつらの元々のもんだろ」
「人間は力を手に入れると大きくなっちまうんだよ。もし契約なんてもんが無きゃ、起きなかった犯罪もあるだろうよ」
「もしコントラクターが消えたらおめーは無職だな」
ニヤリ、勝ち誇ったようにも見える表情をルエルは浮かべた。
「何言ってんだ。そうなったら一課だ。古巣に戻るってやつだな」
その隣で一足先に食べ終えたスカリはお箸を置き、手を合わせると丁寧に挨拶を済ませた。
「そんじゃまた明日~」
そして立ち上がったスカリは早足でドアまで行くと先に開いてから振り返った。
「須藤さーん。ご馳走様~」
満面の笑みで華麗に手を振りそれを言い残すと何かを言われる前に風の如き足取りで外へ。
「スカリおま――」
一瞬、慌てた様子で振り向く須藤だったが直ぐに諦めたと溜息を零した。
「おい! 金さえ払えりゃ誰でもいい。逃げんなよ」
「スカリちゃんの分はちゃんとスカリちゃんから貰うのでいいですよ」
「ダメだ! あの野郎から金は舞い降りない」
「公務員舐めんな。こんくらい払ってやるっての」
それからゆっくりと定食を食べ終えた須藤はちゃんと二人分の食事代を払って仕事へと戻った。
* * * * *
翌日。スカリは古びたビルの前に立っていた。どんよりとした鉛色の雲が頭上を覆い尽す中、彼女は電話を一本。
「もしもし。着いた」
「様子はどうだ?」
「別に。ただの空きビルって感じ」
「そういう体だとは言ったが、本当にコントラクターの可能性もある気を付けろよ」
「それ必要ある?」
「人間の場合、間違っても殺すなってこった。怪我も軽いのまでだ」
「はいよ」
通話を終えたスカリは早速、狭いビルの階段を上り始めた。交互に鳴り響く足音の先――彼女を迎えたのは右手の冷たいドアとその前に立つ二人の男。
「おい。止まれ」
階段側の男はスカリを見るや否や静かに言葉を口にした。落ち着き払った余裕は警告的で力を誇示しているようにも捉えられる。
だがスカリは一定の調子で階段を上り続けた。
「Frågade du efter yangnyeom-kyckling?」
流暢な外国語を口にしながら状況を理解出来てないと笑顔を浮かべる彼女は、また一歩と階段を上がった。
「何言ってやがる?」
すると階段を上り切ったスカリに対し男は銃を抜き、額へ突き付けた。
「失せろ。言葉が分からなくてもコイツは万国共通だろ」
「Lagomärbäst」
スカリは満面の笑みから不敵なものへと変えると、一瞬にして銃の手を払いそのまま壁へ叩き付けた。先手を取った彼女は後方で遅れながら銃を抜いた男を一瞥し、手前の体の陰へ潜り込んだ。
そこからほんの数手で男は無力化。それは壁に叩き付けられた銃が地面に落ちるまでの間で起きた出来事だった。更にその間も向こう側の銃口は仲間の背中を見つめ続けていた。
そして気絶した男が地面に倒れるより先、スカリはもう一人の男を目掛けてその体を蹴り飛ばし――同時に接近。陰から飛び出すと引き金を引く暇すら与えぬ間に地面へと伏す事となった。
「さてと、中には何人いるのかなぁ」
微かに言葉を躍らせながらスカリはドア前で立ち止まるとノブへ手を伸ばした。しかし目前で止めると手を引いた。
そして片足が上がると――ドアを蹴破った。
「よーし。警察だー。全員手を上げろぉ――ってこれは詐欺罪になるのかな?」
だが彼女の目に映ったのは人っ子一人いない部屋。
ではあったが、そこには不自然なブルーシートが小山を築いていた。ゆっくりと近づいた彼女はそっとブルーシートを捲った。
「これは……」
青の下で眠っていたのは雪のように真っ白な粉が詰まった袋の山。
「どうだった?」
「ドア前に二人。中は無人――いや、可愛い子ちゃん達が一杯かな?」
「不法移民か? 誘拐か?」
「いや、そうじゃなくて。薬物っぽいやつを見つけたって事」
「ヤクだと? 直ぐに警官を送る。お前さんはそこでその可愛い子ちゃんってのを見張ってろ」
「はいよ」
スマホを仕舞ったスカリはぐるり辺りを見回した。長い間、使われた痕跡のない空き部屋とすっかり役割を全う出来なくなったドア。それだけ。
「はぁあ。壊さなきゃ良かった」
そうボヤきながら彼女はドア横に腰を下ろすと壁へ凭れ掛かった。
それから約十分後。狭いビル内へ階段を上る音が響き渡った。複数の足音と雑談する声。だがそれは直ぐに一変した。
一瞬にして警戒態勢に入っただらりとしたスーツ姿の男五人組はドアの無くなった部屋の中へ。無人の室内に入り込み辺りを警戒で埋め尽くすが、ドアが壊れ見張りがやられている以外に異常はない。ブルーシートに隠されたブツも。
交戦は疎か全てが無事――五人はほぼ同時、暗黙的に安堵した。
その時、それとすれ違うように一番入口と近い一人の頭上から影が舞い降りる。地面着地までの間にまず一人。脳天に振り落とされた悪魔のようなひと蹴りは男を地面に沈め、スカリはそのまま上に舞い降りた。まるで天使のように。
そして後方の音に全員が振り返った。
「何もんだ!」
続けて一人の男が叫ぶ。
直後、返事の代わりに鳴り響いた音と共に三人の成人男性の体が飛んだ。一人に対して一撃。だが瞬く間に四人を転がしたスカリの前に残ったのは、壁の傍に立つ他より一回り大きな体の男だった。
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